FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第274話 塩と刀とビシャモンテン1

 木々の間から現れた北の軍神は、晴信が言った通り顔形や体格は景虎とほぼ同じだが、雰囲気や得物は確かに別物だった。

 服装は黒い袖なしワンピースぽい服と、それとは別に白い袖をつけているが、肩がむき出しなのはともかく胸の谷間に菱形のくり抜きがあって素肌を出しているのはどういう意図によるものか不明である。

 得物の方はずいぶんゴツく、背中に大きな赤い輪のようなもの(おそらく「光背(こうはい)」と呼ばれるものであろう)を背負い、左右にはもっと大きな金色の槍らしきものが浮かんでいた。そして右手には、彼女の背よりも長い炎を(まと)った刀を携えている。

 軍神の名に恥じない神霊そのものの強大な存在感は、今まで武田と今川が倒せずにいたのも納得の武力を否が応にも感じさせた。しかしそれとはやや異質な、どこか無機質な雰囲気も漂わせている。

 光己はここで目潰しブレスで不意打ちする手もあったが、軍神が意味不明の殺戮をしているというのは今のところ晴信と(彼の知人である)SAの店員の2人がそう言っているだけで他の情報はないので、まずは彼女の出方を窺うことにする。

 すると軍神は光己たちの少し手前で足を止め、抑揚のない口調で声をかけてきた。

 

「ふむ、()()()()()()()まで連れて来たとはそちらも本気のようですね。

 いいでしょう、皆で力を合わせて来てください。

 ―――では、毘沙門天(びしゃもんてん)が殺しましょう」

「……ほえ!?」

 

 どうやら会話はしてくれそうだと思った直後に殺害宣告をされて、光己は思わずしゃっくりめいた驚声を上げてしまった。

 景虎たちも同様に驚きで反応が遅れたため、軍神に先手を取られてしまう。

 

「ひとつ」

 

 そして軍神が刀を一閃する。最初の標的になった永倉は先ほどの注進のおかげで戦闘態勢には入れていたから刀で受けるのは間に合ったが、軍神の膂力(りょりょく)はすさまじく軽々と吹き飛ばされて木の幹に背中をぶつけてしまった。

 

「ぐふっ!?」

「ふたつ」

 

 続けて晴信に襲いかかる。その炎を纏った刺突を晴信は受けようとせずとっさに背後に跳んで避けたが、避け切れず右胸に刺し傷と火傷を負って地面に転がった。

 

「うぐぅっ……!」

「みっ……んん!?」

 

 軍神は止まらず、続けてカルデア・武田連合の急所と思われるマスター、すなわち光己に刃を向ける。しかしそれを阻むべく、景虎が横合いから突きかかった。

 

「それはさせません! ―――『毘天八相車懸の陣(びてんはっそうくるまがかりのじん)』!!」

 

 それも初手宝具開帳という本気ぶりである。その8連撃を、軍神はなんと片手で防ぎ切った。

 

「無駄です」

「なっ、我が必殺の戦陣を全て(しの)いだと!?」

「何かと思えば私の歪みでしたか」

 

 驚く景虎に、軍神はやはり無表情のまま淡々と彼女を否定するようなことを言い出した。

 

「歪み? 何のことですか」

「貴女は私の歪み。言葉通りですが、何か?」

「訳の分からぬことを……。

 だいたい何ですかその背中の大筒は!」

 

 そのまま問答に移ったが、こういう隙を見逃す光己ではない。

 

「うーん、どうやらあの軍神は本当に晴信公が言ってた通りの存在みたいだな……。

 あ、そうだ。メタトロン、今の内に真名看破頼む」

「え!? あー、そうだね、めんどいけど仕方ないかぁ。

 真名、青岩院(せいがんいん)……クラスはルーラーだね。あ、それで私たちの居場所が分かったんだ。

 宝具は……名前はまだついてないけど眷族の夜叉(やしゃ)羅刹(らせつ)を召喚するものみたいだよ」

「ほえー……ほえ!?」

 

 毘沙門天が夜叉と羅刹を配下にしているのは事実なので、宝具として召喚できるのはおかしくない。

 しかし青岩院とは何者……いや所属サーヴァントのことをちゃんと勉強している光己は知っている。景虎の母親だ。

 え、何、どういうことなの……!?

 

「ええ~~~と。本来はあの軍神は長尾景虎の別側面なんだけど、青岩院という人は彼女とすごく縁がある人で、その辺をなんやかんやして精神は抜きで身体だけ召喚して使ってるって感じなのかな。かなりレアなケース」

「ほむ……つまりNTR? もしそうなら悪い文明だから断固として粉砕するけど」

「んー、当人が分捕るとか乗っ取るというのも可能だと思うよ」

「なるほど、それなら景虎のパワーアップにもなるな。難易度高そうだけど」

 

 ただ現持ち主(?)が実の母親となると、景虎も思うところはあるだろうから彼女の意見を先に聞かねばならないか。

 

「いやあの、NTRがどうとか以前に勝てるかどうかも怪しいんだけどー!」

 

 そこに半ば泣きが入った声でツッコミが入ってきた。

 要塞壁の後ろで蛍と一緒に援護射撃をしていた刑部姫だ。今まさに、軍神の刀から飛んできた炎で要塞壁を溶かされたところである。

 なお2人の銃撃はかなりの数が命中していたが、まるで効いていなかった。軍神は防御力も相当なもののようだ。

 そこにリリスが自信ありげに前に出る。

 

「大丈夫、アテシに任せて! ()()マスターは違法スキルでも解除なんかしないと思うし!」

 

 違法スキルとは何ぞやと刑部姫は思ったが、どうやらリリスはリソースさえあればチートを使い放題らしい。

 まあ彼女に限らず、術者タイプのサーヴァントにはリソース次第で派手なことができる者はそこそこいるが。

 

「というわけでマスター、支援よろしく!」

「おおー、よく分からんが頼む」

 

 実際光己は違法スキルと合法スキルの区別なんてつかないので、特に考えもせず魔力を送った。

 それを受け取ったリリスがさらに出力向上して、軍神が永倉の攻撃を打ち払った直後の隙を狙って襲いかかる。

 

「リクノハラーハ!」

 

 彼女の背丈よりも大きな黒いハサミを2つに分けて両手に持った、二刀流の斬撃だ。違法と自称しただけのことはあるスピードとパワーを備えたそれを、しかし軍神は片手でいなした。

 

「おおっと、でもこれは想定の範囲内だよ!」

 

 ハサミを払われた勢いでよろめいたリリスがその勢いを利用してまた距離を取り、それとひとつの動作でハサミを真上に放り投げる。するとハサミは10個ほどの小さな刃に分裂し、蜂の群れのような勢いで上から軍神に殺到した。

 

「なんと!」

 

 これは(かわ)せまい。リリスも光己たちもそう思ったが、軍神は大筒の真ん中の宝珠からビームを乱射してハサミをすべてはじき飛ばした。

 

「ええっ!? こんな無法スキルどこから調達したの」

「これが毘沙門天の力というものです。異国の化生風情に届くものではありません」

「むっかー! じゃあ宝具……はダメかあ」

 

 リリスの宝具は対単体用だが、それでも敵を囲んでいる時に使ったら味方を巻き込む恐れが大きい。通常技でやり合うしかなさそうだ。

 

「―――リリス殿、私に合わせて!

 刀八毘沙門天よ、我が意に応え神威を振るえ! 八華繚乱(はっかりょうらん)!!」

「了解! 拒絶、朽ちて死ね!」

「しょうがない、私も少し働きますか。炎の柱、焼き立てだよ~」

 

 その辺を察した景虎が連携攻撃を提案してきたので、ハサミ二刀をぶん投げて彼女を支援する。しかもその直前、メタトロンが放ったビームが軍神の足元に円を描いたと思ったら、盛大な火柱が立ち昇って彼女の全身を包み込む。

 

「くっ、これは……!」

「よし、今です!」

 

 火柱に包まれれば視界も閉ざされるから絶好のチャンスだ。景虎とリリスの攻撃はすべて命中し、軍神は衝撃で後ろに跳ね飛ばされた。

 これはかなりのダメージを受けたものと思われたが、よく見るとさほどの重傷ではないようだ。

 攻撃を受ける時に反撃もしており、景虎とリリスの方も火傷と裂傷を負っていた。

 

「……なるほど、異国の神の使徒ですか。これはただの人や化生とは違うようですね」

 

 そして地面に倒れることなく両の足でしっかり着地し、ダメージからか出自からかメタトロンを最大の敵と見定めて大筒の照準を合わせる。

 

「毘天の双塔の神火にて、まずは貴女から灰燼(かいじん)と帰さしめます」

 

 ただ最大出力にするのは時間がかかるのでこのたびは半分以下にせざるを得ないが、彼女はとてもだらけた感じで全力防御とかはできなさそうだからこれで十分だろう。

 

「終わりです!」

 

 青白い神火が2条、メタトロンめがけて宙を(はし)る。

 

「え……!?」

 

 軍神の見立て通りメタトロンは防御も回避もできず棒立ちのまま、神火が炸裂して金色の爆炎を噴き上げた。

 

 

 

 しかし爆炎が収まった時、メタトロンの前には1人の少年が盾になって立ちはだかっており少女は無事だった。

 しかも―――少年も無傷!?

 

「ああ、一張羅の礼装がボロボロに……いやレムレムだからいいんだけどさあ」

 

 その上呑気な口調で服の心配なんかしている……確かに上半身がほぼ裸になっているから気にするのは分かるが。

 一方カルデア側では、マスターが敵、それも神霊級サーヴァントの攻撃からサーヴァントをかばうという非常識にもほどがある行為にさすがのメタトロンも真顔になって光己を心配していた。

 

「あの、マスター……大丈夫……!?」

「うん、平気平気。服以外は」

 

 そして言葉通り平然としている光己は、もちろん考えなしで敵の攻撃に身をさらしたのではない。無敵アーマーは神属性と火属性には完全な耐性を持っている、つまり軍神の「神火」は自分には効かないと知っていたからこその献身である。

 しかしそうのんびりとはしていられない。

 

「やっぱこの軍神マジで強いな。これはまた俺が出ないと危ないか……!?」

 

 マスターの身の安全という点で考えるなら相手が強い時ほど引っ込んでいるべきなのだが、そうするとこのたびは敗北はしないまでも犠牲者が複数出そうな気がする。さらに言うなら彼女ほどの強敵だと人間モードではいささか力不足だ。

 知り合って間もない人たちに獣モードを見せるのは気が進まないが、今ここで体長2キロの大怪獣になるのは論外だからやむを得ない。

 

「なんか最近強い敵多いよな……まあやるしかないか!」

 

 光己が軽くグチりつつ自分にそう活を入れると、腕と脚が竜のそれに変わり、角と翼と尾が生えてきた。胸板に「666」の数字(ナンバーオブザビースト)を含む怪しい紋様が浮かび上がる。

 

「なっ、貴方は……!?」

「カルデアのマスター……!?」

 

 その異様な姿に軍神と晴信たちが驚きの声を上げる。しかし光己はそれに構わず、得意の慣性制御突撃で軍神の懐まで飛び込んだ。

 

「イヤーッ!」

「ぐっ!?」

 

 いかに軍神でも、予備動作なしでいきなり亜音速に達する踏み込みを初見では回避できない。みぞおちに強烈な正拳突きを喰らって吹っ飛ぶ。

 進路上にあった細い立木をへし折り、次の木にぶつかってそのひび割れに埋まる形でようやく止まった。

 

「まだまだー!」

 

 もちろん光己はここで追撃を手控えるほど甘くない。迷わず追いかけると、また殴りかかると見せかけて目潰しブレスを吐き出した。

 しかし軍神もさる者、初見のそれを反射的に腕を上げてガードする。

 

「痛っ……!? 含み針の類ですか」

 

 これは一見、いや一聴は何の変哲もない言葉だが、実は重大な事実が発見できる。つまり蛍たちの攻撃はまったく効かなかったのに、目潰しブレスは腕に刺さったということだ。

 竜種の冠位と呼ばれるだけのことはある偉力といえよう。

 

「小細工を、しかしそうそう好き勝手はさせません」

 

 今は彼にあまり近づかれたくない。そう判断した軍神が宝塔の宝珠からビームを乱射する。躱せる速さではなく光己は大半を喰らってしまい、ケガはしなかったが足は止められてしまった。

 

「おおぅ、この状況で目潰しブレスを防いだ上に即反撃までするとは」

 

 その隙に軍神が木のひびから抜け出し、今度は自分から前に出ながら刀を振り上げる。

 

「速い!?」

 

 文字通り神速の唐竹割りが光己の頭上に迫る。光己はとっさに両腕をかざして受け止めた。

 刀による物理的斬撃は完全耐性の範囲外だからこれはさすがに痛い……が、斬られてはいないようだ。

 

「パワーもすごいな……でも足りてない。

 中身が偽者だから魂がこもってないってとこだな!」

「減らず口を!」

 

 軍神(の中の人の青岩院)は悪い文明であるNTRの罪を犯した者なので光己が軽くからかってやると、あっさり挑発に乗って刀をぶんぶん振り回してきた。

 青岩院は武人ではないので、毘沙門天の力と速さはあっても剣術の技はない。光己は危なげなく刀をブロックできていたが、素手の間合いに飛び込むチャンスまでは見出せなかった。

 目潰しブレスも目に当てることはできないだろうし、通常ブレスは避けられてこちらの隙になりそうだ。

 

「でも俺は引き出しの多さには自信がある!」

 

 光己は軍神の斜め下からの逆袈裟斬(さかけさぎ)りをガードすると、その勢いに逆らわず空中に舞い上がっていったん距離を取った。

 ついでその場で静止して傍らに「蔵」の波紋を出す。

 

「……今度は何を?」

 

 軍神は用心して両手で刀を持ったまま慎重に光己の出方を窺ったが、その静止状態こそがまさに彼の思うつぼであった。

 次の瞬間、宝塔と光背がふわっと宙に浮いたかと思ったら光己のすぐそばまで引っ張られるように飛んで行った!

 

「え!?」

「よっしゃ、お宝ゲットだぜ!」

 

 光己が手慣れた仕草でお宝3つの制御を奪い、波紋の中に放り込む。

 何が起こったのか軍神はすぐには理解できなかったが、やがて大事な神宝を奪われたのだと気づくと、今までの能面のような無表情ぶりをかなぐり捨てて烈火のように怒り出した。

 

「な、な、な、何ということを……。

 おのれ怪物! これまでは毘沙門天みずからの手で討つことがせめてもの情けと思っていましたが、もはや容赦はしません。我が眷族たちよ、この悪鬼とその手下どもを殺し尽くすのです!!」

 

 軍神が悲鳴のような声でそう叫ぶと辺りの空間から白い煙が噴き上がり、そこから何人、いや何十何百人もの夜叉や羅刹が現れる。

 こうして戦いは次のフェーズに入ったのだった。

 

 

 




 先に予告しておきますと、景虎は毘沙門天になっても眷族召喚のスキルは引き継ぎませんです。これは敵限定のテコ入れというか、景虎は今でさえ都牟刈村正持ってるのに、そんな芸当まで習得したらえこひいきが過ぎますから(^^;
 ではまた次回に。


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