いよいよ最後の戦いだ。カルデア&武田側はサーヴァントの数は勝っているが兵士の数は桁違いに少なく、しかも戦場は今までより大軍側に有利な地形である。包囲されて数の暴力で押し潰されないよう、よく考えながら動かねばなるまい。
「確かにいくら武闘系のサーヴァントでも10万単位の、それも改造兵に囲まれて攻められ続けたらいつかは魔力も気力も尽きるわよねえ。
あ、そういえば今川側は鉄砲隊もあるんだっけ。じゃあ尚更ね」
「そうですね。大将2人があの時代最強格の武将だったのがせめてものアドバンテージでした」
逆に今川側は氏真は武将としてはいい逸話がないし、伊東と服部は生前は大軍を指揮した経験がない。この特異点でいくらか経験を積んだとしても、上杉謙信や武田晴信の域には達するまい。指揮官の質は勝っていると言ってよかろう。
……と思っていたら、今川側は光己の予想よりはいろいろ考えていて感心させられたが。
「たとえば鉄砲隊が固定式の柵じゃなくて持ち運び式の障害物持ってたりとか、あと体の一部を金属にして刃物まで付けた特別な改造兵の部隊とか、見たこともない魔獣の部隊までいたんです。この決戦のために準備重ねまくってきたって感じでした」
「そんなに隠し玉持ってたの? その
この負けたからといって間違いだったと決めつけない姿勢は、オルガマリー自身が勝てるかどうか分からない戦いに臨んでいるからだろう。もし負けて滅びたなら「正解を選んだ」とは言えないが、「すべてが間違いだった」とまでは言われたくない気持ちがあるのだ。
自分1人の名誉や感情のためだけではなく、ともに戦ってくれている人たちのためにも。
―――この想いは永倉や斎藤が服部に糾弾された時に抱いたそれに似ていたが、彼女にはそれを知るよしはない。
「そうですね、でも隠し玉ならこちらもたくさんありましたから」
「あー、そうね。あちらは現界した後で現地で得られるものだけの積み上げだけど、こちらは今までの仕事で得られたもの全部……とはいかないけど、あちらが知らない人や物や技術を持ち込めるのよね」
だから先方がどんな想いや理由でどれだけの準備をしてきても臆する必要はないのだ。そう思えたオルガマリーは、胸の奥から勇気と希望が湧いてくるのを感じていた。
今回はレムレムだからカルデア本部が直接支援できることはあまりなかったが、それでもサーヴァントが1人だけだが同行できたし、
……光己の能力や所有物を勘定に入れないとしても。
「ありがとう。1番現場に出てる貴方にそう言ってもらえて気が楽になったわ」
「いえいえ、事実を言っただけですよ。
えーと、それで話を戻しますと。今川軍は川中島の奥の方にいて、本隊が
「んー、つまり武田軍を平地の中の方まで引き込んでから包囲しようって魂胆なのね。
それでどうしたの?」
「相手の狙いが読めたからって、入口で止まってるわけにはいきません。
こちらもまた隊を分けてから草原に入ったんですが……」
ここに来る前に光己は「4つセットのお宝」を回収していたので、その分の穴埋めをする必要があった。こちらに不利な戦場でもあることだし。
具体的には、ローマでブーディカやダレイオス三世にやったような遠くからの爆撃である。
「でも竜モードにはならないのよね。威力足りるの?」
「はい、ですので色々考えまして。今回は
「き、禁断の呪文!?」
自慢げな顔でズビシとピースサインを突き出した光己とは対照的に、オルガマリーは顔色が真っ青になっていた。いつの間にそんな大魔術を習得した、というか危険にも程があり過ぎるんじゃなかろうかその呪文。彼はどちらかといえば慎重派で、そういう危険物に手を出すタイプじゃないと思っていたのだが。
……とオルガマリーが驚愕したのはごく真っ当な感性だったが、光己の
「マスター、その言い方じゃ素人さんには分かんないわよ。もう少し砕いて言わないと」
「む、それもそうか。俺としたことが、新たな叡智を得た興奮のあまり配慮を欠いてしまったようだな」
指摘を受けても光己はまだ無駄にカッコつけた物言いはおさまらなかったが、それでもその後で素人さん向けの説明はちゃんとした。
要するに、無意識の自己抑制を取り除いて本来の能力を引き出すための儀式である。
「そ、そういうこと……お、脅かさないでよね。
それで効き目はどれぐらいあったの?」
「あー、すみません。
効き目の方は……テュケイダイトのビームで、今魔川兵の死者が2万人で負傷者がだいたい5万人くらいでした。
やった後でかなり疲れましたから、儀式にもそれなりの効果はあったと思います」
この時光己は(今魔川兵は元は一般人だから直接大勢手にかけるのはあまり気が進まんな)なんてことを思ったりもしたのだが、それは現地でもここでも口にしなかった。
聞いた人が不快に思うだけで良いことは何もないのが分かり切っているので。
「……なるほどねえ」
サーヴァント基準で考えても相当な威力だが、それでも
いや素人に毛が生えた程度の初心者が自己暗示だけでそんなことできるわけがないのだが、伸び代はありそうだからきちんと訓練すればモノになるかも知れない。
「でも仲間の危機を救うため、眠れる力を己の意志だけで呼び覚ましたのは事実なのよね?
それでこそ私のマスターよ!」
「なかなかやるなあ光己さん……」
なおジャンヌオルタとエリセは真面目方面はスルーして、シチュエーションだけを見て大仰に感心していた。
まあ本当に有用で伸び代があるなら、ワルキューレズやマーリンといった優秀な教師たちがカリキュラムに入れるだろうから手落ちはあるまい……。
「てかその威力の爆発弾を敵の本陣に飛ばしたんなら、それで連中のサーヴァント全滅しておしまいになったりしない?」
「いや、後で水晶玉で見たけど3人とも軽傷だった。警戒してて素早く退避したらしい」
「それは残念だったわね。
まあマンガや小説だったら、初手ぶっぱで勝ちましたばんざーいなんて展開絶対編集にリテイクくらっちゃうし是非もないわね」
ジャンヌオルタは初撃で勝てれば楽だし味方の犠牲も出ないから理想的なのは承知しつつ、物書きだからかそれでは白けてつまらないという感覚もあるようだ。
不謹慎といえなくもないが、彼女がそのために戦闘で手抜きするわけでもないので光己は咎めたりはしなかった。
「まあなー。でもただ人数減らしただけじゃなくて、連中の指揮系統にもダメージを与えたから穴埋め分の仕事はしたって感じかな。
でもしばらくしたら立ち直って、一般隊と鉄砲隊と魔獣隊で三方から攻めるという連携技まで使ってきたんだ」
さすがの晴信もこれとまともにぶつかるのはつらい。なので事前の打ち合わせ通り、光己が(具体的な用事はないが)リリスを連れて鉄砲隊の足止めもしくは撃破に赴いた。
水晶宮はそれ自体は攻撃能力を持たないが、空飛ぶ鮫を多数外に派遣することができる。これなら鉄砲隊の射撃も移動も防げるだろうというわけだ。
「え、本当に空飛ぶ鮫出したんだ」
ロンドンでこの件についてツッコミを入れたことがあるアルクェイドが、ちょっとびっくりした様子で嘴を入れる。まさかあのヨタ話が真実で、しかも最終決戦でやったとは驚いた。
「うん。絵面の問題は晴信公にも言ったんだけど、勝つためなら構わないって返事でさ。
さすが乱世の名将だけあって覚悟決まってるって感じだったな」
「へえー」
アルクェイドは晴信の覚悟には感心したが、それをじかに見たはずの光己は今回も思春期脳であった。
「というわけだから、お姉ちゃんまた水着霊基にならない? そうすると鮫が質も数も強化されるはずだから」
「……へえっ!?」
この少年の突飛な発言はいつものことだが、それを突然自分に向けられてジャンヌは一瞬思考と息が止まってしまった。
思春期脳なのもいつものこと……とはいえ、戦力強化につながる話ならお説教しておしまいというわけにはいかない。ルーラースキルは他にも持っている者がいるが、空飛ぶ鮫を強化できる者は他にいないようなので。
しかし即決で了承するのも軽率であろう。
「うーん、決める前にその鮫とお宮?を実際に見せてほしいところですね」
「それもそっか、でもここじゃ無理だから報告会終わってからでいい?」
「はい、いいですよ」
それで光己とジャンヌの交渉がいったん終わると、なぜかアルトリア・キャスターとテスラが手を挙げた。
「王子様、それ私も見に行っていいですか? いえ私は鮫関係のスキルは持ってませんけど、お宮の方を見てみたいので」
「奇遇だな、私もだ。私の技術や発明品において、水晶の
キャスターは先ほど光己の水晶の翼を見た時、それが生前行ったことがある「霊洞アルビオン」で見た水晶柱に酷似しているのに気がついていた。だからどうこうということは何もないが、せっかくなのでお宮の方も見てみたいと思ったのである。
テスラの方は、宝具的サムシングの水晶なら普通の水晶とは違う特別な効果でもあったりはしないかという科学者的関心だった。
なお圧電効果というのは水晶等に圧力を加えると、それに比例した電圧が発生するというもので、現代ではたとえば水晶振動子として時計やスマホなど電子機器に広く使われている。
「わたしも行っていい? 興味半分どころか100%だけど」
「おけおけ。どなた様も歓迎です」
続いて手を挙げたアルクェイドはB級映画を見に行くのと同じ感覚みたいだったが、それでも光己は拒む理由はないのでおおらかに了承していた。
見学希望者はそれで打ち止めになったので、光己がまた報告に戻る。
「で、俺とリリスが鉄砲隊を足止めしてる間に謙信は人造義元を2人とも斃しちゃったんだよな。さすがだ」
「いえいえ、とどめを刺したのは杉谷殿と果心殿ですから!
それに合流した後のマスターの策と術も大変見事なものでしたとも」
謙信はこの件については意図的に手柄を譲っていたので、当人がここにいなくてもそれを誇ることはしなかった。義理堅いと評されただけのことはあるといえよう。
「うん、自動車鉄砲隊のアイデアは我ながら名案だったと思う。
それと『
それとは別に『
「へえー、マスターは天使様的なスキルも使えるようになってきたんですね。良いことです!」
光己がリーダーの務めとして新スキルについて解説すると、ジャンヌが言葉通りの表情でぽんと手を打った。サタンなりし赤い竜の技の話が何度も出たので、釣り合い的に考えてこちらの話も欲しいと思っていたところだったのだ。
天使様といってもルシフェルだから手放しに喜ぶとまではいかないのだけれど……。
「そうだ、確か2対目は熾天使様の翼なんですよね。そちらは何かなかったんですか?」
「うーん。
宿屋で1人でいる時に試してみたのだが、テレポートは着ている服を持っていけないという特大の欠点がまだ残っているし、まして分身なんてできる気配すらなかった。
「電脳」の方は予備の
ただ何故か自滅プログラムが入っていて、24時間経ったら勝手に消えてしまったが。
「もう1度インストールし直すことはできるけど、見てみる?」
「そうですね、せっかくですからぜひ」
「うん、じゃあこれも後で。
……そんなわけで、40万人は多かったですがようやく今川軍の総司令部に突入できたんです」
「まあその数なら長丁場になるわよねえ……」
脇道にそれるのは程々にして光己が本題に戻ると、オルガマリーが小さくため息をつきながらそうごちた。
ここまで来れば兵士を全滅させる必要はなくサーヴァントさえ斃せば終わりとはいえ、だからこそ敵は簡単にそうさせてはくれないし、逆にこちらのサーヴァントを狙い撃ちにしてきただろうから、むしろ展開が速い方だったと思われる。
「そうですね、これだけ延々戦い続けたのは初めてでした。身体が人間のままだったら川中島に着く前にぶっ倒れてたかも知れません。
……それでもって、敵味方のサーヴァントほぼ全員が1ヶ所に集まる形になりまして。もちろん俺も氏真と対面したわけです」
「へえー、まさに最終決戦のさらにラストバトルって感じでいいわね!」
「おお、言われてみればその通りだな。何という劇的な展開」
そのラストバトルの話なのにジャンヌオルタは映画でも見ているかのような口調だったが、話し手の光己がそれに乗っているくらいだから問題はあるまい……。
しかし今思い出してみるに、「これだけの準備を積み重ねてきた」「聖杯を持った大大名のサーヴァント」相手に1人で襲いかかったのは軽率な行為だったような気がするが、隠すのはよろしくない。光己は正直に経緯を全部語った。
「―――そうね、貴方の気持ちは察するけど褒められたことではないわね」
するとオルガマリーは今までの話で光己の心情をおおむね理解していたらしく、ごく淡々とひとこと注意するだけにとどめた。
本人が分かっているものをくどくど言っても良いことはないし、かといって何も言わないのも問題なのでそういう対応になったのだろう。
「……はい」
光己も同じように短く頷いた。
この時蛍が口を開きかけてやはりやめにしたのは、蛍は光己がみずから氏真を斃したおかげで孫市に会えたと思っているので、何かフォローをしたかったが両人が納得していることに皆の前で水を差すのは避けたという次第である。
今言わなくても後で言えばいいのだし。
「……で、これが氏真から奪った戦利品です」
それはそれとして、光己が氏真が持っていた
「独楽は魔力をこめると竜の形をした炎を放出する武器だそうですから、量産してもらって五稜郭の設備にしたいところですね。
刀は多分『義元左文字』だと思いますが誰か欲しい人います?」
光己はなかなか気前が良かったが、日本刀は先ほど村正を配っていたので今回は欲しがる者はいなかった。
「いないか、じゃあ俺がもらうということで。
……あと何か話したい人いる?」
光己がそう言いながら謙信たち同行メンバーの顔を見回したが、誰も手を挙げなかったので報告はこれで完了である。
「今回も大変だったみたいだけど、お疲れさま。みんな無事で、新しい仲間も来てくれて本当に良かった。
それじゃいい時間だし、解散にしましょう」
そして最後にオルガマリーがこう締めて閉会となり、光己とジャンヌたちは鮫&お宮企画のため体育館に向かったのだった。
熾天使の翼が影薄いですが、成長したら強力になる……はず!
ではまた次回に。感想、評価お待ちしております。