謙信は自陣の先頭まで戻って来ると、味方に向かって全軍突撃を命じた。
「今です! 皆の者、我に続けー! 殺せ―! にゃー!」
一部意味が分からない単語も混じっていたが、言いたいことは伝わる。兵士たちはすでに準備を済ませており、すぐさま前進を開始した。
実際大将を失った軍隊は脆いものだし、それが一騎駆けの敵に真正面から討ち取られたとなれば尚更だ。今魔川兵は脳改造されていて逃げることができないからその場にとどまってはいるが、精神的な動揺はあるし指揮系統も混乱している。「今です」というのは正解だった。
ただし5千対推定15万という歴史的にもあまり例がない人数差の、しかも不利になっても逃げない敵との戦いであり、その上これに勝ってもまだ次があるという常識的には絶望的な情勢なのでサーヴァント勢が一騎当千を超えて万夫不当の活躍をせねばならないが。
それゆえ謙信は「我に続け」と言った通りみずから先頭に立って
(いくらマスターが気前良くて私が婚約者でも、竜王の武具を4つも貸してもらえる機会なんてそうそうないでしょうからね。存分に使っておきましょう!)
という極めて俗っぽい、言い換えれば「人間らしい」理由なのである。
なので光球は解除して
「さすがは竜王の武具だけありますね! このままがんがんいきますよ!」
ただ謙信はこの軍の実質的な総大将なので、1人で暴れ回っているだけではダメで部下たちにも目を配らねばならない。つまり敵中に突っ込んでいくらか戦ったら引き返して味方の状況を見て何かあれば指示を出し、それが済んだらまた敵中に乗り込むという無茶な動きになるが、戦闘能力も指揮能力も激烈に高いので難なくこなしてしまっていた。
むろん、他のサーヴァントたちも謙信無双を指を
「では土方さん、私たちも行きましょう!」
「ああ。しかしおまえはその服装のせいか何だか浮かれてるように見えるから、くれぐれも気を引き締めて行けよ」
「大丈夫ですよ、我がジェット天然理心流は最強無敵ですから! 『病弱』も治ってますし」
「だからそういう所なのだが……しかし
謙信が中央にいるから土方と沖田は左右に別れることになるので、その前に土方は上役として部下に注意をしたのだが、効果のほどはそこそこのようであった……。
「じゃあいくか。おおおおおっ、新選組、出るぞ!!」
「一番隊も出ますよ! 生前は鳥羽伏見にも五稜郭にも行けませんでしたが、今回は最後までやりますからね!
あ、そういえば私が五稜郭攻略に参加したのってどういう意味合いになるのか……ま、細かいことは斬ってから考えましょう!」
こうして新選組の2人は出撃したが、残る1人の刑部姫は別の仕事のため本陣に残っていた。
「折り紙で爆撃機つくって敵の中央部に打撃を与える……普通のサバゲーじゃあんまり出て来ない作戦だけど、まあ私ってば千代紙大隊長だからね」
今の刑部姫は水着霊基なので多少アクティブになりサバゲーにもハマっているとはいえ、元は陰キャの引きこもりだから本当の
「うん、味方に誤爆しないよう気をつけてね」
そう言った光己も本陣で待機だが、やることがないわけではない。
戦場では手柄を立てた者にその場で恩賞を出すという風習があって、光己は一応名目上の総大将なので足元に砂金を入れた
それとは別にちびノブたちは信長から生まれた身だから(少なくともこの特異点では)「一銭切り」の精神を持っているので地域住民への略奪狼藉はしていないが、それは彼らへの給料がしっかり払われるのが前提だと思われるから、その辺の対応も兼ねている。もっとも甲府から川中島までは元は晴信の領土だったので、狼藉しないよう彼が何らかの手立てをしていたと思うが。
なおこの時代の軍隊には「
「問題は晴信公にお金もらうの忘れたってことだな。冠のことばかり考えてたけど迂闊だった。
後でもらう暇なんかないだろうなあ」
つまり金櫃に入っている砂金は光己の自腹だった。五稜郭の金蔵から中のお金だけ取り出すこともできるが、これは当然ながら使ったらその分減るので、使ってもまた増える砂金で払っているのだった。
「武田の大将さんも悪気はないと思うよ。単にそこまで気が回らなかったんじゃないかな。
というかマーちゃんって五稜郭懐に入れたんでしょ? そっちの分け前要求される方が痛いんじゃない?」
「んう? そうだな、公の方から言い出しては来ないと思うけど、こちらから話振ったらあり得るな。
ここは藪蛇突かない方が賢明か……」
「うん、その方がいいんじゃないかな」
謙信は光己を「気前がいい」と評していたが、誰にでも無制限にというわけではないし、まして刑部姫は場合によってはクレジットカードを勝手に使って買い物することもある腹黒タイプだから尚更なのだった……。
「それはそれとして、戦況はこっちが優勢だけど敵が減ってる感じがしないな。
刑部姫さん、昨日は何時間くらいかかってた?」
「んー? そうだね、8時間くらいじゃなかったかな?
ホントの戦って大変だねー。ましてや普通の人間の兵士だとごはんとかお花摘みもあるんだし」
そこまで言って、刑部姫はふと気づいたことがあった。
「あ、マーちゃんはその辺大丈夫なの?」
「ああ、俺はその気になればどうにでも」
光己は身体的にはアルビオンボディが99.99%以上なので、食事や排泄や睡眠の周期については人間並みにすることもアルビオン並みにすることもできる。戦が何時間続こうと支障はなかった。
「しかし8時間か。関ヶ原の戦いは6時間だったそうだけど、今回はぶつかり合う面積が狭いからそんなもんか……。
いや待てよ。8時間が2回で後始末とかも入れると、今11時だから川中島に着くのは明日の朝になっちゃいそうだな。五稜郭取り上げといて本当に良かった」
「あー、そっか。川中島に着いたら終わりじゃなくて、今川の本隊との決戦もあるもんね。放っておいたら間に合わなくなる可能性もあったんだ。
でもあれだね、もしマーちゃんが普通の人間の魔術師だったら体力や魔力が保たなかったんじゃない?」
「んー、それは確かに」
その場合食事や睡眠はどうにかしたとしても、サーヴァントが戦っていたら魔力は使う。カルデア本部からの供給があっても身体の負担は重そうだ。
特に謙信は強いぶん魔力消費も多いし。
「うーん。実は俺―――体は―――竜になってなかったら死んでたケースが何度かあるんだけど、今回もそれに入るかも知れない」
「え、ホントに? カルデアのマスターって大変なんだね」
光己は態度も雰囲気ものほほんとしててあまり緊迫感がない人物だが、やはり仕事はハードなようだ。
だからといってそれに付き合って粉骨砕身なんてするつもりはないけれど。
「うん、みんなのおかげで何とかやれてるって感じだな」
これは光己のまごうかたなき本音である。実務面でも精神面でも。
(それでもこういう大人数がぶつかり合う戦場はやっぱ慣れんよなー)
今回は味方がよく分からない謎生物で敵が半分人間でなくなってるモノたちだからいくらかマシだが。
ちびノブはやはりサーヴァントが召喚した存在のようで倒されると消えていくが、今魔川兵は遺体が残っている。今回は埋葬する余裕はないが、せめて冥福は祈ろうと思う。
一方本隊は謙信が抜けた穴はやはり大きかったが、晴信が戦闘に参加できるようになった上に、蛍の機関銃が多数を攻撃するのにとても有効なので多少は埋め戻せていた。
とはいえ今川軍もやられっ放しではなく、僧兵隊が横に並んで火炎放射器を斉射されると永倉や斎藤のような近接戦闘専門組は動きが取れない。
「仕方ない。めんどいけど援護するよー」
しかし武田軍には大天使の加護があり、メタトロンが水流を放つとその間だけだが火は消える。そこに抜刀突撃して、手当たり次第に斬り倒した。
「そういえば
「ほんと、世の中何が起こるか分からないもんだねえ……」
「ノッブー! 車に火を放つような曲者は焼き討ちノッブ!」
もちろんちびノブたちもそれに続いて、僧兵たちをテキトーに
「でもマスターがそばにいないと違法スキル連打できなくて物足りないんだよね」
「分かる。ボーナスタイムを経験すると、それが当たり前だと勘違いしがち」
「うんうん。でもそこで切り替えをちゃんとしないと破滅一直線という辛み」
「それも分かる。人生は山あり谷あり綱渡り」
「うん、でもマスターと一緒ならきっと大丈夫だよ」
軍隊同士の戦闘といっても、山あいの路上での戦いとあって実際に戦闘に参加している人数は少ない。なので後衛組は雑談をかわす余裕もあったが、それは敵の大将が現れるまでのことだった。
「……サーヴァント反応が移動中。もうすぐここまで来るよー」
メタトロンは援護だけでも大役なのに敵将の動向を探る仕事も持って大変めんどそうにしていたが、それでもさぼらず果たしてくれるあたり立派に大天使しているといえよう。
―――そして武田軍の前に南海道覇王が現れる。
顔形や体格などは五稜郭にいた人造義元とまったく同じで、配下として「猫奉行」と「足軽猪」を連れていた。どこで見つけたのかは不明だが、義元が配下にしているだけあってただの野生動物ではなく、猫奉行は義元より大きな体で二足歩行し服を着て
ただし義元本人は五稜郭にいた彼より弱い。義元の正面から相対した永倉と斎藤にとってそれは肌で感じられる明確な事実だった。
「まあ、こっちはもっと弱くなってるんだがな!」
「正確には『あの時だけ特別に強かった』なんだけどツラいねえ……」
といって簡単にやられる気はないが、彼が連れている2頭のモノノケも放っておいたら手癖が悪いことをしてきそうな雰囲気がぷんぷんする。ちょうど2対2でもあることだし、大将首は他に譲ってモノノケ2頭とそれぞれ1対1でやり合うことにした。
その意図を察した晴信が、指揮車にしていた4WD車から飛び降りて義元の前に立つ。指揮車が現代モノだからか、戦国風ではなくスーツ姿にしていた。
「南海道覇王だとか大層な看板掲げてるみたいだが、
とっとと消えてもらうぜ」
「それはこちらの台詞よ。海道一の弓取りの力、その身に刻み込むがいぐうっ!?」
義元の台詞の最後が不意にうめき声に変わり、眉間から血が噴き出す。
何者かに狙撃されたのだ。よろめきつつも、ぐっと踏ん張ってそちらに顔を向ける。
「き、貴様は先日逃亡した杉谷とかいう傭兵……!?
木っ端坊主風情が大将同士の対決に割り込むか」
義元の怒声は一般人なら気絶しそうな凄味があったが、杉谷は柳に風と受け流した。
「それがどうした? しがない木っ端でもお偉いお覇王様でも、鉛玉の前じゃ平等なんだぜ!?
くらいな、『
ついで渾身の力を弾にこめて宝具を放つ。
杉谷もまた義元が弱っているのではないかと疑い、先ほどの狙撃が効いたことでそれが事実だと確信した。その上で宝具開帳に至ったわけである。
これは1丁の種子島銃に2つの弾丸を籠めて1度の射撃で同時に発射するという特殊な手法で命中率と破壊力を高めた銃撃で、2個の弾丸が流星のように炎の尾を引きながら義元の右眼と心臓に迫った。
「ぬう!」
顔に何かが飛んできたら反射的にかばってしまうものだ。義元はとっさに両腕を上げたので頭部を守るのは間に合ったが、代わりに胸部はがら空きになった。
左前腕と胸板に弾丸が命中して炸裂し、炎が直径3メートルほども広がる爆発を起こす。
「よーし、当たった! でもさすがに死にはしねえか」
「というか何で火縄銃の弾であんな爆発が起こるの?」
「……まあ、宝具だからかな?」
撃った側とそばにいた悪魔な少女は呑気なやり取りをしていたが、撃たれた側は当然怒髪天で報復……したいところだったが、炎が収まる、つまり義元の視界が回復する直前に晴信が襲いかかった。
「火の如く!」
手に持った軍配を横に薙いで義元の横腹を打つとこちらも赤い炎が炸裂し、義元が身体ごと横に吹っ飛ばされる。しかし今回も地面に倒れはせず両足で踏みとどまった。
「おのれ下郎どもめ。皆の者、こやつらを囲んで
「はっ!」
義元の
主人公がちびノブに渡す恩賞を用意していますが、これは原作第10節で森長可が「てめぇら気合いれて働けよ! 手柄を立てりゃあ城持ちも夢じゃねえからな!」と言ってて、ちびノブも「箱根に夢のガレージハウスが見えるノッブ!」と答えてて恩賞もらえる認識持ってるところから書きました。
あと星5エリちゃんお招きできました。ハロウィンをファイナルまで書くモチベが湧くというものです。ここのカルデアではエリちゃん全員は揃いませんが、その辺は主人公が何とかしてくれるでしょう(ぇ
ではまた次回に。