FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第277話 塩と刀とビシャモンテン4

 一同が作戦会議と食事を終えた頃にはもう暗くなっていたので、再出撃はせず近場の宿屋に泊まることになった。

 ただその前に、光己が先ほど自身で述べたように治癒スキルを習得した、経緯としては天使パワーが強まったおかげで天使長の翼の熟練度(スキルレベル)が上がって使える権能が増えたので、負傷者の治療を行って―――その後今思い出したような顔をして、恒例の写真&サインを現地組に依頼した。

 ケガを治した後という断りにくいタイミングなのは、意図的に選んだのか偶然なのかはさだかではない。

 現地組も断る理由は特になく、しかも晴信と永倉は再臨を変えれば衣装を生前風にできるので雰囲気もバッチリであった。

 なお晴信が景虎とのペア写真&サインを希望されて露骨にしかめっ面をする一幕もあったが、まあささいなことであろう……。

 

「くっくっくっ、我がお宝がまた1ページ……役得とはこのことよのう」

 

(……ハードな仕事の最中でも楽しみを見つけられるのって、すごくいいことなのかな)

 

 光己が悦に入っているのを見て、蛍はそんなことを思った。

 しかも彼は当人の話によれば元一般人だったのが仕事中に化生になってしまったというのに、境遇や他者を恨む様子がまったくなく、逆に力に溺れて増長・慢心しているところもない。

 悪人に対しては言葉が悪くなったり悪辣な手段を使ったりするが、基本的には善性で特に仲間内にはとても誠実なようだ。

 

(もしかして、実はすごく立派な人……には見えないけれど)

 

 要素を箇条書きにして挙げると本当に人格者なのだが、雰囲気とか物腰とかはやはり一般人。獣モードになった時も、白い翼の神性と黒い翼の魔性は言葉を失う程だったが、彼本人はやっぱり()()()()()()()

 

(……ほんと、よく分からない人)

 

 蛍はそんなことを呟きながら、一同について宿屋の中に入るのだった。

 

 

 

 この宿屋に軍神や今川が襲ってくることはないだろうが、光己たちは一応警戒して交代で不寝番をして一夜を過ごすことにした。

 なおこういう状況ではルーラースキルを持つ者が多めの負担をするのが順当かと思われるが、メタトロンの怠惰ぶりはもう皆に周知済みなので逆に番から外されていたりする。

 そして襲撃も事件もなく無事翌朝を迎えて。一同は朝食を終えると、光己が晴信と契約し「鳳翅紫金冠(ほうししきんかん)」も貸した上で再び千曲(ちくま)に赴いた。

 軍神はここを去って自分にとって有利な場所、すなわち越後に移動しているのではないかという(おそ)れはあったが、幸いにして彼女は昨日いた所にまだ居座っていた。

 

「サーヴァント反応1人分発見だよー。まったく同じ場所にいるなんて律義なのか物ぐさなのか」

「……そうか。居てくれたのはいいが、まるで動かないとはあの場所に何か特別なものでもあるのか?

 それなりに魔力の巡りがいい場所ではあるが」

「しいて挙げるなら、川中島に近いってことくらいですかねえ」

 

 軍神が動かない理由について晴信と景虎は軽く考察してみたが、これだと確信できるほどのものは出なかった。

 それとも今度こそカルデア・武田連合に勝てる自信があるのだろうか? だとすればただの慢心なら良し、まだ別の切り札があるなら容易ならぬ事態だが……。

 

「そうだな。景虎、母親のことなんだからどちらなのか想像つかないか?」

「ふむ。実益ではなく母上の性格から分析するなら、まずマスターとリリス殿は庶民的、あ、いえ決して悪い意味で言っているのではありませんが、たとえば晴信や信長のような身分ある人物という印象はありませんし、言動も軽くてフランクな感じでしたからね。そんなお2人にコケにされたまま逃げ出すというのは面白くないでしょう」

「なるほど。おまえの母親に限らず、人間は身分でも何でも自分より下だと思った相手に舐めた態度取られたら頭に血が登るものだからな。

 勝ち目がまったくないならともかく、そこまでの差はないなら逃げはせんか」

 

 要は格下が舐めやがって殺す!!ということだ。こんな時代なら尚更である。

 

「ただ母上に別の切り札があるかどうかはまではちょっと。

 でもさすがに、まったくの無策ではなくて何がしかの手立ては考えてると思いますよ。たとえば夜叉と羅刹が飛び道具持ってくるとか」

 

 軍神の眷族召喚の詳細はまだ分からないが、半分を弓兵や術師にするといった細工はできるかも知れない。青岩院は現代風にいえば毒親やヒステリーの傾向はあったが、感情任せにわめくとか暴れるとかではなかったからそのくらいの策は(可能であれば)行うだろう。

 

「なるほど。昨日は初使用だったからそこまで気が回らなかったが、2回目ともなればもっとうまくやるというのはあり得るな。

 数百人の夜叉や羅刹が一斉に矢弾や法術を飛ばすとしたらかなり強力だ」

 

 あくまで推測だが、使われる可能性とその時の脅威度が高い作戦には対策を立てておくべきだろう。幸いにして、ある程度対処できそうな人材がここにいた。

 

「じゃあその時は刑部姫、おまえの要塞壁、だったか? それで防げ。

 もちろん完璧にとは言わん、できる範囲でいい」

 

 晴信は言い方はやはり横柄だったが、部下でもない大妖怪が相手とあって内容の方はおとなしめになっていた。まあ数百人の夜叉や羅刹の攻撃を1人で完璧に防げなんてのは無茶振り過ぎる話だから当然なのだが。

 

「……アッハイ。頑張らせていただきますぅ……」

 

 刑部姫は根が陰気卑屈なので、オラオラ系どころかヤクザそのものな晴信はちょっと苦手であった……。

 しかし晴信の要請自体は妥当なものなので特に物言いもつかず、一同はいよいよ昨日も来た千曲の森に到着する。

 

「…………サーヴァント反応に変動なしー。今回は待ち受けるつもりなのかな」

 

 メタトロンの探知によると、軍神はこのたびは奇襲より迎撃を選んだらしい。

 そして光己たちが森を抜けて平野に出ると、その先にいた軍神はくわっと目を見開いて宣戦布告を発してきた。

 

「来ましたね化生どもに私の歪み。今度こそ殺します」

 

 そう言いながら、さっそくに眷族召喚を行う。人数は前回と同じだが、内容は景虎が予想したように半数は弓兵や術師であった。

 ついで先手必勝とばかりに、矢と魔術の弾や火炎や氷礫が飛んでくる。

 

「ホントにきたぁぁぁ!? えーい、出前一人前ー!!」

 

 事前に予告があったおかげで、刑部姫は壁を出すのが間に合った。折り紙が変化した近代的な要塞壁が何枚もそそり立ち、襲いくる飛び道具の雨をくい止める。

 壁の向こうでものすごい衝突音や炸裂音が響いているが、しばらくは保ちそうだ。

 

「でもあくまで『しばらく』だよ? 早いとこ反撃してね!?」

「ああ、それはもちろん」

 

 光己がまず獣モードになってから、壁の上の通路に飛び乗る。同時に宝具(的サムシング)の真名を開帳した。

 

終末の時きたれり、其は神に叛くもの(ハルマゲドン・ゴグ・マゴグ)!!」

 

 すると辺りに黒い霧が漂い、そこから悪魔、より詳細には一神教の神に駆逐された多神教の神や精霊が悪魔になった者、すなわちデーモンが100人ほども出現する。上空には同じくらいの数のドラゴンが現れた。

 今回の敵は多神教の神とその眷族なので、その対になる存在として多神教系の悪魔になったのだろう。ドラゴンは種族としては悪魔ではないが、一神教でも多神教でも神に敵対しているケースが多いので、その関係で枠に入っているものと思われる。

 というのもこの宝具は(軍神のものもそうだが)レオニダスやイスカンダルのそれと違って実在する(した)者を呼び寄せるのではなく、伝承を具現するものなので出現する者はTPOや術者の熟練度によって変わってくるのだった。

 デーモンの姿は多種多様で、人間に近い者もいれば動物や昆虫に似た者もいる。しかしぱっと見で名前が分かるような有名・強力な者はいなかった。ドラゴンの方もほとんどはワイバーンである。

 

「ま、こっちも初めてだしな……」

「ふむ。まさかそちらも眷族召喚をするとは驚きましたが、どうやら数も質もこちらが勝っているようですね」

「それはどうかな……!」

 

 軍神の挑発に光己がこう返したのはただの強がりだが、こちらにはサーヴァントの支援があるのでそこまで不利というわけではない。刑部姫は破損した壁の修復と補充に専念しているが、蛍は狙撃は下手でも多数の敵に乱射する分には有能な銃兵だしメタトロンも一撃の威力は大きい。

 

「ウオオオオーッ!!」

「ガアアアアーッ!!」

 

 ほんの数分前まで静穏だった千曲の地が、突如として矢弾や魔術が飛び交い破壊音と怒号が響き渡る阿修羅の場と化した。

 空中では2頭だけ混じっていた中型のブラックドラゴンがまず毒と酸の唾液をシャワーのようにまき散らして牽制した後、ワイバーンが編隊を組んで急降下突撃を敢行する。半数は夜叉たちの弓と魔術で撃墜されたが、残る半数は彼ら後衛夜叉部隊の陣内に突入して必殺武器の毒針の尾を敵の頭や胸に突き刺して絶命させた。そのまま牙や爪での攻撃に移行する。

 もちろん夜叉たちもやられっ放しではなくすぐ手持ちの武器で反撃しており、その様相を見るに接近戦ではワイバーンと後衛型夜叉はほぼ同等の強さのようだ。ワイバーンが体長6~7メートルで夜叉の身長が人間よりやや大きいくらいだから、体格差を考えれば夜叉は後衛であってもなかなかの身体的武力を持つ強者といえよう。

 ワイバーン隊は長居はせずすぐに反転して上空に離脱し、それに合わせてデーモン隊が吶喊する。

 

「これは……騎馬隊と槍隊で車懸りを仕掛けるようなものですか。化生でも兵法を知っているのか、それとも私の歪みに習いましたか」

 

 軍神いや青岩院は武家の出身だけに多少は兵法を知っているのか、慌てる様子もなく前衛の陣形を固めて迎撃準備を整えた。

 そして両軍が接触して戦闘が始まる。

 デーモンは9割弱がランク的にはノーマルまたはレッサー級と呼ばれる1番弱いもので、それでも熊や虎を軽く倒せる強者だが敵前衛はそれよりさらに一回り強く劣勢であった。しかし1割のグレーター級は逆に一回り強く、しかも1人だけいたアーチまたはアーク級と呼ばれる者は唯一武装しており炎を帯びた剣を振るって夜叉と羅刹をばったばったと斬り倒している。

 

「むう。連中は大部分は大したことありませんが、少数ながら強い者もいるようですね」

 

 ならば自分が出て彼らだけでも倒すべきか。青岩院がそう思って1歩前に出ると、デーモンたちはそれを嫌ったように撤退を始めた。

 

「む、憶病な……それとも何かの策ですか」

 

 これは後者が正解である。というのも、ドラゴンとデーモンの攻撃はカルデア側のサーヴァントが通路に上がって身をさらしても安全になるように(一応胸壁が付いてはいるが)軍神側の攻撃を引きつけておくためでもあり、今は味方の攻撃の巻き添えを喰らわないよう距離を取っている状況だからだ。

 まずは蛍が弾倉(まりょく)がカラになる勢いで連射を始める。

 

「雑賀を始める。掃討する!」

 

 高さ2メートルの通路の上からだから、敵軍全体を見て兵が集まっている所を狙って撃てる。蛍は自動拳銃やらアサルトライフルやらロケットランチャーやらをぽんぽん出しては撃ちまくった。サーヴァントの実銃射撃だけに効果は高く、屈強な夜叉と羅刹でも死傷者が続出し行軍も滞る。

 その間に光己はテュケイダイトを2本とも出して、その先端の間に炎を装填(そうてん)していた。蛍の射撃が一段落ついたところで追加攻撃を行う。

 

「よし、次は俺が。集え明星! ルシフェリ〇ン・ブレイカーーーッ!!」

 

 この詠唱はいつぞや黒髭に「七鍵守護女神」を使った時と同じで魔術的な意味はない……しいて挙げるなら、ルシフェル的な単語を使っている分妄想力(コスモ)がさらに燃えるということくらいか。

 赤く燃える炎の奔流が青岩院軍の中央あたりに着弾し、大爆発を起こす。その熱量はすさまじく、爆心地付近にいた者は即死どころか蒸発したかも知れない。

 

「で、アテシの番だったね。嵐を呼ぶぜー? いや今回も風だけか」

 

 爆発はすぐ治まっても、夜叉と羅刹の体や地面の草に着火した炎は消えていない。そこに強風を送り込んで火勢を強めようという無慈悲きわまる策であった。

 戦場全域に突風が吹きすさび、火災旋風と呼ばれる現象まで発生する。つまり地獄の炎を伴った高温高速のつむじ風が竜巻めいて荒れ狂うという、文字通りの地獄絵図になっていた。

 域内にいる者は高温の炎と空気により、体表面だけでなく呼吸器まで火傷して苦しむのだ。

 

「何と(おぞ)ましい……あの化生、見た目の通り悪鬼のような所業ですね」

 

 いや青岩院も人のことは言えない……いや基本的に一太刀で殺す、つまり苦しみはすぐ終わらせているから一応その資格はある、かも知れない。

 なお彼女がいる場所も当然旋風の圏内なので、大ダメージというほどではないが地獄要素のせいで気分的にはとても不快であった。

 

(こうなれば、混戦に持ち込むのが最善ですか)

 

 両軍が入り乱れて無秩序状態になれば炎や風や銃は使えないし、サーヴァントたちも連携を取りにくくなる。そう判断した青岩院はまだ生き残っている者全員に突撃を命じると、自分もその真ん中に立って駆け出すのだった。

 

 

 




 相変わらずこの主人公は戦い方が邪竜なので困りものです(棒)。
 おっきーの宝具も一応軍勢タイプですが、今回は壁に専念してる感じですね。
 ではまた次回に。


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