FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第32話 第一特異点エピローグ

 光己がはっと気がついた時、そこは1週間前に出立したカルデアのコフィンの中だった。

 蓋が開いたので体を起こして外に出ると、マシュたちも同様にしてコフィンから出てくるところだった。みんな無事に戻って来られたようでめでたい限りである。

 オルガマリーとロマニとダ・ヴィンチの幹部3人が、コフィンのそばまで出迎えに来てくれた。

 

「お疲れさま。貴方たちのおかげで、まずは1つめの特異点が修正されました。

 まだ1つめとはいえ、これは誇っていい業績です。残念ながら特別な褒賞の類は出せませんが、今日のところはゆっくり休んで下さい」

 

 まずはオルガマリーがトップとして(できる限り)威儀を正してそう言うと、次にロマニが満面の笑みで褒めたたえてくれた。

 

「いや、まったく! ここまでうまくいくとは実に素晴らしい、次からもこれくらい順調にいってほしいものだよね。

 とにかくお手柄なんだ、ここは藤宮君の故郷的に、万歳三唱で称えさせてもらおう。ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい!」

「そ、そこまでされると照れますね」

 

 光己がちょっと困った様子で頬を指で掻く。ただここで、聖杯について以前から考えていたことを思い出した。

 

「それで、今度こそ聖杯持って来られたんだから、所長にレイシフト適性を付けてもらうか、それともマスター47人を治してもらうかしますか?」

 

 こうすればグランドオーダーの戦力が強化されると同時に素人の光己はお役御免、そしてここまでの功績の褒美として人理修復完了まで毎日が日曜日な暮らしをさせてもらえるだろうというもくろみである。

 本音をいえば何か私欲をかなえてほしいのだが、なにぶん今は全人類の危機なので、公益も考えているのだ。

 

「ああ、それは確かにいいアイデアだね。

 でもそれ1度使用済みの物だからね、ちゃんと調べてからの方が良いと思うな」

 

 するとダ・ヴィンチが慎重論を唱え、光己もそれはもっともと考えて同意した。

 

「あー、そりゃそうですね。わかりました。

 で、俺たちはこれからどうすれば?」

「そうだね、さっき所長が言った通り、まずはゆっくり休んでくれ。私たちスタッフは、特異点修正の経過を観察しなきゃいけないけど、君たちはそっちは専門外だしね」

「はい……っと、もう1つ」

 

 光己はフランスから帰る前にブラダマンテから石をもらっていた。ポケットをさぐって取り出してみると、なんとカルデアでサーヴァントを召喚する時に使う聖晶石にそっくりだった。

 オルガマリーがそれを覗き込んで驚きの声を上げる。

 

「というか本物の聖晶石じゃないの! よく見つかったものね。

 でも今すぐ召喚するのはちょっとせわしいから、夕食の前あたりにしましょう。

 それと……ありがとう」

 

 オルガマリーがちょっと照れながら光己に礼を言ったのは、彼が彼女にレイシフト適性を付けようと言ってくれた件にである。100%善意だけでというわけではないだろうし、オルガマリーも積極的に特異点に行きたいわけではないが、それでもオルガマリーのことを考えてくれたのは確かだから。

 

「あ、いえ……俺自身の都合でもありますんで。それじゃまた後で」

 

 光己はちょっと気恥ずかしくなって、あわてて管制室を出て行った。

 

 

 

 

 

 光己はマシュたちと別れて個室に入ると、まずはゆっくり昼寝することにした。

 寝袋でも中世の宿屋の寝台でもない、現代技術でつくられた柔らかく暖かいベッドの上で気持ちよく就寝するのだ。

 礼装を脱いでシャワーを浴び、寝間着に着替えて布団の下にもぐりこむ。寝過ごさないようアラームをセットした。

 

「それじゃ、おやすみなさい……」

 

 そして数時間後。光己がアラームの音で目が覚めてそれを止めた時、体の左半分に何か柔らかい重みがかかっているのを感じた。

 

「ん?」

 

 不審に思って顔をそちらに向ける光己。するとそこには女の子の顔が!

 

「アイエエエ! 清姫!? 清姫ナンデ!?」

 

 確かに来るとは言っていたが、まさかこんな形で現れるとは。光己は驚愕のあまり、はじかれたように反対側に跳び退いてベッドから転げ落ちてしまった。

 

「……。痛くはないけど、すごく痛い」

 

 無敵アーマーのおかげで身体的なダメージはないのだが、精神的なダメージは大きい。それでも光己が何とか上体を起こすと、清姫が心配そうに覗きこんできた。

 

「安珍様、大丈夫ですか……?」

「…………身体的にはね。とりあえず今後は無断入室禁止」

 

 驚かされた仕返しに禁止令を出すと、少女は大仰に身をすくめた。

 

「そんな、安珍様……安珍様にお会いするために必死で縁をたどって追いかけて参りましたのに」

「マジか……いやまあ確かに、清姫ってそういう逸話の娘だけどさ」

 

 それにしたって英霊の座から2014年のカルデアの、それも特定個人の私室まで辿り着くとはハンパではない。これが執念というものか……。

 

「でもアレだな、これはサーヴァントが外部からカルデアに侵入できるってことだよな。

 清姫は味方だからよかったけど、敵だったら大変なことになるな」

 

 後でオルガマリーたちに報告して、警備システムを強化してもらう必要がありそうだ。

 光己がそう口の中で呟くと、清姫がなぜか悲しそうな顔をした。

 

「そんな、旦那様……わたくしが来られないようにするとおっしゃるのですか?」

「いや、そうは言ってないだろ。カルデア全体についてのことだから、もうここにいる清姫には関係ないよ」

「そうですか、なら安心です」

「でもさっきも言ったけど、無断入室は禁止だからな。ちゃんとインターホンを使って、入室の許可を取ってから入るように。

 これは好き嫌いじゃなくて礼儀の問題だから」

「うう、旦那様が冷たいです……」

 

 清姫がよよと泣き崩れるようなポーズをしたが、そんなものでほだされはしないのだ。

 いや可愛い女の子が好いてくれるのは嬉しいのだが、彼女の場合、他の人と混同しているのがどうしても減点要素になるので。ちなみにフランスで1度、「俺は安珍の生まれ変わりっていう可能性も1兆分の1くらいはあるかも知れないけど、もしそうだったとしても安珍そのものじゃない」という意味のことを分厚いオブラートにくるんで言ってみたことがあるが、清姫は理解したのかしてないのか態度は変わっていない。

 まあ今は早いところ召喚ルームに行かなくては。

 

「おや、何かご用でも?」

「ああ、これから新しいサーヴァントを召喚するんだ。清姫も紹介しなきゃいけないからついてきてくれる?」

「はい、旦那様が行かれる所ならどこにでも」

 

 こうして光己と清姫は召喚ルームに向かったが、清姫を紹介されたオルガマリーたちはやはりいろいろと驚き呆れた様子であった。

 警備の強化についてはダ・ヴィンチが後で検討することとして、まずは先ほどの聖杯の件についての調査結果である。

 

「残念ながら、キミが持ってきたあの聖杯は、もう願望器としては使えなくなっていたよ。すでに1度大きな願いをかなえた上に、レイシフトを経ているからね。

 魔力リソースとしては優秀だけど、それだけさ」

 

 カルデアのレイシフトは人間やサーヴァントを対象にしたものなので、聖杯ほどの超高密度のエネルギー体に行うと多少の劣化は避けられないのだった。

 つまりオルガマリーにレイシフト適性を付けたり47人のマスターを治したりすることはできないし、他の願いごとをかなえることもできない。光己が次の特異点に持っていって使うこともできないのだった。

 

「むう……苦労して手に入れた途端に性能が暴落するとか、まるでゲームのキーアイテムみたいだ」

「先輩メタいです……」

 

 そんなわけで、聖杯はとりあえずダ・ヴィンチが厳重に保管することとなった。

 そしていよいよ召喚の儀式である。

 

「それで、聖晶石はいくつあるの?」

「ええと、6個ですね」

「ならちょうど2騎呼べるわね」

 

 もっとも、あまり大勢呼んでも光己の魔力量の都合があるから、全員特異点に連れていけるわけではないが、光己たちが特異点入りしている間の警備要員としてカルデアに残ってもらうこともできる。当人が納得してくれればの話だが。

 

「それじゃさっそく」

 

 前回と同じように、光己が魔法陣の中央に聖晶石を3個置いて召喚の呪文を唱えると、やはり前回と同じく光の柱が現れる。

 光が消えた後そこにいたのは―――。

 

 

 

 

 

「シャルルマーニュ十二勇士が1人、白羽の騎士ブラダマンテ。ランサーとして召喚されました。シャルルマーニュ大王に成り代わり、正義をなします!」

 

 青と白と赤のレオタードを着て、短い槍と星型の盾をたずさえた美少女だった。冬木とフランスで会ったブラダマンテである。

 

「……いえ、そんなしゃちほこばった挨拶はいらないですよね。マスター、お会いできてうれしいです!」

 

 彼女も冬木とフランスでのことを覚えていてくれたようだ。感極まった様子で魔法陣から飛び出て、光己にがばーっと抱きついてきた。

 

「おおっ!?」

 

 もちろん光己も思い切り抱き返した。薄着でナイスバディな美少女のやわらかくてあたたかい感触が大変素晴らしい、もとい自分と会えたことをこんなに喜んでくれているのが嬉しかった。

 

「ん~~~~、マスターってやっぱりやさしい人ですよね! こうしてそばにいるとはっきりわかりますよ」

「そ、そっか!? いやあ、ブラダマンテみたいないい娘にそう言ってもらえると嬉しいな」

「……って、いつまで抱き合ってるんですか!」

「ちょ、清姫!?」

 

 しかし、せっかくの幸せな時間は自称正妻の手で引き裂かれた。酷い話である。

 いったん離れてしまったらブラダマンテも改めて抱きつく気にはなってくれなかったので、光己は仕方なく2騎めの召喚に戻ることにした。

 考えてみれば、ブラダマンテにもらった聖晶石で彼女が来るのは、縁的に考えてごく順当な流れだったが、今度はどうなるだろうか?

 再び魔法陣の上に光がほとばしり、その後現れた人影は―――。

 

 

 

 

 

 

「ワルキューレ、スルーズです。召喚に応じて参上しました……ヒルドにオルトリンデ!?

 なるほど、強い縁を感じましたが、あなたたちがいたんですね」

 

 ヒルドとオルトリンデによく似た少女だった。どうやら2人の同僚のようで、今回もこの縁で召喚されたのだろう。

 2人より落ち着いたお姉さん的な感じがする金髪紅眼の美少女である。服装もよく似ているが、フードをかぶっていないので肩と腋と胸の谷間がバッチリ見えるところが素晴らしい。

 

「うん、これで3人そろったね! マスターと人理のためにがんばろう!」

「あとはブリュンヒルデお姉さま……いえ、さすがにこれは我が儘がすぎますね」

 

 ブリュンヒルデといえば有名なワルキューレだが、彼女まで来ると、さすがに戦乙女比率が高くなりすぎると自制したようだ。

 光己としては、スルーズは人格的にまともそうでやる気も実力もあるようなので、さしあたって不満はないが、3姉妹が揃ったというなら望みたいこともある。

 

「姉妹がそろったってことは、ト〇イアン〇ルアタックとかジェッ〇スト〇ームアタックとか使えるようになったりする?」

「へ!? う、うーん、そういうのはちょっと。

 でもあたしたちはお互いに同期できるから、練習すればコンビネーションプレイみたいなのはできると思うよ!」

「そっか、じゃあ3人とも連れてくことがあったら頼むな」

「うん!」

 

 ということで今回の召喚も無事成功し、光己たちは1週間ぶりにカルデアで食事をとりながら、新入り2人との友好を深めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 その翌朝、光己とサーヴァントたちは朝食のあと会議室に呼び出された。

 8人がそこに向かうと、オルガマリーたち幹部3人がすでにテーブルについていたが、表情を見るに悪い話ではなさそうだ。

 

「朝からご足労願ったけど、特に藤宮にとってはいい話だから安心してちょうだい。

 今ロマニたち事務方に次の特異点を調査してもらってるけど、もう少し時間がかかりそうなの。時代と場所が確定しないんじゃ、貴方たちは現地についての予習も無理だから、夏季休暇の1つでもあげようと思って」

 

 事務方は働いてるのにという考え方もあるが、現地組は危険を冒して戦闘しているし野宿などもある。多少の優遇があってもいいだろうというのが幹部組の判断だった。

 何を隠そうカルデアには、プライベートビーチだってあるのだ!

 

「現状だとレイシフトで行くしかないから私やロマニは行けないんだけど、気にせず心ゆくまでリフレッシュしてきてちょうだい」

「マジですか所長! おおぉ、所長の後ろに後光が見える……」

 

 光己は感謝感激のあまり、オルガマリーを拝み出さんばかりだった。

 人類がほぼ滅亡したこの世界で、まさか青い海に白い砂浜に輝く太陽、そしてそして!美少女サーヴァントたちのまぶしい水着姿を堪能させてもらえるなんて……!!

 

「もちろん希望者だけだけど、藤宮は聞くまでもないわよね。他の人たちはどう?」

「先輩が行くなら、私も」

「もちろん行きますわ」

 

 返事をしたのはマシュと清姫が同着で1位だったが、断る者はいなかった。実際、光己と海水浴に(2人きりならともかく大勢で)行くのが嫌だというほど好感度が低いサーヴァントはいないのだ。

 こうして、夏のアバンチュールイベントが開催されることになったのだった。

 




 カルデアが手に入れた聖杯が魔力リソースになっちゃうのは、普通に使えたらストーリー展開上困るというメタ事情なんでしょうなあ。
 ブラダマンテとスルーズが来たのは予定調和というやつですね。2回引いて星5鯖と星4鯖とか何て豪運!
 現在作中時間では8月上旬ですので、水着イベントをここに入れることにしました。ローマ編って日数きちんと考えると何ヶ月もかかってしまうのですな(^^;

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