FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第288話 川中島24時3

 晴信が速攻でケリをつけようと、軍配をかざして義元を急追する。彼の軍配はかの有名な「風林火山」を再現する能力を持ち、振るうたびに旋風や火炎が起こったり岩石が転がったりするのだ。

 

「うぬ!」

 

 義元は軍配自体は刀で受けられても、追加で来る風や炎や石(つぶて)は防ぎようがない。たちまち裂傷や火傷や打撲傷が増えていく。

 しかしそこに、斎藤と向き合っていた足軽猪が横合いから晴信に体当たりを仕掛ける。晴信は後ろに跳んで避けたが、義元への攻撃はいったん途切れてしまった。

 義元が体勢を立て直しつつ、両肩の独楽(コマ)から炎の竜を放って反撃に移る。晴信は軍配を振って、縦長の石を出して盾代わりにして防いだ。

 

「む、甲斐の虎と呼ばれただけある機転だが甘い!」

 

 義元は石の盾という防ぎ技を読めてはいなかったが、素早く反応して前に出る。そして石の盾を思い切り蹴り飛ばした!

 石の盾はお互いの視界を塞いでいたため、晴信は義元の動きが見えていなかった。そのため飛んで来る盾は不意打ちとなり、顔に当たって後ろによろめく。

 

「よし、今ぞ!」

「グルルル!」

「おっと、そうはさせるかい!」

 

 義元と足軽猪は当然追い討ちをかけようとしたが、主敵が別方向に行って手が空いた斎藤が義元を追いかけて横合いから斬りつける。脇腹を斬られて義元が足を止めた。

 

「チッ、やっぱ浅いか……!」

「うぬ、小者の刀で傷がつくとはやはり魔力が……」

 

 両者ともお互いの非力さに舌打ちしつつ、1対1の形になり刀を振るって切り結ぶ。

 一方猪は義元が抜け単騎となっては晴信相手は分が悪い。

 

「フン、猪が虎を襲うとは思い上がりが過ぎるんじゃないか?」

 

 晴信が薄く笑って、先ほどの意趣返しなのか軍配すら使わず猪の鼻を足で蹴飛ばす。猪は鉄の壁にぶつかったかのように跳ね飛ばされて地面に倒れた。

 足軽猪は体重が200キロ近くある上に妖怪化している強者だが、実は自然界では虎は猪を捕食しているという現実があるので「甲斐の虎」に対しては概念的にも不利のようだ。

 

「やはりな。今度は邪魔が入る前に決めてやる。

 今昼前だからちょうどいい、ぼたん鍋にして喰ってやるぜ!」

 

 さらに1歩踏み込んでタンカを切った晴信の猛気はまさに獲物に襲いかかろうとする虎のようで、足軽猪は起き上がったはいいものの完全に精神的マウントを取られて(すく)み上がってしまった。

 

「おらぁ!」

 

 その脳天に晴信が大上段から軍配を叩きつけ、ついで間髪入れず殴る蹴るのヤクザそのものの乱撃に移る。猪は「グルゥ……」と哀れっぽい鳴き声を上げるばかりで、反撃も逃走もままならない。

 

「とどめだっ!!」

 

 そして今一度の脳天への一撃で、足軽猪は頭蓋を割られて死亡した。

 

 

 

「おお、あれがジャパニーズヤクザってやつ? 本物は違うねえ……」

 

 リリスがいつも通り呑気に感嘆の声を漏らすと、蛍が話に乗ってきた。

 

「……あの人は武士としても特に強硬派の方だけど、そうでなくても舐められたらおしまいな界隈だから。

 たとえば私が『復讐は何も生まない』と考えて仇討ちをやめたりしたら、私個人はそれでよくても傭兵集団としての体面はとてもよろしくないことになる」

「そりゃまあ、本来殺生(せっしょう)禁止な俺らでさえ徒党組んでドンパチしてる時代だからな。本職の方々が平和ボケしてるわけにゃあいくまいて。いやこれは因果が逆か?」

 

 すると杉谷も話に加わってきたが、晴信=武闘派ヤクザという図式は誰も否定していないのが大変趣深かった……。

 

「なるほど、厳しい時代なんだねぇ……それじゃアテシもアップルどーん!」

 

 同情するようなことを言った直後に人類の全ての不幸の原因とも言える知恵の樹の実―――の模造品とすらいえない、当たったら破裂して怪しげな呪いがかかるだけの魔力弾を平気な顔でブン投げるリリスはやはり悪魔であった……。

 この一見赤いリンゴに見える魔力弾はリリスが出した時は通常サイズだったが、目標である義元に近づくにつれて直径2メートルほどにまで大きくなっていた。そしてどうせ当たらぬと初めから踏んでいたのか、急カーブして猫奉行の方に向かう。

 

「ン゛ニ゛ャッ!?」

 

 猫奉行は新選組最強格の達人という強敵と対峙していたため、斜め上横から不意に襲ってきたリンゴ弾に気づけなかった。側頭部にまともに当たって愉快な悲鳴を上げる。

 永倉ほどの剣士がこんな分かりやすい隙を逃すはずもなく、迷わず踏み込んで一気に決めにかかった。

 

「もらったぁ! 行くぞオラァ、『龍飛剣(りゅうひけん)』!!」

 

 これは技というより覚悟の発露で、まず思い切った斬り上げで敵の防御を崩し、そこに全力で唐竹割りを入れるという、それだけといえばそれだけの宝具である。しかし技ではなく覚悟という本質の通り、二太刀目は魔力の爆発さえ伴う強烈な対人魔剣だ。

 猫奉行も決して弱いモノノケではないのだが、これほどの斬撃に耐えられるはずもなく真っ二つに両断されて左右に倒れた。

 

「龍の尾、踏んで後悔しやがれ……ってあっちぃ!? ちょ、提灯(ちょうちん)が火ぃ噴いてきやがった!? や、やるじゃねえかおりゃぁっ!」

 

 ただ猫奉行が持っていた提灯が実は独立したモノノケだったので生き残ってしまい、斃すまでに頭部に軽い火傷を負ったが永倉のことだから問題はあるまい……。

 

 

 

 味方が多少ケガはしたが、敵将にも傷を負わせたしお供2人は倒した。これで武田側は勝勢になったが、逆にいえば今川側が敗勢になったということでもある。そうと察した義元は、1歩引いて体勢を整えると見せかけてそのまま逃げ出した。

 

「何ッ、逃げるだと!?」

 

 これには今打ち合っていた斎藤も彼に横撃を喰らわせようとしていた晴信も驚いたが、義元の方はしてやったりという顔をしていた。

 

「危険を感じたなら退くも将の(たしな)みよ。桶狭間の(てつ)は踏まぬ」

「チィッ、逃がすか……!」

 

 ここで義元を逃がすのは惜しすぎる。晴信たちは当然追いかけたが、義元は兵士を盾にしてきたので追い切れず、ついに視界の外に逃げられてしまった。

 

「これ以上追うのは危険か……やむを得ん、退がるぞ!

 しかし氏真本人ならともかく、人造義元が逃げるとはな。だが考えてみれば、奴は後ろにまだ西海道覇王がいるのだから合流して2人がかりで戦うこともできるわけか」

 

 敵ながらやると感心しつつ、追いすがって来る今魔川兵をやり過ごしていったん自陣に引き揚げる晴信たち。ついで混戦で乱れた戦線をいったん整頓して一息つくと、晴信はふと友軍のことが気になって通信機を取り出した。

 

「……はい、藤宮ですが」

「晴信だ。今いいか?」

「はい、大丈夫ですが何かあったんですか?」

「いや、今はいいんだが聞いておきたいことがな」

 

 例によって必要最低限な前置きの後、晴信は迅速に用件に入った。

 

「こちらは南海道覇王が前線に出て来て俺や永倉たちと戦ったんだが、お供の妖怪2頭は倒したんだが肝心の義元には『桶狭間の轍は踏まん』とか言って逃げられたのでな。そちらはどうなってるか気になったんだ」

「え、逃げられた、ですか……?

 なるほど、今川側はここでケリつけなきゃいけない理由はないから逃げてもいいわけですね。後詰(ごづ)めもいますし」

 

 カルデアのマスターは頭の回転はなかなか速くて、説明の手間が少なくてすむのが晴信的に楽だった。

 

「それでえーと、こっちですね。今は東海道覇王の軍と交戦中なんですけど、初手で謙信が単騎突撃して彼を倒して、もう掃討戦になってますね」

「そ、そうか」

 

 ただ彼は時々突拍子もないことを言ってきて、しかもそれが嘘でもハッタリでもない事実ばかりなのが少々こちらの頭の回転に悪かったが。

 それにしてもこちらが複数で当たって倒せなかった敵を、自分から1人で突っ込んで倒してしまうとは。いや「景虎+軍神」が魔力供給十分で、竜王の武具も借りたのだろうから妥当な戦果というべきか……。

 

「……ならそちらは問題ないな。

 だがこちらはそんな三国志みたいな真似はできん。奴がまた来るかどうかは分からんが、仮に西海道と2人で来たとして奴らが兵士を盾にして逃げるのを防ぐ手立てはないか?」

 

 人造義元がもうこちらに挑んで来ず氏真がいる本陣に帰ってしまうならこちらに打てる手はないが、もし来たならば確実に討ち取っておきたい。

 これは戦術的には当然の思考だが実現するのは難しく、さすがのカルデアのマスターもしばらく考え込んだ……が、驚くべきことに彼には案があるようだった。

 

「…………ええと。そちらにはメタトロンがいますから、人造義元を探知してから接触するまでに多少の時間はありますよね?

 その間に俺がそちらの上空に行って待機して、義元が逃げたらその辺りに大技ぶち込んで一撃入れつつ足止めというのはどうでしょう。

 道路がいくらか損壊するのは避けられませんが」

「ふむ? 悪くはないと思うが、俺たちとおまえたちは40~50キロくらい離れてるから時間的に無理があるし、上空からじゃ奴らの正確な位置は分かりにくいんじゃないか?」

 

 とはいえやはり現実的ではなさそうに思えたが、カルデアのマスターは今回も晴信の想像を超えてきた。

 

「いえ、俺1人か沖田さんと2人なら2、3分……余裕見て5分もあれば着きますし、サーヴァントは魔力が強くて量も多いから一般兵に紛れてても発見できますよ。

 ただし公たちと義元の区別はつきませんので、俺がぶち込むまでは深追いしないで欲しいですが。

 それともしその時にこちらも北海道覇王と対峙してたら行くのが遅れ……まあこれは連絡を密にしてれば何とかなりますか」

「そこまでやれるのか。分かった、では頼もう。

 その時が来たらまた連絡する」

 

 なので晴信は彼の案を採用することにした。

 むろんいくら強くて速いからといってマスターがむやみにサーヴァントから離れて出歩くべきではないのは承知しているが、もう最終決戦間近だからこの先何度もやるわけでなし、混戦の中で高空から一撃入れて退却するならよかろうと考えたのだ。

 

「はい、ではまた後で」

「ああ」

 

 ともかくこれで作戦は決まったので、晴信は通信を終えて指揮を再開した。

 

 

 

 

 

 

 それから何時間か経って日も傾いて来た頃、光己たち東部軍はようやく東海道覇王の軍の残兵を斃し終え、後始末もして行軍を再開していた。

 そして日が暮れて夜に入ったあたりで北海道覇王の軍の先頭を発見する。

 

「来ましたか。

 でもまだサーヴァント反応はありませんね。私の突撃を警戒して後方にいるのでしょうか」

「んー、あり得るな。俺が北海道覇王だったらそうする……いや諦めて本陣に帰るか、山の中に潜んでゲリラ戦でもするかな」

「ふむ。その方がより賢明だとは思いますが、『海道一の弓取り』としてはそうはいかないでしょうねえ」

 

 南海道覇王が桶狭間という言葉を出したなら、彼らは「上洛」を少しは意識しているだろう。それには名誉や体面といったものがかなりくっついてくるから、戦死を避けるための一時撤退くらいならまだしも、諦めて帰るとか山中でゲリラ戦といったカッコよくない戦い方はしたくないはずだ。

 

「あー、そういうのって色々めんどいよなあ。

 そうだ、義元がすぐには来ないなら、晴信公と約束した大技の予行演習してみてもいいかな。

 もう暗いから効果が見えづらいけど」

「そうですね、いいのではないでしょうか。

 でも念のため、沖田殿もご一緒していただいていいですか?」

「ええ、もちろん」

 

 そんなわけで光己は獣モードになると、沖田と一緒に100メートルほどの高さまで飛び上がった。

 もう夜だから、こちらが何かする前に発見されることはあるまい。

 

「で、マスターは何をするんですか?」

「うん、今回はこれ」

 

 沖田の問いに光己はそう答えつつ、「蔵」から氷の剣を取り出した。

 そして妄想力(コスモ)を高めるための呪文の詠唱を始める。

 

「ファルス〇バ・キムエル〇ー・ライドザライ・ファムファ〇ラ・フォ・ビドー、凍土よ氷河よ荒れ狂え!」

「おおっ!?」

 

 すると光己が前方斜め下に向けてかざした剣の先に、氷片や粉雪を伴う極度に冷たい空気の渦が現れた。

 沖田視点では、光己が何やら大仰な呪文を唱え始めたと思ったら、彼の前に巨大な低温空間が出現したという構図になる。マスターはついに魔術を習得したんですね!と大変驚き感心したが、もちろんこれは盛大な勘違いである……。

 

極〇烈凍波(ビス・カ〇ー)!!」

 

 そして決めの力ある言葉(パワー・ワード)まで唱え終わると、氷雪の低温空間が斜め下に伸びて行って今川軍の先頭にぶち当たった。

 その後は道沿いに地上を進む、つまり今川軍を前から後ろに向かって呑み込んでいく形になって彼らを物理的に凍りつかせていく。

 

「ぐ、ぅぉあぁあ!?」

「さ、寒い、冷たい!?」

 

 悲鳴を上げる暇もあらばこそ。今魔川兵たちは突然襲い来た寒冷の吹雪で手足どころか心臓まで麻痺して次々に倒れ、あるいは彫像のように立ったまま息絶える。幸い、もしくは不幸にして生き残った者もまともに動くことができない。

 

「おお、暗いのでよく見えませんがすごいことになってそうですね。しかも吹雪なら道路の破損も少なそうです。

 でもこれ、味方の進軍にもさしつかえるのでは?」

「大丈夫、俺は炎の剣も持ってるし、何なら今川軍の僧兵の火炎放射器使えば解凍できるだろ」

「なるほど! 火炎放射器は敵も使ってきそうですが、人に使うと解凍通り越して火傷させちゃう恐れがありますから手間取るでしょうし、その分こちらは有利になりますね」

「うん、そういうこと。

 ちょっと疲れたけど、せっかくだからもう1回試してみるかな。少し前に出るから、沖田さん警戒よろしくね」

「ええ、お任せ下さい!」

 

 そして2発目の極零〇凍波で今川側の進軍がほぼ止まったところに、これは好機と見た謙信が藕糸歩雲履を使って上空から彼らの背後に回り込む。

 ただでさえ夜中だから発見されづらい上に敵は吹雪で弱っており、気づかれることなく彼らの後ろを取ることができた。

 

「ふむ、やはり義元は後方にいたようですね。

 では死ねーーーーい!!」

 

 あとは先ほど同様ルーラースキルで義元を発見し、無双突撃をやればいい。

 義元としては安全のために後ろにいたのに、そのさらに背後から奇襲されたのではなす術はない。あえなく討ち取られて、現世から退去したのだった。

 

 

 




 うーん、今回も主人公側と晴信側の温度差が酷いですな。低温攻撃だけに(ぉ
 あと前に「越後の龍」ネタをやりましたので、今回は「甲斐の虎」をネタにしてみました。
 ではまた次回に。


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