FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第278話 塩と刀とビシャモンテン5

 光己が召喚した軍勢が残り100人ほどなのに対して軍神側は300人ほども残っているので、単純なぶつかり合いならカルデア・武田側が劣勢である。敵の夜叉と羅刹がなかなかの強者であることも分かったので、混戦に持ち込まれるのは避けたい。

 軍神はもちろん眷族たちも傷ついてはいても人外の体力を持つので進軍は速く、どう対処すべきか考えていられる時間はごくわずかだ。しかし光己はこう見えて3桁の実戦経験を持つ熟練の小隊指揮官であり、とっさに次に打つ手を考え出した。

 

「ここも通行止めだ! てりゃーっ!」

 

 まずは要塞壁の向こうに、昨日も出した炎の壁を立てる。すると軍神側は地獄の炎に突っ込むのはやはり嫌らしくいったん足を止め、しかしこのたびはその場にとどまらず右に迂回してカルデア側の後ろに回ろうと試みてきた。

 これでは状況がよくなったとはいえないが、次の手を考える時間は稼げる。

 

「景虎、次はどうすればいい?」

 

 訂正、自分より軍略ができる人に考えてもらう時間であったが、これはこれで正解といえよう……。

 

「はい。私が見た限りでは敵軍は前衛だけならどうにでもなりますが、後衛の飛び道具使いが大勢いると厄介です。

 それとは別にマスターは軍勢を維持、あるいは指揮するのがかなり負担になってるようですから、全軍敵後衛に突撃させて相打ちに持ち込むのが良いかと」

「おお、恐ろしく無慈悲な策だが実際順当……!」

 

 光己が召喚した軍勢は(軍神が召喚した者もだが)生き物ではないし、宝具開帳を終了すればどのみち消えるこの場だけの存在だ。普通に戦わせるのも特攻させるのも大差はない。

 それに景虎が指摘したように、この宝具(的サムシング)は魔力的な維持コストはさほどでもないが指揮するのは精神的に大変だった。指揮自体は念話でも音声でもできるが、集団として有機的に動かすには思考力と注意力のリソースが思った以上に必要だったのだ。

 直接指揮するのは軍勢の中の強い者、今回でいえばブラックドラゴンやアークデーモンだけにして他の者は彼らに指揮してもらうという手はあるが、それでも使用リソースをゼロにはできない。

 

「分かった、やってみる」

 

 光己はまず牽制として蛍に敵前衛への掃射を依頼して足を鈍らせ、当然に軍神も動きが制限されたところに1頭めの(以下A、2頭めをBと書く)ブラックドラゴンに手持ちの毒&酸な唾液を全部彼女の頭上からぶっかけさせるという嫌がらせを実行した。

 これは青岩院を激昂させ冷静な判断力を奪い、さらにブラックドラゴンAに彼女のヘイトを集中することで後衛への注意をそらそうという緻密な策略であり、粘液で濡れ濡れな美人毘沙門天様エロいなんてけしからんことは決して考えていない。

 

「お、おのれ化生め……!」

 

 唾を吐くというのは結構な侮辱的行為で、されたらたいていの人は怒る。まして城主の娘で大名の妻という高い身分の者が、化生が呼び出した怪獣に全身唾まみれにされて冷静でいられるはずもなかった。

 あと毒&酸がちょっと痛い。

 

「畜生風情が、降りて来なさい!」

 

 などと叫んでも素直に降りて来るはずもなく、逆に逃げつつも時に振り向いて吠えたりして煽り立てる。

 青岩院はさらなる憤怒で顔を真っ赤にしながら追いかけて炎を飛ばすが、そんな雑な攻撃はそうそう当たらない。たまたま当たっても、中型ドラゴンともなると頑丈かつ図体がでかくて1発や2発では沈まなかった。

 そうしてボスが指揮をなおざりにしている間に、ブラックドラゴンBとワイバーン隊、及び地上のデーモン隊はまんまと青岩院軍の背後に回り込んでいた。

 

「よし、うまくいったな。そのまま突撃だ!」

「うーん、この邪悪さにはさすがのアテシもドン引き」

「何故だ!? 敵の大将を怒らせて行軍を攪乱するという、孫子も絶賛してくれそうな作戦を見事成功させたのに」

「確かにそういうことが書かれてはいるが……」

 

 光己は策が当たったことに得意げだったが、褒めてくれる者は残念ながらいなかった。

 いやリリスは光己の内心をお見通しの上で茶化しているだけだろうが、晴信の方は実は結構執着しているライバルと同じ姿の者が怪獣に振り回されているのが面白くないのであろう……。

 それはそれとして、チャンスを掴んだなら早々に実行に移すべきだ。しかし光己は慎重に、歩兵突撃の前に砲兵が援護射撃を行うごとくデーモン隊に攻撃魔術を放たせる。

 特に高位の悪魔(アークデーモン)ともなると魔術も達者で、その威力は術師系の夜叉を二桁単位で吹っ飛ばすほどであった。

 その上で陸と空からの同時特攻だ。夜叉側はボスがサボっている上に個々の力がだいたい同じなので指揮できる者がおらず、統率された行動が取れなくて圧倒的不利である。

 それでも前衛の一部が加勢してくれたのでどうにか応戦できたが、最終的には景虎の希望通り両方壊滅……生き残ったのはカルデア側がアークデーモンとグレーターデーモン数名とブラックドラゴン2頭のみ、軍神側は後衛はゼロで前衛が150人ほどだった。

 つまり軍神側は彼女以外に飛び道具持ちはいなくなったのだ。

 そこでようやく冷静さを取り戻して状況を理解した青岩院が、その経緯と結果の酷さにまた怒りをあらわにして叫ぶ。

 

「どこまでも卑劣な……! かくなる上は地獄の炎に吶喊してでも」

 

 ついに最後の決意を固め、軍の先頭に立ってカルデア・武田連合の陣地いや憎き化生に向かって突き進む青岩院。その気迫を感じた光己はもはや炎で止めようとはせず、別の策で迎え撃つことにした。

 

「来るか! よし、メタトロン頼む」

「はーい。水~」

 

 今まで温存していたメタトロンに、まず初手として水流を出してもらう。今までと勝手が違う攻撃に青岩院軍は足を取られてまた進軍が鈍ってしまった。

 そこに前から蛍の銃撃、背後からはデーモン隊の魔術で挟み撃ちを決める。

 しかもこの最中に光己自身は魔王の翼で魔力吸収(エナジードレイン)もやって、自分の回復と敵の弱化を同時に行う抜け目と容赦の無さだった。

 

「おお、マスターも軍略を覚えてきましたねぇ。しかも普通の兵法とは毛色が違ってて初見では対応が難しいんですよね。

 母上の方はちょっと乗せられすぎかなとは思いますが、愚かとまでは言えません」

「確かに生前の頃はもちろん、サーヴァントになった今でも今回のあれこれは読みようがないな……」

「まあ新選組の仕事と毛色が違うってのは事実だな……」

 

 その作戦を景虎は手放しに褒めていたが、晴信と永倉は立ち位置的に神と魔の人外バトルには心理的な距離感がちょっとあるようだ。

 なおこの3人は今の所何もしていないが、軍神と直接対決するために力を温存しているだけなので問題はない。むしろその分、しくじって軍神を逃がしたりしたら特に晴信あたりは武門の不名誉この上ない失態になるので(自分が考えた作戦とはいえ)貧乏クジともいえる役割だ。

 

「そろそろいい頃かな。みんないける?」

 

 そして光己の作戦の詰めは、彼自身の硫黄弾乱射とリリスの旋風を同時に放つのに続けて蛍と刑部姫とメタトロンが順番に宝具を使う総攻撃だ。

 硫黄はそれ単体の毒性は低いが、水素や酸素と結合して硫化水素や二酸化硫黄になると非常に有害で、意識障害や呼吸不全などで死に至ることさえある。日ノ本の地では火山近くの温泉によくあるアレだ。

 しかも光己が撃つものは「地獄」で使われている特別製なので毒性は段違いである。それがリリスの魔力が乗った風により、敵に当たって飛び散った破片も蒸散せずに残って辺りを飛び回るので地獄風味が5割増しだった。

 

「くっ、宝具でもないただの魔力弾が多少とはいえ毘沙門天の神性を抜いてくるとは……!

 それにこの腐卵臭のひどさは何ですか。生前に温泉で嗅いだものよりはるかに……!」

 

 軍神でさえダメージを受けているくらいだから、眷族たちはまさに阿鼻叫喚の苦しみようだった。これがあの化生のいう「地獄」なのだろうか?

 しかもそこにまた大量の銃弾や炸裂弾が飛んで来る。蛍の宝具「銃神・八咫烏(じゅうしん・やたがらす)」の本人が吶喊する以外の部分だ。

 吶喊しないのはもちろんそうするようあらかじめ言い含められていたからだが、その指示が正しかったことを蛍は今見ているだけで実感していた。

 

「……確か硫黄成分が入った魔力弾だったっけ。あの辺り、サーヴァントでも泣きそうな悪臭地獄になってそうな気がする」

「うん、俺がやってることながらその見解は多分正しい。でもしばらくすると嗅覚が麻痺するはずだからセーフ」

「むしろそのせいで毒物吸ってる自覚がなくなって危険だと聞いたことがあるような……」

「うーん、やはりマーちゃんの辞書に人の道という言葉はなかった……。

 それじゃ私も折り紙だけ飛ばすよー。白鷺城・千式(はくろじょう・せんしき)ミリミリナイトフィーバー!」

 

 この宝具は1千枚の折り紙をミニチュアサイズの戦闘機や戦車や兵士に変えて全軍突撃させるという、物量的にはシャレにならない代物である。もっとも軍神にはまったく効かないが、眷族にはそれなりにダメージを与えているし爆煙で視界を遮るという副次効果もあった。

 ただ2人の攻撃で硫黄成分は飛び散ってしまったが、これはむしろ期待通りの効果だ。何故なら次の攻撃は神聖属性なので、地獄属性が残っていると相殺して威力が下がりかねないからである。最初からそのような思案の下に攻撃の順番を組み立てていたのだ。

 

「はいはーい、やりますー。でもめんどい、やっぱなかったことにしなーい? え、しない?

 じゃあしょうがない。『司るは全知全能なりて(ユニベール・イモルテル・メタトロン)』。さよーならー」

 

 これはメタトロンが一時的に「人間が想像し得るもっとも高貴な天使の姿」に変身した上で、敵全体を攻撃した後で味方全体を回復するという多様な効果を持つ宝具である。

 その姿はまず見た目年齢が7歳ほど成長し、背中に大きな美しい白い翼が10枚ほど生え、衣服は白いドレスになり全身が金色に輝くという大変神々しいものである。

 ついで両手を前に差し伸べて親指と人差し指でハートマークをつくり、それで慈愛の光でも放つかと思ったら何故か盛大に爆発する破壊光線を撃ち出すが、その後味方への恵みの雨になるので多分問題はないだろう……。

 ただ彼女が本当に全知全能を司っているかというととても怪しい。だってもしそうなら汎人類史と異聞帯の事情なんて説明されずとも知っているはずだし、戦いになったらどんな強敵でもデコピンで消し飛ばせるはずなのだから。

 

「……疲れた。おやすみ~」

 

 メタトロンは宝具開帳を終えると元の姿に戻ったあげく、眠そうにマスターの胸板にもたれて立ち昼寝を始めたが、これで軍神の眷族は全滅したので役目は果たしたといえよう。

 

「うん、おやすみ。お疲れさま」

 

 なので光己も叱ったりせずねぎらって、少女が倒れないよう腋の下あたりを両手でささえる。光己自身も疲れたので、あとは予定通り軍神打倒担当の3人に任せ……たいところだが、アークデーモンたちがまだ残っているから牽制くらいはさせるべきか。

 

「……というわけで、後はお願いします」

「おう、そっちの手柄は期待以上だった。任せとけ」

 

 軍神側は眷族が全滅しただけでなく、彼女自身もメタトロンの破壊光線が直撃したらしくダメージ甚大でふらついている。こんな好機を与えられて逃すほど、武田は弱くも甘くもない。

 晴信はニヤリ笑ってそう言うと、さっそく景虎と永倉を連れて出撃していった。ただしいきなり軍神の正面に出向くのではなく、迂回して彼女の右に回る念の入れようである。

 左と後ろにはドラゴンとデーモンがいるので、これで包囲体勢になった。

 

「……来ましたか、晴信」

「ああ。いろいろと反則技も使った、というかカルデアのマスターが使ったが、これも戦の習い。

 今日で終わりにさせてもらうぞ」

 

 晴信がそう言いながら、背後に城を召喚する。鎧と冠はすでに装着済みだ。

 わざわざ「カルデアのマスターが」と言葉を足したのは、光己の戦術を高く評価して他人の手柄を奪うような真似を避けたのか、それとも邪悪と見て自分の策と思われたくなかったからかは不明である。

 

「ふむ……貴方も全力というわけですか。

 確かにここまで追い詰められたのはまったく予想外でしたが、人の身で神を討てると思っているのですか?」

 

 青岩院はその辺には反応せず、晴信たちの自信のほどを問うてきた。

 実際晴信たちは光己たちと違って人間なので、軍神がいかに消耗していても有効打を与えるのは難しいのは純然たる事実である。

 むろん晴信もそれは百も承知で、その上で作戦通りに挑発を行った。

 

「ああ、そうでなければわざわざ真ん前には出て来んさ。

 ()()、宝具を抜け。でなければおまえに俺は倒せん。

 少なくとも、カルデアのマスターたちが回復するまでにはな」

「…………。

 確かにあの化生たちにまた先ほどの攻撃をされたら苦しいですが、わざわざ挑発するなどどういうつもりですか」

「なんだ、自信がないのか?

 おっと、そういえばおまえ、城攻めは苦手だったか。小田原城ごときに手をこまねいていたぐらいだからな。

 武田の城は言わずもがな、か」

「いいでしょう。なにか策でもあるようですが、その策ごと打ち破ると致しましょう」

 

 晴信が薄く笑いながら言葉を足すと、青岩院は表情こそ動かさなかったが、思うところはあったらしくすぐ挑発に乗ってきた。

 実際青岩院としては感情面を抜きにしても、眷族が全滅し自身も疲労困憊満身創痍(ひろうこんぱいまんしんそうい)なので、今は退却したいから晴信たちにあまり時間をかけていられないのである。

 

「―――参れ」

 

 そして静かな声で何やら命じるような言葉を発する。

 すると天から青白い光の柱が稲妻のように落ちてきて、軍神の真上からぶち当たり包み込んだ!

 

「!?」

 

 といっても光柱が軍神を攻撃したとかではない。いや逆に、手に持った刀の存在感が一気に跳ね上がっていた。

 

「それがおまえの真の宝具か……」

「そう、これこそが毘天(びてん)が宝刀。終わりです、晴信」

 

 ついで刀身が炎に包まれる。その炎も、先ほどまでとは神秘の濃さが明らかに違っていた。

 

「天よ、地よ、人よ……このひと振りに我が『義』を見よ。

 ―――毘天八相・『(しろ)』!!!」

 

 軍神が小細工抜きで、刀を大上段に構えて唐竹割りに振り下ろす。

 その必殺の一撃を晴信は生前の川中島の時のように軍配で受けはせず、ただ冠で受けるのは光己というか竜王や孫悟空の手前憚りがあるのでわずかに体をずらし、肩で刃を受けた。

 

「…………」

 

 炎に包まれた白刃が「楯無(たてなし)」ごと晴信の胸の真ん中あたりまで斬り裂く。

 まさに神が振るう刀に相応しい切れ味だったが、晴信は無言で耐えて刀身を籠手で掴んだ。

 そして次の策の実行を促す。

 

「やはり、おまえがこの太刀を持っていたか。

 今だ景虎、やれ!」

「承知!」

「!?」

 

 晴信が避けなかったことに青岩院が驚いた一瞬の隙に、景虎が「都牟刈村正(つむかりむらまさ)」を抜きながら2人の間に飛び込む。そしてためらいなく、こちらも大上段から振り下ろした。

 

「これが神ならぬ『人』の極みの刀です! 『都牟刈村正』!!」

「なっ……ぐぁぁぁ!!」

 

 こちらの切れ味もまたすさまじく、景虎の予測通り軍神の前腕2本を大根のように斬り落とす。

 続けて流れるような淀みない動きで、村正を納刀し軍神の手から刀を奪い取った。

 

「さあいきますよ。毘天八相・『(しろ)』!!!!」

 

 次は奪った刀の真名を開帳し、その切っ先で軍神の右肩を突き刺す。

 

「ぐぅぅっ……こ、これが狙いだったと……!?」

「いえ、晴信はともかく私の狙いはこれからですよ。

 そのために、あえて心臓を外したのですから」

 

 そして仕上げに刀ごと霊体化し、軍神の身体に取り憑いたのだった。

 

 

 




 今回も主人公の邪竜ぶりとリリスとの相性の良さが光りました(ぉ
 景虎も容赦ないですが、これは前の話で書いたように怒りがあったということで。
 ではまた次回に。


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