FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第267話 雑賀の少女

 光己は永倉新八を助ける、いや彼は新選組最強格の手練れなのだから間違ってやられないようフォローするという程度の心づもりでいいだろうが、敵は雑賀のサーヴァントが「甘く見ない方がいい」と警告するほどの強者たちである。人間モードで行くなら武器を持つべきだろう。

 鎧武者が邪法で強くなっているのなら破邪の剣が有効そうだが、僧兵には逆に効きづらいかも知れない。また鎧を着た戦国武者には介者剣法というのがあって刀剣で斬り倒すのは難しいと聞いたことがあるので、このたびは切れ味重視でフロッティを使うことにした。その名は「突き刺すもの」を意味する名剣である。

 光己は準備を済ませると、彼的には今魔川兵は被害者でもあるのでいきなり攻撃はせず説得を試みることにした。

 

「そこの鎧武者に僧兵、人狩りなんて因果なことしてたらロクなことにならんぞ!

 故郷に帰って、日銭を稼いで静かに暮らした方がいいんじゃないかな」

 

 しかし当然のことながら、今魔川兵たちは説得に応じるどころか嘲笑で答えてきただけだった。

 

「へっぴり腰のガキが拾った剣1本で何粋がってやがる。テメエこそロクなことにならんぞ!?

 故郷とやらで静かに暮らした方がいいってか!? そっくりそのまま返してやるぜ!」

「「ギャハハハハ!!」」

 

 もっともこの反応は予想通りで、ついでに永倉の反応も想像の範囲内だった。

 

「あー、いや、何だ。こいつらに同意するのも何だが、助太刀してくれるのは嬉しいが、勇気と無謀は違うと思うぞ坊主」

「…………」

 

 この手の業界はナメられたら終わりだという。仕方ないので、光己は背中の後ろに隠していたもう1つの武具、「恐怖の兜(エーギスヒャールム)」も使うことにした。

 その名の通り見た者を恐怖させる効果があり、ドワーフだった頃のファヴニールがフロッティと併せ持つことで弟のレギンを逃走に追い込んだという逸話もある。ただし敵味方の区別がないので、今まで使う機会がなかったのだった。

 

「……ッ!?」

「な、何だァ……!?」

 

 不意に押し寄せた正体不明の恐怖感に歴戦の猛者である永倉でさえ一瞬体がこわばり、今魔川兵たちに至っては足が震え出していた。

 それでも逃げ出さないのは光己の考察通り彼らが頭も改造されているか、逃げたら厳罰を喰らうからだろう。

 ただトラックの荷台にいた一般人にも気絶したり錯乱したりした被害者が出たので光己は少々慌てたが、さすがに今兜を脱ぐわけにはいかない。

 それはそれとして無辜の市民を助けるヒーローらしく、かっこいいタンカを切ることにする。

 

「どうした、さっきの高笑いは強がりか!? 恐れずしてかかってこい!」

「坊主……」

 

 マジックアイテムの力で粋がるサンシタムーブに永倉はいささか呆れたが、今がチャンスなのは事実だ。敵が恐慌しているから手控えるなんてお綺麗な武士道仕草は武装警察には無用なわけで、今魔川兵たちをばったばったとなぎ倒していく。

 光己は「鎧武者を斬るのは難しそうだ」と考察していたがそこは達人、豆腐のようにとはいかないが実にスムーズな切断だった。逆に今魔川兵は身体能力は上がっていても、剣の技まではインストールされていないように見える。

 とはいえ彼らもやられっ放しではなく、鎧武者が刀で斬りかかったり僧兵が手に持った黒い筒から炎を噴射したりして反撃を開始した。

 

「あ、僧兵が信長公の兵士に似てるって思ったのはあの武器のせいか。

 全く同じ技術(テクノロジー)使ってるわけじゃないとは思うけど……」

 

 しかし光己が手を出さずそんな感想まで口にする余裕があるくらいには、戦況は永倉が優勢であった。斬撃も火炎も回避して、返す刀で斬り倒していく。

 すると今魔川兵たちは劣勢になったのに気づいたようで、何人かが目先を変えて光己の方に顔を向けた。

 

「ええい、あの兜を奪えば形勢逆転できるはずだ! どうせ本人はザコだ、近づけばどうにでもなる」

「燃えちまえーー!」

「む、本当に来たか」

 

 もっとも光己も決して油断してはいない。牽制をかねて飛んできた火炎をサイドステップして躱すと、すかさず鎧武者が刀を振り上げて突っ込んできた。

 なかなかに素早い踏み込みだが、対処は可能なレベルだ。準備してあった目潰しブレスで迎撃したがそれとほぼ同時に、銃声とともに鎧武者の眉間が爆ぜて血が噴き出す。

 そのまま後ろにばたりと倒れた。

 銃声がした方に顔を向けている暇はないが、おそらくは雑賀の少女だろう。こちらに味方してくれる気になったようだ。

 

「……その兜、怖い。私が味方すれば勝ち確だから脱いで」

「アッハイ」

 

 ついでそちらからわりと低めのこもった声で要望が届いたので、光己はおとなしく兜を脱いで「蔵」に戻した。

 まあこの状況で雑賀のサーヴァントが味方してくれるなら実際勝ち確である。兜がなくなったことで今魔川兵の動きは元に戻ったが、ここまでにかなり減っていた上に味方戦力が倍になったのだから。

 そして今魔川兵の最後の1人が倒れると、景虎と刑部姫もやってきた。

 

「マスターもお二方もご無事みたいですね! こちらも無事ですが、敵には2人とも逃げられてしまって面目ないです」

「あれは仕方ないよ。黒い服のヒトは人間か人形か大蜘蛛か分かんない上に仕込み刀いっぱい持ってたし、修験者の人は狙撃手みたいだから完全に姿が見えなくなるまで油断できないし」

 

 敵サーヴァント2人は光己が兜をかぶった時点で撤退を始めていたのだが、こういうわけで景虎と刑部姫は追撃はできず、光己側の戦いも終わったところでようやく警戒を解くことができたのだった。

 

「それにしても刑部姫殿はなかなか面白いスキルを持っていますね。銃兵相手に折り紙で(この時代より)未来的な壁や盾をつくって防ぐとは驚きました」

「ふっふふ、水着の私はアサシンの私より時代が進歩しているのだよ! 戦国風の城じゃなくてサバゲー、つまり21世紀初頭めいた要塞とか防弾シールドになったのさ」

 

 戦国時代の特異点で城化物がサバゲーとか要塞とか言っているのも変な話だが、英霊の座には時間の概念がない上に、この特異点は現代が混じっているので、そういうスタイルでの現界もあり得るのだろう。

 

「……みんなケガはないみたいで安心した。

 それで子供たちは無事?」

「ん? ああ、おかげさんでな。おまえさんたちが手を貸してくれなきゃ、ちと危なかった。ああ、もちろん大人もな。

 ……引きつけ起こしてるのもいるが、しばらくすれば治まるだろ」

「そう……、良かった……」

 

 雑賀の少女は何だかんだ言って拉致された人を助けたい気持ちはあったようだ。子供たち、いや大人も無事と聞いてほっと安堵した顔になる。

 光己も一応お礼を言っておくことにした。

 

「うん、助けてくれてありがとう」

「雑賀は誰かに肩入れしたりはしない。助けたわけじゃなく、怖いものを早く引っ込めて欲しかっただけ。

 ところでここに1つおすすめメニューがある。

 困ったときの『M51』チケット。これを今なら格安で提供中。奇遇にも、今さっき期間限定割引フェアに突入した。こんな幸運を見逃す手はない」

 

 雑賀少女―――蛍と名乗った―――は「助けたわけじゃない」と言いつつセールスを始めたが、つまり先ほどの助太刀はサービスということか。戦国時代的には「陣借り」そのものだから恩賞を請求してもいいのだけれど。

 光己が「蔵」からお値段張りそうな武具を出すのを見て、ただの可哀そうな人ではなく雑賀の売り込み先として不足のない実力と財力を持っていると判断したのだろう。

 用語がいちいち現代風なのが少し気になるが、刑部姫と同じパターンと思われる。さっき使った武器も火縄銃じゃなくてマシンガンだったし。

 

「ほえ? 具体的にはおいくらなんでしょ」

「普段は1枚1貫文のところ、半額の500文」

「じゃあください」

 

 戦国時代の1文はおおむね現代の120円くらいに当たる。6万円というのは武闘系サーヴァントのスポット参戦の料金としては妥当……なのかどうか光己には分からなかったが、元があぶく銭なので惜しむ必要はないのだった。

 

「お買い上げありがとう」

 

 光己がお金を渡すと蛍はチケット、現代のクーポン券のような紙切れをくれた。そして踵を返して歩き去っていく。

 

「え、同行してくれるんじゃないんです?」

 

 それを見て景虎は不可解そうに首を傾げたが、蛍は戻って来なかった。

 

 

 

「まあいいだろ。それより敵を逃がしちまったなら、ここに長居するのは危険だな。少なくとも、連れてこられた奴らにとっては。

 ここの従業員に今魔川兵どもの死体の後始末を任せることになるが、奴らの武具を売っ払えば手間賃にはなるだろ。この時代なら珍しくもないことだ」

 

 すると永倉がこんなことを言ってきたが、確かにもっともな話である。しかしどこにどうやって移動するのか?

 

「大人の中には運転免許持ってる奴がいるだろうから、そいつらにトラックの運転を頼めばいい。ちと遠いがな。

 おまえさんたちはどうする?」

「私たちも追われる身になりましたし、他に当てもありません。ご一緒しますか、マスター?

 2人きりじゃなくなるのは少し、いえとても残念ですが」

「ほむ、じゃあそうするか……刑部姫さんはどうする?」

「どうするって、私も同じ立場なんだからついて行くしかないじゃない!

 むっきー。私を殺し……じゃなかった、追われる身にした責任取ってもらうんだから」

「それはもちろん。何なら傭兵代払ってもいいけど、何故か今の台詞をブリュンスタッドさんに聞かれたら18分割くらいされそうな気がする」

「何それコワイ!?」

 

 こうして刑部姫も同行することになったが、景虎の馬には3人は乗れない。トラックの荷台に同乗させてもらえばいいか?

 

「あー、いや。悪いが坊主は避けてくれ。荷台の奴らかなり怖がってたから、一緒に乗ったりしたらトラウマになっちまう。

 いや儂は怖くなどなかったがな」

「がーん、何てこと」

 

 永倉が新選組二番隊隊長としてのメンツがあるのか強がりを言ったが、それよりインガオホーとはいえハブられるのはつらい。いや刑部姫は問題ないから、光己と景虎だけ景虎の馬に乗っていけば大丈夫だろうか。ちょっと目立ちそうだが、走っていくよりはマシだ。

 ところがそこに、蛍のキッチンカーがすーっと現れる。

 

「タクシーの仕事もやってる。今なら貸し切りで格安にしておくけど?」

「しっかりしてるなあ、じゃあよろしく。

 いやその前に、もう1度両替屋行ってお金補充しといた方がいいかな? この先他にも要るかも知れないし」

「そうですね。では皆さん、しばらくお待ち下さい」

 

 そんなわけで光己と景虎は再度軍資金を調達すると、出発前に行き先を確認しておくことにした。

 

「それで永倉殿、当てというのはどちらになりますか?」

「おう、信濃はほとんど今川の勢力だが、ここから東へ行った地にはあいつがいる」

「あいつ?」

「ああ……、甲斐の武田がな」

「……なんと。いえ、順当といえば順当なのですが」

 

 長尾景虎が武田の本拠地に行って大丈夫だろうか。2人は思わず顔を見合わせてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 光己と景虎はいろいろ悩んだが、今川が信濃を奪ったのなら武田とは敵対しているはずだし、呉越同舟という言葉もあることだから、武田信玄ほどの者なら今は景虎と争うより組んだ方が得だと考えるはずだ。2人は交渉が決裂した時にどうするかの想定はしつつも、永倉と一緒に甲斐に向かうことにした。

 SA(サービスエリア)を出た先の道路は現代風の普通の2車線の高速道路だった。先頭のトラックに道案内役として永倉が乗り、最後尾のトラックの後ろに蛍のキッチンカーがついて行っている。

 しばらくは何事もない平穏なドライブが続いたが、不意に後ろからおかしな集団が現れた。

 小型の赤い1人乗りのオープンカーに赤い帽子をかぶった女の子が乗っており、それが10台以上も猛スピードで追いかけて来るのだ。

 女の子はみんな同じ姿をしており、しかもレムレム戦国特異点にいたちびノブにそっくりである。

 

「アクセル全開ッブ! ハンドルを左から右ノッブ!」

「峠最速は譲れないノブ! アクセル全開、フルドライノーッブ!」

 

 台詞を聞く限り、今回は兵士ではなく峠の走り屋をしているようだ。

 永倉が驚いたり蛍が呆れたりしているが、もしかして信長は今回も現界しているのだろうか?

 

「そうでしょうね。あの時とは感じがだいぶ違いますが、あれは彼女の魔力だと思います」

「うーん、だとすると一体どういうことなんだろ。いくら信長公が日本で知名度激高の強い英霊でも、聖杯なしでちびノブ出すことはないよなあ」

「あの時みたいに、1度は聖杯を手に入れたけど何かの拍子に他の人に奪われたとかじゃないですか?」

「んー、そんなところか」

 

 問題はここでちびノブ軍団と遭遇したのが偶然か、それとも誰かの意図によるものかだが……。

 

「尾張ノッブスターの意地にかけて捕まえるノブ!」

「ドライノーッブ!」

 

 どうやら後者だったようだ。

 しかし自分たちのことを知っているのは先ほど逃げたサーヴァント2人だけのはずである。何とも手回しの早いことだった。

 

「まずい、もう追いつかれる。

 でもあの子たちどう見ても人間じゃなくて使い魔の類だし、捕まえるって言ったから退治するしかなさそう。

 あなたたち、運転頼める?」

「いや、悪いけど無理」

「私も無理ですねえ」

「右に同じー」

 

 蛍の車はバンのキッチンカーで、まして荷台に子供を大勢乗せたトラックが前方にいるのではそんなに速くは走れない。追いつかれるのは必然だったが、光己も景虎も刑部姫も車の運転はできなかった。

 しかしこのまま追いつかれて、たとえば車に体当たりでもされたら大変だ。何とかして連中を撃退、せめて足止めをしなければ。

 

「うーん、前の車の人たちがこっち見てなければ何とかなるんだけどな」

 

 獣モードを使っていいのなら空を飛びながら飛び道具を撃てるから悩むことはないのだが、年端もいかない子供を恐怖の兜で怖がらせたすぐ後で魔物そのものの姿を見せるのはさすがにまずい。光己はちょっと後悔したが、先にたたないことはすぐやめにして仲間に打開策を訊ねた。

 

「景虎、何かいいアイデアない?」

「そうですね、足止めなら刑部姫殿が先ほどの壁を出せば済むのでは?」

「なるほど、そんな単純な手でいいのか。そーれっ、ここは通行止めだー!」

 

 刑部姫が投げた折り紙の束がコンクリートめいた分厚い要塞壁(カーテンウォール)になって、2車線を完全に封鎖する。車は急に止まれないの標語通りに何台かのノブカーが壁に衝突、その後ろにさらに追突という大惨事が発生した。

 しかし刑部姫の要塞は爆撃にも耐え得る頑強なものなのでその程度の衝撃で崩れることはなく、しかも高さが2メートルあったので子供たちに事故現場を見せずに済んだのもグッドだった。

 

「いやまあ、さっきも今魔川兵との戦い見てたはずだし、そもそもこの時代だから今更なんだけどさ」

「人間って大変ね。みんなが私みたいに引きこもってれば平和なのに」

「いえその、人間はそれだと食べていけなくてですね」

 

 光己のぼやきに刑部姫がいたって暢気な感想を返すと、次は景虎がちょっと困った顔でツッコミを入れたが、それよりここからどうするかを早く決めねばならない。

 最初に提言したのは蛍だった。

 

「……逃がしたら私たちの居場所や今やったことを報告されて次の追っ手が来る。見た目が変に愛嬌があるからちょっと気が引けるけど口封じするしかない」

「当然ですね。では私が行ってきますので、皆さんはここで待っていて下さい。

 殺せー! にゃー!」

「……う、うん」

 

 蛍が車を停めると景虎は喜び勇んで出撃していったが、ここで蛍と刑部姫は光己に聞きたいことがあった。

 

「……貴方、あの人と付き合ってて怖くない?」

「いやいや、(いくさ)絡みだと発言が物騒になるだけで、むしろ安全な方だよ。

 そゆわけで、マスターとして援護に行ってくる」

「あー、うん。お気をつけて……」

 

 このマスターは器が大きいのか、それとも交友関係がヤバいのか。2人はわりと真剣に考え込んでしまったのだった。

 

 

 




 ファヴニールのお宝をこれで全部出せましたが、次の機会はなかなか遠そうです(^^;
 あと原作の立香はこのイベントで車の運転ができましたが、ここの主人公は高校2年生の時にカルデアに来て、その後運転の勉強をする機会はありませんでしたので、自動車免許は持っていないのです。


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