FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第269話 ナイス甲斐2

 今川側は「魔国強兵」を掲げているだけに光己のスキルや所持品には関心があり、できれば味方にしたいと思っていた。善住坊たちが「捕まえる」と何度も言っていたのはその表れである。

 一方光己たちも敵サーヴァントを捕えて情報を引き出したいという気持ちがあるにはあるが、優先度は低かった。少なくとも、蛍や刑部姫にそういうリスクが増すやり方を求めるつもりはない。

 

「それじゃ俺が連中を攪乱するから、景虎は前衛お願い。蛍さんと刑部姫さんは後衛で銃撃つなり何なりよろしく。無理しないで『いのちだいじに』でいいから」

「うーん、わりと大ざっぱな指示」

「……まあ、このくらいが順当だと思う」

 

 刑部姫は歴戦のマスターならもっと細かい作戦を立てるものだと思っていたのでちょっと拍子抜けしたが、蛍は傭兵なのでその辺の考察は深めだった。サーヴァント同士の高速戦闘に言葉で指示を飛ばしても間に合わないケースは多そうだし、まして武闘系サーヴァントならマスターより判断力があるだろうから、大方針だけ示して細部は任せる方がお互いやりやすいのではないかと考えたのだ。

 

「なるほどー」

 

 刑部姫が頷いて、ならまず彼が担当する「攪乱」とやらを拝見させてもらうことにすると、光己は両手に持った双槍を2本とも放り投げてしまった。それが高速で横回転しだしたかと思うと、ブーメランめいて今川側に襲いかかる。

 

「んん!?」

 

 ブーメランは地上80センチくらいの高さを水平に飛んでいる。これはちびノブの頭部に位置するので、ちびノブたちはもはや統率が取れた行動などできずクモの子を散らしたように逃げ回りながら個々に突撃するしかなくなった。善住坊も長さ2メートルの思念誘導式ブーメランに対抗する手段は持っていないので、同様に逃げながら火縄銃を撃つことになる。

 もう1人のサーヴァント、「果心居士」は刀を出せるので打ち払うことができるが、払っても終わりにならず戻ってきたり他の者を襲ったりするだけなのでキリがなかった。

 

「なるほど、これが攪乱……そして動きが乱れたところを銃で撃てと。えぐーい」

「でも敵の攻撃を完封できてるわけじゃない。油断は禁物」

「もっちろん。新生おっきーの一斉掃射をくらえー!」

 

 刑部姫が両手にマシンガンを構えて、言った通りに乱射し始める。サバゲー用の物とはいえ弾丸は魔力製なので、威力・連射性能とも下手な実物以上だ。

 それを見た蛍がさらに威力重視で徹甲榴弾(てっこうりゅうだん)を装填したライフルを取り出す。対人用ではなく、ノブカーをブチ抜くためであろう。

 善住坊とは同じ時代の出身なのに武器の技術格差がひどかったが、蛍は気にしなかった。

 

「M51徹甲榴弾、撃てぇーっ!」

 

 今ちょうどブーメランに煽られて動きが鈍った奴を狙って引き金を引くと、見事エンジンに命中して爆発炎上した。

 乗っていた者も当然同じ運命になる。

 

「……まず1台」

「ノブブー! 仇討ちノブー!」

 

 するとちびノブたちは仲間意識は強いようで、何台かが蛍を標的にして方向転換し始める。1度に全員で襲うのは戦場の広さ的に見て難しいので、ここは3台が組んでの連携攻撃、人呼んでジェットスト〇ームアタックで仕留めようというのだ。

 それを察した光己はブーメランを送って抑えようとしたが、その直前に蛍当人が腕を真横に挙げて不要の意を示す。

 そして自分から先頭のノブカーの前に赴いて軽く跳び、空中でくるっと前転した上でドライバーの脳天にかかと落としを喰らわせた。

 

「踏み台にしたノブぅ!?」

 

 なおサーヴァントの筋力で頭部を蹴られれば頭蓋か首の骨が折れるのは必至である。断末魔の声が言葉になっていただけ頑強な方といえよう……。

 蹴った反動で蛍の体が宙に浮き、そのおかげで1台目の後ろにいた2台目が射線に入った。すかさず狙い定めた一弾をボンネットに叩き込む。

 これなら的が大きい上に避けられることもない。またもちびノブが車ごと炎上した。

 最後の3台目はいったんやり過ごして着地、回れ右して後ろから撃とうとしたその時に殺気を感じた。

 

「!!」

 

 とっさに身をかがめて伏せると、何かが高速で頭上を通り過ぎていったのを感じた。おそらく善住坊が撃った銃弾だろう。

 そこに先ほどの3台目がUターンして轢きにくる。なかなかのコンビネーションだ。

 

「おっと、そうはさせませんよ!」

 

 しかしその横から、景虎がドアに槍を突き刺して無理やり止めた。

 

「カルデアのサーヴァントの強さはマスターの力量にはさほど影響を受けませんが、同調率の影響は結構大きいんですよ。

 ですからこんなことも可能なのです。限界突破した我が義を見よ、ふぬりゃーーーっ!!」

 

 景虎がそんなことを言いながら、四肢にぐっと力をこめて槍を刺したままのノブカーを持ち上げる。そのままオーバースローで善住坊めがけて放り投げた!

 

「何とぉ!?」

 

 しかもかなり速い。その豪腕ぶりに善住坊は肝を潰したが、必死で横に転がってどうにか死の投擲を回避した。

 ノブカー? もちろん路面に激突して乗員もろともぺしゃんこである。

 

「こんなのとまともにやり合ってたら命がいくつあっても足りないよ。何かいい策はないものかね?」

「……確かニ。でも私の宝具ダとあのマスターも巻き込ムから、貴女の宝具でサーヴァントを1人ずつ減らすのガ順当。

 とりあえず牽制してみル」

 

 果心居士もブーメランに付きまとわれて辟易(へきえき)していたが、この調子でちびノブを減らされていったらジリ貧だ。そうなる前に状況を変えるべく、果心居士はまず大きく跳んでブーメランから距離を取ってから、コマのように回転しながら無数の仕込み刀を投擲するという大技を繰り出した。

 もちろん標的はサーヴァント3人だけで、光己には当たらないよう配慮している。

 

「おお、敵ながらやりますね!」

 

 これは景虎と蛍は対処できるが、刑部姫は避け切れない。直感的にそう判断した景虎は、刑部姫に声をかけながら彼女の真ん前に移動した。

 これで景虎は自分を守るだけで2人守れるようになったわけだ。そして実際そうなった。

 蛍も景虎の予想通りしっかり躱し切っている。

 なお善住坊はここで宝具を使おうと思い立ったが、ブーメランが襲ってきたので諦めた。あのマスター、なかなか戦闘慣れしているようである。

 

「……でも槍のおまえ、今迷わず長髪女の援護に行ったよな。マスターより優先したってどういうことだ?」

 

 ただそれとは別に疑問がわいたので、果心居士の攻撃が終わったところで訊ねてみると、槍使いはごくあっさりと答えてくれた。

 

「貴女がたの今までの言動を見るに、マスターを殺す気はないようですからね。さっきのをマスターに飛ばしはしないでしょう?

 実際来なかったですし」

「ああ、そういえば(つか)まえるとか(とら)えるとか言ったなァ……。

 でも回転しながらだったし、手元が狂うかもとは思わなかったのか?」

「うちの大将はそんなものでやられたりしませんよ」

「そ、そうか」

 

 自信どころか当然、茶飲み話程度の軽さで断言されて善住坊はちょっと当惑した。彼は見た目に反してそれほど熟練の戦士なのか、はたまた着ている服が強い防具なのか……。

 どちらにせよ、真に受けて彼を撃つわけにはいかないのだが。

 そこにこのチェーン脱着場に面した道路の、甲斐側の方から車の音がした。

 

「ん、誰か来たのか?」

 

 一般人か、それとも武田関係者か? 光己たちは永倉が迎えに来たと思いたいところだが、実は武田は今川と同盟を結んでいるので武田関係者なら今川側にとって味方である。来訪者の正体を確かめるため、両者とも示し合わせたようにいったん攻撃を停止してそちらに顔を向けた。

 

「赤いスポーツカー……じゃあ武田かな?」

 

 戦国の甲斐で赤といえば赤備えが思い浮かぶから、武田関係者の可能性が高そうである。そして想像通り、車は当然のように脱着場に入って停まった。

 ドアが開き、ストライプ柄の黒いスーツの上に赤いコートを羽織った青年が下りてくる。服装も雰囲気も、戦国武将というより現代のヤクザのような感じだ。

 唯一、右手に持った黒い軍配だけが戦国風味である。

 光己には彼の正体は見当がつかなかったが、善住坊は顔見知りらしく気軽に話しかけた。

 

「おう、まさか武田の大将みずから来てくれるとは思わなかったよ。

 これで挟み撃ちだな。勝ったようなもんだ」

「ほえ? どういうこと?」

 

 これで青年の正体は判明したが、挟み撃ちとはどういうことであろうか。不思議に思った光己が素直に訊ねてみると、善住坊は先ほど景虎が自分の質問に答えたからか、隠し立てせず教えてくれた。

 

「知らなかったのか? 今川と武田は同盟を結んでるのさ。つまりおまえたちは俺たちに追い込まれたってことだな。

 こうしておまえたちを直接追うのとは別に、応援を求める使者を送ってたんだよ」

「何と!? さては晴信、かつての因縁をここで晴らそうというのですか?」

「だったらどうする?」

 

 すると景虎がさすがに表情を改めてスーツの男性に向き直り、当人も「喧嘩を売るなら買う」的な態度を見せたが、光己は違う見解を持っていた。

 

「いやその理屈はおかしい。

 今川と武田が同盟してるなら、永倉さんが今魔川兵を斬った上でさらわれた人たちを甲斐に連れ込むってのは変だからな」

 

 拉致被害者の移送先は今川と友好的ではない、できれば敵対的かつ強大な大名の領地を選ぶはずである。しかも永倉自身が明確に今川にケンカを売ったのだから、今川と同盟している大名の所に行くわけがない。

 今川武田同盟の存在を知らなかった? その程度の現地知識しかないなら、移送先の選定にもう少し悩むだろう。信濃の隣接地には越後の長尾とか美濃の斎藤とか、候補は他にもいるのだから。

 まして目の前にその長尾景虎がいるのに相談をもちかけもせず即決で武田を選んだ以上、そこが1番良いと思う根拠があったはずだ。たとえば永倉が晴信と組んでいて、同盟が偽りだと知っていたとか。

 実は今川・武田・永倉が全員グルで、あのSAでのいざこざ自体が反乱分子を釣り出すための芝居だった……というのはさすがに無理がある。反応する者がいなかったら今魔川兵たちは無駄死にになるのだから。いくら命が安い時代でも、せっかく手間をかけて改造した兵士をそこまで軽くは扱わないだろう。

 

「んん? 言われてみれば」

 

 すると景虎も善住坊たちも不審を抱いたらしく、一斉に晴信に疑念の目を向けた。

 一方晴信視点だと、光己の発言はもし善住坊たちが永倉の行為を知らなかったのなら間違いなく()()に報告されて同盟破棄どころか開戦になりかねない強烈な離間策である。しかしこのたびは順番が替わるだけのことだし、()()()()()()()()が賢いのは喜ばしいことなので、逆に気分を良くしてニヤリと人が悪そうな笑みを浮かべた。

 

「同盟か……ああ、それな。

 ―――今、破棄した」

「………………なぁぁっ!?」

 

 正史で何度も行われた晴信の約定破りをド直球でくらった善住坊は数秒ほど頭がフリーズして硬直してしまった。もし今光己側に害意があったならここで討たれていたことだろう……。

 いや破棄の理由は分かる。というのもこの同盟が結ばれたのは今川が信濃を武田から奪った後なので、いわば晴信にとって屈辱的な和議なのだ。

 ここで強いマスター1人とサーヴァント3人を味方に引き入れられるのであれば、屈辱的同盟を破棄する価値はあると踏んだのだろう。

 しかしそれにしても身勝手すぎる。善住坊は反射的に抗議していた。

 

「は、破棄!? そんな勝手が……」

「分かったらとっとと失せろ。目障りだ。

 それとも……、武田の相手がしたいのか?」

 

 ところが晴信はまったく聞く耳を持たず、高圧的という言葉の見本のような態度で追い出しをかけてきた。なんという性格の悪さ!

 晴信の生前の個人的戦闘力は知らないが、戦国時代の甲斐信濃では信仰補正や逸話補正で相当強力なサーヴァントになっているだろう。彼1人だけならともかく、光己たちと組んで来られては勝ち目はない。腹は立つが、ここはおとなしく退却して義元に報告するのが正解と思われる。

 彼の気が変わって、今の約定破りを報告されないよう口封じしに来る前に。

 

「……っく。仕方ない、ここは退こう……」

「…………分かっタ」

 

 同僚は何を考えているのか今いち分かりづらい人物(?)だが、それでもこの方針は理解したのか素直についてきた。しかしちびノブたちが来ないのはどうしたことか?

 

「……おまえたち、何してるんだ? 退却だと言ったろう」

 

 見ればいつの間にか生き残りのノブカーはみんな晴信の赤い車のそばに移動していた。何故ゆえに?

 

「いかした男ノッブ!」

「それにそのスタイリッシュな車……。いい車乗ってるノブね!」

 

 しかも晴信や彼の車を褒めている。何だというのか?

 

「……ほお、俺の車が分かるのか?」

「車を愛する全ての者は、ドライビング仲間ノブ! 週末は一緒に峠を攻めるノブ!」

「そう言うおまえらの車もなかなかのものだ。特に色がいい。そう、赤ってのがいい。

 赤は武田の赤だ、そいつは今川には勿体ない」

 

 すると晴信も機嫌よくそれに応えて、しばらく話をしている内に―――。

 

「今日から武田につくノブ! ハイオク、今いくらノブ?」

 

 なんとちびノブは全員武田に寝返ってしまった! なんて奴らだ!?

 善住坊は驚愕したが、事ここに至っては1秒でも早く逃げるしかない。

 

「果心、逃げるよ!」

「……承知」

 

 しかし2人は今なお冷静さを保っており、ここまで乗ってきた普通車には乗らずに徒歩で林の中に逃げ込むという意外かつ賢明な策を採っていた。これなら車では追えないし、2人は山林での行動には慣れているから逃げ切る自信もあるのだ。

 

「あ、しまった」

「逃げられましたねぇ……迂闊でした」

「こ、これは仕方ないんじゃないかなあ。意表突かれ過ぎな展開だったし」

 

 一方光己たちはそれを見てハッと我に返ったが、その時にはもう2人は林の中に入り込んでおり追いかけるのは難しかった。晴信が2人を逃がしたからといって光己たちがそれに従う義務はないのだが、今回は諦めた方が良さそうである。

 まあ2人が帰ったらこの件を今川当主に報告する、つまり晴信が知らん顔して同盟が続いているかのように振る舞うことはできなくなるというメリットはあるが。

 晴信の方は2人が逃げた方をしばらく注視して戻ってくる気配がないのを確かめると、改めて光己の方に向き直った。

 

「おい、そこのおまえ、カルデアのマスターだな?

 ついて来い、話がある」

「―――」

 

 晴信が初対面の者に対して実に横柄な態度なのは、武闘派の大大名だし清和源氏だしということで理解(納得ではない)するとして、永倉の前では言っていないはずの「カルデア」という単語を出したのを光己は聞き逃さなかったが、今は触れずにこの場でもう少し話してもらうことにした。

 

「えーと、つまりどういうことなんです?」

「よく聞け、俺とおまえ、武田とカルデアで同盟を結び……謙信を討つ」

 

 すると晴信は何やら、今度は理解もすぐにはしがたいことを(のたま)ってきたのだった。

 

 

 

 晴信がここにいる景虎を討つというのであれば、光己は大奥王として決断的かつジゴクめいたアンブッシュを喰らわせるところだが、手を組もうという相手に元々の仲間を殺せというのは横柄を通り越して狂気の沙汰だ。解釈違いか、でなければよほど深刻な理由があると思われる。

 まずはそれを確かめるべきだろう。

 

「……もう少し詳しく」

「ふん、どうやら何も知らないようだな。討つといってもそこの女じゃなくて、『北の軍神』……毘沙門天の化身の上杉謙信だ」

「毘沙門天の化身……」

 

 どうやら「解釈違い」の方だったようだ。

 晴信が「上杉謙信」を討ちたいというのは分かりやすく理解できる目的だが、しかし彼の先ほどの約定破りのえげつなさを見れば、軽々に手を組むのはためらわれる。考えなしに組んだらいいように使われたあげく、用が済んだら先ほどみたいに「同盟は破棄だ」とか言ってポイ捨てどころか後ろから刺されてもおかしくない。

 何なら晴信を討って「北の軍神」と組むという選択肢だってあるのだし、今少し詳しい事情を聞いた方が良さそうだ。

 

「……を、何ゆえに?」

「まあ、何も知らん上にそっちにそこの女がいるんじゃ慎重にもなるか。

 しかしそれを話す前に、俺としてはおまえたちカルデアが雑賀と組んでることの方が不審なんだがな」

「……蛍さんが何か?」

 

 光己と景虎がこの特異点に来る前に何があったのだろうか。蛍はちょっと気まずそうな顔をしているし、面倒なことになりそうな予感に2人とついでに刑部姫は緊張と警戒の度合いを高めるのだった。

 

 

 

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