FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第282話 海道覇皇ヨシモト3

 武田の兵はいつでも出陣できるよう備えてはいるが、全軍出撃ともなると支度にそれなりの時間がかかる。しかし五稜郭に行く光己・リリス・メタトロン・蛍・沖田・永倉・斎藤は荷物も準備も特にないのですぐに出発できた。

 

「それじゃお先に。後でみんなで会いましょう」

「ああ、武運を祈る」

 

 双方の代表者が短い挨拶をかわした後、光己たちは躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)()って今はまだ神坂(みさか)近辺にいる五稜郭に向かった。

 なお7人の移動方法は武田家の備品の大型車である。蛍のバンでは全員は乗れないし、場合によってはどこかに置き残していくことになるケースも考えられるので。

 そして人里から離れたところで、予定通り水晶宮を出して沖田のジェットパックを「治す」ことにする。

 

「藤宮さん、いえマスターってばホント成長しましたね!

 こんな美味しいお団子もらえて、それを食べてる間にジェットパックが直っちゃうなんて沖田さんびっくりですよ」

「うん、こんな事態になるとは思ってなかったけど色々いい具合に()まってよかった」

 

 もちろんおやつを食べてだべっているだけではなく、真面目な会議もしている。

 光己の竜モードを今川側になるべく見せず秘匿すべきかその必要はないか、五稜郭に乗り込むのはどの方角からにすべきか、時刻は昼間がいいか夜中がいいか、そういった事柄だ。

 

「うーん。確かに誰が竜に変身してるのかは隠す方が良いだろうが、竜の存在自体を隠す必要は……いや連中が表に出て来ず隠れるようになったら面倒、いやルーラーがいれば発見できる……といっても射程が10キロてのは狭いのか広いのか」

「どっちにしても全滅させれば報告に行けないんですからノープロブレムですよ!」

「待て待て、儂が留守番組の大将なら竜を見た時点で伝令を送るぞ。いや普通は空の上からは送れんが、これだけのことをしでかす奴らならできてもおかしくねえ」

 

 餅は餅屋、光己がまず新選組の3人に見解を伺ってみたところ、やはり竜の存在は隠す方が後々手間が省けそうだった。

 考えてみれば、今まで軍神との直接対決を避けていた連中が体長2キロの大怪獣の存在を知ったらそれは逃げるに決まっている。

 それでも野望を達成したいのであれば、次は山中や地下深くに拠点をつくってルーラーにも見つからないようにした上でまた何か新しい計画を考えるだろう。それくらいの技術(テクノロジー)は持ってるわけだし。

 

「面倒すぎるな……ここは隠す方向で。こっちも面倒そうだけど」

 

 ワルキューレズかモルガンかマーリンがいれば魔術で隠蔽してもらって即解決なのだが、いないものは仕方がなかった。

 

「そうですねえ。するとマスターは五稜郭の真下か雲の上か、その辺りにいてもらうことになりますか。

 突入は当然夜ですね」

「そんなところか。あとはどちらから行くかだが、これは1度下見をしないと何とも言えんな。地上からじゃ岩しか見えん」

「いや、僕は今川に属してた時に暇見て城内うろついてたから、簡単な見取り図くらいなら描けるぜ」

 

 斎藤は生前はスパイをしていたという話もあるだけに、こうした方面では抜かりがなかった。

 その図面によると、五稜郭の天面はまず外郭に水路があって紫色の液体が循環しており、その内側は森になっている。城本体は天面の中央に建っており、少し離れた位置に六芒星形の城壁を建てて囲んでいた。

 本体の面積は400メートル四方ほど、江戸城本丸の約1.4倍という広大さである。

 

「中央の城は見た目はこの時代の城の本丸みたいな感じだな。副長が囚われてる部屋は未来的な怪しい装置がいろいろあったが」

「ほえー……」

 

 いくら聖杯の力を借りてとはいえ、よくそこまでしたものである。光己は素直に感心した。

 

「本丸には北東と南西に出入り口があって、特に南西は6つめの稜堡(りょうほ)(城の外郭の突き出た角の部分)の先端につながってて水路にも橋がかかってる。僕と沖田ちゃんたちが脱出したのもここからだな」

「ほむ……」

 

 1度通ったことがあるならそこから行くのが分かりやすいか、それとも分かりやすいだけに罠の1つや2つは設置しただろうから避けるべきか?

 

「その辺はマスターの竜モードでどれくらいパワーアップするか確かめてからでいいんじゃない?

 それ次第じゃ、たとえばメタトロンの火柱や蛍の螺旋弾で辺り一帯丸ごと爆破とかできるかも知れないし」

「んー、それもそうか」

 

 作戦を決定するのは「己」を知ってからでも遅くはない、というかそうすべきだ。

 そして当面の結論が出たところで折よくジェットパックも直ったので、一同はおやつを切り上げて行軍を再開した。

 ただ甲府の先は中央自動車道を北上すると今魔川軍と遭遇する可能性が高いので、西に向かって山越えするルートになる。幸い甲斐には今川がつくった街道が張り巡らされており、伊那(いな)あたりで中央道に入れば五稜郭や今魔川軍の背後を追う形にできるだろう。

 

「そうですね、連中の居場所は私が空から偵察すれば分かりますし」

 

 水着沖田は飛行速度が速い上に「気配遮断」スキルがあるので斥候には最適である。

 さらにいちいち報告に戻らず、通信機で連絡すれば効率は倍増だ。

 これは閻魔亭事件の後技術部につくってもらったもので、カルデア本部との通信はできないが特異点内部ではかなりの遠距離でも使える仕様になっている。それをあらかじめ「蔵」に入れておけば、レムレム特異点でもこうして長距離会話できるのだ。

 当然晴信にも渡してあるから、何か異常があればすぐ連絡できる。

 

「未来には便利なものがあるんですねえ。私たちの生前にこんな物があれば……先方も使うでしょうから一方的に有利とはなりませんか」

「まあね。今川側が作ってないといいんだけど」

「それは大丈夫だと思うぞ。少なくとも僕は見たことない」

「よかった、携帯電話は車や服とは別の技術体系になるからですかね」

 

 そしてこの周到な事前準備と偵察技能により、一同は何事もなく伊那IC(いなインターチェンジ)で中央道に入り五稜郭の後ろに回ることができた。

 すでに日が半分沈んで暗くなりかけているが、五稜郭が北東の空に浮かんでゆっくり遠ざかっていくのがまだ見える。あれが敵でも危険物でもなければ、仙人が住む秘境めいて神秘的な趣がある風景なのだが、現実というやつはロマンがあまりなかった。

 軍隊の気配はない。いるとしたら相当北の方だろう。

 このICには駐車場があるので、そこに車を停めてこの先は徒歩(と飛行)になる。

 

「なるほど、ここなら帰る時もすぐ見つけられるな。

 さすがキッチンカーやってただけあって段取りがいい」

「……どう致しまして」

 

 このマスターはささいなことでもよく褒めてくれるので、孫市の件でやや自信喪失気味の今の蛍には精神的にとてもありがたかった。

 出会えてよかったと改めて思う。

 

「……それで、これからどうするの?」

「そうだな、もうすぐ日が暮れることだし、変身するのはその後にしよう。

 雲が出てるから俺はその上で待機で、蛍さんたちは予定通り土方さん救出ね。

 留守番部隊を全滅させられればそれに越したことはないけど、難しければ無理しなくていいから」

 

 留守番部隊を全滅させた上で操縦室があれば、移動を停めて所有権も奪えれば五稜郭を「蔵」に入れられる。兵士の遺体はまあ、五稜郭を逆さにしてシェイクして振り落とすとか?

 それ以外の場合は元の場所に戻すか、「天星掃投(スターズ・ドロー・スルー)」をやるかどちらかになる。

 

「んー、待てよ。敵が強くて脱出することになった場合、飛べるのが7人中3人じゃちょっと危ないか……。

 仕方ない、飛べるようになるお宝を貸そう」

 

 といってもウイングドブーツは練習しないと使えないので、このたびは練習しなくても使える上級アイテムが必要だ。

 特に蛍が持つ場合は攻略中も空飛ぶ銃兵すなわち戦闘機になれるが、代わりに目立つから敵の攻撃が集中しても落とされないよう防御力を強化するのが望ましい。

 

「というわけでこれ、藕糸歩雲履(ぐうしほうんり)鎖子黄金甲(さしおうごんこう)ね。もちろん貸すだけだけど」

「え、これもしかして」

 

 光己が取り出した靴と鎧は、先日見た竜王の冠と同じくらいの存在感と神秘の濃さを持っていた。

 ということは……。

 

「うん。鳳翅紫金冠(ほうししきんかん)と同じく、四海竜王が孫悟空に奪われたお宝だよ。サイズが可変式だから蛍さんの体格でも使える。

 残る1つもあるけど、これは今回は用がない」

 

 残る1つ、すなわち如意金箍棒(にょいきんこぼう)は長さや太さは自由に変形させられるが重さは銘の通り8トンで固定なので、サーヴァントでも武器として使うのは難しい代物なのだ。

 逆に五稜郭をどうにかできるほどの重さでもないから、このたびは(おび)に短し(たすき)に長しというわけである。

 なおこの件が初めての沖田と斎藤は口をぱくぱくさせるばかりで喋ることもできない有り様だったが、むしろ普通の反応というべきだろう……。

 

「分かった、その信頼には必ず応える」

 

 事情がどうであれ竜王の財宝を2つも貸し出すというのは、能力はもちろん人格もとても高く評価し、重要な存在だと思ってくれているからこそだろう。

 雑賀、いや雑賀蛍の名にかけてそれを裏切るわけにはいかない。蛍は改めて、この仕事を完遂させる決意を固めた。

 

「うん、よろしく」

 

 蛍が鎧と靴を装備し終えたら、次は暗くなるのを待ってから光己のドラゴン変身である。

 体長2キロという巨大な異種の出現に、蛍たちは驚愕の息を飲んだ。

 

「こ、これは……!?」

 

 このような常識外れの生物が地上に実在していたとは。

 神秘の質と量も次元違いだ。彼の周りの空間自体が(きし)んでひび割れそうに見えるのは錯覚だろうか?

 そういえばリリスが「アレは特異点(ココ)に長時間居ていい存在(モノ)じゃない」と言っていたが、これなら確かに納得だ。

 このメンツの中で沖田だけは以前のファヴニールとアルビオン(小)を見たことがあって多少は心の準備ができていたのだが、それでもまともな論評の言葉がでてこない。

 

「そ、それにこの力は……!」

 

 それほど強大な(いにしえ)の大怪獣がマスターとなれば、契約サーヴァントが受ける依代効果・魔力供給は計り知れない。これもリリスが言っていた通り、全員スペック爆上げ&宝具使い放題だ。

 

「もっとも沖田さんの宝具は負荷が大きいのでいくら魔力があっても連打はできないのですが、とにかくがんばりますので!」

「うんうん。宝具連打なんてだるいよねー」

「いえ、私は怠惰なわけじゃなくてむしろその逆でですね」

「どっちにしても、ここまでしてもらってしくじるわけにゃいかねえよな。朗報を待っててくれや」

「それについては同感だ」

 

 光己の変身まで終わったら、次はサーヴァント勢の出発地点への移動である。ちょうどよく五稜郭の真上に大きな雲があったので、6人は光己の頭の上に乗ってその雲の上まで連れて行ってもらった。

 

「ここならマスターの姿は連中には見えないし、僕たちは雲を通り抜けていけば真上から乗り込めるってわけさ」

 

 真上から乗り込むなら、その時に五稜郭の天面を見ておくことができる。上空からの爆撃もしやすいし、横から行くより有利なのだ。

 

「幸運でしたね。ところで五稜郭にはサーヴァントは何人いるんですか?」

「えーと、5人だね。真ん中辺に2人、残り3人は1人ずつバラけてる」

「なるほど、1人が土方さんを見張ってて、3人は本丸の外を警備してるわけですね」

 

 土方がまだ殺されずに囚われたままなら敵サーヴァントは4人、おそらく全員人造義元だろう。何しろ連中はこの岩塊を地上に落とすつもりなのだから、氏真たちが残っていたらその衝撃で死んでしまう可能性大なので。

 

「しかしサーヴァントを4人も残してるとは、伊東の奴ずいぶんと手厚い歓迎してくれるじゃないか。

 この分なら兵士も大勢いるだろうしな」

「そうだな、それじゃせいぜいもてなしを堪能させてもらうとするか。クカカカカ!」

「……それで、どんな風に突入するの?」

 

 斎藤と永倉はパワーアップした自分に自信があるのか余裕ありげだ。

 一方蛍は気が()くのか雑談に乗らず本題に戻るよう求めると、2人とも真顔になった。

 

「ああ。まずあんたと天使の嬢ちゃんと沖田ちゃんが空から飛び道具をばらまいて、奴らを攪乱するついでに悪魔の嬢ちゃんが言ってた罠を爆破する。その上で悪魔の嬢ちゃんの風技で僕と新八を安全にした本丸入口に降ろしてもらって、その後は流れ次第……ってとこか?」

「そうだな。サーヴァントが外に3人いるってんなら、全員で土方の所に突っ込むのはまずそうだし」

「……分かった」

 

 2人が出した案は蛍の感覚でも妥当だったらしく、銃兵少女は短く答えて頷いた。

 これで事前の準備はすべて終わり、あとは行動あるのみである。

 

「では行ってきます!」

 

 6人が光己の頭の上から降りてその下の雲を通り抜けると、眼下に五稜郭の天面の全景が見て取れた。斎藤が描いた図面通りの構造だったが、己の目で見ればより正確に把握できるというものだ。

 もう暗いので肉眼では兵士がいるかどうかは分からないが、現場経験が豊富な日ノ本勢4人には大人数が(たむろ)している気配がひしひしと感じられる。

 

「こりゃすげえ、鳥羽伏見の時なんざ目じゃねえ数が居そうだぞ。よくこれだけ揃えたもんだ」

「まあ()()()()()()()()()が、時間制限がありましたよね?」

「晴信の大将は2日と言ってたが、48時間きっかりとまでは言ってなかったから余裕を持って動かにゃならんな。

 といっても奴らを全滅させなくても土方を助けさえすればいいんだから、()()()()()()難しい仕事じゃねえはずだ」

 

 鳥羽伏見の戦いは両軍合わせて2万人ほどだったから、それが目じゃないという永倉の感覚が合っているなら本当に10万人くらい居そうである。

 もっとも最低限の勝利条件は彼が述べた通り土方を助けて光己の所に戻ることなので、実際に倒す数はこの10分の1以下で済むはずだ。

 なお完全勝利条件は敵全滅&(あるかどうかすら不明な)操縦室発見という高難易度かつ時間がかかるもので、マスターも強くは希望してなかったから無理にやる必要はあるまい。完全勝利が必須でないのなら、それにこだわるより一刻も早く晴信たちの救援に行くべきだし。

 

「というか魔術使ってるわけでもないのに何で兵士が大勢いるって分かるの? やっぱりジャパニーズサムラーイはフジヤマとかゲイシャとか東洋の神秘持ってたりするの?」

「いや単に現場踏んで勘が鍛えられたってだけで、富士山も芸者も関係ないけど……。

 まあ富士山なら明日天気が良ければ見えるから、興味があるなら見てみれば?」

「おおー、それは楽しみ」

 

 リリスがどこから得た知識なのかステレオタイプな日本観を披露したが、本気なのか会話のネタに出しただけなのかは不明である。

 

「……では行きましょうか。

 御用改めです! 手向かいする者は(ことごと)く斬り伏せよ!」

「おお、もしかしてこれがブシドーってやつ? キマってるねえ……」

 

 そしていよいよ出撃となり、沖田は副長救出の仕事ということで気合いを入れて新選組風味いっぱいな口上を述べたが、リリスはやっぱりユルかった。

 

 

 




 戦いの後で男女が並んで富士山を見るなんてやっちゃったら、リリスが相方の座にまた10歩くらい近づいてしまうのでは。
 マシュピンチ!(酷)
 ではまた次回に。


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