FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第297話 報告会10

 軍神の大筒は光己には効かなかったが、2門あるから2人を同時に撃つことができるなら光己は1人しか守れない。つまり撃たせないように立ち回る必要が出てきたわけだが、彼女ほどの強者相手にそうできる方法など1つしかない。

 真ん前に立って殴り合いに持ち込み、撃つ暇を与えないことである。

 ただそれも人間モードではパワー的にも手数的にも難しく、獣モードになる必要があった。

 

「知り合ったばかりの人にはあまり見せたくない姿ですけど、あの時は他に方法が思いつかなくて」

「うーん、まあ仕方ないわねえ……」

 

 考えてみれば軍神はたった1人で武田と今川両陣営と渡り合ってきたのだから、強さが突出しているのはむしろ当然だ。まあそれ以前にマスターが敵サーヴァントと殴り合うこと自体が望ましくないのだが、そんな状況ではオルガマリーも原則論にこだわれなかった。

 だって情緒的な面を抜きにしたとしても、軍神の2人同時砲撃で味方サーヴァントが全滅したら1対1で殴り合うハメになるのだから。それなら味方がいる内にやる方がまだマシというものだ。

 

「それでどうなったの?」

「何とか接近戦には持ち込めましたが、お互い決め手がなくてしばらく膠着状態になりまして」

 

 ただ軍神はスペックが高すぎて、逆に中の人は戦闘経験を積めず駆け引きの面では未熟さが残っていた。それに気づいた光己は彼女を惑わせて、大筒と光背(こうはい)を奪うことに成功したのである。

 

「貴方ホントそういう方面は知恵回るわね……」

 

 オルガマリーは光己の手際を称賛しつつも、内心では冷たい汗を流していた。敵、特に正統派の英雄や賢者や魔術師にとっては強い弱いを通り越して不条理の域に達してそうな気がする。

 ―――しかしこれで軍神の2人同時砲撃は使われる前に封じ込めた。戦況はだいぶ有利になったはずだ。

 

「でもそれが軍神の逆鱗に触れまして。眷族召喚なんて大技かましてきましたので、いったん退却することに」

「召喚っていうと、ダレイオス三世やイスカンダルがやったあれ? 確かに対軍宝具がないとつらいわね」

 

 まして晴信がそれを見たことがない、つまり現れた者たちの能力を知らないのでは尚更だ。退却はやむを得まい。

 そういえば光己たちは戦闘を事前に回避したことはあっても、戦闘が始まってから逃げたのはこれが初めてではないだろうか。

 

「あー、そういえばそうですね。みんな無事でよかったです」

 

 合戦で1番被害が出るのは逃走して追撃を受ける時なのは皆がよく知るところだ。初めてやったそれで犠牲者が出なかったのは本当に僥倖であった。

 あるいは光己とリリスの性格と能力の相性の良さのおかげというべきかも知れない。

 

「そういうわけで、距離的に余裕を持って須玉ICまで退がってからまた作戦会議になったんです」

「大変だったのねえ……6人とも本当にお疲れさま。

 それでどんな作戦立てたの?」

 

 オルガマリーは労りの言葉を今話している光己だけに言うのではなく、「6人とも」としっかり前置きしたあたり組織のトップとしてさらに成長してきたといえよう。

 光己たちもそれに気づいて、特にカルデアに来るまで彼女のことを知らなかった蛍と刑部姫は安心したような顔を見せた。

 

「はい、最終的には幽霊が人間に取り憑いて身体を奪うみたいな感じで、謙信が憑依して霊基を乗っ取ることになったんですが。

 その前段階として、晴信公がもともと考えてあったという、公自身が囮になって軍神の刀を奪うという案を出してきたんです」

 

 ただ現在の状況では晴信が軍神の攻撃に耐えられない可能性が高いらしく、となると同盟者としては身体的なリスクまでは負わずとも、何らかの痛みを伴うような案を出すのもやむを得なかった。

 道義的・情緒的な面を抜きにして純粋に勝ち負けだけを考えるとしても、晴信が軍神の刀を受け切れないまま死んでしまったら戦闘が激烈に不利になるのだから。

 

「というわけで、俺も断腸の思いで我がお宝の中でも特にスペシャルな一品を貸し出したんです」

 

 なお1度貸したら前例になって2度3度となってしまうことはこの時点で読めており、それゆえの「断腸の思い」であったが、人理修復に臨むマスターの責任は文字通り地球よりも重いのだった……。

 

「……なるほどねえ」

 

 オルガマリーは光己が「特にスペシャル」とまで言うお宝を見てみたいと思わないでもなかったが、「断腸の思い」とも言っているのでそれを口に出すのは避けた。2人きりならともかく皆の前だし。

 

「あ、そうそう。この時に気づいたんですが、リリスとメタトロンと契約したおかげで、獣モードでまた翼全部出せるようになった上に熟練度(スキルレベル)も上がったから皆安心して下さい。具体的には何かサービスしてもらえると嬉しいですね」

 

 光己の方は思春期のリビドーが活性化でもしたのか、とても自然な口調でえっちな展開に持ち込もうとしだしたが……。

 

「え、アテシとメタトロンにお礼するんじゃなくて? いやアテシはともかくメタトロンにマスターがサービスはヤバいか」

「んー、お望みとあれば2人いっぺんにでもやぶさかじゃないけど?」

「何言ってるんですか先輩!?」

「大天使様に何言ってるんですかマスター!?」

「うぐぅ」

 

 このたびはマシュに加えてジャンヌまで阻止に回ったのであえなく撃沈した。当然の流れといえよう……。

 

「マスターよ。サービスを望むなら余が好きなだけくれてやっても良いが、それならその前に翼を出せる所を見せておくのが順序というものではないか?」

「ドラコーさん!?!?」

 

 ところがそこにドラコーが(清姫のことは言えないような)爆弾発言を放り込んだので会議はしばらく紛糾したがそれはさておき。翼を見せておくべきという意見自体は妥当なので、光己はそうすることにした。

 

「見よ、我が拭涙(しょくるい)の翼を!」

 

 「拭涙」は漢詩や太平記にも出てくる言葉で、光己の翼は味方を癒したり援護したりする権能を持っているからわりと的を射た、しかも彼の博識さを示す表現といえよう。

 もっとも彼の場合は「(神が)人の目から涙を全て拭って下さる」という聖書の一節の方がより強く想起されるわけで、それをわざわざメタトロンの前で口にした意図はさだかではない。

 

「うーむ、確かにロンドンで見た時より強くなっているな……。

 しかもこれほど相反する力が互いに害し合うことなく共存しているとは大したものだ」

 

 6対の翼が放つ神性や魔性やよく分からない力を間近で浴びたドラコーが、うめくような口調で呟く。

 ガイアとアラヤの加護や立香のケアもあったとはいえ、よくこんなごちゃ混ぜ生命体が誕生できたものである。

 

「んー、言われてみれば……まさに愛の奇跡だな!」

「うんうん」「まったくですわね!」「そうそう、お兄ちゃんは分かってるね!」「つまり私のおかげ、と。マスターさんはたまにはいいこと言いますね!」

「……」

 

 すると光己の駄弁に立香と清姫とメリュジーヌとカーマがほぼ同時に、条件反射めいた勢いで相槌を打ったのでさすがのドラコーも一瞬言葉を失ってしまった。

 ……いやこういう愛もあるのか? 自分が生前抱いていたものや救世主が説いていたものとはだいぶ違うような気がするが。

 なおドラコーはまだ知らないが、立香以外の3人もごちゃ混ぜ案件にがっつり関わっているのでこの言葉を口にする資格はあるのだった。

 

「………………ま、まあそういうことにしておくか……。

 しかしそのお宝で武田晴信が軍神の刀に耐えたとして、それだけでは奴の眷族には対抗できぬのではないか?」

 

 そして5秒ほどして再起動すると、面倒になったので話を元に戻した。皇帝特権だ!

 この疑問は他の参加者たちも持っていたらしく、光己の口元に視線が集まる。

 

「ああ、これもまだ言ってなかったかな。俺は神性持ちの敵が軍隊連れて来た時限定の軍勢召喚スキル持ってるんだ。呼べる存在の質と数は状況次第だけど」

「ふむ? ……ああ、そういうことか」

 

 ドラコーは聖書にも詳しいので、そのスキルの由来が分かる。ルシフェルが堕天使を率いてミカエルの軍勢と戦った逸話か、赤い竜が不信心者を従えて信仰者の都を攻めた逸話の再現であろう。

 しかしそれなら先ほど退却する必要はなかったような気もするが、質と数が流動的な上に晴信たちに教えていなかったのならやむを得ないか。

 

「なるほど、仕様は理解しました。つまり金ピカには使えませんがヒゲ親父には使えるということですね!

 ではもしまたあのヒゲ親父と会うことがあったなら、ぜひ私をその軍勢の大将にして下さい。先日は弁論での戦いでしたが、指揮能力も私の方が上であることを証明して見せましょう!」

 

 人理のため要素ゼロかつ私情要素100%と思われるこの発言は、いうまでもなくアルトリアのものである。会ったからといって敵になるとは限らないのに、戦うと決定済みなあたりが実に蛮族チックだった。

 なお敵の軍勢が人間であった場合、このスキルで出現するのは現地の不信心者(非一神教徒)の国の軍隊をモデルにしたものになる。だからたとえば冬木の第4次聖杯戦争でやると1994年時点の自衛隊に相当する軍隊が出現するわけだが、それを率いて古代マケドニアの軍隊に勝ったとしても、アルトリアの指揮能力によるものだとは誰も思わないであろう……。

 

「あー、うん、戦うことになったらね……」

 

 なので光己は適当にぼかしつつ、話を次に進めた。

 

「そんなわけでその日は皆同じ宿屋に泊まって、翌日になってから再出撃したんです」

 

 ただ軍神が川中島を去って越後に行っているのではないかという懸念はあったが、何を思ってか昨日と同じ場所にいてくれたので普通に雪辱戦が始まった。

 軍神も眷族もさすがに強く激戦になったが、皆の奮闘のかいあってついに軍神に決定打を与え、謙信が彼女の霊基を奪うことにも成功したのである。

 

「こうして私は人要素と神要素を統合して大幅に強くなりましたので、これを機に上杉謙信と名を改めることにしたわけです!」

 

 そう言いながら自慢げにえっへん!と胸を張る謙信。神要素を得たと言う割に、振る舞いが人間っぽくなったように見えるのは不思議なものだった。

 

「なるほど、それでやたら強くなってたわけか。頼もしい限りね。

 ……あ、そういうことなら後はもう消化試合なのかしら?」

 

 軍神が単騎で武田と今川両方と渡り合えていたというなら、彼女の力を丸ごと手に入れた今、今川軍など物の数ではあるまい。オルガマリーがそう思ったのはしごく妥当な流れだったが、やはり特異点修正の仕事はそう甘くはなかった。

 翌日の昼過ぎ頃、沖田と斎藤に加えて今川のやり方についていけなくなった杉谷・果心が武田側に合流してくれたのは大変喜ばしい展開だったが、それと時をほぼ同じくして、今川側は今まで秘匿していた浮遊要塞「超五稜郭」を空に浮かべて、それを川中島に落とすことで特異点を崩壊させるという大作戦を決行してきたのである。

 

「浮遊要塞……貴方がさっき言ってたやつ?」

「はい、それです。カルデアの構内には出せないサイズですけど、リリスの提案で写真撮ってきましたので今出します」

 

 そう言うと光己は「蔵」からデジカメとプロジェクターを取り出して接続し、ついで部屋のドアの1番近くにいたタマモキャットに頼んで照明を消してもらった。

 

「では我が……名前はまだつけてないが、城をお目にかけよう!」

 

 この中二めいた大仰な口調はいつものこととして、光己がプロジェクターの操作を始めると撮ってきた写真が部屋の壁に映し出された。巨大な岩塊が何の支えもなく宙に浮いているという非現実的な光景にオルガマリーたちが驚きや感嘆の声を漏らす。

 

「ホントに浮遊要塞なのね……大きさはどれくらいなの?」

「天面が直径2キロか3キロくらいで、高さも大差ない感じでしたね」

「そんなのを宙に浮かせるなんてすごいわね。現代科学でも難しいし、魔術では自分が飛ぶのも結構な大技なのに」

「晴信公は霊力鉱石とかいうのを使ってるんじゃないかって言ってましたが、詳しいことは分かりません。

 ですので要塞の調査はテスラさんだけじゃなくて、モルガンと太公望さんにもお願いしたいところですね」

 

 光己がトネリコではなくモルガンと呼んだのは、彼女がこの部屋に来る前にそちらに戻っていたからだ。次回の聖晶石召喚はしばらく先だし巨大ロボを使う機会も当面なさそうなので本来の霊基にしたのだろう。

 

「……いいでしょう。女王の別荘にふさわしい偉容ではありますし、協力は惜しみません」

 

 そこでモルガンが妙なことを言ったので、当然のようにアルトリアが食ってかかる。

 

「な、何言ってるんですかモルガン。マスターの私物を勝手に自分の別荘にするなんて」

 

 ……が、モルガンはまるでそれが想定済みであったかのごとく流暢に答えを返した。

 

「何もおかしくはないぞ。我が夫の国の法律では、夫婦が結婚した後で得た財物は夫婦の共有財産になるそうだからな。

 いや今回は私は何も貢献していないからこれを主張するのは確かに厚顔だが、『我が夫の』要請に応じて調査研究開発に加わるなら問題なかろう」

「ぐぬぬ、相変わらず口だけは回りますね」

 

 姉妹の口ゲンカはいつものことだが、人(妖精)生経験の長さの差の分姉の方が強いようである。ただモルガンの一連の発言は単なる物欲とも光己との連帯意識を表明したものともとれるが、当人は詳しく語る気はなさそうだ。

 なお光己の方は共有にするのは問題ないどころか、モルガンの意欲の高さを示すものと解釈してむしろ喜んでいたりする。

 

「ふむ……調査するのはかまいませんが、新規に何かを設置するなら先立つ物が必要なのでは?」

 

 もう1人名前を挙げられた太公望は感情面の不服はないが、物質面に懸念があるようだ。

 しかしそれはもちろん杞憂である。

 

「あー、そこは安心して下さい。さっきテスラさんに言った通り、お金や資材ならありますから」

 

 光己がそう答えながらデジカメを操作し、まずは五稜郭の金蔵の中の写真を映す。

 広い部屋に金櫃(かねびつ)がずらり積み上げられており、その中の1つだけ(ふた)が開いていた。中身はもちろん現地の貨幣だ。

 1つだけ開いていたのは、写真を見る人に何が入っているか示すためである。鋳潰(いつぶ)してただの金や銀にしたとしても相当な金額になると思われた。

 

「で、次は資材倉庫です」

 

 こちらには鉄や銅や木材や布帛といった通常の資材に加えて、さまざまな魔術的な物品も箱に詰められラベルまで貼られて大量に保管されていた。この城郭の設備や今魔川兵の装備品などに使うものであろう。

 

「あとこれが工場ですね」

 

 一般人を今魔川兵に改造する装置のほか、彼らに持たせる武具をつくる工房、新兵器等を開発するための研究所も併設されている。戦国や幕末の人間がつくったとは思えない、現代人から見てもかなり高度な代物だった。

 これほどの物量と施設を見せつけられては、碩学組の研究者魂が燃え上がらないわけがない。まずはテスラがぐっと握り拳を掲げてみせた。

 

「なるほど、これが君の私に対する物的評価というわけか。よかろう、雷電が人類の科学史に新たなる偉業を刻むところを特等席でお見せすると約束しよう!」

「では私は魔術史に刻むとしましょう。期待していて下さい」

「そうですね。グランドにもなり得る器を持つ者として、相応の成果は出してみせましょうとも。

 というか先日の本といい、本当に役得が多い職場ですね!」

 

 モルガンと太公望もやる気がさらに増したようだ。

 

「そういう話であたしたちを忘れてもらっちゃ困るなあ。これは原初のルーンの凄さをもう1度じっくり見てもらう必要があるね!」

「王子様! 私も! 私もモルガンには及びませんが魔術はやってますからお手伝いさせて下さい!」

 

 続いてワルキューレズとアルトリア・キャスターも慌てて立候補したが、この4人の動機は言わぬが花というものだろう……。

 

「そういうことなら私も手を挙げないといけないかな? 花の魔術師の名を汚さない程度には働かせてもらうよ!」

 

 マーリンの動機は今いちはっきりしないが。

 そして最後に、ダ・ヴィンチが光己の手をがっしと握る。

 

「藤宮君! 大変図々しい頼みだと承知してはいるけれど、そのお金と資材を少しばかり融通してもらうわけにはいかないかなあ!? そうしてもらえるとカルデア本部の修繕とかその他諸々がとても捗るんだけどぉー!」

「アッハイ」

 

 そのぐるぐる目の鬼気迫る勢いに光己は思わず首を縦に振ってしまったが、まあ大した問題はないだろう。多分。

 

 

 




 本文で「逃走するのは初めて」といってますが、軍神のスキルを盛ったのはこのためでもあります。たまにはそういう展開もないと緊迫感がなくなってしまいますから。
 拭涙の翼……いったい何のフラグなんだ(棒)。
 ではまた次回に。感想、評価お待ちしております。


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