FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第261話 アングルボダ1

 部屋の外は今までと同様の通路だったが、人数が多いので縦列に並ぶことになる。先頭集団はバベッジとモードレッドとアルトリアズで、ゾォルケンの所に着くまでの案内と露払いが仕事だ。

 その後ろに冬木組が続いており、役目は言うまでもなくゾォルケン退治である。バベッジも余力があれば参戦する予定だ。

 さらにその後ろには光己とマシュ、参謀の太公望、そして隠匿組のアルクェイド・マーリン・ドラコー・ティアマト・テュフォン……になっていたが、ティアマトは冬木組に混じって凛と身の上話をしていた。当然凛のAPは減る一方で、まことにお労しい話だが士郎も桜も止める度胸はなかった……。

 ジキル・フラン・アンデルセン・シェイクスピア・アタランテ・天草・ナーサリーの非戦闘員組がその後ろに続き、妖精國組が最後尾を固めている。最後尾、つまり殿(しんがり)はこの手の隊列では先頭に次ぐ重要な役目なのは常識であり、誇り高き騎士たちにも文句はなかった。

 ジャンヌ2人は当初からの予定通り、短刀の中に戻っている。サーヴァントが憑依できる持ち運び可能な物品という常識外れなアイテムに、凛がまた騒ぎそうなものだったが沈黙していたので、何か深い考えでも出て来たのかも知れない。

 その道中、アルトリアがいつになく厳粛な表情と口調でモードレッドに話しかける。

 

「……さて。この先は私たちが大きな戦いをすることはなさそうですから、そろそろ例の件について結論を出しておきましょうか」

「!!」

 

 アルトリアとモードレッドの間で例の件といえば、息子認知の件しかない。モードレッドが一瞬びくっと全身を震わせる。

 ただモードレッドの主観では、先ほどの戦いでヴラドを倒せなかったこともあって父上が納得するほどの手柄はまだ立てられていないのではないかという不安が大きかったのだが、アルトリアはそれを察してその文脈から話を始めた。

 

「……そうですね。功績だけで考えるならまだ不足という気はしますが、しかし貴方のブリテンの地と民を守ろうという意志は本物だと感じましたし、あのフランという少女に対する思いやりにも感心しました。

 その心映えの分を加点して、息子認知試験は合格とします。ただしあの時言ったように、あくまで私的にではありますが」

「お、おぉぉ……マ、マジで!?」

 

 モードレッドは今度こそ震えが止まらなかった。ずっと憧れ、認めて欲しいと思っていた父が、今ついに自分を息子だとはっきり口に出して認めてくれたのだ。

 しかも血がつながってるからというだけではなく、ちゃんと行動を見た上で。

 

「もちろん、嘘や冗談でこんなことを言うほど私は性悪ではありませんよ。

 ……そうですね、仮にも人の親になったからには、躾の真似事でもしておきましょうか。

 モードレッド、世間一般的に、1番の親不孝とは何だと思いますか?」

「へ!? う、うーん。王とか騎士なら代々の地位や名誉を失うような不祥事かますことだと思うけど、世間一般って言われると……やっぱあれか、親より先に死ぬとかそういうことか?」

 

 不意の問いかけにモードレッドはちょっと当惑したが、それでも何とか頭をひねって答えてみると、正解だったようで父上は微笑を浮かべてくれた。

 

「その通りです。まして親の目の前で殺されるなんてのは許しませんので、よく覚えておくように」

「!!!!!」

 

 今親子と認めたとはいえ、1度は国を滅ぼし自身をも弑殺した不良息子の命を心配してくれるとは。しかも単に命を大事にしろというありふれた躾ではなく、息子と認められた喜びで気を昂らせて無謀な突撃をしないようにという具体的な注意でもあるのだ。

 モードレッドは腹の底、いや全身の細胞の1つ1つから感動と歓喜がふつふつと湧き上がってきて、認知してくれたことへのお礼とか、注意への返事とか、そういう今喋るべき言葉がまったく浮かんでこないほどだった。周りについて歩いているのが精一杯である。

 アルトリアは「息子」の大仰な喜びぶりに小さく苦笑したがあえて何も言わず、別側面たちに声をかけた。

 

「……とまあ、こんなところでどうでしょうか?」

「ええ、いいと思いますよ」

「そうですね、異論はありません」

「まあ、よかろう」

 

 その後モードレッドは落ち着いた頃に白槍の父上と宇宙の父上と黒槍の父上にも認知してもらえて、喜びの余り体から魂が抜けて昇天というか本当に現世から退去しかけて父上4人を慌てさせたり叱られたりしたのだが、それはまあ余談である。

 

 

 

 

 

 

 その頃列の真ん中では、ドラコーが1個前の集団、つまり冬木組に聞こえないよう小声で光己に何やら問いかけていた。

 

「ところでマスターよ。先ほど貴様は『俺が受けた感覚では、ルシフェルは人類を敵視してはいない感じ』とか言っていたが、あれはどういう意味なのだ?」

 

 黙示録の獣かつ人類悪としてはきっちり聞いておきたい話柄のようだ。光己の方も、語るのを拒む理由は特にない。

 

「んー、そうだな。じゃあそもそも論として、ルシフェルの最終目標から話すか。あくまで俺が受けた印象での話だけど」

「……ほう? 『主』に取って代わって自分が宇宙の支配者になることではない、と言うのか?」

 

 もしそうなら大変興味がある。ドラコーが続きを促すと、光己はごほんと軽く咳払いして調子を整えてから話を始めた。

 

「うん、半分は合ってるけど半分は違うかな。簡単に言うと、新世界ならぬ『新』宇宙の神になることなんだ。造物主に取って代わるんじゃなくてね。

 一応、聖書にも根拠になりそうな記述はある」

「ほう!?」

 

 ここで聖書が話題になるとはまことにもって面白い。どの節を持ち出してくるつもりなのか?

 

「細かい文言は覚えてないけど、『あなたは先に心の中で思った』から『いと高き者のようになろう』ってのがあるだろ。『ようになろう』ってのは、『倒して席を奪う』とは違うよな。

 しかも『竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった』という記述もある。応戦したっていうんだから、先に仕掛けたのはルシフェルじゃなくてミカエルだよな」

「ふむ、確かにそういう解釈もできなくはないな。至高者に取って代わるのではなく、しかも彼と同等の存在になるのであれば、自分も同じように宇宙を創造するという結論になるわけか。貴様が言ったグノーシスでいうデミウルゴスだな」

 

 ドラコーは理解が非常に早い上に正確なので、光己は説明がとても楽だった。

 

「そうそれ。新宇宙の神……口にするだけで心が浮き立つ、素晴らしいフレーズだよなあ。

 ……で、それと人間に対するスタンスの関係だけど」

 

 おかげで多少余裕ができたのかいつもの中二病を発症したが、今回はすぐ治まって話を続けた。

 

「知恵の樹の実を食べさせたのは、反逆者、神からの離脱・自立者仲間が欲しかったというのもあるけど、それとは別に、その知恵でもって宇宙の仕組みを解明することを期待したんだと思う。

 実際、20世紀後半以降の宇宙科学の進歩はすごいからな」

「なるほど。新宇宙の創造と、その前段階の現宇宙からの脱出のための知識が欲しかったわけか。神の一の使徒ならば自前の知識もあるはずだが、違う観点からの知識が役に立つこともあるだろうからな。

 そういうことなら、敵視してはいないというのは妥当か」

 

 しかしそれなら、赤い竜が獣と組んで地上を支配しようとしたのは何故なのか?

 

「うん、確かに今までのやり方より武断的だけど、それはあれだ。ミカエルに負けて地上に投げ落とされて気が立ってたんじゃないかな」

「身も蓋もない話だな……」

 

 まああくまで光己がそういう印象を受けたというだけの話なので、真偽を深く追及しても仕方ないのだが。

 それより大事なことがある。

 

「それで、貴様はその新宇宙の神とやらになるつもりなのか?」

「うーん。フレーズには心惹かれるんだけど、スケールが大き過ぎて非現実的だからなあ。

 ユニヴァースにはアシュタレトっていう、『体は銀河で出来ている』『ヒトの形をした銀河』な女神がいるそうだけど」

「体が銀河? 汎神論的な存在か、それとも固有結界の類か?

 しかし銀河とは大きく出たな。余はビースト真体に戻れば存在規模が『一等惑星級』になるのだが、それですら足元にも及ばぬではないか」

 

 そんなモノがいるとは宇宙は広い。いや「本物の」ルシフェルも、造物主と並ぼうとするからには宇宙級かそれに準ずる存在規模の持ち主なのだろうが。

 そういえばどこかの誰かが「ルチフェロなりしサタンなる異星の神」とか言ってルシフェルと異星の神を同一視していたが、おそらく何らかの象徴的な意味合いであって本当にルシフェルが異星の神になったわけではないと思う。

 ちなみに光己の存在規模は、ドラコーの見立てでは惑星級を超えているのは間違いないが正確には測り切れないという感じだ。ただし意図的に行使できる魔力量については、経験不足のためか特に人間モードでは無惨なほどに極少で、たとえるなら平均的なサーヴァントがバスタブの水をタライで汲んでいるようなものとすると、黒海の水をバケツで汲んでいるといったところか。

 

「それはそうと、さすがの貴様でも非現実的なのはその通りだな。

 自前で宇宙を創れるほどのリソースなどどこにもないし、かといっていかに貴様がヴリトラを喰ったりアルビオンに取り込まれたりしても生き延びてきた剛の者とはいえ、『銀河の精神』相手に同じことをするのは無謀だ」

「うん、銀河の女神にケンカ売る勇気はないかな」

 

 なので現宇宙脱出も新宇宙創造も能力的・知識的に実現は無理と思われたが、そこにマーリンがものすごく楽しそうな顔つきで割り込んできた。

 

「おおっと、諦めるのはまだ早いよ。そりゃアルビオンがいくら強くても銀河の女神にはかなわないだろうけど、確かカーマはビーストだった時は概念的なものとはいえ『宇宙の肉体』を持っていたんだろう? マスターも同様のスキルを持てば、概念バトルで勝つ目はあるさ」

「ふむ? なるほどな、それならこの世界に出現するビーストカーマを喰えば済むし、概念的なものでいいならそれで『宇宙の神』になれてしまうわけだしな。固有結界(りゅうぐうじょう)と接続できれば、()()()()()()()()()()()()()通常技でメテオやスーパーノヴァを出せるかも知れぬし。

 カルデアにいるカーマも文句は言えまい」

「そういうことだね。マスターがユニヴァースに行って銀河の女神と戦うハメになる可能性なんて無いようなものだけど、この世界にビーストカーマが現れる可能性は逆にほぼ確実だ。やったねマスター、野望がかなうよ!

 とはいえビーストを喰うのは今のマスターの()()ではかなり荷が重い。だからさっきも言ったけど、今後は魔術の訓練にも励まないといけないね。

 大丈夫、私が手取り足取り優しく指南してあげるから」

「……ほむ」

 

 マーリンとドラコーのやり取りは魔術界隈的世界観マシマシだったので元一般人の光己が理解するのはやや大変だったが、言われてみれば納得はできた。魔王(サタン)魔王(マーラ)を喰って偽りの神(ヤルダバオト)になるとか、浪漫回路が大回転してエンドルフィンドーパミンがだばだばである。

 ただしこの世界のビーストカーマが、カルデアが彷徨海に移転した後で現れると決まったわけではなく、極論すれば明日やって来てもおかしくはないのだからのんびりはしていられない。

 

「そうだな、マーリンさんに手取り足取り()()()教えてもらえるなんて最高に光栄だからお願いしようかな」

「フフッ、さりげなく怪しいセンテンスを加えるとは仕方ないなぁキミは!

 たとえばこんな感じかい?」

 

 ……だというのに光己は煩悩まみれだったが、マーリンもそれを咎めるどころか彼の正面に回って片手をその腰に回しつつ、己の下腹部を彼の下腹部にすりつけるという暴挙に出た。

 こちらも魔術指南にかこつけて、光己と(光己で?)遊ぼうという目論見だったようだ……。

 

「お!?」

 

 マーリンの下腹部に加えて豊かなおっぱいもふにふに当たってきて光己はとても幸せだったが、彼女の宿敵たるドラコーはそんな光景を見せつけられて黙っていられるはずがない。光己の片腕を掴んで胸の間にかき抱いた。

 なおドラコーは今は士郎たちに正体を隠すため、竜腕竜脚竜尾と杯と冠を消して、代わりに赤いドレスをまとった「第一再臨」に近い姿になっている。幼女形態とはいえ大淫婦だけに、そのたおやかな手や指、ふくらみかけのバストの感触は男を惑わし蕩かす魔性の魅力を十分すぎるほど備えていた。

 

「魔術についてはマーリンほど詳しくないが、こちら方面では負けぬぞ。

 ほれほれ、未成熟な肢体も良いものであろう?」

「おお、これは確かに……!」

 

 光己は無邪気に喜んでいるが、メンタルパンピーの思春期男子がグランド級半夢魔とビーストな大淫婦に挟み撃ちで誘惑されてはいつまで理性を保てるか大変心もとない。しかしこのような時のために、彼には頼もしい貞操ガーダーがついていた。

 

「……って、3人とも何してるんですかー!」

「ああっ、せっかくいい流れなのに何するんだマシュ!」

「ふふっ、マシュはいつも可愛いねえ」

「むう、だから貴様も混じればいいと何度言えば分かるのだマシュ」

 

 そもそもこの場でR15やR18になる事態まで進めるわけはないのだが、いつも通りマシュの活躍で光己の野望は挫かれ、彼の貞操と理性は守られたのであった。

 ―――ちなみに妖精國組は多少距離があるので普通ならこの最後のやり取り以外は聞こえないのだが、トネリコは何を思ってか魔術でそれより前の話もしっかり聞いていた。そして(マスターさんの宇宙だか銀河だかの性質によっては、妖精國はそちらに引っ越させるという手もありますね。私も()()()できるかも知れませんし)なんてことを内心で呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後の道のりもかなり長かった上に何故かスケルトンやゾンビが何度も現れて面倒だったが、それを乗り越えて一同はついに地下道の最下層に到着した。

 そこは冬木の特異点の終点だった大空洞に地形も雰囲気もよく似ており、同様に中央部に高台がある。そこに冬木にあった大聖杯に酷似した、大きな魔術炉心が据え付けられていた。

 いやよく見ると、太いパイプや覗き窓がついたドーム型のボイラーのようでもある。実際排気筒から蒸気を吐き出しているし、あれこそが「巨大蒸気機関アングルボダ」に違いあるまい。

 光己たちは予定通り冬木組を先頭に出し、光己を含む隠匿組にはトネリコたちが認識阻害の術をかけてから空洞の中に足を踏み入れた。

 人影は見あたらないが、ルーラーの探知スキルにより高台にサーヴァントが1人いることは分かっている。そして光己たちが宝具による奇襲を警戒しつつ高台の上に上がると、アングルボダの前に男が2人立っているのが見えた。

 片方はサーヴァント・パラケルスス。そしてもう1人は人間―――おそらくはマキリ・ゾォルケンであろう。青い髪に赤い眼の、やや陰鬱な気配を漂わせる壮年のヨーロッパ人だ。

 

「―――奇しくもパラケルススの言葉通りとなったか。悪逆は、善を成す者によって阻まれなければならぬ、と」

 

 先頭の士郎が口を開くより先に、ゾォルケンらしき男が話しかけてきた。

 ここで光己が司令塔なら問答無用の宝具連打でアングルボダごと吹っ飛ばすなんて作戦もあり得たが、士郎は彼の若い姿にやや違和感を覚えつつもまずは言葉で答えた。

 

「……あんたが『M』マキリ・ゾォルケンか?」

「いかにも。

 私がマキリ・ゾォルケン、この『魔霧計画』に於ける最初の主導者である。この時代―――第四の特異点を完全破壊するため、魔霧により英国全土の侵食を目指す、1人の魔術師だ。

 しかしバベッジよ。おまえが裏切った上でここまで来られるとは、そちらにはよほど優秀なサーヴァント、もしくはおまえの心を強く揺り動かす何者かがいたようだな」

「…………」

 

 バベッジは万が一にも隠匿事項を漏らさないため黙秘して答えなかったが、ゾォルケンは気にした風もなく言葉を続けた。

 

「もっとも結果は変わらぬがな。

 ……巨大蒸気機関アングルボダ。これは我らの悪逆の形ではあるが、希望でもある。

 ここでおまえたちの道行きは終わりだ。善は、今、我が悪逆によって駆逐されるだろう」

 

 やはりこの男がエリアボス、そして向こうの魔術炉心が魔霧発生装置と見て間違いないようだ。

 一方光己たちはパラケルススと向かい合っていた。

 

「とうとうここまで来ましたか。そちらの人数相手に宝具なしで立ち向かうのはいささか無謀ではありますが、事ここに至ったからには己の役割を最後まで遂行しましょう」

 

 パラケルススが怪獣VS巨大ロボの超常識バトルを見ていたかどうかは不明だが、ともかく悪役をやり通すつもりのようである。

 そうと見た光己が、ついっと1歩進み出た。ただしパラケルススからは、認識阻害の効果で見知らぬサーヴァントに見えているが。

 

「そうか。ところでパラケルスス、おまえこの世で最も大きな罪というのは何か知っているか?」

「……?」

 

 光己の問いかけはアルトリアのモードレッドへの質問を下敷きにしているのかどうかは不明だが、パラケルススはとっさに趣旨を理解できず小さく首をかしげた。

 すると光己は無理に答えさせるつもりはなかったようで、すぐ自分でそれを語り始めた。

 

「それは親兄弟殺しの大罪だ。同じ血を持つ者を(あや)める罪。

 つまり人の身でありながら人理焼却に加担しているおまえには……」

 

 そこで光己がいったん言葉を切ると、彼の全身が眩い光を放ち始める。まるで神仏か天使のような荘厳さだ。

 驚いて思わず1歩退いたパラケルススに、判決を言い渡す裁判官のごとき厳粛な口調で告げる。

 

「天罰が、下る―――!!」

 

 その直後、パラケルススの頭上から西瓜大の岩塊が落ちてきて脳天に直撃した!

 あらかじめ魔術障壁を張っていなかったら即死していただろう。

 

「う、うぐぐぐぐ……」

 

 わりと痛かったのか、パラケルススが手で頭を押さえてうずくまる。しかし足音が近づくのを感じると慌てて立ち上がった。

 

「い、今のは一体!? 彼が魔術を使った気配はなかったのに」

「さっきの台詞聞いてなかったのか? 悪いことをすると報いが返ってくるんだよ。

 そういえば悪逆な魔術師が根源に近づくと抑止力が邪魔するなんてヨタ話を聞いたことがあるけど、それなんじゃねえのか?」

 

 そう答えたのは光己ではなく、足音の主のモードレッドである。ゾォルケン退治は彼と私的な因縁があるバベッジや桜たちに譲って、父上たちと一緒にこちらに来ることにしたのだ。

 なお答えの内容は全部仕込みである。光己の台詞と合わせると「魔術王に従っていると根源に行けない」という意味になり、パラケルススが別の特異点に現界した時にまた魔術王の手下にならないよう誘導しているのだった。

 光己の体が光ったのは太公望の仙術で、岩塊が落ちて来たのはあらかじめそれを持ったマーリンが幻術で姿を隠してパラケルススの頭上に待機していたという仕掛けである。

 

「マスターさんてばホントそういうの好きねえ」

 

 もう出番はない(予定の)アルクェイドがその立場通り、暢気そうな口調でごちた。

 趣旨はいいと思うが、そのために手の込んだ寸劇をしたり、その劇にわざわざ自分が出てカッコつけた台詞を吐くとか、次回があったら参加してみたいものだ。

 

「フッフッフ。お姉ちゃんに御使(みつか)いを(かた)るのはダメって言われてるけど、今回は天使と思わせたわけじゃないからセーフのはず」

「そんなことしてたんだ」

 

 新宇宙の神とか言い出す男はやはり違う、とアルクェイドは素直に感心した。

 ただ彼自身に天罰が下らなければいいのだが……人理修復なんて究極の善行をしている間は大丈夫だろう、多分。

 

「それで、親兄弟殺しが1番の大罪っていうのは本当なの?」

「うん、ちゃんとした根拠はないけど、まったくのデタラメってわけでもない。

 少なくとも人間社会では、加害者被害者の身分とか国の都合とかを抜きにして考えると古今東西だいたい殺人罪が1番重いし、その中でも尊属殺は扱いが違うからな。

 で、血縁や地縁や団体縁が薄くなる、遠くなるほど軽くなる。21世紀ではそこまで差をつけないけど、昔はムラの外から来た正体不明の旅人の命なんてお軽かったし。

 さらにその先、哺乳類、鳥類、魚類、昆虫類と人間から遠い種になるほど殺すのに罪悪感や忌避感がなくなっていくって感じ。

 良い悪いとか正しい間違ってるとかは別にして」

「なるほどー」

 

 アルクェイドは人類の性質や歴史についてそこまで詳しいわけではないが、そういう傾向はあるような気がした。

 しかしこのマスターさん、元一般人だというがアドリブでよくここまで知恵が回るものである。大した掘り出し物なのか、それとも苦労を重ねて成長したのか。いずれにせよ、リーダーが面白い上に賢いのは喜ばしいことだ。

 

「……って、モードレッドが動いたわね」

「おお、ついに奴との決着をつける時が来たか」

 

 話すべきことは話し終えたモードレッドが、クラレントを構えてパラケルススに斬りかかる。アルトリアズはそのフォローに回っていた。

 さて、自分で言った通り勝ち目がまるで見当たらないパラケルススはどう動くのであろうか……?

 

 

 




 モーさん大勝利……これは6章では原作と異なるムーブをしそうです。
 光己君が新宇宙の神とか途方もないことを言い出しましたが、第18話や第37話の時点で竜魔神だの超龍皇だのと言ってたくらいですので今更なのです(ぉ
 存在規模の概念を使うと、物質的な図体の大きさと保有魔力量は関係ないという考え方ができますね。つまり光己君は総魔力量は人間モードでも竜モードでも同じで、ただし発揮できる魔力量やスキルは形態によって異なるというところでしょうか。
 さりげなく妖精國以外の異聞帯も存続できる可能性が示されましたが、異聞帯は王とパンピーの意識の乖離が大きいですからねえ。パンピーは降伏&国ごと引っ越ししてでも生き残りたいと思っても、王は拒否するなんてケースもありそうで難しいです。


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