FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第3話 休息

 光己はマシュの声を聞くと、女の子にお姫様抱っこされているというちょっと恥ずかしい姿を見せるのを避けるため、ブラダマンテの腕から飛び降りて自分の足で後輩に会いに走った。

 しかし彼女の無事な姿を見た直後に安心感で気が抜けて前に転んで、そのまま顔を地面に打ちつけて気絶してしまう。

 そして目を覚ました時、彼は見知らぬ民家の一室で横になっていた。

 

「知らない天井だ……」

 

 お約束のネタをつぶやいた後、周りを見回して少女3人がちゃんといるのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 のっそりと体を起こすと、まずは後輩に声をかけた。

 

「マシュ、無事でよかった」

「はい、先輩もご無事みたいで安心しました。先ほど先輩が気絶してしまいましたので、悪いとは思ったのですが、そばの民家にお邪魔させてもらったんです。

 あ、リリィさんとブラダマンテさんとはお互い自己紹介しましたので大丈夫です」

 

 こんな状況でもきちっと解説してくれるマシュは本当にできた後輩だと思う。

 

「そっか。でもごめんな、はぐれちゃったってことはあの時手を離しちゃったってことだもんな。心配させて悪かった」

「いえ、そんな! 私の方こそ、戦えない先輩を1人きりにしてしまってすみませんでした」

「ああ、それじゃお互い様ってことで」

 

 お互い一言ずつは言っておくべきにしても、いつまでも頭を下げあっていても仕方ないので、光己はこの話はここまでにすることにした。それより気になることがあるのだ。

 

「でもマシュ、さっきは鎧みたいなの着てなかったっけ。お腹と太腿むき出しにした破廉恥なやつ」

「も、もう先輩意地悪です!」

 

 顔を真っ赤にして手のひらでぱたぱた胸をたたいてくるマシュは本当に可愛くて、光己は体の疲れを忘れるくらい頬がゆるんでしまった。

 しかしあまりふざけると怒られそうなので、真面目に訊ねることにする。

 

「で、実際のところ何だったんだ? いや話したくなかったら別にいいんだけど」

「いえ、こんな状況ですから、むしろ先輩にはきちんとご説明しておくべきかと思います。

 といっても細かく話すと長くなってしまうので要点だけかいつまんでいいますと、私は普通の人間ではなくて『デミ・サーヴァント』なんです」

 

 デミ・サーヴァントとは要するに生身の人間に英霊が憑依・融合した存在で、マシュの場合は人為的にデミ・サーヴァントをつくるための実験体だった。カルデアはマシュの体内に英霊を召喚することには成功したが、その英霊はマシュとの融合も退去することも拒んで彼女の中で眠りについていた。しかし今日の爆発事故でマシュが瀕死になった時、「過去の異変の排除」を条件に力を譲渡し、ケガも治して消滅したのである。

 

「なるほどなー。それで、その英霊の名前と異変の具体的な内容とか解決方法ってわかる?」

「いえ、それは……」

 

 光己の当然の質問に、マシュは困り顔で小さくうつむいた。彼女に力を譲った英霊は情報公開には消極的な性格だったようだ。

 しかしそこに救い主が現れる。

 

「あ、私その英霊の名前わかりますよ。マシュさんの鎧は女性用に調整されてるみたいですけど、あの盾は知ってますから。よろしければ教えますが」

「ぜひお願いします!」

 

 マシュとしては英霊の名前が分からないと宝具―――サーヴァントにとっての象徴、切り札、必殺技のようなものだ―――が使えないので当然の返答だった。

 それはリリィにも分かっているので、もったいぶらずに答えを明かした。

 

「はい、では。

 ……あの盾は円卓の騎士の1人、ギャラハッド卿が持っていたものです。あの人は盾の騎士でしたので、クラスは多分『シールダー』、宝具も守護障壁を展開するものだと思います。宝具の名前はまあ、マシュさんのお好きなように決めればよいかと」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ここまで明快に断定してもらえればマシュも自信が持てる。しかもギャラハッドといえばかの円卓の騎士の中でも最優格で、聖杯を発見したあと神のもとに召されたという穢れなき人物だ。

 ただそのような偉人に力を授けられたとなれば、こちらも相応の活躍をしなければならないだろう。さしあたっては「異変の排除」であるが……。

 

「つまり、この聖杯戦争を終わらせればいいのでしょうか?」

 

 もともとカルデアはここ2004年の冬木市を特異点と判断して調査班を送り込むつもりだった。おそらく聖杯戦争の最中に何らかのアクシデントが発生して特異点になったものと思われる。

 

「そうですね、私もそのために来たわけですし。

 ですがマスターの体調がまだご覧の通りですので、行動に移るのは明日からの方がいいかと」

「はい、できればカルデアと連絡を取ってからにしたいですし」

 

 マシュは特異点からでもカルデアと連絡を取れる通信機を持っているのだが、現在は不通であった。爆発事故からまだ数時間も経っていないのでそれどころではないのだろう。気にはなるが、今は通信が回復するのを待つしかない。

 しかしこちらの今後の方針は決まったので、光己はリリィが配慮してくれたように休息を取ることにした。

 

「いやその前に風呂入りたいな。汗かいたし」

 

 するとマシュがちょっと不安そうな顔を見せる。

 

「お風呂、ですか? 過保護とは思いますが、今の先輩の顔色だと足を滑らせたり溺れたりしないか心配です」

「じゃあ誰か一緒に入ろう!」

 

(……しまったぁぁぁ!!)

 

 疲労のあまりつい理性の抑えが利かず本音を口に出してしまい、心の中で後悔の泣き声を上げる光己。

 しかしマシュは怒ったりせず、ぼっと顔を赤らめただけだった。

 

「あ、い、いえ……今はこんな状況ですからあんまり気を抜くのはまずいんじゃないかと……」

「そ、そうだな。今のはジャパニーズジョークというやつで」

 

 光己も顔を赤くして目をそらす。傍からは初々しいカップルに見えたかも知れない。

 一方リリィとブラダマンテはちょっとびっくりしたようだが、特に目くじらを立てたりはしなかった。2人は現界した時に21世紀の常識は与えられているが、あくまで知識であって感性は生前のままなのだ。

 光己はこの隙に話題を変えた。

 

「それじゃタオルで体拭くかな。ついでに服も洗っとくか。

 その後でごはん作るからみんなで食べよう。いやこの家の人には悪いと思うけどさ」

「体を拭くんですか? では私にお任せ下さい」

 

 するとマシュがサービスがいいことを言い出した。ジョーク扱いとはいえ先輩の希望を断ってしまったので後ろめたさがあったのかも知れない。

 しかもブラダマンテも腰を上げる。

 

「では私もお手伝いしましょう。マシュさんだけにさせるのは申し訳ないですし」

「ええっ! いや別にそこまでしてくれなくても」

「いえいえ、私がしたくてするだけですから気にしないで下さい!」

「そ、そっか。じゃあお願いするよ」

 

 自分が使った言葉で返されては断り切れない。光己は素直に少女騎士の善意を受けることにした。

 それを聞いたリリィが彼の背後に回る。

 

「ではマスター、服をお脱がせしますね」

「ええっ!? いやそれは自分で」

 

 光己はこれは本気で辞退しようとしたが、サーヴァントの腕力にはかなわなかった。あっさりパンツ1枚にされてしまう。

 

「ではこれは洗濯機に入れて来ますから。それとえーと、腰のあたりは後でご自分で拭いて下さいね」

「そ、そだな」

 

 頬を赤らめて顔をそらしたリリィに、光己もあいまいに頷いた。

 そこにマシュとブラダマンテが戻ってきて、マシュが彼の背中の後ろに、ブラダマンテが脚の傍らに座る。リリィは腕の辺りだ。

 

(ええと、何でこんなことに……!?)

 

 ただでさえ外は夜の闇に炎上する知らない街という非日常な状況に、美少女3人が取り囲んで体を拭いてくれているという非日常な体験が重なって光己の頭はいろいろとゆだっていた。

 マシュの姿は後ろなので見えないが、リリィは屋内なので武装を解除しており下のドレスは胸元がかなり開いているデザインなので光己視線だとバストの谷間がチラチラ見えてしまう。ブラダマンテに至ってはレオタードかつLサイズなのでなおさらだ。

 それ自体は思春期男子として喜ばしいことだったが、ここで股間の辺りで男子な反応をしてしまっては非常にまずい。欲求に従って少女2人を交互にチラ見しつつも、「ソワカソワカ」と心の中で経文を唱えて平常心を保つしかなかった。

 

(いやこの経文はヤバいだろ!?)

 

 などとセルフツッコミしつつ、光己は試練を乗り越えて一段と成長……なんて少しもしてはいないが、ともかくマシュがタンスからあさってくれたパジャマっぽい服を着る。

 3人とも恋のアピールとかそういうのでは全くないが、弱っている時にかいがいしく世話してくれるのは本当にうれしかった。

 

「というわけで、お礼に夕ご飯は俺がつくるよ。3人とも日本の料理は詳しくないだろ?」

「確かに詳しくはありませんが……正直まだ心配ですが」

「いやあ、根性出せば大丈夫……おおっ!?」

 

 安請け合いした光己だが、立ち上がって1歩足を前に出したところでまたよろけてしまう。ある程度予測していたマシュが前に立って支えてくれたが、その雰囲気は少々不穏になっていた。

 

「だから心配だと言いましたよね!?」

「い、いえす、まむ」

 

 少女の声が普段より2オクターブほど低かったので、光己はすごすごと引き下がって腰を下ろした。マスターとしての威厳や体面ががらがらと崩れていくような気がしたが、よく考えたらパンピーの高校生がそんなもの初めから持っているはずがなかった。

 

「侘しい……侘しくない?」

「あ、その……マスターがお疲れなのは仕方ないことですから、そんなに落ち込まなくてもいいと思いますよ」

「うう、ブラダマンテはいい娘だなあ……俺がこんな体でなきゃ、おまえにも楽をさせてやれるんだが」

「それは言わない約束でしょマスター」

 

 ブラダマンテは意外とノリがよかった。しかしリリィが首をかしげているところを見ると、サーヴァントが現界する時に受け取る知識には個人差があるようだ。

 それはそうと、日本の調理器具の扱いについては、知識をもらっているこの2人の方がマシュより上である。なのでマスターの看護はマシュに任せて、2人が台所に立ち、あるものを使って夕食をつくった。

 レトルトのパックには甘口と書いてあったのになぜかやたら辛い麻婆豆腐のせいで大量の麦茶を消費しつつ、光己は作戦会議、とまではいかないが戦闘時のフォーメーションについて話しておくことにする。何しろあの怪物たちが今この家を襲って来ないという保証はないので、これだけは早いうちにやっておく方がいいのだ。

 

「俺はみんな知っての通り素人だから、後ろから援護するってことでいいよな。問題は相手が飛び道具持ってそうな時だけど」

「その可能性が少しでもある時はマシュさんはマスターの前にいるべきですね。私とブラダマンテさんはマスターが死んだら現界できなくなってしまいますから」

「そっか、じゃあそうしよう」

 

 守ってもらう側として自分からは口にしにくいことをリリィが言ってくれたので、光己はそれに乗ってすぐ同意した。

 これでよほど強いサーヴァントが敵対してこない限り、身の安全は保証されたといっていいだろう。メンタル強度一般人の少年はふうーっと大きく息をついた。

 

「じゃ、あとはリリィとブラダマンテが状況に合わせてコンビネーションを組んで戦うって感じかな?」

「そうですね。リリィ様と肩を並べて戦えるなんて光栄です!」

 

 ブラダマンテはやる気十分だった。一般人にとっては実に頼もしいことである。

 

「それで、マスターはもし聖杯が手に入ったら何を望むつもりなんですか?」

「ん? そうだな。万能の願望機とかいわれたら色々俗なこと思いつくけど、そういうのって何か怪しい気もするんだよな。『猿の手』みたいにひどい代価払わされるとか」

「なるほど。しかし先輩、この国には『マヨヒガ』のようにリスクなく富を得られる話もありますが」

「おお、マシュは物知りだなあ」

 

 確かにその通りなので、どうやら実物を見てから判断した方がよさそうだ。

 サーヴァントが現れるくらいだからすごいマジックアイテムではあるはずだが、この街がこんな有様になっている以上、たとえば世界平和を願ったら人類絶滅で応じるとかそんな代物である可能性だってなくはないし。

 

「うーん、マスターはなかなか慎重ですね。頼もしいです!」

「そ、そうか? まあそう思ってくれるならうれしいよ」

 

 そんなことを話しながら食事を終えると、光己は疲労のためかすぐ眠くなってしまった。しかし襲撃の可能性がある以上、彼が男性だからといって1人で別室で寝るのは好ましくない。

 

「電気を消しても、気配察知に長けたサーヴァントなら私たちの存在に気づいてもおかしくありませんから、やはりみんな一緒にいるべきかと。というか私とブラダマンテさんは眠る必要ありませんし」

「な、何だとぉぉぉ!?」

「え、ど、どうかしたんですかマスター?」

 

 ピンク色っぽいイベントの予感をあっさり壊された光己は思わず声を上げてしまったが、リリィにびっくり顔で見つめられると、「あ、いや、寝なくていいなんて贅沢だなと思って」とごまかした。リリィは素直に信じてくれたが、ここにもっと鋭い人物がいたらあっさり看破されていたことだろう……。

 もっとも光己は布団の中に入るとわずか数秒で眠りの園に旅立ってしまったので、どう転んでもピンク色なルートになどならないのであったが。

 




 ボックスガチャは60箱でした。100箱とか開けるガチ勢の方々には及びませんが、カルデア・ティータイムを凸できましたのでやはりボックスガチャは良い文明ですね。
 ブラちゃんをスキルマにするには証やオーロラがまるで足りないのが困ったものですが。

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