光己たちは、黒ジャンヌたちがエリザベートたちの三重奏のダメージから回復する前に戦いを仕掛けるべく、猛然と地を駆けた。黒ジャンヌ当人がいるのはほぼ確実だから、先鋒は例の4人に任せるつもりだが、離れている内に白ジャンヌたちの顔を見られたら、戦闘前に心の準備をされてしまうので、今は後ろの方に隠れてもらっていた。
「4人離れたといっても13対4なのに、マスターはやっぱり念入りですね!」
「そだな。確かに人数は勝ってるけど、それで油断や慢心して負けたケースは多いからさ。ましてや竜の魔女は聖杯持ってるわけだし」
ブラダマンテの言葉に光己はそんな風に答えた。
もっとも念入りに徹するなら射程距離が長いオルトリンデとアタランテに宝具で竜の魔女を集中攻撃してもらうのが1番確実なのだが、さすがにそれはジャンヌたちがしらけそうなので言わなかった。
「そうですね、それじゃ私も改めて気合い入れます!」
「おう、よろしくな!」
そしてさらに距離が縮まり、ついに黒ジャンヌたちの姿が視界に入る。どうやら三方に散開しているようだ。
「中央にいるのが竜の魔女、黒いジャンヌとヴラドですね。こちらから見て右にいるのがカーミラ、左は謎のヒロインXオルタ、宝具が『
すぐさま真名看破を行ったマルタだが、4人目の真名と宝具名を口にする段階でいくぶん当惑した表情になった。
真名は明らかに偽名というかコードネームの類だし、宝具も光己が好きそうな厨二的ネーミングである。いったい何者なのか!?
それを受けて段蔵がニンジャ遠視力でXオルタとやらの外見を確かめる。
「10代後半の若い女性のようですが、21世紀の日の本の女子学生が着る服……確かセーラー服といいましたか、それを着ておりまする。しかし得物は中世西欧風の長剣ですな」
「……??」
光己はそのちぐはぐさに首をかしげたが、興味はわいた。ぜひ見てみたい。
「それじゃ俺はそっち行っていいかな? もともと竜の魔女はジャンヌたちに任せることになってたし」
「それはまあ私たちはかまいませんが、いいんですか?」
もしかしたら、竜の魔女が人理焼却の内幕の1つや2つ知っている可能性もあるのだから、カルデアとしては直接問いただしたいところだと思うのだが。
「うん、できるならそうしたいところだけど、聖杯持ってる奴にそんな余計なことしたら危険そうだからさ」
「なるほど、それもそうですね」
そういえば昨日も彼は、「話や仕返しにかまけていらない反撃喰らわないように」と言っていた。そういう考えならジャンヌにこれ以上言うことはない。
「あと、もしXオルタって人が、また無理やり従わされてるんだったら助けたいしな。
今助けてもほんの短い間だけになるだろうけど、助けられる人を殺すのは嫌だし」
「そうですね。確かに作戦的にはさほどの意味はないかも知れませんが、それがマスターらしいと思います」
ジャンヌは、Xオルタを助けても大したメリットはないかも知れないと判断してなお、光己の希望に積極的に賛成した。
彼はどちらかといえば頭脳派だが、こういうお人好しな面も貫いた方が、きっといい展開になると思うから。
「ああ、ありがと。それじゃブラダマンテとアストルフォはこっちに来てくれる? 代わりにオルトリンデと段蔵はヴラドの方に回ってもらうから」
「はい、喜んで!」
「うん、いいよ!」
「わかりました。ですがもし危険を感じたら、令呪を使ってでも私たちを呼んで下さい」
「承知いたしました」
ブラダマンテとアストルフォはこういう話は好物だし、いくぶんシビアなオルトリンデと段蔵も、戦闘を回避できる可能性が高いので異論はなく、光己の方針が実行されることになった。
「それじゃみんな、気をつけてな。特にエリザは1人だから無理しないように」
「ええ、それじゃ行ってくるわ!」
そして光己・マシュ・ブラダマンテ・アストルフォの4人はXオルタの方に、エリザベートはカーミラの方に向かって別れた。残るジャンヌたちはそのまま直進して、黒ジャンヌとヴラドに当たることになる。
やがて光己の目にもXオルタの姿がはっきり見えてきた。
「うーん、本当に女子高生じゃないか……」
しかも、顔形が冬木で会ったリリィやアーサー王に似ている点も気になる。おっぱいのサイズはこちらがかなり大きそうだが!
あとヴラドやランスロットのような圧を感じないので、うまくやれば味方にできそうである。
助けるのが前提なので、今回も先制ブッパはしない。さいわいXオルタもまだ三重奏のダメージが残っているらしく、ちょっとふらついているようで先制攻撃はしてこなかった。
そして会話ができる距離まで近づく。
「聞いてくれ! 俺たちは竜の魔女と敵対してるが、あなたがもし狂化で強制的に服従させられてるんなら戦う必要はない。竜の魔女との契約を解除して自由にしてやれるんだが、どうだ!?」
光己が大声でそう呼ばわると、おとなしそうなその少女は、ほんのわずかに不快そうな表情を見せた。
「その言いようは心外ですね。私はこれでも
「え、そうなのか? なら何であんな理不尽な復讐の手伝いなんてしてるんだ?」
いくつかの厨二心くすぐる単語にちょっと心躍るものを感じたり、「ペンドラゴン」という称号にリリィやアーサー王との関係を確信したりしつつ、光己は最も重要なことを訊ねた。
Xオルタは隠したりもったいぶったりすることもなく、それに答える。
「私は
ここまで断言されては説得はあきらめざるを得ない。光己はすっと表情を改めた。
「そっか、じゃあ仕方ないな。嘘つかずに正直に言ってくれてよかったよ。今清姫がいないから」
無論サーヴァントたちも戦闘態勢に入った。ところがそこで、なぜかXオルタが片手を突き出して待ったをかける。
「しかし世の中話せばわかるといいます。条件によっては中立になってもいいです」
「……??」
はっきり言って怪しい。光己は
「条件? どんな?」
「私の
「甘味ね……」
光己は「そういえばリリィも小柄なのによく食べてたな」と懐かしがりつつ、とりあえず乗ってみることにした。
「確かドクターが送ってくれたごま団子と、ティエールで買ったごはんの残りがあったよな」
マシュに頼んで収納袋から甘味っぽいのを出してもらう。ごま団子のほか、ティエールの商店で今日のおやつとして買ったカスタードやクレープが残っていたので、差し出してみることにした。
ただ不用意に近づくのは賢明とは言えないので、袋に入れて投げて寄こす。受け取って中身を改めたXオルタがぱーっと目を輝かせる。
「これは……ここのお菓子ですね。それに和菓子まで……和三盆じゃないのが惜しいですが、とにかくいただきましょう」
Xオルタは遠慮なくお菓子を食べ始めたが、光己たちの視線に気づくとさすがに手を止めた。
「時代的にやや繊細さに欠けますが、十分美味しいですね。いいでしょう、契約は成りました。
残りは戦いがすんでからいただくということでもいいんですが、竜の魔女が倒されたら私も消えてしまいますから食べられません。何か手立てはありますか?」
「それならこっちの宝具で竜の魔女との契約を切れるから、退去になる前に俺と契約すれば大丈夫だよ」
「ああ、言われてみれば、貴方はサーヴァントじゃなくてマスターですね。わかりました、ではそれで」
こうして話はついたが、Xオルタが剣を持ったままでは光己たちは接近しづらい。彼らがさっき袋を手渡しせず投げてきたことでそれを察した少女剣士は、偽装投降でない証に剣を投げて寄こした。
マシュがそれを受け取ってXオルタが素手になると、ようやく光己たちは彼女のそばに近づいて、いつもの手順で契約した。
「……ふむ、無事パスがつながったようですね。ではさっそく、邪魔者を排除しにいきましょうか」
Xオルタは元のマスターに特に思い入れはないらしく、淡々と黒ジャンヌ撃破を提言してきた。光己はすでに8騎と契約しているところに、また増員と契約時の魔力譲渡が合わさってもうへろへろだったが、これも今日までと自身を鼓舞して、黒ジャンヌとヴラドが待つメイン戦場に向かうのだった。
その頃ジャンヌたちもついに敵の首魁の間近まで迫っていた。黒ジャンヌはまだ回復しきれていなかったが、ヴラドは吸血鬼だけに一足早く復調しており、ギラリと眼を光らせる。
「なかなか面白い挨拶だったぞ、今度は余の返礼を受け取るがいい。『
ヴラドの腹が裂け、鮮血とともに大量の木の杭が飛び出す。杭の山は地を這うようにして広がって、ジャンヌたちに襲いかかった。
まともに喰らえば無惨な死を遂げるのは必定である。しかし防御の専門家のマシュはいなかったが、カルデア勢はこの宝具を1度見ていたので受ける手はあった。
「風よ集え……果心礼装起動! 『
段蔵が突き出した両手の前方に風が渦巻き、横倒しの竜巻のようなものが現れる。それで杭を吹き飛ばそうというのだ。
「余の杭を風で防ごうというのか? 無駄なことを」
確かにすべて吹き飛ばすことはできなかったが、速度を落とすことはできた。その間にカルデア勢は二手に分かれて横に跳び、大回りして敵2人の元に走る。
当然それは対黒ジャンヌと対ヴラドという分け方であり、ジャンヌはとうとう黒ジャンヌと対面した。
「ようやく出会えましたね。私の顔をした誰か……!」
「!? 誰かと思えばもう1人の私……私の残り滓ですか。いえ、こいつらを組織したのは貴女なのかしら?」
黒ジャンヌは自分と同じ顔をした者が出現したというのに、たいして驚く様子はなかった。ある程度の情報は持っていたようだ。
「いえ、私はこの集団の一員にすぎません。とりまとめていたのは未来から来たマスター……いえ。後がつかえていますから1つだけ聞きます。貴女は、故郷のことを覚えていますか?」
「は?」
この問いかけは予想外だったのか、意味を測りかねた様子の黒い自分に、白いジャンヌは今一度言葉を重ねた。
「そのままですよ。ジャンヌ・ダルクが百年戦争に参加したのはわずか2年……いろいろなことがありましたが、それでも期間的にはドンレミにいた時間の方がずっと長い。
家族や村の人たちのこと、土の匂い、育てた作物の手触り……貴女はそれを覚えているかというだけの質問です」
「何をバカな。残り滓が覚えていることを私が覚えていないはずが……はずが、ない……?」
ことここに至って何を悠長な話を、と思いつつも答えようとした黒ジャンヌだが、どうしたことか、両親の顔や名前すら思い出せない。
記憶にあるのは百年戦争に参加した後のこと、もっと言えばジルと会って以降のことだけだ。これは一体……?
ジャンヌは黒ジャンヌのとまどった表情で以前から想像していたことが正しかったと確信したが、それを言うのは彼女にとってとてもむごいことだと思っていたので口にせず、静かに旗を地面に立てた。
それは、今この旗で攻撃する気はないという意味だ。不思議そうな顔をした黒ジャンヌに、ジャンヌは静かに告げた。
「今言ったでしょう? 後がつかえてる、って」
「え」
その時ようやく、黒ジャンヌは白い自分の周りに3人新手がいることに気がついた。
「ライダーにセイバーにアーチャー!? どうしてここに」
「どうして、ときたか。貴女の命令で殺された、フランスの民の仇を討つために決まってるじゃないか」
デオンが代表してそう答えると、当然ながら黒ジャンヌは激昂して反論した。
「バカな。なぜマスターである私に叛く? 叛ける? いやそれより前に、私とのパスは確かに切れた、今も切れてるのになぜ存在していられる」
「それは貴女が1番よく知っているんじゃないかな。
逆に聞くが、貴女はなぜ私たちに狂化をかけた? 普通に話をしても、同意してもらえないことがわかっていたからだろう。
ならば、貴女との契約を解除して、別のまともなマスターと契約したなら、貴女の敵になるのは当然のこと」
「そういうことだな。子供たちの痛みと無念、今晴らさせてもらうぞ」
「くっ……」
黒ジャンヌは返す言葉がない。今や人数的には圧倒的不利で、心情的にも押し込まれていたが、それでもまだ覇気は消えていなかった。
「そうですか、ならば仕方ありませんね。
有象無象が何人群れようと、私の憎悪と復讐の炎の前には、消し炭になるだけだということを教えてあげましょう」
「よく吠えたわね。じゃあ試してみましょうか」
「へ!?」
その声は妙に近くから聞こえた。あわてて旗を構え直したがもう遅い。
「鉄・拳・聖・裁!」
「ンアーッ!」
邪ンヌは、たおれた。
邪ンヌくっ殺は次回に!(ぇ