FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第264話 そして、霧の彼方にて

 光己はテスラが退去したのを確認すると、空洞内を駆け回ってまず姿が見えている者を気つけして起こし、ついで手分けして瓦礫に埋まっている者を掘り出した。

 爆発はかなり大きなものだったので、特に生身のマシュ・ジキル・フラン・マーリンに万が一のことがあってはと光己は気が気でなかったが、幸いにして生身勢にもサーヴァント勢にも死者はなく皆ほっとして生存を喜び合った。

 といっても一部の頑丈勢や超治癒力持ち以外は程度の差はあれケガしていたが、命さえ無事ならどうにかなる。光己は負傷者の治療は術者勢に任せて、自身は頑丈勢と一緒に聖杯を取り出しに向かった。

 アングルボダはすでに停止しており、よほど乱暴に扱わない限り爆発とかそういう事態にはならなさそうである。

 

「聖杯をゲットしたら特異点修正が始まるはずだから、うまくいけばゲーティアに会わずに帰れるかも知れんな」

 

 会わずに済むならそれに越したことはない。しかし光己のその楽観的な希望は、不意に感じた圧倒的なまでの悪寒によってあえなく過去のものとなった。

 

「ちょ、何これ!?」

「来るぞ! フォーメーションP、だったか? 急げ!」

 

 ドラコーは情報を提供した当人だけあって反応が早く、すかさず全員に早急な対応を指示した。なお「P」とはPretender(偽者)の頭文字で、Pretenderはエフェメロスがサーヴァントだった時のクラス名である。

 つまりエフェメロスがカルデアのマスターのフリをしてゲーティアと対面し、ランサーオルタと小次郎と天草が契約サーヴァント役をするというものだ。他の者は遠くに離れ、マーリンの幻術で隠れることになっている。

 ランサーオルタが残ることにモードレッドはやや微妙、というか自分が出たそうな顔をしたが、「ブリテンの危機にアーサー王が全員引っ込んでいては恰好がつかんからな。『息子』は『父』の背中でも見ておくがいい」と言われては引き下がるしかなかった。

 天草が立候補したのはもとより彼の強烈な使命感によるものだが、小次郎は怖いもの見たさとか武人的カッコつけといったレベルである。特異点修正で退去するより、ラスボス相手に殿(しんがり)を務める方が華があるというわけだ。

 なおバベッジも残りたがっていたが、こちらはフランの希望で断念している。厳格な人物だが、無垢な少女には弱いのだった。

 1番残りたがりそうな士郎については、当然すぎる展開として凛と桜とイリヤが鬼の形相で彼の腕や腰を掴んで連行している。3人が言葉での説得抜きで最初から実力行使に出ていた辺りに士郎の性格が見て取れた。

 

「―――あそこだ! 反対方向に走れ!」

 

 高台の一角、ドラコーが指さした先に突如として空間の歪みができる。サーヴァントの現界とは異なる、レイシフトに似た現象のように見えた。

 もはや猶予はないが、サーヴァントは秒で数十メートルを走れる脚力がある。残留組のエフェメロスたち以外が一斉にダッシュして、アングルボダの裏側に隠れた。

 その間に歪みはだんだん大きくなり、人間が通れるくらいのサイズになる。ついで歪みが「開いて」、その向こうに人影が見えた。

 まだ黒いシルエットなのに、恐るべき魔力と圧力が感じられる。

 

「これが……本物の人類悪(ビースト)……!?」

 

 天草が脚の震えを抑えつつ、畏怖がこもった呟きを漏らす。

 ドラコーやティアマトを見て「人類悪というのはこのようなものか」という見当はつけていたが、今現れたゲーティアは明らかに格が違う。そういえば2人は力を失っていたり本体ではなかったりしたわけで、そうではない100%のビースト真体というのは存在そのものが別次元という感じだった。

 ビーストとは「人類の悪性が生み出した、人類が打倒すべき悪」で、具体的には「グランドサーヴァント」と呼ばれる者が7騎がかりで立ち向かうそうなのだが、なるほど「通常の」サーヴァントではとても勝てなさそうに見える。

 まあ今回は倒す必要はなく、むしろこちらを侮ってもらうのが目的なので問題はない。三国志にも出てきた、驕兵(きょうへい)の計というやつだ。

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。

 多少は使えるかと思ったが―――小間使いすらできぬとは興醒めだ。

 下らない。実に下らない。やはり人間は、時代を重ねるごとに劣化する」

 

 シルエットがカルデア側に話しかけるようでいて独り言のような、異様に高慢で侮蔑的で、それでいて突き放した無関心そうな口ぶりで喋り始める。やはりこの人物がゲーティアのようだ。

 ゆっくりとエフェメロスたちの方に歩いて近づきつつ、さらに言葉を紡ぐ。

 

「カルデアは時間軸から外れたが故、誰にも見つける事ができない拠点となった。あらゆる未来―――すべてを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。

 だからこそ生き延びている。無様にも。無惨にも。無益にも。

 決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海にただよう哀れな船だ。それがおまえたちカルデアであり、燃え尽きた人類史に残った染み。私の事業に唯一残った、私に逆らう愚者の名前か」

 

 そこまで語ったあたりでシルエットがはっきりしてきて容姿が分かるようになった。

 白と黒を基調にした祭司が着るような服を着た、浅黒い肌の壮年男性だ。赤く燃えるようなオーラが周囲にゆらめき、空間を圧し潰すような威圧感を醸し出していた。

 エフェメロスはドラコーや妖精國組の話を聞いていたから、彼の正体も、人類の歴史が滅びると決まったわけではないことも知っている。しかしそれは当然おくびにも出さず、まずは自然な流れとして誰何から始めることにした。

 なおエフェメロスは先ほどまではいかがわしい恰好のままだったが、今は如意宝珠(小)で出した服にマーリンが術をかけた「認識阻害効果付きカルデア制服」を着ている。これならマスターと名乗っても怪しまれはしないだろう。

 いやレフがゲーティアに光己の容姿や性別まで報告していたなら別人だとすぐバレるが、その時は今回は自分の番で彼は休養中だとでも言えば済むことだ。

 

「おまえがレフやゾォルケンが言っていた『王』か?」

「ん? なんだ、既に知り得ている筈だが? そんな事も教わらねば分からぬ猿か?

 だがよかろう、その無様さが気に入った。聞きたいのならば応えてやろう」

 

 ゲーティアらしき男は会話する気はあるようだ。唇を嘲笑の形に歪めつつ自己紹介を始める。

 

「我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。

 名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 この名乗りが偽称であることもエフェメロスは知っているが、指摘などはしない。せっかく彼が尊大傲慢、つまり油断してくれているのに、わざわざ警戒心を抱かせるような真似をしたら作戦に支障をきたすかも知れぬではないか。

 ただソロモンというのは冠位になってもおかしくないビッグネームなのは事実であり、まったく驚かないのは不自然だ。ゆえにランサーオルタたちも動揺してひるんだような態度を見せているが言葉は発しないので、エフェメロスは自分で応答することにした。

 

「ソロモン、だと……!? 聖書にも書かれているイスラエルの王か!?

 だが敬虔なる神の信徒であり完璧な王とまでいわれた者が、なぜ人類を滅ぼそうなどと考えるのだ」

 

 これは当然の問いかけの中にさりげないおだてと糾弾を混ぜた巧妙な言葉選びだとエフェメロスは内心で自画自賛したが、彼女が求める答えはすぐには得られなかった。

 

「確かに生前の私はそのような者だった―――が、今は違う。

 貴様らのように無駄、無様、無価値な者どもを守ろうなどと、それこそ無駄なことを考えてはいないのだよ。

 むしろこちらこそ訊きたい。貴様らの生命に何の価値がある?

 死が前提になっている時点で、その視点に価値はない。人間(おまえ)たちはこの二千年何をしていた? ひたすらに死に続け、ひたすらに無為だった。

 おまえたちは死を克服できなかった知性体だ。にも拘わらず、死への恐怖心を持ち続けた。死を克服できないのであれば、死への恐怖は捨てるべきだったというのに。

 死を恐ろしいと、無惨なものだと認識するのなら、その知性は捨てるべきだったのに!」

 

 ゲーティアの表情や口調にははっきりした怒りや苛立ちが表れていた。「死」というのは彼にとってかなり大きな命題らしい。

 ここで天草は太公望やモルガンと話したことを思い出したが、嘴を入れるのは避けた。

 

「無様、あまりにも無様だ。

 カルデアのマスターよ、なぜ戦う。いずれ終わる命、もう終わった命と知って。なぜまだ生き続けようと(すが)る。おまえたちの未来には、何一つ救いがないと気付きながら。

 ―――そのように無様なおまえたちが存在するのが、()()()()だけでも不愉快極まる。ゆえに、我が手で焼却してやろうというのだ。光栄に思うがいい」

「……まあ、その感覚は分からぬでもない。

 しかしソロモンほどの者なら、ただ燃やしてそれで終わりではなかろう。ものを燃やせば熱なり何なりが発生するが、それを何に使う?」

 

 生命の価値や戦う理由についての問いかけは半ば独り言に思えたのであいまいに言葉を濁し、そしてついに本題を口にするエフェメロス。しかしゲーティアはやはり簡単には語ってくれなかった。

 

「ほう! そこに考えが及ぶとは、塵芥なりに多少は知恵が回るようだな。

 だがその光景を見る事のない貴様が知る必要はあるまい」

「なるほど、うかつに教えたら潰されるから黙秘するというわけか。

 さすが完璧なる王、憶病さ、いや失礼、用心深さも一流だな」

「な、んだと……!?」

 

 無様だの塵芥だのと侮蔑した相手に憶病と哂われて、ゲーティアはびしびしびしっとこめかみに青筋を浮かべた。

 五体を百、いや千にも引き千切ってやろうかとも思ったが、それでは彼女の言うことを認めてしまうようで癪である。焼却の事業はすでに完了しているのだから潰すも何もないのだし、絶望させてやるのも兼ねて望み通り教えることにした。

 

「……フン、そこまで言うのならば教えてやろう。

 貴様の推測通り、人類など燃料に過ぎん。

 しかも焼却はもう終わっている。もはや潰しようなどない。

 そして貴様が言った『熱』、私にとっては魔力を回収し終えたら、それを噴射装置として私は46億年前……そう、この惑星(ほし)が誕生する時に(さかのぼ)る。

 この間違えた惑星、『終わりのある命』を前提にした狂気の惑星が誕生する瞬間に立ち会うのだ。

 その全てのエネルギーを取り込み―――自らを新しい天体とし、この惑星を創り直す。創世記をやり直し、『死』の概念の無い惑星を作り上げる。それが私の大偉業だ」

「…………ふむ、なるほど。確かに大したものだ」

 

 新宇宙の神とか銀河の女神とかいう極大スケールの話を聞いた後だとややインパクトに欠けるが、常人基準なら超抜級スケールなのは事実なのでエフェメロスはとりあえず称賛しておいた。

 もっともゲーティアの目的はすでに知っていたから驚きはしなかった、というかドラコーが言っていた通りだったので、ゲーティアが嘘をついていないことを確認できて一安心である。

 そう、彼は今まさに、自分の願いを口にしてしまったのだ。このテュフォン・エフェメロスの目の前で!

 あとは込められるだけの力を込めて、呪いの言葉を口にするだけだ。

 

 

 

     「だが残念だったな。おまえの願いは……()()()()

 

 

 

「何!? ……っぷ、く、はははははははははははははははは!!

 はぁーーーっはっはっはっはっはははははは!! くく、くあははははっははは!」

 

 すると失礼にも、ゲーティアは狂ったような高笑いを始めた。

 先ほどまでは知的で冷徹な印象だったが、一変してマッドサイエンティストめいた邪悪さと狂気さを全壊、じゃなかった、いやこれで正しいか。

 

「はっははは、ははは、はぁははは!

 ……私を挑発して人理焼却の目的を聞き出して、それで何をするかと思えば、まさか強がりを吐くためだったとはな! それともまさか、魔術師風情の言霊が私に効くとでも思い上がっているのか? 人類最高峰の馬鹿か、貴様?

 これほど笑ったのは久方ぶりだな。もしかして、私の腹筋を殺すのが狙いだったというオチか? だとしたらなかなかの効き目があったと認めてやろう」

「―――」

 

 ゲーティアはそういう風に解釈したようだ。まあエフェメロスの呪いはかけた側に手応えはないし、かけられた側にも自覚症状はないので、そんな解釈もアリといえばアリだろう。

 ―――ここでエフェメロスには2つの選択肢があった。

 1つは正体を明かしてゲーティアのバカ笑いを凍りつかせてやること、もう1つは最後まで人間の魔術師のフリをして、彼に勘違いしたまま帰ってもらうことである。

 個人的な嗜好としては前者を選びたいのだが、光己は皆と平等な扱いをするという約束を守ったし、美味しいお菓子とそれを楽しむ席もくれた。このたびはその誠意に応えようと思う。

 

「せいぜい笑っているがいいさ、我が渾身の呪いの威力を思い知る日までな!

 我がここで死んだとしても、カルデアにはまだマスターが残っている。もう1度言う、おまえの願いは叶わない!!」

「ふはははは、人間とはそこまで自信過剰になれるものなのだな。感じ入ったぞ!

 安心しろ、貴様は殺さん。今殺したら、渾身の呪いとやらに何の効果もなかったことを貴様が理解する機会がなくなってしまうからな!!」

「我を生かして帰すと言うのか!? ふん、自信過剰がどちらになるか楽しみだな!!」

「はーーっはっはっはっは、まったくだ!!」

 

 ゲーティアはそれで高笑いを収めると踵を返して帰ろうとしかけたが、言い残したことでもあったのか足を止めて口を開いた。

 

「貴様らがどう思っているかは知らんが、貴様らが特異点をここを含めて4つ修正したことなど、私には取るに足りぬ些事だ。

 だが―――もしも7つの特異点を全て消去したのなら。その時こそ、貴様らを『私が解決すべき案件』として考えてやろう。

 そして、灰すら残らぬまで燃え尽きよ。それが、貴様らの未来である」

 

 そこまで言い終えるとゲーティアは来た時と同様、空間の歪みの中に消えて行った。

 

 

 

 ゲーティアの気配と空間の歪みが完全に消失すると、光己たちはエフェメロスたちのもとに駆け寄った。

 

「お疲れさま。みんな無事で良かった」

「そうだな。1度賭けをしたが、予想以上にうまくいった。

 我は傲慢なる神々が嫌いだが、あそこまで傲慢かつ『自信過剰』だと身を滅ぼす元にしかならんから憐れみさえ抱いてしまいそうだ。

 あの様子では、解呪を試みるとか認識を改めるとかいったことはあるまいからな」

「うん、これで人理修復の難易度がぐっと下がったわけだよな。いや油断はしないけどさ。

 そういえば天草、ゲーティアが『死の概念が無い惑星』とか言ってたけど、何か思うこととかあった?」

「そうですね。太公望殿やモルガン殿の話を聞いた身としては、彼がどのような世界をつくるつもりなのか気にならないと言ったら嘘になりますが、あの言動や雰囲気を見る限りでは私の理想とは程遠いものになるとしか思えません」

「ま、名前偽ってるビーストだしなあ」

 

 そんな奴がラブ&ピースな理想世界を築くとも築けるとも思えない。天草の返事は大変順当なものであった。

 

「それじゃ早いとこ聖杯ゲットして終わりにするかな。ないとは思うけど、今ヤツが戻って来たら大変だし」

「そうですね、実際ないとは思いますが」

 

 そんなわけで光己たちがアングルボダから聖杯を取り出すと、さっそく恒例の修正現象が始まった。空間がゆらぎ、地鳴りのような音が響き出す。

 

「おお、早いな。『世界』か抑止力か分からんけど、やっぱり警戒してるんだな。

 それでは現地サーヴァント……っと、生身の人もいるか。とにかく皆さん、これでお別れですがお世話になりました。またいつかお会いしましょう」

「ええ、こちらこそ。皆さんのご武運をお祈りします」

「ああ、奴の根城に行く時までには我を召喚するがいい」

 

 光己が別れの挨拶をすると、まず今会話した天草とエフェメロスがそう答えてきた。

 あとは全員1人ずつ話している時間はないので、代表してモードレッドが進み出る。

 

「できればついて行きたい……とてもついて行きたいんだが、できないもんは仕方ねえ。

 だがおまえとはまた会いそうな気がする。そん時はまた手を貸すぜ。

 ただ……サーヴァントはいくら強くても、喚ばれなければ闘えない。時代を築くのは、いつだってその時代に……最先端の未来に生きている人間の役目だ。

 要するに、主役はおまえたちってことだな。あのいけ好かねえ野郎のアジトに乗り込んでシバき倒すのは、おまえとマシュにしか出来ない仕事だよ。

 じゃあな、2人とも。それに父上たち!

 今回の記憶は絶対次の現界の時も持ってくるから、最初から息子として扱ってくれよな!!」

「フフッ、別れの挨拶がそれとは仕方のない子ですね。ペンドラゴン家の躾は厳しいですから覚悟しておくように」

 

 アルトリアが微笑とともにそう答えると、それが合図だったかのようにモードレッドたちの身体がいつものように光の粒子となって消え始める。光己たちの気配と意識も薄れて行って―――気がついた時には、カルデアのコフィンの中にいたのだった。

 

 

 




 ゲーティアさん自信過剰の上に節穴ですが、原作でもぐだマシュを見逃してますし、自分が負ける未来も見えてませんでしたから仕方ないのです。
 ドラゴンフルーツちゃんと再会してネタばらしされる時が楽しみですね!(愉悦)


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