FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第276話 塩と刀とビシャモンテン3

 時刻はすでに日暮れ頃なので、飯屋には何人かの客が入っていた。一行は目立たないよう隅の方の席につくと、注文を取りに来た店員に各自注文してから作戦会議に入った。

 なお晴信たちが軍神から受けた傷は普段なら光己が礼装の機能で治すところだが今は使えないので、時間経過による自然治癒に任せている。

 メタトロンの宝具には治癒の効果もあるのだが、そちらだけ抜き出して使うことはできないのだった。

 

「北の軍神があんな切り札を隠していたとは驚きだったが……とりあえず、なにか存念がある者はいるか?」

 

 基本強引かつ話の仕方が遠回りな晴信も、今回ばかりは1人では勝ち筋が思いつかないのか率直に皆に意見を求めていた。

 もちろん言うべきことがある者はいる。

 

「メタトロン、軍神の真名はもう皆に言った?」

「まだー。マスターお願い」

 

 メタトロンは相変わらず怠惰だったが、光己は怒ったりせず自分で語り始めた。

 

「じゃあ俺が。

 ……えーと。メタトロンの真名看破によると、軍神は景虎の別側面ではあるんですけど真名は青岩院さんという人で、つまり景虎の母君が中の人みたいな形で入ってるそうなんです。

 だからただ倒すこともできるけど、別側面である景虎なら霊基を分捕るとか乗っ取るとかそういうのもできるから景虎さえ良ければそちらルートもいいかなって」

「なんと、母上が」

 

 これには毘沙門天もびっくりである。

 霊基を乗っ取れば今の自分に軍神パワーが加わって超強化されるわけだから、光己が案として挙げたのは当然で、景虎としても特に異存はない。中の人が誰だろうと倒さなければならないのは同じ、いや母ならばなおのこと身内が責任を取って討ち取るべきという考え方もあるわけで、その後普通ならただ消えるだけの霊基を再利用できるならお得というだけのことである。

 しかしなぜ青岩院が、娘の神霊的側面を使ってまでしてあのような殺戮を……?

 

「そこは当人に聞くしかなさそうですが、私の顔を見た上で名乗るどころか歪み呼ばわりしてきたのでは難しそうですね……。

 それとも自分の行為の動機くらいは素直に語ってくれるでしょうか」

「うーん、それは何とも……」

 

 景虎の心事は察するにあまりあるが、だからこそあまり安易なことは言えない。光己も言葉を濁すしかなかったが、おねむな大天使はまったく頓着せずストレートに意見を述べてきた。

 

「じゃあ乗っ取る時に話をすればいいんじゃないかな? 乗っ取るのは先に気絶させた方がやりやすいけど、精神力バトルで勝てる自信があるなら青岩院が起きてても大丈夫だよ」

「なるほど。同じ身体の中にいるなら、物理的な戦闘にならないし逃げ場もないから話しやすいというわけですね」

 

 ただし精神力バトルで負けたら景虎の方が霊基を奪われてしまうが、青岩院は能力的には突出した所はない標準的武家女性である。身体や身分関係なしの精神力勝負なら圧勝だ。

 先ほどの戦いでも最後に感情丸出しで叫んでいたから、サーヴァントになってメンタルが強化されたということもなさそうだし。

 

「あ、でもそうなると軍神の言動は母上が毘沙門天をロールプレイしてたってことになりますね。ほんと何考えてるんでしょう」

「すると母君が言ってた『歪み』って、母君が考えてる毘沙門天に景虎がそぐわないっていう意味なのかな?」

「多分そうですね……いやお恥ずかしい限りです」

 

 しかも考えてみれば、自分と光己が青岩院に会ったということはTPOが普通なら娘が母に婚約者を紹介したという状況である。ならば母たる者は娘とその婚約者が地球と人理を守る義戦をしているなら全力で支援してしかるべきなのに、逆に邪魔をする無道の殺戮者であったとは。身内の恥程度ではすまされぬ不祥事ではないか。

 それ以前に、北の軍神が上杉謙信だということになっているなら、景虎はやってもいない辻斬りの罪を着せられている冤罪被害者である。

 

「何だか無性に腹が立ってきました。これはやはり私自身の手で始末をつけねばなりませんね。

 それでメタトロン殿、乗っ取るとは具体的にはどうすれば?」

「幽霊が人間に取り憑くみたいに、相手の隙をみつけて霊体化して入り込めばいいんだよ。

 だからある程度ダメージを与えて弱らせてからになるかな」

「ふむ、了解しました」

 

 こうして最終的に軍神をどう始末するかは結論が出たが、どうやってそこに持ち込むかについてはこれから議論せねばならない。

 

「めんどいけど私の宝具は数百人くらいなら同時に攻撃できるよ。ただしそばにいたら巻き込まれるから注意してねー」

「俺も神性持ちが軍隊連れて来るなら軍勢召喚できますけど、今回が初使用ですのでどの程度の存在が何人来るかは分かりませんので、あんまりアテにはしないで下さい」

 

 対軍攻撃ができる者が2人もいるのは心強いが、不確定要素がかなり大きいようである。

 まあ夜叉(やしゃ)羅刹(らせつ)は先ほど姿を見ただけで実際に戦ってはいないので、今見込みを立てるのは難しいのだが。

 

「ところで晴信公ご自身はどんな作戦を立ててたんですか?」

 

 聞く前に軍神が奇襲してきたので今まで聞きそびれていたが、叩き台としても聞いておくべきだろう。むろん晴信にも隠す理由はない。

 

「ああ、それは先に話しておくべきか。

 ……まず俺がおまえと契約して令呪も全部もらった上で、昨日見せた城を出す。甲斐の地でそうすれば俺は十全以上の力を出せる。

 これで軍神相手でもいくらかは戦えるはずだから、次はその間に挑発するなり何なりして奴の宝具の刀―――生前に俺が譲った『塩留めの太刀』を抜かせるんだ」

「ああ、それで私が太刀を持ってるかどうか気にしてたんですね」

「そうだ。で、それを俺があえて受けて取り返す。

 いや取り返すといっても奴自身の宝具()()()()のは変わらないから、それを奴の別側面であるおまえが振るえば、いかに軍神が(まと)う神性の護りが硬くても貫ける……というわけだな」

「うーん、何だか綱渡りな感じがしますねえ……」

 

 晴信が心魂を傾けて案出し体も張った渾身の作戦を、景虎は軽ーい口調で批評した。何という人の心が分からぬ外道の所業か!

 言われた当人は当然ビシリと顔面の筋肉を引きつらせた。

 

「やかましい。そのくらいしないと勝てない相手なのはおまえも分かっただろうが」

「それは確かに……で、その作戦を次回実行するんですか?」

「それを決めるために今こうして会議してるんだ。状況が俺の想定から大きく変わったからな」

「ふむ……」

 

 なるほどあんなに大勢の眷族が出て来たのでは、刀を奪う際に邪魔される可能性が高いからそのまま実行するのは難がある。光己が宝塔と光背(こうはい)を奪ったから、軍神は残った最後の武器である刀だけは必死で守ろうとするだろうから尚更だ。

 せめて眷族がいなければ、晴信が刀を押さえている間に皆でリンチするという手もあるのだが。先に光己とメタトロンが全滅させることができればいいが、そうしたらさすがの軍神も逃げるかも知れない。

 

「難しいところですね。

 ただその前にマスター。晴信と契約するのはともかく、令呪を全部渡すというのはどう思われます?」

「んー。契約するのはいいけど、令呪の方は賛成できないかな。

 さっきリリスに軍神を吹き飛ばしてもらうために1画使ったし、次の時にまた使いたくなるかも知れないから」

「なるほど、彼女ほどの強敵ならまた退くハメになる可能性はありますね」

 

 今回は追い払えたが、別の切り札をもう持っていないという保証はない。光己の意見は妥当であった。

 晴信も面白くなさそうな顔はしているが、反論はできないらしく沈黙している。

 

「まあ私の『都牟刈村正(つむかりむらまさ)』なら彼女を斬ること自体はできると思いますが、先ほどは『毘天八相車懸の陣(びてんはっそうくるまがかりのじん)』を片手で防がれましたからね。確実を期するなら、先に動きを止めておきたいところです」

 

 つまり晴信の策で軍神の刀、つまり彼女の腕の動きを止めた隙に、景虎が村正でその腕を斬る。これで彼女は腕と刀を失う上に斬られた痛みも味わって大ダメージだから、そこに憑依すれば精神力バトルでも有利になるというわけだ。

 しかもリンチより所要時間が短いので、晴信が耐える時間と眷族の攻撃を防ぐ時間も短くて済む。

 

「……え、ちょっと待って。腕を斬り落としたら乗っ取った後で困るんじゃない?」

「え? あ、そうですね。それはまずいですか。

 マスター、何とかなりません?」

 

 景虎は蛍の指摘で策の不備に気づいたが、そこですぐ光己に投げたあたり彼の能力に対する評価は相当高いようだ。

 実際光己はこの依頼にすぐ応えることができる。

 

「そだな、竜モードだったら命さえ無事ならどうにでもなるよ。

 ただし先に竜になってるといくら軍神でも逃げそうだから事後になるけど」

 

 何しろ如意宝珠(大)でテュフォンの腕をくっつけた実績があるので、この回答に法螺の要素はまったくない。

 台詞の後半もアルビオンの体長を考えれば常識的な判断といえよう。

 

「へえ、さすがはマスターですね! いつもながら頼りになります」

「軍神が逃げ出すだと……!? いやどちらにしてもここでは見られんか」

 

 あっさり信じ込んでぽんと手を打った景虎とは対照的に晴信は三信七疑くらいの表情をしていたが、光己の竜モードとやらがどんな姿だろうと飯屋の中で披露してもらうわけにはいかない。とりあえず後回しにした。

 

「…………ん? いや待って。昨日からそうだったけどこの感じは……?

 んー、立香と話せないからまだ断言できないけど、これはもしかするかな。

 リリスにメタトロン、ちょっと外までついて来てくれる?」

 

 するとカルデアのマスターは何かに気づいた様子でまた意味が分からないことを言いながら、検分でもしてほしいのか異国の人外2人を連れて飯屋の外に出て行ってしまった。

 数分後に何やら妙な()()()気配を感じたが、それはすぐに消えて3人もすぐ戻ってきた。

 

「カルデアのマスター、何かあったのか?」

「はい。どうやらリリスとメタトロンと契約したおかげで、使えなくなってたスキルがまた使えるようになったんです。

 晴信公、あと景虎もこれで竜モードにならなくてもケガは治せるから安心して下さい」

「……? 治療系の術なのか?」

「それもあるってとこですね。他にもいくつか」

 

 具体的には、今回の契約の効果で悪魔パワーと天使パワーが強まったのと、メタトロンは宝具を使うと翼が(背中から直接生えているものは)12枚になるのでその影響もあって、獣モードでも翼を6対全部出せるようになったということだ。

 また赤い竜の翼は熾天使の翼と対になっており、熾天使パワーを使えば赤い竜パワー使用時のメンタルへの影響を()()()()()抑えられることも発見した。晴信たちが感じた気配は、その実験の時の余波である。

 

「ふむ。ならあとは晴信が令呪なしでも軍神の刀に耐えられるかどうかという話ですね」

「……。それはさすがにつらいんだが……」

 

 令呪3画分の魔力というのは本当に膨大で、これなしでは晴信の生存可能性は大きく下がってしまうと思われた。

 というのも先ほど言った「宝具の刀」というのは通常の斬撃ではなく、真名開帳した全力の一撃のことなので。全力を出した直後の隙を突くからこそ掴んで奪うチャンスがあるわけで、その分こちらが受けるダメージも大きいのだ。

 といって景虎みたいに、「マスター何とかなりません?」と光己に丸投げな依頼をするわけにはいかない。カルデア所属である彼女と違って晴信には個人的なプライドだけでなく領主としての体面もあるので、誰かに頼るなら頼るで、最初の案のように「これこれこういう理由でこのような支援が欲しい」という具体的な要望でなければならないのだ。

 もちろん刀を奪う役自体を頼むなんてのは論外で、ならばどうしたものだろうか?

 いっそ軍神が特に執着するはずの最後の武器を奪おうとするのはやめて、普通に戦う方がいいか? いやそれでは彼女の護りを抜くのは無理か? カルデアのマスターと人外組も大した傷は与えられなかったみたいだし。

 

(……うーん、どうしたものかな)

 

 一方光己は晴信の心中はおおむね想像できたが、彼にも打てる手は少なかった。

 天使長の翼の光のバフ効果はこちらへの好感度に比例するものだから晴信にはあまり効かないだろうし、軍神へのデバフ効果は彼女ならレジストするかも知れない。

 別の案として、防御力が超アップするすごい防具一式を持ってはいる……晴信は「楯無(たてなし)」を着るだろうから兜だけになるが、霊基や神秘への強化効果だけでも十二分なもののはずだ。

 超貴重な一品物だから、危険な戦いに使うのはとても避けたいのだけれど……!!!

 

(しかし強い防具というのは危険な戦いだからこそ使うものだしなあ。

 ほんとに体張るみたいだし契約もするって言ってるし、仕方ないか)

 

 という経緯で光己は方針を固めると、その旨を晴信に提案した。

 

「それじゃ晴信公、令呪の代わりに俺が持ってる強い防具貸しましょうか。

 公は楯無着るでしょうから、頭用のものだけになりますが」

「なに……?

 いや気持ちはありがたいが、あの兜は味方も怖がるからまずいんじゃないのか?」

 

 晴信は今までの経緯から「恐怖の兜(エーギスヒャールム)」のことだと思ったが、それは光己も分かっている。

 

「いや、それじゃなくて『鳳翅紫金冠(ほうししきんかん)』という冠です。

 名前だけじゃピンとこないでしょうけど、孫悟空とかいうチンピラが不埒にも四海竜王から巻き上げた宝物の中の1つといえば分かるんじゃないかと」

「な、なに……!?」

 

 唐突に伝説級ビッグネームの名を聞かされた晴信、あと日本出身の景虎と蛍と刑部姫と永倉が思い切り目を剥く。

 

「そ、そう言われれば確かに分かるが……いやその、何だ、それは本物、なのか!?」

 

 それはもう、剛胆な晴信も確認の言葉がかすれるほどに。

 

「それはもう。何なら見てみます?」

「あ、ああ、そ、そうだな」

 

 見てみるかと言われれば是非はない。晴信が当然了承すると、光己は空中に怪しげな虹色の波紋を出してそれに腕を突っ込むという手品じみた芸の後、中国風のやや小振りだが大変見事な意匠の、名前の通り紫がかった黄金でつくられ左右に長い羽根飾りをつけた冠を取り出した。

 ついで文字通り宝物を扱うような鄭重な仕草で机の上に置く。

 

「お、おお……!?」

 

 見るだけで分かる、いや分からされる。何という存在感、何という神秘の濃さか。これは間違いなく本物、手を伸ばして触れてみることすら憚られた。

 

「どうです? これなら令呪の代わりになるでしょう」

「そ、そうだな。これなら文句はまったくない。

 しかし本当にいいのか?」

「本当はとても良くないのですが、状況に(かんが)みてやむを得ず。

 分かっておられるとは思いますが、これは貸すだけで譲るわけじゃありませんので」

「そりゃまあ、こんなモン譲られる方が逆に怖いが……というかどこで手に入れたんだ?」

「そのあたりはアルビオンが竜種の冠位だからとしか」

「…………??」

 

 晴信にはやっぱり光己が言うことはよく分からなかったが、お宝の入手先を明かしたくないというのは分かる。深く追及はしないことにした。

 そんなわけで、作戦としては晴信と景虎が軍神本人と対決し、他の者は眷族が2人の邪魔をしないよう退治なり牽制なりするという方針になったのだった。

 

 

 




 主人公は獣モードでは翼を2対しか出せない制約はもうしばらく続ける予定だったのですが、リリス&メタトロンとの相性が思いのほか良かったので前倒しで解禁になりました。まさに良妻&良姉!(違)
 ではまた次回に。


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