FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第260話 偽聖杯大戦エピローグ2

 凛はティアマトの応対で気力がだいぶ削れてしまったが、自己紹介フェーズが終わって報酬フェーズに戻るとすぐ全快した。

 

「さて、今度こそ報酬ね! 私の宝石愛は百八式まであるわよ!」

「つまり108個欲しいと……そのくらいならこの袋に入るかな」

 

 あまり大きい物は入り切らないが、大きい上に鑑定書の類がないと換金しづらいし変に目立ってしまうから、ほどほどの物の方が良いかも知れない。

 そんなわけで光己が「蔵」から宝石を出しては袋に入れていると、凛はその1個1個に鋭い視線を走らせては目を¥マークとハートマークに点滅させていた。さすがはイシュタル神に選ばれた娘である。

 とりあえず宝石の質に文句はないようで、光己はほっと安堵した。

 

「……はい、108個確かに頂いたわ。毎度ありー!」

「うん、ご満足いただけて良かった」

 

 凛に報酬を渡し終えたら、次は光己の要望でいつものサインと写真である。今回は皆疑似サーヴァントかつ依代メインということで、サインはサーヴァントと依代両方の名前を書いてもらうことにした。

 イシュタルやパールヴァティー、マナナンにフレイヤといった有名神霊が目白押しなのは大変頼もしいが、それより光己(とジャンヌオルタ)の目を引いたのは「千子村正」という日本人だった。

 

「村正といえばムラマサブレードつくった人か!? 俺には装備できないけど」

「私はできるわよ。てか刀工の端くれとしても興味あるわね。

 スキルか何かで1本くらい出せない? 代金はマスターが言い値で払うわ」

「ちょ、勝手に言い値なんて言葉使わないでくれるか!? しかし欲しいか欲しくないかで言えばとても欲しい! お土産に景虎や段蔵や沖田ちゃんや紅女将にも……いや沖田ちゃんは微妙か」

 

 村正は徳川に害をなす妖刀だという風説があるから、沖田ノーマルに渡すのはケンカを売るも同然なのはすぐ分かる。しかしオルタは沖田総司であるのは事実だが新選組には入ってなさそうなので、渡すのが意地悪なのか渡さないのが意地悪なのか判断が難しい。率直に事情を話して、望むなら渡すということで良いだろうか……?

 一方士郎は2人の話をすぐ理解し切れず、情報を整理する時間を求めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんないっぺんに言われても」

 

 2人の話は文字数の割に情報量が多かったので無理もないことであろう……。

 まずカルデアは所属しているサーヴァントを全員連れて来ているのではなく、何らかの事情で9騎だけに制限しているということのようだ。その中で、村正の刀を欲しがりそうな者が(光己を別にすれば)5騎いるということか。

 沖田ちゃんというのが沖田総司のことなら確かに渡すのは微妙だが、その辺は先方の事情であって、士郎が考える必要はない。

 ジャンヌ・ダルクの贋作(ジャンヌオルタ)が刀工の端くれだというのはよく分からないが、村正的には外人の別嬪さんが同業者だというのは悪い気はしないようである。

 士郎としては自分の投影品が人類を救う役に立つのであれば何本でもつくるし、代金なんてどうせ持って帰れないのだから無料でいい。

 

「……そうだな。実物を作るのは場所や材料が要るし時間もかかるから無理だけど、俺が投影した物で良ければ何本でも出せるぞ。実物より1ランク落ちるけど、そのままでもずっと置いておけるし代金は要らない」

 

 士郎はそこで一拍置いてから、次は憑依している人物の意向を口にした。

 

「ところで景虎ってのは、戦国時代の上杉謙信のことでいいのか?

 村正が、もしそうだったら普通に打っただけのモノなんて出せないから宝具の刀にしてくれって言ってるんだが。

 ただしこちらは普通はすぐ消えちまうんだけど、さっきの話だとあんたが持てば残るようにできるんだよな?」

「おお、マジか! 世の中言ってみるもんだな。1ランク落ちるくらいは仕方ないし、消えちゃう宝具でも大丈夫だぞ。

 あと景虎はご明察の通り上杉謙信だよ。言われてみれば上杉謙信といえば有名大名中の有名大名だから、そりゃモノにこだわるか。

 何だったらTV電話みたいなのがあるから話してもらってもいい……ただし若い女性だけど、アーサー王もそうなんだから今更だな」

「あー、それは確かに今更だ」

 

 上杉謙信には元々女性説があるからまだマシとさえいえるくらいだ。

 村正は(イシュタルと同様)出て来られないから会話はさせてやれないが、ご拝顔の栄に浴させてもらえればやる気は上がるだろう。

 

「それじゃせっかくだから頼むか」

「うい……っと、その前に。イリヤさん、カルデアにはアイリスフィール・フォン・アインツベルンっていう人がマスターとして在籍してるんだけど知り合いだったりする?」

「へ!?」

 

 唐突にもほどがある問いかけに、さすがのイリヤも数秒ほど硬直してしまった。

 

「………………。知り合いというかママなんだけど……」

「え、ママ!? マジで!?

 うーん、するとかなり遠い世界ってことになるな。うちのアイリスフィールさんは独身だから」

「はあ!?」

 

 イリヤの返事に光己は驚いたが、光己の情報開示にイリヤもまた驚かされた。

 

「そ、それは確かに遠そうね……。

 ということは、そちらのママは私のこともキリツグのことも知らないのかしら?」

「イリヤさんのことは知らないだろうな。衛宮切嗣さんとも生前の彼とは面識なかったみたいだけど、死後の、抑止の守護者になった彼とは他の特異点で少しだけ共闘したことがある」

「そ、そう…………」

 

 イリヤはかくーんと肩を落とした。

 抑止の守護者とはアレか、アーチャー・エミヤと同じ人理の掃除人か。親子そろって死後までセイギノミカタを貫くとは何と業の深い。ふと気になって士郎の顔を見てみると、やはり何ともいえない微妙な顔をしていた。

 それはそれとして母の件だが。

 

「………………会うのはやめとくわ、話合わなさそうだし。

 実を言うと私の世界のママはもう亡くなっててね。今会ったら変な未練出てきそうだし」

「そっか、そういうことなら仕方ないな」

 

 まさかイリヤの世界のアイリがすでに亡くなっていたとは。光己は驚いたが、初対面の身で深く聞くことではないので軽く流した。

 カーマは紹介しないと先ほど決めたので、他に紹介すべき者はいない。光己が通信機のスイッチを入れると、空中にスクリーンが現れエルメロイⅡ世が映し出された。

 なおイリヤを紹介しないということもあって、凛と桜とバゼットも引っ込んでいる。つまり今光己と一緒に前に出ているのは士郎だけだった。

 

《あー、もしかしてまた何か大事件でも起きてしまったのかね?》

 

 この特異点では連絡が来るたびに厄ネタがぶっこまれているので、Ⅱ世はかなり腰が引けていた。無理もないことだったが、幸いにして今回は胃痛案件ではない。

 

「いや、今回はそういうのじゃないです。かくかくしかじかで、景虎呼んでほしいんですが」

《なるほど……そういうことならすぐ呼ぼう》

 

 光己が事情を説明すると、Ⅱ世はほっと緊張を緩めて館内放送で景虎を呼び出した。

 すると何故か、凛がずずいっと光己の真横に進み出る。そして凛が何か言う前に、Ⅱ世が思い切り顔色を変えて狼狽した。

 

《む、他にも現地サーヴァン……って、も、もしかして君は遠坂凛か!?

 なぜ君がそこに!? もしかして英霊トーサカとか、そういう哀れな存在に成り果ててしまったのか!?》

 

 このむちゃくちゃな言いよう、どうやらⅡ世にとって凛はかなりの問題児らしい。

 言われた側の凛は当然怒るかと思われたが、ニヤソと意地の悪そうな笑みを浮かべただけだった。

 

「あら先生ってばヒドい。私はただイシュタル神の疑似サーヴァントとして、神意に沿うべく人理を救うために戦っているだけだというのに」

《何、イシュタル神の疑似サーヴァントだと!?》

 

 Ⅱ世自身が諸葛孔明の疑似サーヴァントであるだけに、こう言われれば理解は早い。ただ凛が神意なんてものを本気で尊重しているとは思えないが、ティアマトがいるから猫をかぶっているのであろう。

 

「ええ。私としては先生がカルデアにいたことの方が驚きですけど。

 どういったご事情でそこに?」

《実は私も疑似サーヴァントでね。特異点でカルデアの所長に会って、その時勧誘されて副所長に就任したのだよ》

「へえ、先生が」

 

 凛がⅡ世を先生と呼んで、Ⅱ世もその呼び方に疑問を抱いていないところを見るに、2人とも時計塔かどこかで教師と生徒の間柄である世界から来ているようだ。

 

《まあ、私にも守りたい者はいるのでね。胃痛案件なのは承知の上で、こうして大役を請け負っているわけさ。

 それで、君は何用でわざわざ私の前に出て来たのかな》

「それはもちろん、知り合いがいたから挨拶を……なんて社交辞令は時間の無駄みたいですから省いて率直にいきましょう。

 ……そう! 助太刀する報酬は藤宮君に貰いましたけど、それはそれとして教師なら生徒が魔術王なんて巨悪と戦うと聞いたら餞別の1つも出すものじゃないかなー、なんて思いまして」

《大変正直で逆に好感が持てるが、あいにく私も身一つでカルデアに来た身でね。そのカルデアも素寒貧で餞別など出せる立場じゃないのだよ。

 具体的に言うと、マスターの現地での活動費どころか、本部の運営までマスターの私財に頼っている程度には資金・物資とも不足している》

 

 凛の台詞はあっぱれなほどにストレートだったが、Ⅱ世の回答はそれに輪をかけてあけすけであった。

 さすがの凛もドン引きである。

 

「えええ……!? い、いいんですかそれ」

《そういうわけだから、仮に君がカルデアからの召喚に応じても、金銭的な報酬は期待できないと思ってくれたまえ。無論君だけではなく他のサーヴァントにも言えることで、皆納得済みの話だが》

 

 おそらくこれを言いたいがために、Ⅱ世はあえてカルデアの懐事情を皆の前でバラしたのだろう。それほど凛に来てほしくないのだろうか。

 だって金銭以外の報酬、たとえばこの度光己が手に入れた大量の魔術書を読む権利とか、モルガンやワルキューレといった大先達に魔術を習うチャンスとか、そういうお金に換えられない利益について口を拭っているのだから。

 

「そ、そうなんですか。先生も大変ですわね。おほほほほ……」

 

 凛はこめかみのあたりを引きつらせつつも何とか無難な返事をしたが、何かを期待していてそれを裏切られた様子なのは、海千山千のⅡ世には手に取るように感じられていた。どうやら人類最後の砦に「核兵器のボタンを持った赤い悪魔」が来たがるようなことにならずに済んだと一安心していたが、本当に来ないかどうか、もしくは別の特異点でまた会ったりしないかどうかはまた別の話である。

 そこに景虎がやって来たので、(特に得るものがない)話は一段落ついたことだしⅡ世は選手交代することにした。

 

《お待たせしました。名のある刀鍛冶がわざわざ宝具で刀を打ってくれると聞きましたが、そちらの殿方がそうなのですか?》

 

 この質問に答えたのは、凛ではなく光己である。

 

「うん。景虎の生前の頃だとそんなに有名じゃなかったかも知れないけど、俺の時代だと1、2を争う知名度だよ。

 村正ってのは流派の名前でもあって、今回来てくれたのはその初代の千子村正っていう人なんだ」

《ほほぅ、それはそれは……》

 

 景虎はランサーだが、宝具の「毘天八相車懸りの陣(びてんはっそうくるまがかりのじん)」では刀を何本も出しているだけあってこちらの造詣も深い。いかにも興味を惹かれたという(てい)で、すうっと目を細める。

 そのまさに抜き身の刀のような迫力に、サーヴァント慣れした士郎もちょっとビビってしまった。

 

「うお、軍神といわれただけあって凄味があるな……。

 ……おっと、失礼しました。『千子村正』の疑似サーヴァントの衛宮士郎です」

《長尾景虎です。わざわざ宝具でというのですから、私についての細かい説明は要りませんね。

 そちらは長話していられる状況でもなさそうですから、さっそく見せてもらいましょうか》

「は、はい」

 

 完成品を献上するだけではなく、打っている所を御覧に入れるとなると村正も緊張するだろうなと士郎は思ったが、下がっててもらうわけにもいかない。せめて自分はできるだけ冷静でいようと決めると、部屋の真ん中に移動して静かに目を閉じた。

 

「……其処に到るは数多の研鑚。築きに築いた刀塚。縁起を以て宿業を断つ。八重垣作るは千子の刃」

 

 その詠唱は士郎自身の宝具を開帳する時とは違う文言だった。村正の心象風景、あるいは刀鍛冶としての目標やあり方を示すものであろう。

 

「真髄、解明。完成理念、収束。鍛造技法、臨界」

 

 詠唱がそこまで行った時、不意に彼の周りに赤い炎が渦巻く。しかしそれはすぐに消え、その後には雑草1本生えていない代わりに無数の刀が突き立った荒野が広がっていた。

 

「……固有結界!」

 

 光己やマシュたちが驚愕に目を見開く。前に見たイスカンダルのそれは部下の将兵と同じ心象風景を彼らとともに展開するものだったが、村正は1人で実現したというのか。

 また「八重垣」というのは確か須佐之男命が詠んだ歌に出てきた言葉だと思ったが、つまりあの無数の刀が術者を守るというのだろうか?

 ―――と思ったらその刀の群れはすべて砕けて雪の結晶めいて散り消えてしまったので、光己は「あれ!?」と間の抜けた声を上げてしまったが、宝具はこれで終わりではなかった。士郎、いや村正の手にただ一振りだけ、新しい刀が現れる。

 

「刮目しやがれ! 剣の鼓動、此処にあり!!」

 

 村正が刀の柄を握って吠える。その表情を見るに、どうやら会心の出来映えだったようだ。

 光己の鑑定眼でも異様なまでの価値を感じるから、この一振りこそが「宝具の刀」に違いあるまい。

 

「……ふう」

 

 仕事を終えた村正が疲れたのか軽く息をつくと、荒野は消えて元の部屋に戻った。

 士郎が光己のそばに戻り、ついでに鞘も投影して手渡す。光己はそれを受け取ると、自分の物になったのを念入りに確かめてから景虎の顔を顧みた。

 景虎がこくんと頷き、士郎の方に向き直る。

 

《『村正』の鍛造、確かに見せてもらいました。スクリーン越しでも分かる素晴らしい、いえ恐ろしいほどの一振りですね。

 これほどの逸品をいただいたのなら、相応の扱いにせねば非礼というもの。私の第二宝具にしたいと思いますが、銘は何というのでしょうか?》

 

 村正の刀は切れ味の良さで知られており、しかも「この」刀は単に刃が触れた物品を切るだけのものではなく、時間や空間、因果をも断ち切る大業物だ。景虎があえて「恐ろしい」と言い直したのは的を射た目利きといえよう。

 しかも第二宝具にするというのだから最高級の評価である。士郎と村正の方がちょっと恐れ入ってしまって、回答するのが数秒遅れたくらいには。

 

「…………あ、はい、ええと、ありがたき幸せ、とでも言えばいいんかな?

 銘は『都牟刈村正(つむかりむらまさ)』というそうです」

《都牟刈というとかの天叢雲剣の別名ですね。それほどの自負があるということですか。

 実際に振るう時が楽しみです》

 

 その後景虎と士郎が二言三言話して対面が終わったら、次はお土産である。

 宝具ではない通常の投影魔術でつくった刀「明神切村正(みょうじんきりむらまさ)」は光己やジャンヌオルタにも分かるレベルで「都牟刈村正」には及ばないが、それでも超抜級の名刀、いや刀の銘からすると魔刀と評すべきか? ともかくそういう代物だった。

 

「こっちも凄いわね。普通の材料でもこんなのつくれるんだ」

 

 やはり歴史に名前が残る鍛冶師は違う。ジャンヌオルタは素直に感心した。

 ただこうなると同等の知名度を誇る「正宗」も見てみたくなってきたが、口に出すのは控えた。まあ特異点修正に付き合っていれば、いずれ見られる時も来るだろう。

 そして光己が刀と鞘を「蔵」に収納したら、ようやくここでやることは全部終わって部屋の先に進むことになったのだった。

 

 

 




 Ⅱ世が凛を「核兵器のボタンを持った赤い悪魔」と思ってるのは原作のマイルーム台詞準拠であります。一方凛はカルデアはお金はあまり持ってないことを知りましたが、高度な魔術を駆使していることも知りましたので、そちら目当てで来る可能性はありますね。お労しやⅡ世(酷)。
 景虎が都牟刈村正を第二宝具にしましたので、川中島イベントで信玄が景虎に刀の宝具について訊ねた時に展開がバグりそうです(愉悦)。
 いや都牟刈村正があれば偽謙信を最初の遭遇の時に倒せちゃいそうですから、この問答は発生しませんね。それどころか景虎が謙信になるかどうかも微妙に!?


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