FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第270話 北のグンシン1

 こうして光己たちは今後の方針を決めるため晴信の話を聞くことにしたわけだが。

 

「雑賀衆は聖杯の乱で、今川の傭兵として暴れ回った連中だ。

 一緒に居てそんなことも知らなかったのか?」

 

 すると晴信は初手でそんな爆弾発言をかましてきた。

 本当だろうか? いや当人を前にして無駄な嘘はつかないと思うが……。

 光己たちの視線を受けた蛍が、答えづらかったのか少し間を置いてから語り始める。

 

「……確かに、雑賀は先の聖杯の乱では今川のために戦っていた」

「そいつが何故、カルデアについてる?」

「雑賀は己の意思で誰かについたりはしない。ただ、契約者のためにその力を振るうだけ」

 

 その返事に対して、晴信は嘲るような笑みを浮かべた。

 

「なるほど、流石は音に聞こえた雑賀衆だ。金のためなら何でもするというわけか」

「でも、今は違う……」

「何が違うんだ? 金でカルデアに雇われているだけだろう」

「…………」

 

 蛍は晴信の追及を否定はしたが、それを具体的に説明できる語彙がないらしくまた口ごもる。

 するとどういう思惑か、景虎が笑いながら嘴を入れた。

 

「あはははははは! 約定破りの晴信には言われたくないと思いますけどね!」

「ふん……相変わらず癪に障る笑い声だ。

 別に責めてるわけじゃない。そこのカルデアのマスターとの契約はいつまでだ、雑賀」

「……契約はもう切れてる。ここまでついて来たのは、ただ行く方向が同じだったから」

 

「!?」

 

 蛍の言葉に今度は光己が一瞬ぴしっと固まり、ついで慌てて話に割って入る。

 

「ちょ、蛍さん契約もう切れてるってマジ!? それならそう言ってくれないと困るだろ。

 今約定破りをあげつらわれた晴信公でさえ、さっき同盟切る時はちゃんと通告してたし、その後口封じもしなかったろ。

 雑賀もせめてそのくらいのスジは通さないと名誉とか評判に関わると思うぞ」

「……!?」

 

 光己のクレームに蛍はなぜかかなり動揺したような顔を見せたが、やがて気を鎮めて謝罪の言葉を口にした。

 

「……それはそう。言い忘れてた、ごめんなさい」

「うん、今後は気をつけてね。

 それで蛍さんはこれからどうするの? 俺は契約更新したいと思ってるけど」

 

 光己は深く咎めるつもりはなかったのであっさり矛を収めて蛍の意向を訊ねると、雑賀の少女はまたなぜかものすごく悩んだ様子になった。

 光己との契約にではなく、他に何か重大な理由があるようだ。

 しばらくして覚悟を決めたらしく、いかにも思いつめた顔つきで言葉を紡ぐ。

 

「……契約更新ありがとう。でもその前にやることがある」

「やること?」

「……そう。武田晴信公、孫市……雑賀の先代頭領の仇である貴方に一騎打ちを申し込む」

 

 

 

「…………!?!?」

 

 今度は光己が衝撃を受けて息を飲む。まさかそんな因縁があったとは!

 なるほどそれで更新をためらったのか。これは止めるわけにはいかない。

 蛍は年若い少女とはいえ戦国時代の武士、まして傭兵集団の頭領なら先代(つまり元自分の頭領)の仇を討つのは人情を超えて義務に近いと思われるからだ。「雑賀の頭領は先代の仇を目の前にしながら何もしなかった腰抜けだ」なんて噂でも立った日には、それこそ傭兵集団としての名誉と評判は地の底まで落ちてしまうのだから。

 まあ地球と人理を守るためという最強の大義名分を持ち出せば対決をしばらく待ってもらうことはできるかも知れないが、蛍と晴信の2人が揃っていなければ特異点修正はできないというほど切羽詰まっているわけではないから説得力は弱い。聖杯の持ち主が今川義元であるなら拠点は恐らく駿府城だと想像がつくし、刑部姫にも言ったが周りの被害を考えなくていいならほぼ確実に勝てるので。

 ―――なお蛍としては甲斐国で武田晴信と正面からやり合うのは知名度補正や信仰補正の関係で勝ち目が薄く、かといって遠くからの狙撃は苦手なので、たとえば北の軍神との戦いで彼が隙を見せた時に後ろから撃つといった作戦を考えていたのだが、「雑賀の在り方を認めてくれた人」にそれは雑賀の名誉に関わると言われた(ようなものな)ので、こうして正々堂々誰からも後ろ指をさされることのない方式を選んだのだった。

 

「ほぉ!? カルデアに頼らず一騎打ちを挑んでくるとはいい度胸だ」

 

 挑まれた側の晴信も武闘派ぶりでは人後に落ちない男なので、嬉しげにすら見える獰猛な笑みを浮かべる。しかしすぐに受けはせず、「いいだろう、だがその前に渡す物がある」と言って車の方に歩いて行った。

 そして晴信が持ってきた銃を見て、蛍が驚きの声をあげる。

 

「そ、その銃は……まさか」

「孫市から預かったものだ。ほらよ」

「やっぱり孫市の……でも何故これを貴方が……!?」

「俺はもし雑賀を名乗る者が現れたら、そいつを渡してくれと頼まれただけだ。理由なんざ知ったことじゃない」

「……!? 孫市が……?」

 

 晴信の話が事実なら、経緯はどうあれ孫市は晴信を銃を託するに足る信頼できる人物だと見込んだということになる。単に戦場で戦った、あるいは何らかの理由で敵対したというだけの間柄ならそんな展開にはならないだろうし、2人の間に何があったのだろうか?

 

「あとは自分で考えな。その上で相手がしたいならしてやる」

「……」

 

 しかし晴信はそれを語ってくれなかったので、蛍の思考は宙ぶらりんになってしまった。

 ここで景虎も気になったのか、結局誰が孫市を殺したのか訊ねてくれたのだが、晴信はやっぱりはっきりしたことを言わなかったので結論を出しようがない。

 蛍に「孫市を殺したのは武田だ」と教えたのは今川なので、今一度そちらに確認するか、別方面からの情報を得るしかなさそうだ。

 

「……少し、考えさせて」

 

 なので蛍はとりあえず保留ということにして、孫市の銃だけはしっかり受け取ってこの話をいったんおしまいにした。

 

「ええと、つまり蛍さんは晴信公との一騎打ちは保留にした上でカルデアとの契約を更新してくれるってことでいいの?」

 

 するとカルデアのマスターが先ほどの話をまた持ち出してきたが、この流れならそうすることに支障はない。

 

「……うん。改めてよろしく」

「うん、こちらこそ。料金は砂金でよければ100回分くらい前払いできるけど、どうする?」

「砂金でもいいけど100回は多すぎ。とりあえず10回くらいで」

「じゃあそれで。あ、晴信公こういうことでいいですか?」

「ああ、それならそれでかまわん」

 

 こうして紆余曲折はあったが蛍と晴信の仇討ち問題は一時棚上げとなり、カルデアと蛍の契約も無事更新されたので、あとの詳しい話は落ち着ける場所でする方がいいだろうということになり一同は晴信の居館「躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)」に移動することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃とある街で、十代後半の少女と十代前半の少女が並んで歩いていた。

 2人ともこの地に見合った現代風の服を着ているが、顔立ちや髪の色は明らかに外国人である。

 年長の方は肌は褐色で髪は銀色、黒いフード付きのジャケットを着ているが、ボトムスを穿いておらず脚はかなり露出していた。雰囲気的にはどこかスレた印象を受ける。

 年少の方は金髪の白人で、白いキャミソールワンピースの上にストライプ柄のガウンを着ている。見るからに物ぐさそうな表情と雰囲気をしていた。

 

「だるーい……歩くの飽きた……今日はもうお開きにしない? そして1ヶ月くらい宿屋で麻雀でもしてよう」

「まだ昼過ぎなんだけど……でもここは武田の本拠地らしいからあのウザい人狩りどもも来ないだろうし、しばらく腰落ち着けるのもいいかもね」

「やったー……でもあの人たちが来ないってことは収入もないってことだよね。宿代足りる?」

 

 どうやらこの2人、襲ってきた今魔川兵を返り討ちにして財布などを奪っているようだ。見た目はただの女の子だが、相当な強者らしい。

 それならサーヴァントだと思われるが、おそらくこの特異点の性質の1つ「現代」属性を持っていることで現界できたのだろう。

 

「んー、あまり高いとこでなきゃ1ヶ月くらいはもつんじゃない?

 てかそろそろカルデアのマスター来てくんないかな。この特異点(ここ)に現界してから()()()()()()んだけど」

「カルデアのマスターが来たらお金や生活の面倒見てくれるんだっけ?」

「そだねー、1度ちゃんと仕事したら後はずっと部屋でサボりっ放しでも許してもらえるんじゃない? 襲撃受けたりしたら別だろうけど」

「もちろん三食おやつ昼寝付きだよね? 何という理想的怠惰生活……」

「んー、少なくともマスターと一緒の時はお金と食べ物に不自由はしないはずだよ。

 てかそういうこと抜きにしても、アテシはマスターと会うの楽しみだけどね!」

 

 年長少女はなぜかカルデアやそこのマスターについて多少の知識がある様子だ。

 そして差し当たっての用事として、昼食を摂るために年少少女の前に立って飯屋を探し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 躑躅ヶ崎館は現在の甲府市にあるのだが、そこの近辺は民家などは戦国時代風なのに、周りには現代的な高架道路が通っているという、やはり時代が混じった場所になっていた。

 道行く人々が大名である晴信に対して自分から、しかもとても好意的に話しかけているのを見るに、晴信は統治者として相当慕われているようだ。

 それはいいのだが、晴信が案内した場所はただの野原で、建物らしきものは何も見当たらなかった。

 

「……? 何もないけど……」

「まあ見ていろ。

 …………人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり!」

 

 不思議そうに周りを見回す蛍に、晴信がそう言いながら魔力を高める。すると地面から光が立ち昇り、最後には赤を基調とした立派な御殿が現れた!

 車も赤だし、晴信はとことん赤が好きらしい。

 

「おお、建物を出すタイプの宝具か。しかもかなり長時間保ちそうに見えるのは、ご当地サーヴァントだからかな?」

「うん、私もアサシンの霊基だとこんな感じのお城出せるんだけどね」

 

 光己がこんな感想を述べたあたり、武力や魔力だけでなく観察眼や判断力もだいぶ成長しているようだ。一方刑部姫も似た宝具を持っているらしい。

 晴信はそれを聞いてちょっと気になったような顔をしたが、口には出さず一同に館内に入るように促す。

 

「……入れ、続きは中で話す」

「お邪魔します」

 

 そして案内された部屋は、これまた赤い畳が敷かれた大部屋だった。

 調度品はあまりないが、大名の居室あるいは謁見の場所らしく高級そうな雰囲気がある。

 

「さて、話を続けるとするか」

「城を現界させるとは、甲斐のライダーは伊達ではありませんね。さすがの景虎ちゃんもやや驚きましたよ」

「先の今川との戦でも妙に都合のいい場所に城を構えていると思ったら、こういう事だったのね……。

 今川の諜報がぬるかったからと思ってたけど、これなら納得」

「ふ、まあそういうことだな。この甲斐の地において、俺に出来ないことはない」

「なるほど、甲斐の地の後押しを受けたサーヴァント、晴信ならではの宝具というわけですか。

 まあ、確かにこと甲斐においては、地の利は晴信ですかね。甲斐じゃない信濃は取られてますけど」

「いちいち話の腰を折るな、続け……」

 

 やはり景虎と晴信はあまり仲良くできないようだ……。

 それでもとにかく晴信が本題に入ろうとしたところで今度は急に外が騒がしくなり、ついで高速道路で1度別れた永倉新八が部屋に入って来る。

 どうやら光己たちの件ではなくちびノブたちがここにいることについて聞きにきたようだが、晴信の説明と仲裁で解決すると腰を下ろして話に加わった。

 

「貴方、()()()武田に合力していたんですね」

「ああ、連中に(さら)われた領民の行き先を調べて助けようって話だったんだが、儂の気が短いせいで台無しになっちまった。おまえさんたちのおかげで助かったぜ」

 

 永倉のこの台詞からすると、彼も最初は光己たちと同様今川の「工場」を探すつもりだったようだ。

 彼が今言ったようにその計画は(今回は)失敗に終わったが、まあ済んでしまったことは致し方あるまい。

 

「そういう事だったの……子供たちは無事?」

「おかげさんでな。殿(しんがり)を引き受けてくれたおかげで、みんな無事に村に戻れた。ありがとうよ」

「それについては俺からも礼を言おう、カルデアのマスター。

 よくぞ領民を助けてくれた。武田晴信、この恩は忘れん」

 

 永倉に続いて、晴信も光己たちに礼を述べる。光己はそれに「どう致しまして」と普通に答えたが、ここで引っかかるものを感じた。

 

「……って、ちょっと待って下さい。

 俺たちがここに来るまでの短時間で領民が村に戻れたってことは、その領民ってもしかして甲斐国の住民なんですか!?」

 

 さっきの今魔川兵が人狩りをしていたのは晴信が今川との同盟を破棄するより前だから、もし狩られた人たちが甲斐国の住民だったなら今川は同盟国の中で人狩りをしていたことになるのだが……!?

 そしてその推測は正解だったらしく、晴信は苦虫を100匹くらい噛み潰したかのように不愉快きわまった顔つきをした。

 

「……そうだ。同盟したんだから当然甲斐国は奴らの人狩りの対象外になった。しかし今魔川兵どもはまともな判断力が残ってないから、甲斐国の中央部までは入って来ないが国境近辺の村は時々襲う。

 無論その場合はこちらで退治していいことになってはいるがな」

「マジですか……それは機会さえあれば同盟破棄したくなるのも当然」

 

 光己が驚愕とともに晴信に同情の意を示すと、晴信は多少溜飲が下がった感じで「ああ」と軽く頷いた

 ついで話を戻す。

 

「で、話の続きだが。武田との同盟、決まりで構わんな?」

 

 それでも強引さは変わらなかったが、カルデア現地班リーダーとしては安易に乗るわけにはいかない。

 

「いや、まだ事情を全然聞いてないじゃないですか。

 先にぶっちゃけて言いますと、俺、というかカルデアは聖杯を奪うか壊すかさえすればいいんで、武田と上杉の戦いに介入する必要はないんですよね」

「…………!?!?」

 

 光己の返事がよほど予想外だったらしく、晴信は数秒ほども目をぱちくりさせて絶句した。

 景虎がクスッと小さく笑ったのに気づく余裕すらない。

 

「お、おう……そ、それは確かにそうかも知れんが。

 しかしおまえらも知っての通り義元は聖杯を持っているし、手下のサーヴァントも複数いる。改造兵どももすでに万単位になってるんだが、おまえらだけで勝てるのか?」

 

 この疑問は刑部姫も抱いたようにいたって常識的なものだったが、カルデアのマスターは普通の魔術師とはちょっとばかりスペックが違っている。

 

「そうですね、巻き添えを気にしないならほぼ確実に。義元が城の中に居座っててくれるならそれもほぼゼロにできるかな?

 ……いや待った。もし義元の宝具が晴信公と同じタイプのものだったら、聖杯パワーが乗る分さらに堅固になるから……うーん、下手したら駿河国全部吹っ飛ばすくらいの破壊力が要るんかな? それだと最後の最後の手段とかそういう感じになっちゃうな……」

 

 仮定の話ではあるが、もしそうなら駿河国の中ではなく外におびき出して退治したい。光己がそんなことを考えて内心で小さく唸るのを、晴信は不可解そうに眉根をしかめながら凝視していた。

 

(こいつ、何を言ってるんだ……!?)

 

 いや言っている言葉の意味は分かるが、その内容があまりに常軌を逸している。

 光己が異国風の怪しい兜で今魔川兵を恐慌させた件は聞いているが、もしかして本当に国ひとつ丸ごと吹っ飛ばせるような道具でも持っているのか、それとも何らかの交渉技術でハッタリをかましているのか? だとしたら何が狙いだ?

 ―――実際は道具ではなく100%本人の能力なのだが、それを見抜ける眼力の持ち主は大変希少であり晴信の反応の方が普通なのだった。

 

「しかし奴が俺と同じように土地の後押しを受けてるというのはあり得るな。その辺を確認するまでは、駿河や遠江で大きな戦をするのは避けた方がいいか。

 ……まあそれはそれとして、今は軍神だ。希望通り、奴について説明してやる」

 

 晴信は結局光己の狙いは看破できなかったが(もともとそんなものはないが)、それを素直に白状して訊ねるのも負けたみたいで業腹なのでスルーしつつ、彼の最初の話に戻って「北の軍神」について語り出す。

 

「―――奴はある日突然現れた。武田と今川が争う戦場にな」

 

 さて、晴信が語る「北の軍神」とはどのような存在なのであろうか……?

 

 

 




 どうもお久しぶりであります。
 エタってる間に原作はかなり進みましたねぇ。筆者はとりあえず、所長とテュフォンとメタトロンはお迎えできました。リリスもまたPUがあれば欲しいですね。
 ではまた次回に。


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