FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第290話 魔甲斐大戦カワナカジマ2

 赤い爆発の威力と範囲はサーヴァント基準でも非常識なレベルのもので、今川軍の推定被害者数は死者2万人、負傷者5万人ほどと思われた。地面には大きなクレーターが穿(うが)たれ、その外には今魔川兵の死体が累々と散らばっている。

 それでも赤い竜のブレスと考えるならショボいにも程がある期待外れな結果だが、人間が準備時間十数秒で使った術と見るなら超抜級の偉業といえよう。

 その分光己はかなり疲れた様子で、指揮車の上に戻るとはあーっと大きな息をついて座り込んだ。

 

「思った以上の威力だったけど、使う魔力も思った以上だったな……。

 カッコいいからまたやりたいけど、連発は無理そうだ」

 

 何しろ今回はレムレムレイシフトなのでカルデア本部からの魔力供給がない上に、大勢の契約サーヴァントたちがガンガン戦っているので魔力消費が多いのだ。

 いかにアルビオンの炉心が高性能でもしばらく戦闘は控えたい……というか、この状況で控えていれば回復するというのも実に非常識であった。

 

「確かに大技だったな、ご苦労だった。色が赤なのもいい。

 今のが直撃したならサーヴァントでも命はないと思うが……メタトロン、氏真たちの反応はまだあるか?」

「あるねー。光球を投げた時の狙いは正確だったけど、当たる前に気づかれて離れられたから」

「ふむ、奴らも警戒は怠ってないということか……。

 しかし指揮系統が麻痺するのは避けられまい。大幅に有利になったな」

 

 大将がいる総司令部には伝令や偵察をする兵士が大勢詰めているはずで、彼らがいなくなったら大将は前線の様子を知ることもそれに応じて各部隊に指示を送ることもできなくなるのだ。それだけでも成果は十分といえよう。

 

「ええ、大軍同士の(いくさ)は経験ありますから」

 

 ローマや前回の戦国時代で何度もやったことである。このためにわざわざ接近してから撃ったのだ。

 氏真たちを斃せれば満点だったが、ブーディカやダレイオスの時も(初撃では)斃せなかったのだから贅沢は言うまい。

 するとリリスが戦闘はちゃんと続けつつもねぎらいの言葉をかけてくれた。

 

「マスターお疲れー、しばらくは休んでいいんじゃないかな。今回も長丁場になるだろうしね」

「うん、どう致しまして。それじゃお言葉に甘えて……いや、次の仕事の準備でもしておくかな」

「準備?」

「うん、鉄砲隊対策のね。直接居場所を知ることはできないけど、様子を見ることはできるから」

 

 こんな時こそ、マーリンにつくってもらった「遠見の水晶」の出番である。光己がさっそく「蔵」から取り出して覗き込むと、リリスも興味を持ったのかチラッと横目で眺めてきた。

 

「あ、もしかして未来とか遠くの光景とかが見られる水晶玉ってやつ?

 そんな物まで持ってるなんてすごいねー! マスターだと女の子のスカートの中とか覗きそうだけど」

 

 何という偏見、何という暴言か。怒りに燃えた光己は、己の名誉にかけて強硬に抗弁した。

 

「失敬な。そりゃ偶然映っちゃうことはあり得るけど、意図的に仲間の女性のパンツ覗いたりなんかしないぞ」

「じゃあ敵だったら?」

「ん? ああ、敵なら問題ないな。冷静さを奪う効果も見込めるからむしろ推奨されることかも」

 

 すぐ馬脚を(あらわ)してしまうあたりがいつも通りの思春期少年だったが。

 

「いや、たとえ敵でも戦闘中にリーダーが目を血走らせて水晶玉に女の子のパンツ映してたら、さすがのアテシもかなり引くよ」

「むう、それもそうか……世の中ってままならないな」

 

 いくら休憩中とはいえ戦闘中なのに呑気なものだったが、彼も自分で口にした仕事はちゃんとしている。水晶玉の中に何人かの今魔川兵の姿が浮かび上がった。

 彼らは皆手に種子島銃を持っており、その近辺には木製の柵や杭やバリケードを持った兵もいる。

 

「これは馬防柵(ばぼうさく)……じゃなくて拒馬(きょば)ってやつか。今川軍も考えてるなあ」

 

 馬防柵とは長篠の戦で織田側が武田騎馬隊の突撃を防ぐために築いたような固定式(移動できない)の木製の柵で、拒馬は持ち運びできる障害物のことである。

 今川側は武田軍との戦いということで長篠の戦を意識してはいるだろうが、固定式の柵は敵が迂回して別の方向から攻めてきたら無駄になる。長篠の戦では柵に向かって突撃せざるを得ないよう事前に追い込んであったから固定式でもよかったが、今回はそうではないので移動できるタイプを採用したのだろう。

 防御力は当然固定式より弱いが、そこは鉄砲の数と今魔川兵の腕力で補うというところか。

 

「それじゃあさ、いっそ味方の陣地全部を柵で囲んじゃうっていうのは?」

「それはもう城とか砦って扱いになるな。手間かかるし資材もたくさん要るから、そこまでは無理だったんじゃないか?

 木下藤吉郎の一夜城も本当に一晩で築いたわけじゃないし」

「なるほどねー」

「逆に鉄砲を防ぐ道具として竹束(たけたば)とか木慢(もくまん)(車輪で動ける大きな盾)ってのがあるんだけど、騎馬隊や自動車隊にとっては使いづらいんだよな」

「マスターってば詳しいねえ」

 

 光己がこの特異点に来た後も勉強していたのは知っているが、専門用語込みでこれだけすらすら喋れるとは大したものだ。すでに魔力と武力と財力は十二分に持っていて、しかもカルデアに来たのは自分の意志ではなく拉致されてだというのに、知力を磨くことも怠らない姿勢には大変好感が持てる。

 

「まーな、もともとこういう方面は高校生としてはそこそこ知ってる方だったからさ。

 そうだ、ついでだから氏真たちも見ておくか」

 

 光己はリリスの内心の微妙な変化に気づいた様子はなく、今度は敵首脳の3人を水晶玉に映し出した。

 3人ともケガはしているが重傷というほどではないのは、爆発の瞬間に地面に伏せた上で兵士を盾にしたとかだろうか。

 

「うーん、やっぱり手強いな……しかも誰が誰だか分からん」

 

 実は光己はまだ氏真たちと対面したことがないので、敵将の姿を映してもその名前などは分からないのだ。

 するとリリスがまた横目で水晶玉を見て、その中の1人だけ教えてくれた。

 

「1番大柄で白っぽい顔してるのが氏真だと思うよ。人造義元とそっくりだから」

「へえ、義元は顔に白粉(おしろい)つけてたそうだけどやはりそうなのか……。

 でもそれ以外は公家風味あんまりなくて武将チックだな。迫力もあるし」

 

 創作だと義元は白粉に加えて麻呂眉とか口紅とかお歯黒といった貴族的な化粧をした顔で描かれていることもあるが、史実はそうではなかったのか、それとも氏真がそういう装いを嫌ったのか、当人に聞いてみたいと思わなくもないが難しそうである。

 

「あと2人はどっちがどっちだろ。服部は二刀流らしいから鎧着てる方かな? 白いコート着てる方はインテリぽい感じするから伊東だろうし」

 

 しかし(多分)服部が着ているあの鎧、幕末的アトモスフィアも現代要素もまるで感じられないのだが一体どこ由来なのだろうか。やはり世界は謎と神秘に満ちている。

 ついで3人の傍らにいた兵士の1人を見て、ふと違和感を覚えた。

 

「……ん?

 あの今魔川兵、よく見ると他のとちょっと違うな」

 

 全体的には今魔川の刀兵なのだが、身体の一部が金属に置き換えられているのだ。鉄の腕から刃物が生えていたり、鉄の脚から(とげ)が生えたりしている。

 当然普通の今魔川兵より強いだろう。そんな強兵たちが何人も、護衛として3人の周りに控えていた。

 

「なるほど、普通より強い兵士を盾にしたから軽傷で済んだってことか」

 

 光己はとりあえず今見た内容を晴信と謙信に伝えると、今度こそ頭も休ませるちゃんとした休憩に入るのだった。

 

 

 

 氏真たちは指揮系統を立て直すため、赤い爆発の被害を受けずに済んだ部隊に行ってそこの司令部を総司令部にすることにした。むろん人員は元の総司令部より少ないから機能は落ちるが、今は他に方法がない。

 ただもし武田側があの光球を連発できるならさすがに逃走も選択肢に入るが、今のところその気配は見られないので一安心である。

 

「誰の宝具かは分かりませんが、あれ程大規模なものを続けて使うのは無理ということでしょう。

 しかし時間が経てば魔力が回復してまた撃ってくるかも知れません。ここは攻勢を強めて混戦に持ち込むべきかと」

 

 敵味方が入り乱れる形になれば、ああいう無差別広域攻撃型の宝具は使えないはずだし、混戦になるのは人数が多い今川側にとって有利だ。多少無理をしてでもやるべきだという趣旨である。

 それはかつてローマでブーディカがファヴニールのブレスをくらった時に考えたのと同じ内容であり、部下の兵士が独断では逃げないという点も同じだった。もしここにいる兵士が何の細工もされてない普通の人間であったなら、とうの昔にあらかた逃走していただろう。

 

「うむ、そうする他あるまい」

 

 伊東の献策に氏真も同意して、今川本隊は委細構わず晴信の部隊に突撃することになった。

 その晴信隊は今川軍の指揮が乱れている間に総大将を討ち取ろうという案もあったが、それは時期尚早と判断して兵の方を討てるだけ討っていた。しかし今川軍がどうにか態勢を立て直して反攻に出ると、すぐに察して方針を変更する。

 

「大ボーナスタイムが小ボーナスになったか、思ったより素早いな。

 それになりふり構わずのように見えて、ある程度は連携が取れている」

 

 今晴信隊の正面には一般の刀兵と僧兵の混合部隊がいるが、右前方からはくだんの鉄砲隊、左前方からは見たことのない魔獣の群れが寄せてきている。三方から攻めてくる三種類の敵と同時に戦うのは難易度が高い。

 

「全軍、いったん下がって距離を取れ!

 カルデアのマスター、魔力は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。

 でも1人じゃアレですので、誰かもう1人ついて来て欲しいですね」

「じゃあアテシが行くよ。離れても比較的影響少ないしね」

 

 光己が鉄砲隊撃破もしくは足止めのための同行者を(つの)ると、今回もリリスが立候補してくれた。

 実際彼女の言う通り、短時間でも蛍やメタトロンが抜けるのは打撃力やサーヴァント探知の面で問題があるし、永倉と斎藤は兵の先頭に立って斬り込み役をしているのでこちらも抜けるのは好ましくない……というか来てもらっても用事がない。

 

「うん、ありがと」

 

 というわけで、2人は指揮車から飛び降りて敵鉄砲隊の方に向かった。

 先ほど水晶玉で見た通り、鉄砲と拒馬を担いだ兵士たちが近づいて来るのが見える。人数は1万人ほどだろうか。

 そうと見た光己は波紋を出して、パルミラで手に入れた騎士アーサーの盾を取り出した。

 

「種子島銃じゃ俺には効かないとは思うけど、マスターとしては慎重にね」

「じゃあアテシがそれ持って前に出るよ。違法スキルもあるからさ」

 

 するとリリスが護衛を申し出てくれた。

 光己は「いくら強くても女の子には戦わせられない!」なんて思想は持っていないし、むしろマスターはサーヴァントの後ろに控えているのが正しいというごく常識的な考え方をしている。素直に彼女の好意を受け入れて盾を渡した。

 

「そっか、じゃあよろしく」

「ん、任せといて」

 

 そして今川軍がさらに近づき、先頭の何人かが鉄砲を構えて撃ってきた。訓練が十分でないのか鉄砲の精度が低いのか、弾は大部分が外れたが、何個かが盾に命中してカンカーンという金属音を上げる。

 しかしそれだけで、盾にはかすり傷1つ付かず弾はそのままパラパラと地面に落ちた。

 

「おお、まだずいぶん遠いのに当ててきた……でもこんなんじゃ人間の兵士ならともかく、アテシたちにはまったく効かなさそうなんだけど」

「種子島銃は最大射程距離は200~300メートルあるけど、有効射程は100メートルくらいだそうだからな。ましてサーヴァント相手ならかなり短くなるんじゃないかな」

 

 ただし対サーヴァントを想定して銃や弾に特別な細工でもしてあれば別だが。

 一方今川軍は、敵がたった2人とはいえ1万の鉄砲隊相手に退かないのならサーヴァントに間違いないと見て、三段撃ちめいて一隊が銃撃している間に一隊は弾込め、残る一隊は前進という油断も隙もない戦術で有効射程への接近を試みる。

 

「おお、やはり長篠の戦いを意識してるな……」

 

 光己は少し感心しつつ、リリスの盾に当たる銃弾の音がだんだん大きくなってきたのでそろそろ反撃に移ることにした。

 

「じゃあいくぞ、『水底より招き蕩う常世の城(パレスオブドラゴン)』!!」

 

 いつも通り芝居気たっぷりな詠唱と共に、美しい水晶の城壁が出現する。

 先日は8メートル四方の広さだったが、今回は横40メートル縦2メートルほどだった。家屋がない代わりに、両端に池がある。

 

「うーん、まだ疲れてるからこれが限界だな。

 まあ弾除けや足止めにはなるだろ」

「あー、妙に細長いと思ったらそういうことね」

 

 正方形にするより横長の長方形にする方が、より広い範囲で敵を止められるというわけだ。

 今川軍は城を迂回して晴信隊を追うことはできるが、移動中の軍隊が方向転換するのは大変手間のかかることで、それを強いるだけでも足止めの役は果たせる。

 しかしもちろん、光己はそれだけで済ませる気はない。

 

「では行け、我と我がお姉ちゃんの精鋭たちよ!」

 

 光己がばっと手を振り下ろすと、両端の池から大きな鮫が次々と飛び出してきた。先刻彼が語った通り、空を飛んで上から今川軍に襲いかかる。これなら拒馬は役に立たない。

 数は100頭というところか。今川側は当然激しく驚いたが、鮫に到着される直前にギリギリ迎撃が間に合った。

 

「突然壁が現れたと思ったら空飛ぶデカい魚だと? どこのサーヴァントか知らんが、なんてキテレツな宝具だ」

「何でもいい、とにかく撃ち落とせ!」

「はっ!」

 

 今魔川兵が一斉に鮫軍団めがけて銃撃を始める。

 彼らが持つ鉄砲は魔王信長の霊基から引き出した情報を使っているからサーヴァントや幻想種にも有効だが、信長本人ではないので神秘特攻とまではいかない。鮫に命中しても1発や2発で斃すことはできず、ほとんどが今川の陣内に飛び込んでいた。

 

「わあーっ、鮫が、鮫が攻めてきたぁぁ」

 

 日本にいる鮫は大きなものでは体長3.5メートル、体重800キロにもなる。しかも神秘を帯びていて普通のものより強い彼らが縦横無尽に暴れ回るとあっては、いかに今魔川兵が改造されて強靭になっていても手がつけられない。

 目端を変えて城に攻めかかる兵もいたが、城壁から3メートルくらい手前まで来るとそれ以上進めなくなり、しかもしばらく経つと苦しげな顔になって後ろに下がっていく。

 

「何がどうなってるの?」

「竜宮城は海底にあるものだから、城の周りには『千メートル単位の厚さの海水』に相当する概念防御があるんだ。

 だからそう簡単には突破できないし、陸上の生物は息ができなくて苦しくなるってわけだな。

 ただし城内から出る時も有効だから、さっき言った通りこちらからの攻撃もできないけど」

「あー、それで空飛ぶ鮫なんだ」

 

 海空両生の生物なら概念防御を通過した上で外の敵と戦える。竜宮城の衛兵として打ってつけだが、おそらくはとても珍しい種族……というか()()()()()()()()()見たことがないが。

 

「それにしてもシュールな光景だねえ」

 

 リリスと光己は城壁の上の通路に立っているから鮫と今魔川兵の戦いが見えるが、今川軍は陣形はもう完全に崩れて乱戦になっており、そうなっては鉄砲は使えないから刀を振るっているが体格とパワーの差で苦戦しているようである。それはいいのだが、鮫が空を飛んでいるという絵面が大変非現実的なので、今魔川兵が必死に戦っているのは分かるがどこか滑稽味を感じてしまうのだった。

 一方城壁に攻めて来ている連中は、彼らの顔が改造されて骸骨みたいになっているからか、こちらを殺しに来ているのに逆に救いを求めてすがってくる亡者のようにも見える。しかしもちろん救いなどないわけで、哀れと無情さえ感じさせた。

 

「そうだなあ。

 しかしこれでも今魔川兵って逃げないんだな。やっぱり頭も改造されてるか」

 

 宝具の類で召喚あるいは創造した者はまっとうな生物とはいえないから別枠として、今魔川兵は元は普通の人間だったのに、今回の鮫はともかく「極〇烈凍波(ビス・カ〇ー)」や「竜咆斬(ドラグ・ブレイズ)」を見ても逃げる者がいなかったのは「脱走する」という思考自体を削除されているからとしか思えない。

 どこまで人をコケにしているのか。光己は改めて、氏真に因果応報を味わわせることを誓ったのだった。

 

 

 




 今魔川兵が逃げないというのを強調してますが、これは原作第9節の伊東の「さらには長きにわたり増やし続けた数十万の今魔川兵たち。そのすべてに魔力を供給し、死ぬまで戦い続けさせる、この魔術城塞、五稜郭」という発言からであります。
 ではまた次回に。感想、評価お待ちしてます。


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