FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第279話 塩と刀とビシャモンテン6

 景虎が軍神の身体の中に侵入すると、すぐに青岩院の意識と接触することができた。

 

「なっ、私の歪み!? まさか取り憑いてくるとはどういうつもりですか」

「それはもちろん、しかとお答えいただきたいことがあるからですよ母上」

「!?」

 

 母上、と呼ばれると青岩院は実に分かりやすく動揺した気配を見せた。

 

「な、なぜそれを……!?」

「ルーラーはこちらにもいるということですよ。

 それでなぜ、わざわざ私の神霊的側面を使ってまでして無道の殺戮をしていたのですか。

 ましてや私とマスターたち、地球と人類を守る義戦をしている者が来たのに……いえこれは普通では知り得ないことかも知れませんが。

 それにその姿で悪事を働かれると私が冤罪かぶるんですよ。そもそも実の娘に会ったのに名乗るどころか歪み呼ばわりとはどういうことなんですかね」

 

 景虎は光己と婚約していることは言わなかったが、それ以外の質問は初手で全部開示した。口調は穏やかだったが、内心の怒りは抑え切れてないのか微妙にドスが利いていてちょっと、いやかなり怖い。

 

「なんと、ルーラーがそちらにも」

 

 ルーラーというのは特殊な役割を持ったクラスなのでそうそう現界しないものと思っていたが、地球と人類を守るというのが事実ならむしろ当然ともいえるか。「部外者を巻き込まないようにする」「世界に歪みが出るのを防ぐ」のがその役割なのだし。

 青岩院はいろいろ驚きつつも正体がバレた理由を理解すると、こうなっては逃げ場はないし娘に問われて黙っているわけにもいかないので1つずつ答えることにする。

 本当は腕と肩がとても痛くて会話どころじゃ……いや誰かがすごい勢いで治してくれているのを感じるが、今は景虎がいるからか身体を動かすことはできなかった。

 

「歪みとは……毘沙門天の本来の在り方と貴女がかけ離れているという意味です。

 この際ですから正直に言いますと、貴女は生まれた時から泣きもせず笑い声をあげる奇怪な子でして。為景様も恐れておいでだったのは貴女も覚えているでしょう」

「……父上のことはまあ」

 

 景虎は青岩院の台詞の一言めが意味することはまだよく分からず、二言めのことは覚えていないが、三言めは事実だったので素直に頷いた。

 

「しかし私は、貴女が生まれたその時は、貴女こそあの戦が絶えなかった末法の世を救う御仏の子、毘沙門天の化身だと信じていたのです。為景様にそう申し上げたこともあります」

「……」

 

 この台詞だけを聞くなら青岩院は戦乱の世を憂い平和を願う善性の人物で、特異な資質を持って生まれた娘に希望を見出したというだけのことなのだが……。

 

「もっともそのすぐ後で、私も貴女の笑う顔と声が怖くなって悲鳴をあげたりしましたが」

「あのですね」

 

 しかしその直後の率直無比なカミングアウトには、人の心が分からぬ女景虎も速攻でツッコミを入れざるを得なかった……。

 

「とはいえそれは生まれたばかりの頃のこと。成長すれば変わるのではないかという期待はありました。

 実際、越後国主となった貴女は乱世に安寧をもたらす、戦の裁定者たる道を歩んでいました。ですが……」

「ですが?」

「……ですが、ある日、貴女は歪んでしまった。そう、あの男に出会った日から」

「あの男……晴信のことですか?」

 

 他に候補はいない。景虎がそう訊ねると、青岩院は頷いた。

 

「ええ。あれ以来、貴女はあの男と戦うことに執着するようになりました。それまで持っていなかった、『執着』というものを持ってしまったのです。

 当然ながら、それは人間の情であって御仏のものではありません」

「それは確かにそうですが……でもそれは関東管領としての責務を果たすために」

「それだけであれば、川中島の如き益なき戦に半生を費やすことはなかったでしょう。いわば建前に過ぎません。

 そう、その建前というのもまた人のものですね。

 そうしたものを、貴女は持ってしまったのです」

「…………」

 

 そう言われればその通りなので、景虎はすぐには反論できなかった。

 つまり青岩院は景虎に(彼女がこうだと思っている)毘沙門天の化身のように在ることを求めていて、そうでなくなったのが不満だということか。

 

「しかしそれの何が悪いというのです? 人に執着し、人を知ろうとすることの何が」

「神仏が人の心など知って何の意味があろう。

 そうして貴女は人の情という歪みを抱え、至るべき裁定者としての己を失ってしまったのです」

 

 その論には一理はあったが、しかし今の、たった1人とはいえ人と心を通じ合わせた今の景虎には承服できるものではなかった。

 

「何を仰ってるのか理解しかねますね。

 人の心を知らずして、どうして人を裁くことができましょうか。救うことができましょうか。

 逆です。たとえば後世のことになりますが、羽柴秀吉が天下統一を果たせたのは人誑しと呼ばれたほどに人情に通じていたからなのです」

 

 ついでにせっかくなので、毘沙門天やら神仏やらにご()()の母上に少しばかり現実を教えてあげることにする。

 

「もしどうしても人の心を知らぬままで裁定者たれと仰るのなら、それこそ今の母上くらいの武力が欲しかったですね。神仏的な御業もない、常人より腕力がいくらか強い程度ではとても無理です。

 現に川中島も小田原城も勝ち切れませんでしたからね。私は母上にとって不肖の娘だったとは思いますが、母上も高望みが過ぎたかと」

「た、高望み……!?」

 

 実は景虎が「常人より腕力がいくらか強かった」つまり御仏の力を持っていたのは青岩院が仏骨を飲んだからなので、彼女のこの言いぐさにはちょっと納得しかねるものがあった。

 

「何を言いますか。御仏の力をその身に宿したのは誰のおかげと心得るのです」

「……へ?

 もしかして母上は私に何かしたのですか? 考えてみれば、毘沙門天を夢で見たというだけで赤子をその化身だと断定するのはいきすぎですし」

 

 何だか妙な話になってきた気がする。景虎がそんなことを思いながら訊ねると、青岩院は重厚な仕草で頷いた。

 

「そうです。貴女を身ごもっていた頃、私は旅の僧から仏骨をいただいてそれを飲みました。

 それが貴女の人間離れした力の源だったのは疑う余地のないところです」

「な、なんと……」

 

 いかに戦乱の世を救うためとはいえ、実の娘にそのような邪術を施すとは。

 目的は手段を正当化しないという言葉があるが、これは結果においても正当化できない……娘は乱世に安寧をもたらすことはできなかったのだから。

 

「しかも私が望んだわけでもありませんから、恩に着せられる筋合いはないですね!

 まして今申し上げたように、力不足でもあったのですから尚更です。苦情なら母上ご自身か、その僧の方にどうぞ」

 

 元から怒っていたからかそれとも誰かの影響なのか、いきなり開き直って逆ねじを食わせる景虎。これには青岩院もピシリと来たが、こちらも一理はあるのでとっさに言い返すことができない。

 その間に景虎が話を続けてきた。

 

「しかし『歪み』の件については、受け入れはしませんが理解はしました。少なくとも、最初の志だけは立派だったと思います。

 それで母上が仰る裁定と、母上がこの特異点で行った殺戮がどのように結びつくのですか?」

 

 これは青岩院にとってもここでの存在意義にかかわる質問である。改めて威儀を正し、答える姿勢をつくった。

 

「まさにそれが裁定です。

 戦が起こる理由はさまざまですが、どちらか一方だけに非があるというものではありません。人間という生き物の本質的な習性、在りようが大元の原因というべきでしょう。

 ゆえに合戦が起こった個別の理由や経緯にかかわらず勝った方、つまり多く殺した方にそれに相応する罰を下したというわけです」

「……なるほど、それで晴信には『武田と今川の勢力が同等になるように殺し』たように見えたのですね」

 

 理屈は分からぬでもない。たとえば川中島の戦いも直接的な理由はいろいろあるが、そうなるにはそれなりの経緯があって、その経緯にもまた理由が……なんてことを考えていたらキリがないし。

 勝った方だけ殺すというのも、負けた方はそれ自体が罰を受けたようなものだからそれ以上何かされる必要はないということだろう。

 

「でもそれなら、何故戦に加わらなかった民たちまでも殺したのですか?」

「戦は現地の武士だけで行われるものではありません。兵糧や武具をつくるのも、戦に参加したのと同じです」

「それはまあ……」

 

 これも一理はある。そもそもこの時代の武士は半農半士が多いし。

 

「しかしそれでは、最終的にこの地の住民が絶滅してしまうでしょう。それより諸悪の根源である義元を討てば済む話だと思うのですが」

 

 義元を討って聖杯を奪えばこの特異点は修正され、裁定も救いも必要なくなるはずだ。彼には勝てないから直接対決は避けてるなんて憶病なことは考えてないだろうし、どういうつもりなのだろうか?

 

「その通りです。

 しかしここは、辿(たど)り得なかった未来を望む者が()ばれた地。

 たとえば私はこうあれかしと望んだ子の姿を(まと)って裁定者となり、今川氏真は己にとって偉大であった父の姿を纏って父がなすべきだった覇業を行っているのです。

 ああ、これが先ほどの貴女の問いの1つへの答えになりますね」

「なんと……!?」

 

 まさかこの地における三勢力の首魁のうち2人までが偽者であったとは。

 もしかしたら晴信も……? いや彼はメタトロンが何も言わないから本人で間違いないか。言動や雰囲気も生前の彼そのままだし。

 

「まあこちらがやることは何も変わりませんが。

 すると母上は似たような存在である氏真に同情して討つのを控えているとかですか?」

「まさか。

 ただ彼を討てば貴女が言う通りすべてが終わる……つまり私は裁定者でなくなるのです」

「―――ッ!?」

 

 その台詞の意味を理解した瞬間、景虎の理性は怒りで沸騰した。

 まさか彼女は、理想の姿を演じ続けていたいがために今まで氏真を討たずにいたというのか!?

 青岩院は親子だけに娘の怒りの理由はすぐ察して、今回は恐れる様子はなく静かに答えを述べた。

 

「結果的にはそうなりますね。

 しかしそれはそういう者、裁定者を望んだ者という面を強調されて喚ばれたからです。

 もし()()私が生前の私そのままであれば、最初から氏真を討っていたでしょう」

「母上……」

 

 サーヴァントは生前の1つの側面を抜き出してコピーしたようなものだというが、今回の青岩院もそういう感じなのか。だとしたら不運というか間が悪かったというべきで、怒りをぶつけるのは不当だと思う。

 景虎は心を鎮めて、まずは不躾なやり方で行った質問に答えてもらったことに礼を述べた。

 

「…………分かりました。お答えいただきありがとうございます」

 

 その上で、もう1つの用件に入る。

 

「では最後に、私の力をお戻し下さい。

 名目としては慰謝料と餞別と婚約祝いというところで」

「…………は?」

 

 唐突に真顔で妙なことを言い出した娘に、青岩院は思わず目をぱちくりさせた。

 力を戻せというのは分かる。慰謝料とは冤罪の件であろう。餞別はおそらく「地球と人類を守る」絡みで、そのために力を求めるというなら話の筋は通っている。

 しかし婚約祝いとは何であろうか!? まさかこの恐ろしい娘が、誰かと結婚の約束をしたというのか?

 いや国主であれば政略結婚は普通だが、サーヴァントにそれはあるまい。すると何か、しがらみのない庶民のように恋だの何だので婚約をしたのか?

 まあ政略結婚であろうと恋愛結婚であろうと、良縁であれば祝福するのが母たる者の務めだが、あの強猛だった為景ですら恐れた景虎と恋愛できる男がいたというのか!? 本当に!?

 ……いや1人だけいる。それに思い至った青岩院は今まで一応は(自分が考える)毘沙門天的な容儀をつくっていたのをほとんど条件反射でかなぐり捨てて、一介の母親そのものの表情と声色で叫んでいた。

 

「許しません! 許しませんよあの男だけは。他の男にしなさい」

「へ!?」

 

 いきなり毘沙門天から母親に戻られて、今度は景虎の方が面食らってしまった。

 まあ~~子離れできてない感じの母親がその当人に不意打ちで婚約なんてパワーワードを聞かされたら、驚愕のあまり初手反対になってしまっても仕方ないかも知れない。

 

「でもなんで相手の名前を聞く前に『あの男』なんて言葉が出てくるんです?」

「聞かずとも分かりますよ。貴女と恋愛ができる男など、武田晴信以外にいるとは思えません。

 現に一緒に戦っていたではありませんか」

「かなり失礼じゃないですかその言いぐさ……」

 

 自分が産み育てた娘を非モテと決めつけるのはいかがなものか。

 晴信に対しても、理由が何であれ「あの男だけはダメ」なんてのは非礼が過ぎる。器が大きいと褒めているという解釈もできなくはないが……。

 いずれにせよこれは青岩院の勘違いなので、ちゃんと正さねばなるまい。

 

「安心して下さい、相手は晴信ではありませんから。

 マスターの藤宮光己という方です。母上に対しては敵としての姿しか見せていませんが、とても素晴らしい方ですよ。できれば普通の形で紹介したかったのですが」

「は!?」

 

 青岩院はまた驚きで数秒ほど息が止まってしまった。

 

「……先ほどの『あの男だけ』というのは訂正します。あの化生も許しません!」

「ちょ!? 気持ちは分かりますが、国主の母ともあろう者が簡単に前言を翻すのはよろしくないのでは」

「お黙りなさい。あのような卑劣漢、長尾の婿として迎え入れるわけには参りません」

「あ、そこも安心して下さい。私が嫁に行く方ですので」

「そういう意味ではありません! いえ生前のこととはいえ越後国主にして関東管領であった貴女が行く方って、あの化生はどういう素性の方なのですか」

 

 いまや2人の会話は完全に、毘沙門天の在り方についての深遠な問答ではなく娘の結婚をめぐる親子の言い争いになっていた……。

 

「生まれは商家の使用人の子……純然たる庶民ですが、()()異国の女王を正室に迎える予定になっていますので、管領ではかなわないのですね」

「な、何ですって……!?」

 

 すると景虎は嫁入りの上側室ということになるが、なるほど異国のとはいえ女王が正室なら仕方ない。

 しかし庶民の子が女王と結婚するとは、あの化生はそれほど大した男なのか、それともマスターの特権を悪用して無理やり女を囲っている下種なのか……!?

 

「あの、先ほども申し上げましたがマスターは素晴らしい方ですよ。私以外のサーヴァントたちからも好かれていますし」

「そりゃ貴女はそう言うでしょう。

 しかし信用はできません。仮に令呪の類は使っていないとしても、実意のない手練手管で女を誑かす不埒者に決まっています!

 ちょうど腕と肩も治ってきたことですし、かくなる上は貴女を叩き出して今度こそあの化生を成敗してくれましょう。ふぬりゃーーーっ!!」

「ちょ!? ……って、こ、この気迫と気力は!?

 ならばやむを得ません。こちらも力ずくでやらせていただきます!」

 

 この期に及んで青岩院が驚愕の母親パワーを振り絞ってきたので、景虎もマジにならざるを得なかった。

 それでもって、いかな母親パワーも越後の龍にはかなわず、逆に叩き出されてしまう。

 

「おのれぇぇぇ……しかしまだ認めたわけではありませんよぉぉぉ」

「……えーと。謝罪と説明はいずれ英霊の座に還った時にでも……いつになるかは分かりませんが」

 

 こうして青岩院は現世を退去して、軍神の身体は景虎のものになった。

 すると腕と肩の痛みが襲ってきたが、先ほど青岩院が「治ってきた」と言っていたのは事実みたいでさほどひどくはない。斬った両腕はくっついており、手や指の感触もある。

 代わりに両脚を縛られていて動けないが、万が一を考えれば当然の処置だろう。

 

「でも目が見えませんね……いえ、単に閉じていただけですか」

 

 景虎が目を開けると、普通に景色が見えるようになった。

 自分は地面に横たわっており、光己が傍らに座って心配そうに様子を見てくれている。ただそのあぐらをかいた脚の間にメタトロンが座っているのがちょっとばかり羨ましいが、これはまあ後にしよう。

 

「マスター、どうにか終わりました」

「そっか、良かった。じゃあ脚の縄ほどくからちょっと待ってて」

「はい。でも母上が私のフリをしているのではないかとは疑わないのですか?」

「俺が景虎を見間違えると思う?」

「フフッ、そうですね」

 

 やはりマスターは自分を分かってくれている。つい笑みがこぼれてしまった景虎に、光己が体調を訊ねてきた。

 

「腕とか肩とか大丈夫?」

「はい、痛みはありますが動かないほどではありません。

 しかし本当に腕がくっつくとは驚きました」

「うん、これもリリスとメタトロンのおかげだな。

 今の俺だと水晶宮出さないといけないけど」

「水晶宮?」

 

 言われて左右を見てみると、四方に薄青い水晶でつくられたとおぼしき壁が立っていた。

 広さは8メートル四方くらいで、奥に小さな家屋もある。その家屋の周りには美しい花がたくさん咲いていた。

 水晶宮というのは確か竜宮城の別名だと思ったが、多分これはミニチュアなのだろう。

 それに今気づいたが、空気がすごく澄んだ感じがしてとても居心地がいい。しかも治癒の力まであるとは、これが竜神が住む宮殿というものか。

 

「母君とのお話はどうだった?」

「はい。和解まではできませんでしたが、お互い言いたいことは言えたと思います。

 まあ、このくらいで良かったんじゃないかと」

 

 これは景虎の本音だったが、婚約絡みの話までは明かさなかった。

 

「そっか、景虎が納得してるなら良かった」

「はい、お手数かけました」

 

 そこまで話したところで光己が縄、正しくは縛鯖索(ばくせいさく)をほどき終わったので、景虎は身体を起こして立ち上がった。

 

「そうそう、宝塔と光背(こうはい)も返さないと」

「ああ、そういえばそれもありましたね」

 

 これで景虎は人要素と神要素を統合し、武器もそろって究極完全体である。

 

「というわけで、これからは毘沙門天の化身にして越後の龍、上杉謙信とお呼び下さい!

 服が汚れててちょっとサマになりませんが、後で洗いますね。

 ……それはそれとして、すぐここを()つのですか?」

「んー。晴信公もまだ傷が残ってるし、2人とも完治してからでいいんじゃないかな。

 帰り道で今川軍が襲ってくるかも知れないし」

「ああ、その可能性はありますね」

 

 というか今この場で襲ってきてもおかしくない。むしろ自分が軍神の腕を斬った直後こそ最大のチャンスだったと思われるが、そこまで都合よくベストタイミングを捉えるのは無理だったということか。

 

「それでメタトロン殿、私たち以外のサーヴァント反応はありますか?

 ……って、聞くまでもないですね。ルーラーになったんですから、自分で探知しましょう」

 

 すると何たることか、ここから西方1キロほどという近場に5つもの反応があるではないか!

 今川側のサーヴァントは氏真と伊東、服部、杉谷、果心の5人である。全員で来ていたとは先方も本気のようだ。

 

「ええっ!? ……って、ホントだ。戦闘が始まる前はなかったのに」

 

 景虎いや謙信が探知の結果を口にすると、メタトロンも改めて探知し直して追加情報を語ってくれた。

 これは一体!?

 

「ふーむ。多分戦闘が始まる前は10キロ圏の外にいて、始まって探知どころじゃなくなってから近づいて来たんでしょうね。

 しかし軍勢同士の戦いになったから、あまり近くまでは来られず1キロの場所で止まった、と」

 

 今川陣営がメタトロンのクラスまで知っていたとは思えないが、軍神にサーヴァント探知能力があることは知っていただろう。そこで忍びを先発させて様子を窺い、開戦したら狼煙(のろし)の類で合図をさせるとかで時間を無駄にせず接近したのだ。

 敵ながらなかなかの良策である。もし光己と青岩院が軍勢召喚をしなかったなら、本当にベストタイミングで奇襲されていたかも知れない。

 

「兵士は連れて来てるのかな?」

「それはサーヴァント探知では分かりません。肉眼で見てみましょう」

 

 というわけで一同が水晶宮の西側の城壁の上に登って見てみると、軍勢どころか人影1つ見えなかった。

 しかし銃兵である蛍だけは遠目が利き、草原に誰かが伏せているのを発見する。

 おそらく氏真たちだろう。

 

「なるほど。ああすればよほど注意して見なければ発見できない。

 それでどうする?」

「うーん。俺はまだ疲れてるし蛍さんたちもそうだろうし、こちらから挑むのは避けたいとこだな。とりあえず待機で」

「分かった」

 

 そのまましばらく待っていると、氏真たち(と思われる反応5つ)はやがて西の方に立ち去って行った。

 おそらく兵士を連れて来ていなくて、また軍勢召喚をされたら不利だと考えたのだろう。今現在もブラックドラゴンとデーモン隊が残っている上に、城壁まで立っているし。

 

「でもなんで兵士を連れて来なかったんだろう」

「軍隊を動かすのはいろいろ準備がいるし、行軍は遅いし発見もされやすくなるからな。今回は身軽さと隠密性を優先したんだろう」

 

 光己の素朴な疑問にこう答えたのは晴信だ。なるほど確かにそうである。

 ともかくこれで、ここでの戦いは終結したのだった。

 

 

 




 青岩院は原作よりひどい目に遭った分、性格の方はちょっと良く……なってないような(ぉ
 ではまた次回に。


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