FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第259話 偽聖杯大戦エピローグ1

 桜は目を覚まして正気に戻った後、落ち着いて今一度考えてみるにイリヤの煽りのおかげで戦闘が有利になったのは事実のようだ。この特異点でやりたいことはないし未練もないが、異世界のとはいえ士郎がケガせずに済んだのは喜ばしいことである。

 とはいえ感情面では納得しきれなかったので、とりあえずイリヤの頬をつねってやったが、士郎たちはこれくらいは仲直りのための儀式として許容しているようで特に反応はなかった。

 

「何にせよ、これほど大人数での戦いで退去者が出なかったのですから奇跡的な大勝利ですね」

「そうですね、その意味ではイリヤスフィールはお手柄でした。心臓には悪かったですが」

 

 そう言ったアルトリアとメドゥーサは何ヶ所かケガしているが、この場で治療すれば治る程度のものだ。天草だけはしばらく戦闘禁止らしいが、むしろそれで済んだのが御の字である。

 それとは別にイリヤの寿命の問題もあったが、彼女が疑似サーヴァントになっていなければともかく、神霊を含む3騎が憑依していては無理だった。当人が延命を求めておらず、運命に納得していたのが幸いだったが。

 そしてその次は、カルデア一行が部屋の中に入ってきて自己紹介&事情説明タイムだ。

 人数が多いので1人1人が時間をかけることはできないが、アイサツは大事である。光己はずいっと進み出ると、胸元で合掌して型通りのお辞儀をした。

 

「ドーモ、カルデアのマスターの藤宮光己です。この地下道には、歴史を歪めてる悪党を退治して元の歴史に戻すために来ました」

 

 すると士郎だけはこのアイサツの由来を知っていたようで、やけにびっくりした顔を見せた。

 

「そ、それってもしかして古事記に書かれてるアイサツってやつか!? ニンジャもやってるっていう。

 いや驚く前に、アイサツされたら返礼しないとシツレイになるな。ドーモ、衛宮士郎です。

 ここには疑似サーヴァントってやつの依代として召喚されただけで、正直何も分かってないけど」

 

 そして光己と同様に合掌してお辞儀をする。こうなると凛たちも追随せざるを得ない。

 

「え、何、ニンジャ!? それ、私もしなきゃいけないの?

 ま、まあ挨拶ならしょうがないか。ドーモ、遠坂凛です。ここにいる理由は士郎と同じよ」

「え、ええっと。ドーモ、間桐桜です。先ほどはご迷惑おかけしました」

「へー、昔の日本ではそういう挨拶したんだ。ドーモ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」

「確かに社会人なら挨拶は重要ですね。ドーモ、バゼット・フラガ・マクレミッツです」

 

 現代の日本人や西欧人が6人も並んで古代のニンジャの挨拶をしている図はいささかシュールではあったが、光己だけは知ってて応じてくれる人がいたことに大変満足していた。

 また桜の自己紹介を聞いた時に冬木の特異点で会った雁夜と幼い彼女のことを思い出したが、彼はカーマが彼女を依代にしていることを良く思っていなかったので、メドゥーサがいる間はカーマを紹介するのはやめておくことにした。

 あとイリヤはおそらくアイリスフィールの親戚か何かと思われるが、こちらは話が済んだら紹介しても良さそうである。

 

「そ、それでカルデアってのは何なんだ? セイバーも『全人類を守るために派遣されて来た』とか言ってたし、もしかして魔術も使えるニンジャの隠れ里とかそういうのなのか?」

 

 士郎がやけに興奮した様子で早口なのは、彼も日本の男子だからニンジャには興味があるからだろう。しかし凛はそうでもなかった。

 

「ニンジャの隠れ里が横文字の名前のわけないでしょ。

 てか実際何なわけ? これだけ大勢のサーヴァント連れて歩けるなんて普通じゃないわ」

「正式名称は『人理継続保障機関フィニス・カルデア』といって、業務内容はアルトリアが言った通りだよ。今は、さっき言った通りこの地下道の先にいるエリアボスをシバきに行くところなんだ。

 だからニンジャの隠れ里じゃなくて、単に俺が加藤段蔵のサーヴァントにカラテ習ってるからあのアイサツしてるってわけ。

 あとカルデア本部から連れてきたのは9騎だけで、他の人はみんなこの特異点で会った人たちだから」

 

 光己は初対面のサーヴァントには敬語で話すことが多いが、今回は依代メインの上その依代が同国同時代同年代の人間で、しかも先方がすでにフランクなので初手から同じ対応になっていた。先ほどの戦いの間の言動を見る限り、(黒桜以外は)悪党ではなさそうだし。

 逆に士郎たちは光己の人となりは全く知らないのだが、セイバーが契約しているというだけで人間性はある程度保証されているので安心して話ができるのだった。

 

「いや、9騎でも十分多いんだけど……やっぱそれって、カルデアってとこの魔術か礼装の類でどうにかしてるわけ?」

「加藤段蔵にニンジャのカラテを習ってるだって? それならむしろ本当にニンジャの隠れ里じゃないか。カルデアってすごい所だな……。

 ……いやそれより、人知れず人類を守るために戦ってる組織が実在するってことの方が驚きだ。昔見てたTVの戦隊モノを思い出すな。

 そうだ、もしよかったら連絡先を教えてくれないか?」

「士郎、貴方にはとても向いてるけど向いてないからやめときなさい」

 

 士郎が「人類を守るために戦ってる組織」に興味を示すのは当然だったが、それを凛が冷え冷えとした口調で止めたのは、無茶なことをして早死にすると心配したからだろう。

 またアルトリアも同じことを考えて、しかし追い討ちはせず口出しは控えていた。士郎が料理人として(ここの)カルデアに来るのなら学ぶことが多そうなのだが、彼の性格からして特異点修正に行きたがるに決まっているし。

 ところで光己は実はカルデアの連絡先を知らないので、これ幸いと士郎の質問はスルーして凛の疑問だけに答えた。

 

「ああ、サーヴァント用の魔力は常時カルデア本部が送ってくれてるんだ」

「なるほど。セイバーが言ってた『マスターの能力の問題ではなく、カルデアのやり方が特殊』ってのはそういうことだったのね。

 それでも9騎、いえ現地サーヴァントと契約したらもっと増えるわね。身体の負担重いんじゃない?」

「うん、最初の頃はキツかったけど最近はもう慣れた」

「ああ、そういえばさっき私たちと契約した時も平気そうだったわね」

「まあね、こうなるまでにはいろいろあった」

 

 平気なのは慣れたのではなく魔力量が増えたからなのだが、部屋に入る前に相談して光己の正体は当面隠しておくという結論になったのでそう答えたのだった。当然獣モードは解除して人間モードに戻っており、ドラコーも名前は名乗るが正体は隠すことになっている。

 そして魔力供給絡みの話が終わったところで、士郎が別のことを訊ねてきた。

 

「それで、エリアボスってのは何者なんだ?」

 

 正義の味方なら気になるのは当然といえよう。光己の方は逆にちょっと気が引ける話だが、隠しておくわけにはいかない。

 

「あー、マキリ・ゾォルケンっていうサーヴァントじゃなくて人間の魔術師でね。アルトリアやメドゥーサさんによると、間桐さんの祖父らしいんだけど」

「え、お爺様が!?」

 

 すると当然ながら、士郎より先に桜が反応した。

 

「あー、えーと。ゾォルケン、で臓硯ですか。なるほど……。

 そうですね、お爺様はこの時代ならもう生まれてるどころかかなりのご年配ですし、ここが私がいたのとは別の世界だというなら、イギリスで悪のエリアボスやっててもおかしくありませんね」

 

 孫娘から見てもゾォルケンは悪党で、しかもエリアボスが務まるだけの実力者のようだ。敵なのは確定したが、油断はしない方が良さそうである。

 

「うん、だから間桐さんに戦ってくれとは言わないけど、ここの敵にはかなり強引な勧誘するヤツがいるから同行だけでもしてくれるとありがたいんだけど」

 

 光己としては桜が別れた後パラケルススに遭遇して暗示やギアスで敵にされては困るので、この提案は譲れないところである。しかし幸い、彼が危惧したよりも桜は協力的だった。

 

「あ、その辺は大丈夫ですのでお気遣いなく。むしろ身内として率先して止めるべきって思ってますから」

 

 桜は口にはしなかったが、臓硯とは血のつながりはない上に虐待されていたので、遠慮する筋合いは全くないのだった。ただメドゥーサは彼女には戦って欲しくないらしく翻意を促した。

 

「いえサクラ、メディアの都合で召喚されたに過ぎない貴女がこれ以上戦う必要はないのでは?」

「ありがとライダー、でも先輩はきっと先頭に立って戦うと思うから。

 疑似サーヴァントになってなかったら足手まといだから大人しく引っ込むけど、役に立てる力があるのに、並行世界のとはいえ先輩が戦うのを見てるだけなんてできないよ」

「……そうですか。では前衛は私が受け持ちますので、貴女は私の後ろにいて下さい。

 槍術よりも稲妻の方が有用だと思いますし」

「むう、そこまではっきり言われるともにょるけど否定できない……。

 分かった、それじゃそうさせてもらうけどライダーも気をつけてね」

「ええ、もちろん」

 

 どうやら桜とメドゥーサの動向の鍵は士郎が握っているようだが、彼の意向は聞くまでもなく分かり切っている。

 

「俺か? 俺はもちろん行くぞ。よその世界のこととはいえ、人類の存亡にかかわるような悪事を見過ごすわけにはいかないからな」

「シロウならそう言うわよね。なら私も参加するわ」

「そうですね。他にすることもありませんし、乗りかかった船ですから最後まで付き合いましょう」

 

 イリヤとバゼットも同行してくれるようだ。残るは凛だが、彼女の意向はすでに表明済みである。

 

「ええ、私も行くけど、その前に約束の報酬を! 今の戦いの分と、()()()をシバく分の前金を宝石で! 一心不乱の大量の宝石で!!」

 

 そう、凛だけは人理のためではなく報酬のために戦うのだ!

 

「リン、ここで宝石もらっても元の世界には持って帰れないと思うわよ」

「分かってるってば! でもほら、私の魔力を大量に注いでおけば『私の一部』的なものになってワンチャンあるかも知れないし!」

 

 ただ凛の感覚では光己は金持ちにも魔術師にも見えないのだが、セイバーがあのように断言したからにはそれなりの資産家であるか、カルデアから工作費を預かっているのだろう。

 事実、光己はいきなり大量の宝石を要求されても眉ひとつ動かさなかった。

 

「ほむ、宝石……イシュタル神の疑似サーヴァントとしては順当なとこか。

 それでどんな宝石をご希望? 指輪やネックレスの類か、それとも裸石(ルース)(研磨やカットはされたが枠や台などに付けられていないもの)や原石(研磨もカットもされていないもの)?」

「むむ。男の子なのにすぐ宝石関係の専門用語が出て来るとは、本当にセイバーが言った通りみたいね……。

 よろしい、ならば裸石よ。裸石を山盛りで頼むわ! もちろんそれだけの仕事はするから」

「OK、裸石ね」

 

 凛の回答に光己は(仕事の一部として遠坂さんの裸体も欲しいなあ)なんてことを思ったが、もちろん顔にも口にも出さなかった。

 なお桜の裸体は一瞬だけだが鑑賞できて大変眼福だったが、こちらも知らないフリするのは当然の配慮である。

 

「じゃあさっそく……の前に、入れ物が必要だな。マシュ、宝石入れても大丈夫な袋か何かある?」

「はい、小物袋でよろしいですか?」

「うん、ありがと」

 

 光己がマシュから袋を受け取り、宝石を出すために波紋を出すと、当然ながら凛たちはびっくり仰天して目を丸くした。

 

「な、何それ!? まるでギルガメッシュの宝具みたいな……()()()()()()()

「お、ギルガメッシュと会ったことあるのか?

 そう、これこそは我が財宝魔術の真髄! 虹回転が金回転より上であるように、我が宝物庫はギルガメッシュのそれを超えたのだ!

 ……まあ俺の『蔵』には宝具の原典なんてチートは(分捕ったもの以外は)入ってないし、宝具を射出なんて贅沢なこともできないんだけどね。ちくせう」

 

 光己が「財宝魔術」なんて造語を口にしたのは、言うまでもなく正体を隠す行為の一環である。

 波紋が虹色になったのは、アルビオンの体が再生したことで「蔵」もランクアップしたからだ。とはいえ今言ったように「宝具の原典」なんて都合のいいものは無いし、ギルガメッシュを超えたとか何とかいう台詞もまったくのデタラメなのだが……。

 

「あ、何が入ってるかは秘密ね」

「え、ドヤ顔しといてここでヘタレるの? ここは景気よく開帳しちゃう方が男らしいと思うわよ」

「自分の財布の中身をほいほい見せる人なんていないでしょ。ましてイシュタル神相手に」

「ぐうの音も出ない返しね」

 

 凛はせっかくなので光己の財宝の内訳を訊ねてみたが、さすがにそこまでゆるくはなかったようだ。

 まあ興味本位でダメ元だったので深く追及する気はなかったが、光己が「破却宣言」と剣2本を波紋の向こうに入れたのを見た時はまた目を剥いて声も裏返ってしまった。

 

「え、あ、ちょっと待ってちょっと待って!? サーヴァントが退去したのに何で宝具だけ残留してて、しかもそれを当たり前のように収納なんてしてるの!?」

 

 普通はあり得ないことだ。アーチャー・エミヤの投影品はそのめったにない例外だが、これは魔術でつくっている贋作であって本物ではない。ましてや元の持ち主の意に反して宝具を残しておけるとは一体!?

 するといったん普段顔に戻った光己がまたドヤ顔になった。

 

「フ、そこに気づくとはなかなかの注意力をお持ちのようだな。

 そう、これも我が魔術の1つ! サーヴァントの宝具でも、こうして手に取れば所有権を奪うことができるのだ!

 というわけで宝具の買取もやってるから、要らない宝具があったらお気軽にご連絡を」

「宝具の買取ってアナタ……」

 

 光己の非常識な言いぐさに凛はかなり呆れたが、敵サーヴァントの宝具を奪って味方のサーヴァントに使わせることができるなら今回のように相当役に立つことが期待できる。凛自身と同年代という若さで特異点修正の現地主任に抜擢されたのも順当といえる凄腕ぶりだ。

 そういえば竜牙兵がやけにしつこくクー・フーリンの槍を奪おうとしていたが、あれもゲイ・ボルクを手に入れるためだったというわけか。クー・フーリンには及ばなかったとはいえメディア製竜牙兵相手に無双できる竜牙兵をつくれるサーヴァントまでいるとは、カルデアとはずいぶんと人材の層が厚い組織のようだ。

 

「まあいいわ。それじゃいよいよ宝石……の前に。

 貴方さっきエリアボスって言ったわよね。つまり、性悪爺とは別にラスボスがいるってこと?」

 

 ガチの聖杯戦争を体験したからか、今日の凛はうっかり属性持ちのわりに鋭かった。逆に光己が説明不足を謝罪する。

 

「ああ、それ言い忘れてたな。悪かった。

 ラスボスはゲーティアっていって、ソロモン王の72柱の『使い魔』の集合体なんだ。()()()()()()()情報によるとこの特異点に散歩感覚で様子見に来るらしいけど、対策はできてるから安心して」

「ぶふっ!?」

 

 凛とバゼットが並んで噴き出した。

 ソロモン王といえば有名な魔術の王ではないか。当人ではないのは幸いだが、その使い魔の集合体……使い魔? 「悪魔」ではなくて?

 

「うん。『フラウロス』と『フォルネウス』に遭遇したけど、両方ともグロい肉柱だったから悪魔学でいってる『72柱の悪魔』とはまったくの別物だな。

 強さ的にはヘラクレスならタイマンで勝てるくらいってとこ」

「へえ……。

 1人で来たならともかく、72柱総がかりで来たらヤバそうね」

「うん、その時は連中は機動力はなさそうだから逃げるのが得策かな。

 ただ問題はゲーティアでね。こいつは『ネガ・サモン』っていう、サーヴァントの攻撃を無効化するスキルを持ってるそうなんだ」

「はあ!?」

 

 凛とバゼットの声が1オクターブ半ほど上がった。そんな奴どうやって倒せというのか!?

 

「もしかして貴方自身が戦うとか、そういう? さすがに無茶じゃないかしら」

「んー、ラストバトルはそうなるかも知れないけど、今回はやらない。

 エフェメロス、話してあげてくれる?」

「良かろう」

 

 するといかがわしい恰好をした赤黒の女の子が進み出てきた。エフェメロスという名の英霊は聞いたことがないどころか、よく見るとサーヴァントではないようだが……。

 すると女の子はこちらの考えを察したのかニヤリと笑った。

 

「気づいたか。サーヴァントの攻撃が効かないというのなら、サーヴァントでなくなればいいわけだな。()()()()()()受肉させてもらったのだ」

「……」

 

 とある、という単語がまた出て来たが、どうやらカルデアは表に出せない情報源やテクノロジーをいろいろ持っているようだ。人理を守るための機関が有能なのは頼もしいといえば頼もしいのだけれど。

 

「それで、貴女1人でゲーティアに勝てるの?」

「勝てるかどうかはやってみなければ分からんが、気を引くことはできるぞ。

 無常の果実に『おまえの願いは叶わない』と言われれば、大きな願いを持っている者ほど平静ではいられまい。

 それで我と奴がやり合っている間に、おまえたちは逃げるなり何なりすればいいというわけだ。カルデアの連中は本部に帰れば済むことだしな」

「……」

 

 それは囮というやつなのだが、当人がすごく楽しげかつ悪辣な顔をしているので凛とバゼットは指摘するのはやめておいた。

 いやそれより、無常の果実とは大怪獣テュフォンが食べさせられたという、あの無常の果実なのか!?

 

「そう、それだ。

 といっても果実の姿になることはできないから、我自身を奴の口にねじ込んで喰わせるのは無理だが」

「ああ、それで『言われれば』になるわけね」

「そういうことだな。口にねじ込むのに比べれば効き目はだいぶ落ちるが、わりと強めの呪いがかかるくらいの効果はある」

 

 なおエフェメロスはテュフォンもセットの存在なのだが、それは口にしなかった。この地下道では機神の姿になれないから説明する意味がないし、ぶっちゃけメンドくさいので。

 

「へえー」

 

 凛たちにはエフェメロスが真の正体を隠していると疑う理由は特にないので、素直に彼女の台詞を額面通りに受け取っていた。

 何にせよ、自分の意志でラスボスの相手を引き受けてくれるのなら言うことはない。初対面の身であれこれ詮索したり差し出口を叩いたりするのも何だし、任せてしまって良さそうだ。

 ―――これで事情説明はだいたい終わったので、次はカルデア側の自己紹介になる。サーヴァントというのは歴史上の著名人(人外含む)がなるものだから大抵の者はいわゆる「大物」なので、聖杯戦争経験者である凛たちは誰の名前を聞いてもそうそう驚いたりはしない。しかしティアマトが出て来ると、凛の内なるイシュタルが激しく動揺した。

 

「え、何!? こんなとこで母さんに会うなんて思ってなかった? カルデアの敵にならなくて良かったっていうか正しい判断したのを褒めてあげるけど、どっちみち私は出られないから任せる、だって? ちょ、貴女の母親というかご先祖様でしょ!? 自分で相手しなさいよ」

 

 初対面の創世神相手に、その子孫の依代として挨拶するなんて冗談じゃない。凛は強硬に抗議したが、内なるイシュタルからの返事はなかった。

 出て来られないならせめてカンペの1つでも寄こせばいいのに何と気が利かぬ駄女神ぶりか、そんなことだからあの性悪のギルガメッシュにまで振られるのよ!と凛は内心で悪態をついたがやはり反応はない。

 一方ティアマトはイシュタルの存在に気づいているらしく、何かを期待しまくっている表情でじっと凛の顔を見つめている。仕方ないので凛は自分で挨拶することにした。

 

「初めまして、イシュタル神の依代をさせていただいている遠坂凛と申します。

 かの名高い愛と美と豊穣の女神から依代に選ばれたとは大変光栄なことで、神意に沿うべく微力を尽くす所存であります」

「あ、やっぱり依代の方が出ててイシュタルは出て来られないのか。でも仲が悪い様子じゃなくてよかった」

 

 そこで相手が相手なのでまずは社交辞令全開でいってみると、ティアマトは子孫と話ができないのが残念なのかちょっと肩を落としたが、不興は買わずに済んだようなので凛は少しだけ気が楽になった。

 

「はい、それはもう」

 

 しかしまだ油断はできない。凛は慎重に言葉を選んでいたが、するとティアマトは背中を押すというか退路を塞ぐというか、そんなことを言ってきた。

 

「本当はわたしは母だから貴女たちもみんなも守りたいのだけど、今回は目立たないようにと言われてるからできない。貴女はやる気があるみたいだから、イシュタルと一緒にがんばってほしい」

「アッハイ、それはもちろん……」

 

 どうやら光己とのやり取りをしっかり聞かれていたようだ。凛は内心冷や汗を流したが、ティアマトはポジティブに解釈してくれているみたいで深く安堵した。

 目立たないようにというのは、いかにゲーティアがサーヴァントの攻撃が効かないとはいえ、ティアマトほどの超存在が出張ったら警戒するからだろう。ここで決着をつけるならともかく、そうでないなら鬼札は隠しておくというのは順当な作戦だ。

 別に彼女を戦力として期待していたわけでなし、特に不満はない。

 

「……私、姉さんがあそこまで緊張して丁寧にお話してるところ初めて見ました」

「遠坂の剛胆にも限界はあったんだな。むしろ安心した」

「(写真や録音用に)携帯電話持って来られなかったのが残念だわ」

 

 ただ応対に苦闘しているところを士郎たちに見られて噂話のネタにされてしまったが、もしかしたら1人だけ報酬をもらう代償なのかも知れなかった。

 

 

 




 凛(イシュタル)と会ったので、SW2フラグが立ちました。とはいえSイシュタルの宝具は地上で使っていいものじゃなさそうですが(^^;


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