FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第258話 ブラックチェリーブロッサム2

 メディアたちが一斉に退去したことで、状況は大きく変化した。

 綺礼は痛手を負った上に魔力を奪われながらもジャンヌと天草相手に互角以上に戦っていたが、手が空いたバゼットとジャンヌオルタとモードレッドと小次郎がやって来て6対1になるといくら何でも厳しかった。

 

「君たち、胸に風穴が開いている者相手に6人がかりはさすがにどうかと思うがね」

 

 そこで効き目はあまり望めないと知りつつこんなことを言ってみると、重鎧の剣士がすぐ言い返してきた。

 

「悪魔崇拝者が何言ってやがる。

 てかおまえの宝具って、よくは分からんが汚染された聖杯の泥とやらをブチ撒けるものなんだろ? そんなもんオレの目の前では絶対に使わせねえ」

 

 モードレッドとしては元々「オレ以外の奴がブリテンの地を穢すのは許せねえ」と思っていたのを父上にも語った以上、それはもう絶対に果たさねばならない誓いなのだ。まあこの伝でいえば桜もアレなのだが、彼女は士郎や凛やイリヤが説得できる余地があるみたいなので先に綺礼を倒しに来たというわけである。

 

「でもまあ、トドメ役まで寄こせとは言わねえから安心してくれ」

 

 父上には「父上の敵はオレがみーんなぶった斬ってやるからよ」とも言ったが、これについては、他に強い動機を持つ者がいるならトドメ役は譲る方が父上は好感を抱くであろう。そんな余裕がない強敵相手なら別だが、今回は胸に風穴が開いている者1人に6人がかりなのだし。

 

「ふむ。私も1度くらいは見せ所が欲しかったが、このたびは天草殿に譲るのが人情というものか」

 

 モードレッドと小次郎がそんなことを言いながら、綺礼の横合いから斬りかかる。特に小次郎は、味方が複数そばにいる中で五尺余という長刀を同士討ちせずに振るっているというだけでも超一級の技量であった。

 

「くっ!」

 

 綺礼は八極拳の達人にして凄腕の代行者、さらには3騎の英霊が憑依している特殊なサーヴァントであり、ドラコーの見立て通りその実力は並大抵のものではない。とはいえこのメンツに囲まれたらさすがに即死するので、今は足を止めて打ち合うのは避けて逃げるしかなかった。

 

「お心遣い感謝します!」

「あ、私は譲る気ありませんのであしからず。競争ですね」

「誰がとどめ刺してもいいけど、それで隙ができないようにしなさいね」

 

 そこに天草とバゼットとジャンヌオルタが黒鍵やらルーンやら魔力弾やらを飛ばす。即席の割にはなかなかの連携ぶりであった。

 カルデア現地班が得意とするリンチ攻撃ともいえるが。班員ではないどころかマスターと顔合わせすらしていない者もいるが、陣営に属するだけでも多少は影響を受けてしまうのだろう……。

 

「ぐうっ……!」

 

 形状的に1番危険そうな黒鍵だけは何とか避けたが、代わりにルーンと魔力弾は全部被弾してしまう綺礼。それなりに痛手だった。

 アストルフォが退去したことで桜からのドレインは止まっているが、このままでは勝ち目はないどころか、いみじくもメディアが言った「一矢報いる」すらできずに敗退しそうである。

 

「……いや!」

 

 しかしふっと周りを見渡した時、幸運と言っていいものかどうか、一矢のチャンスが目に入った。凛が桜に気を取られて、無防備にもこちらに背中を向けていたのだ。

 ためらいもなく、右手に持った黒鍵3本を投げつける。

 

「!?」

 

 黒鍵が投げられた方向を見たバゼットたちは(手元が狂ったか?)と思ったが、そうではないと気づいた時にはもはや追いかけて払いのけるのは間に合わない距離になっていた。

 いや天草だけは得物を持っていれば間に合う場所にいたのだが、彼は今黒鍵を投げたばかりで無手だった。素手ではたき落すのはさすがに難しい。

 ―――が、天草に迷いはなかった。黒鍵の射線の前に立ちはだかり、身をもって凛の背中をかばう。

 

「ぐっ……」

 

 黒鍵が3本とも天草の胸板に突き刺さる。その内1本は心臓つまり霊核を貫通する致命傷で、さすがの天草もがっくりと床に片膝をついた。

 それでも顔を上げて前を見ると、綺礼がかすかに笑っているのが見えた。どうやら凛ではなく天草が本命だったようで、同門の者を退去の道連れに選んだということか。

 

「―――貴方は!」

 

 怒りに燃えたバゼットが綺礼の正面に突進する。綺礼の方は黒鍵を出す余裕はなかったが、それでも身構えて防御、いやカウンターの態勢を取った。

 しかしその真後ろに、冬木勢では随一の敏捷度を誇る小次郎が追いつく。

 

「不意打ちも詐術も(いくさ)の習い、是非は言わぬ。しかし自身にそれが降りかかるもまたしかり。

 受けてみよ、秘剣―――『燕返し』!!」

 

 一振りで三筋の斬撃が飛ぶ必殺の対人魔剣が綺礼の両腕と背筋を襲う。先ほどの宣言通り、殺しはせず戦闘力だけを奪いに行ったのだ。

 

「ぐううっ!」

 

 両の上腕を骨まで斬られ、さらに背骨にも深いヒビを入れられた綺礼がさすがに眉をしかめる。そこにバゼットが正面からルーン山盛りの稲妻ストレートを放ち、モードレッドは斜め後ろから王剣で斬りつけた。

 

「く……!」

「やってくれたわね綺礼! とどめはアンタが教えてくれた技で決めてあげるわ」

 

 そして満身創痍になったところに、後ろで何があったのか気づいた凛が憤怒も露わに突進してきて―――。

 

「喰らいなさい、これが女神式八極拳の必殺技、イシュタル連環腿よ!!」

「ぐふぅっ!?」

 

 その大威力の連続蹴りで、綺礼はついに霊核が再生不能なレベルで崩壊したのだった。

 

 

 

 綺礼が光の粒子となって退去していく。その表情は満足げでもあり心残りがありげでもあったが、特に何か言い残す気はないようで終始無言のままだった。

 そして天草も同じ運命をたどろうとした時、ジャンヌが慌てて駆け寄ってきた。

 

「まったく、貴方らしいのからしくないのか判断に困るところですが無茶をしますね。とりあえず応急処置をしますよ。『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!!」

 

 まず胸に刺さっていた黒鍵を抜いてから宝具を開帳すると、眩い光のドームが天草の全身を包み込んだ。

 この光は強力な防御結界というだけではなく、中にいる者のケガや病気などを癒す力があるのだ。致命傷をいきなり完治させるほどのものではないが、当人が今言ったように応急処置にはなる。

 

「ああ、これは済みませんね。お手数かけます」

「どう致しまして、とりあえず下がりましょうか。

 いえ私はまた戻りますが」

 

 ただしあくまで応急処置なので、何かやたら危険そうな黒いモンスターがいるこの部屋に居残るのはよろしくない。ジャンヌは天草を抱えていったん部屋の外に避難した。

 そしてその黒いモンスターだが―――。

 

「ええと、よく分かりませんが邪魔者はいなくなったみたいですね。それじゃイリヤさん、泥棒猫に相応しいお仕置きをしてあげますね」

 

 お仕置きとやらの具体的な内容はともかく、桜がイリヤに怒りを表明すること自体は妥当であろう。ところが何と、イリヤはまったく悪びれるところがなかった。

 

「え、何言ってるの? 私、お仕置きされるようなことなんて何もしてないのに」

「……は!?」

 

 この清々しいまでの開き直りっぷりには、桜の方が毒気を抜かれて一瞬ぽかんとしてしまう程だった……。

 

「いえその何言ってるんです? 悪いことしたと思ってるからさっきだって謝ったんでしょう?」

「ええ、謝ったわ。でもそれで済む程度って話よ。

 だって私、『横取り』はしたけど『寝取り』はしてないもの」

「…………?? どういうことです?」

 

 思い出してみれば確かに、イリヤは「横取りしちゃって」とは言ったが「寝取った」とは言っていない。ではその違いが意味することは何なのか?

 

「貴女がいた世界では貴女はシロウとくっついてたみたいだけど、私がいた世界はそうじゃなかったってこと。つまりシロウはフリーだったから早い者勝ちで、私が先に告白してくっついたってだけだから、別に悪いことじゃないでしょう?」

「……貴女がいた世界? 私がいた世界?」

 

 凛はこの話を聞いてすぐ並行世界のことだと理解したが、桜は分かりが遅かった。間桐家では教わっていなかったのか、もしくは黒化して思考力が落ちているのかも知れない。

 

「並行世界って聞いたことない? 魔術師界隈ではそこそこ知られてる概念だと思うけど」

「…………ああ、そういうことですか。分かりました。

 でも別々の世界から同時に疑似サーヴァントが召喚されるなんてことがあり得るんですか?」

 

 幸い桜は並行世界について知ってはいたが、ここで起こった現象についてはまだ半信半疑のようだ。無理もないことだが、事実なのだから仕方がない。

 

「疑う気持ちは分かるけど、シロウとリンも違う世界から来たみたいだから信じるしかないんじゃない?」

「そうなんですか……」

 

 イリヤだけではなく士郎と凛までがそうだと言われては、いかに疑わしい、あるいは極レアな現象であっても信じるしかない。桜はこの件については認めた。

 

「ええと、それで話を戻すと……確かにフリーな人には誰が告白しても悪いことじゃないですけど、でも先ほどの話だと、イリヤさんは私が先輩を好きだったのは知ってたんですよね?」

 

 それで「横取り」という表現になったのだろうが、それはちょっと意地が悪いのではなかろうか。桜はそう思ったが、イリヤは別の見解を持っていた。

 

「知ってたけど、でも私はあと1年くらいしか生きられない身だもの。そんな忖度してられないわ。

 短い分、やりたいことは全部やって後悔しないように生きたいもの」

「1年しか生きられない!?」

 

 なるほどそれなら他人に忖度なんてしていられなくて当然だ。桜は突っ込む言葉を失って、空しく口をぱくぱくさせるばかりだった。

 しかし恋仇が短命だと聞いて喜んだり嘲ったりするのではなく狼狽してしまうあたり、今回の黒化は邪悪度が低いようである。「汚染された聖杯(アンリマユ)」が存在しないからか、それとも善なる女神(パールヴァティー)が憑依しているからだろうか。

 

「ええ。それに私が死んだ後はシロウは好きにしていいって言ってあるしね。

 サクラとくっついてもリンとくっついても、私が知らない誰かとくっついても、私は何も気にしないわ」

「!?」

 

 さらには自分がいなくなった後まで恋人を束縛しようとはしない善性と潔さを見せつけられて、桜はその眩しさを直視できず両手で目を覆って転げ回った。やはり邪悪度は低めらしい。

 するとイリヤはまた小悪魔な笑みを浮かべた。

 

「今よシロウ。弱気になって魔力も減ってるところに『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』で心臓を突けばサクラは元に戻るわ」

 

 驚くべきことに、ここまでの流れはすべて計算ずくだったようだ。しかし残念なことに、最後の詰めの一手だけは実行不能であった。

 

「ん? 何だその『破戒すべき全ての符』って」

「何だって……キャスターの宝具よ。知らないの?」

「ああ、初耳だ。……って、もしかしてそれがないと桜は元に戻せないのか!?」

「まさかホントに知らないの? えっと、どうしよう」

 

 ここで初めてイリヤが本気で焦った顔を見せる。どうやら士郎が「破戒すべき全ての符」を投影できるものと信じ込んでいたようだ。

 こうなっては打つ手は……まだある。運が良いことに、似た効果を持つ宝具を凛が借りて持っていたのだ。

 

「話は聞かせてもらったわ! 大丈夫、魔力がちょっとキツいけどあと1回くらいなら!

 正気に戻りなさい桜! 『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』!!」

 

 まだ悶えている桜に輝くページがべたべた貼りついて、彼女にかかっている魔術を破戒する。これで全部終わったか―――と凛も士郎もイリヤも思ったが、どうしたことか、エミヤには効いていたページが桜には効かなかったのだ!

 ページは短剣と違って体に突き刺さずに体表面で作用するものだから効き目が薄かったのか、それとも凛は宝具の担い手でも持ち主でもないので出力が低いのか、はたまた桜の対魔力が高いからか。いずれにせよ、ページが消えた後には黒いままの桜がいた。

 そして微妙に黒さに増しながらむっくりと立ち上がる。

 

「……イリヤさん、さっきの言葉はこれを使う隙を作るためのデタラメだったんですね。

 許せません、本当にお仕置きです!!」

「え!? いや待って、言ったこと自体は全部ホントで……」

「問答無用! ロリブルマ死すべし慈悲はない!!」

「ロリブルマって何!?」

 

 言葉の意味はよく分からないが、とにかく桜はすごい怒りっぷりだ。アストルフォ戦の時の倍くらいの速さで袖や裾を伸ばしてイリヤを攻撃する。

 イリヤはこの「影」を防ぐ手段を持っておらず、とにかく逃げ回るしかない。士郎と凛は桜に声をかけて宥めているが、桜は完全に頭に血が登っていて想い人と姉の言葉すら届かなかった。

 

「ええい、ちょこまかと! そのよく回る舌を細切れにするだけで許してあげますから、おとなしく捕まりなさい」

「そのお仕置きは『だけ』なんて言わないー!」

「最近のロリっ娘は軟弱ですね!

 ……そういえばイリヤさん、そもそも何で戦闘中にあんなこと言ったんです?」

()()()たちに勝たせるために決まってるじゃない。貴女あのままじゃあの槍の子にやられてたわよ。

 でも私が煽ったおかげで槍で刺されても死ななくなって、しかもキレイから魔力を奪えるようになったんだから大手柄でしょ」

「なるほど、それは確かにそうですね。

 それはそれとしてお仕置きはしますが」

「そんなに意地悪いとそっちの世界でもシロウに嫌われちゃうわよ!?」

「貴女は私を怒らせた!!」

 

 一周回ってケンカ友達のようなどこかゆるい雰囲気を醸し出しつつ、追いかけっこに興ずる桜とイリヤ。といってもイリヤの命まではいかずとも重傷くらいは負いかねない非常事態なのは事実であり、かといって桜をケガさせずに取り押さえるのは難しい。アルトリアやメドゥーサたちも手をつかねて見守るばかりだ。

 打つ手に悩んだ凛は、またカルデアのマスターにヘルプを求めることにした。

 

「カルデアのマスター、何とかして!」

「ザッケンナコラー! スッゾオラー!」

 

 ちょっと顔を合わせただけの人に痴情のもつれの仲裁まで要請されたのでは、光己がヤクザスラングで返したのも残当といえよう……。

 人がいいマシュもさすがに何も言えずにいたが、今回はマーリンがその役を請け負った。

 

「まあまあマスター、そんなに怒らなくても。

 間桐嬢は魔力源がなくなった上に破戒の宝具を喰らってだいぶ弱ってるから、魔術か何かで眠らせれば後はどうにでもなると思うよ。すっかり興奮してるから不意打ちは避けられなさそうだしね」

「ほむ……」

 

 眠らせるというのはフランスでマルタにやって成功した実績がある有効な作戦だ。マーリンならば打ってつけであろう。

 

「でもマーリンさん部屋の中に入れるの?」

「もうみんな入れるよ。メディアたちが退去した、つまり聖杯戦争が終わったから彼女の術式も解除されたから」

「ああなるほど、そういうことになるのか。

 でもさっきも言ったけど、その後間桐さんが目を覚ましたら元の木阿弥じゃない?」

「それも大丈夫。どうやら彼女のあの症状は『汚染された聖杯』あってのものみたいだから、それがなくなったならもう再発はしないよ」

「へえ……」

 

 桜は元に戻ってもイリヤへの怒りはゼロにはならないだろうが、舌を細切れにするなんて物騒なお仕置きはするまい。この作戦はやる価値がありそうだ。

 マーリンはサーヴァントではないから、桜の「影」による攻撃も「比較的」ダメージが少なくて済むし。

 

「それでも心配ではあるな。破邪の剣かアゾット剣でも持っていく?」

 

 前者はギルガメッシュから、後者はパラケルススから分捕った物である。邪竜の面目躍如というところだった。

 

「ああ、そういえばそんな物があったね。今すぐは要らないけど、間桐嬢を元に戻す施術の時には使えそうだ」

「そっか、あとは礼装で『瞬間強化(ブーステッド)』ってのができるけどやる?」

「そうだね、せっかくだからしてもらおうかな」

 

 ということでマーリンが光己に「瞬間強化」をかけてもらうと、確かに戦闘力、というか魔力や身体能力が大幅に上昇したのを感じ取れた。

 

「大したものだ。カルデアの技術力がすごいのか、それともキミが強いからか……まあどちらでもいいか。それじゃ行ってくるよ」

「うん、気をつけてね」

「ああ、吉報を待っていてくれたまえ」

 

 マーリンはそう言ってくるりと身を翻すと、幻術で自身に認識阻害めいた術をかけてから部屋に入って行った。

 そして飽きずにイリヤを追っている桜の背後に、音も気配もなく風のような速さで接近する。真後ろまで来たところで、手に持った杖を振り上げた。

 

「安らかに眠るといいよ、ラリ〇ー!」

「んきゃっ!?」

 

 そして杖のヘッドで桜の後頭部を決断的に殴打する、もとい眠りの魔術を頭に直接叩き込むと、黒い少女はあっさり失神して床に倒れた。

 こうなれば後はベイビーサブミッションである。マーリンとトネリコと太公望が「破却宣言」とアゾット剣と破邪の剣を使って施術するというSVIP級の体制で、桜は対症療法にとどまらず元の世界に帰っても2度と黒化せずに済むレベルで完全に根治したのだった。

 ただその時桜の服が風船のように破れ散って全裸になってしまい、女性陣が慌てて男性陣の目を隠すという一幕もあったけれど。

 

 

 

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