第33話 謎の無人島
プライベートビーチにバカンスに行くなら、何をおいても必要なのが水着である。光己の分は、ダ・ヴィンチがやっつけ仕事で作った海パン型の礼装が用意されており、サーヴァントたちの分はワルキューレたちのルーンで何とかする予定だ。
もっともプライベートビーチといっても、ダ・ヴィンチが見つけた特異点もどきと言うべきもので、環境的には南国の無人島で海水浴にはうってつけだが、人間はいないしホテルの類もない。しかしモンスターの類もいないので、1泊2日くらいなら問題ないと思われた。
―――そして実際に到着したその島は、まさしく世間一般のイメージ通りのリゾートアイランドであった。
「おお、これはすごい! 今の地球にもこんなとこが残ってたんだな。世界全部が冬木みたいになったわけじゃなかったんだ」
抜けるように澄み切った青空の中、天には白い太陽がまばゆく輝いて、夏の日差しをふりまいている。足元には白く美しい砂浜、視線の先にはどこまでも広がる綺麗な青い海。
背後はなだらかな山で、ジャングルとまではいかないが、緑豊かな森になっていた。
ただし今からすぐ遊べるわけではない。
「先輩、どうやらレイシフトが正常に働かなかったようです。カルデアとも連絡が取れません。
私たちがこうして無事にいる以上、存在証明だけはできていると思われますが」
どうやらここは、見た目こそ似ているが、当初の目的地ではなかったようなのだ。
全員一緒に来られたことだけは幸いだったが、ここがどこなのかも分からないというありさまである。
気温や植物から見て赤道に近い南国の島だと思われるが、それ以外の特徴はないので場所の特定ができないのだった。
「そうだ、こういう時こそ原初のルーンじゃない?」
光己が期待をこめて3姉妹に顔を向けるが、このたびはさすがに無理のようだった。
「いえ、ここが特異点でなければいけるのですが……」
「通常の地軸から切り離されてるって感じだよね」
「時間軸の方も怪しいです。おそらくこちらの時間の流れの方が速いので、帰った時に向こうで時間が経ちすぎていて困ったということにはならないと思いますが」
つまり浦島太郎の逆である。それなら多少帰りが遅くなっても不都合はなさそうだ。
しかし、それにはまた別の問題があることを段蔵が指摘してきた。
「ところでマスター、魔力の方は大丈夫ですか? カルデアから届いているかどうか自体がまず問題ですが、仮に届いていたとしても時間の流れが速いなら、一定時間内に受け取れる魔力の量が減るということになりまするが」
「んー、言われてみれば……でも今んとこ大丈夫みたいだ」
しかし幸い、理屈は不明だが魔力はちゃんと来ているようだ。
「あと何か問題ある?」
「さようですな。あとは衣食住についてですが、衣は問題なし、食は1泊4食が8人分、つまりマスターとマシュ殿だけが食べるなら5日分あります。住はテントがありますから、今すぐ生命にかかわるような問題はないかと存じまする」
「そっか、ありがと」
光己は段蔵の意見を聞き終えると、ふーむと考えこんだ。
そして出した結論は。
「よろしい、ならばバカンスだ!」
「いいのですか?」
「今日1日くらいはね。明日になってもカルデアから連絡が来なかったら、脱出手段の検討を始めよう。それがすぐできるならよし、できないなら島の探索と食料調達もする。
……ってことでいいかな?」
後半の台詞は皆を見回しながら言うと、サーヴァントたちもせっかくリゾートに来たのだから少しは遊びたいと思っていたのか、反対意見は出ず、皆同意してくれた。
万が一滞在が長期にわたったとしても、水はワルキューレが氷を出せるからそれを溶かせばいいし、食料は段蔵が現界した時に得た知識で、森に生えている植物が食用に適するかどうか分かるので、マスターとマシュが飢えたり渇いたりする恐れはまずないという安心感もあったので。
「よし、それじゃテントを張ったら着替えだな。着替え!」
「先輩、覗きは犯罪ですからね」
「ちょ、マシュは俺をどんな目で見てるの?」
光己は健康な思春期男子だが、モラルも人並みにわきまえているつもりだ。美少女の着替えを見たいという欲求は当然あるが、覗きまではしない。
「そうですね、では着替えましょう」
まずマスターがテントの中で着替えたら、外に出て砂浜で待つ。ただし1人では不用心なので、女性陣の着替えは1人ずつで、残りは彼と一緒だ。
1番手はやはりマシュである。飾り気のない白いキャミソールのようなデザインだった。
水着を着るのは初めてなのか、ちょっと恥ずかしそうにもじもじしている。
「あの、先輩、どうでしょうか……?」
「おお、似合ってるよ。可愛い」
シンプルで露出も抑えた白い水着は、彼女の純朴な性格にマッチして非常にグッドだ。少なくとも光己はそう感じた。
胸の谷間はわりかし出してくれている点も含めて。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
マシュは褒められてさらに恥ずかしくなったのか、そそくさと彼の視線が届かないように、彼の後ろに隠れた。初々しくて実によろしい。
2番手は清姫である。無地紺色のスクール水着っぽいデザインで、腰に白いリボンを巻き、なぜか槍を持っていた。水着になったことで、年齢のわりには発育がよいのがさらによくわかる。
「デザインはいくつかあったのですが、森を探索するかも知れないということで、動きやすさ優先でこれにしました。
え、槍? なぜかクラスがランサーに変わりまして」
もっとも狂化はEXのままなので、言動に変化はない。
「そっか、いつもやる気十分でうれしいよ。
でも、今は槍は使わないから消しといてね」
「はーい」
旦那様に褒めてもらえたことで、清姫はとりあえず満足して、槍を引っ込めていったん脇に下がった。
次に来たのはブラダマンテである。青と白と赤に金色を所々にあしらったカラフルなデザインのビキニで、露出度高めかつボトムスのVカットの角度がえぐい。しかし明朗快活な彼女だけに、下品さをあまり感じさせず、ぴったり似合っていた。
「えへへー。どうですか、マスター」
「おお、すっごいいいな! フランス語だとトレビアーン!っていうのか!?」
くるっと回ってポーズを取ったブラダマンテに、光己はぐっと親指を立ててそう称えた。
特にお尻が形が良くて張りがあって、露出ももちろん多くて大変結構だったが、そこまでは言わない。とにかく彼女に会えて良かったと思う。
大げさに身振り付きで褒めてもらえた騎士少女が、満足げににこにこしながら横に下がる。そこまではしてもらえなかったマシュと清姫はちょっと面白くなさそうに、(やはり露出度なんでしょうか?)(それともあのぶるんと揺れるおっぱいが?)などと邪推していたが、言葉や態度にまでは出さなかった。はしたないし、もし彼が認めてしまったらそれはそれでアレなので。
次は段蔵が現れる。シンプルな黒の競泳水着っぽいデザインで、引き締まったボディによくフィットしていた。
「水の抵抗が少ないので水練には良さそうですな。ちと恥ずかしいですが」
「いやいや、似合ってるよ。でも段蔵って海水は大丈夫なの?」
「はい、今はサーヴァントですし、もともと完全防水ですから問題はありませぬ」
「そっか、じゃあせっかくのバカンスだからたっぷり遊ぼう」
「はい」
戦国時代に完全防水の自動からくり人形とは凄いな!と光己は驚愕したが、あえて口にはしなかった。しかもこんな美人でとは。
そしてトリはワルキューレ3姉妹が同時に現れた。
「お待たせしました」
「じゃーん! えへへ、どうかなマスター? 似合ってる?」
「初めて作る服ですが、他の方のも含めてよくできたのではないかと」
水着は形状は同じで色違いのビキニである。スルーズがイエローで、ヒルドがピンクでオルトリンデが黒、つまり髪の色に似せていた。しかもいわゆる三角ビキニで、背中と首の後ろがヒモ結びになっている。いや、ボトムスの左右もだ。
スタイルはいいからバッチリ似合っているが、光己はヒモをほどきたくなる誘惑に耐えるのが大変だった。
「そ、そだな。3人のも含めてすごいGJだ。ありがとな」
こんなまぶしい水着美少女たちをしばらく独り占めできるなんて、通信途絶がむしろラッキーに思えてきた光己なのだった。
「それでこれからどうするの?」
「そりゃもちろん、思いっ切り遊ぶんだよ。普通に泳ぐのもいいし、水かけっことか騎馬戦とかビーチバレーとか砂遊びとか、それに疲れたら日光浴とか」
思春期男子としてはサンオイル塗りっこが一押しなのだが、さすがにそれは口にできない。もうちょっとこう、夏の日差しと海辺の魔力で開放感が上がってくれればワンチャンあるかも知れないけれど。
撮影会もしたいが、これもまだ時期尚早と思われる。
「うん、それじゃさっそくいこう!」
ヒルドがそう言いながら、光己の後ろから抱きつく。熱い素肌がふれあい、豊かな胸がすりつけられる感触に少年がどきっとする間もなく、左右からスルーズとオルトリンデに腕を取られた。
「それじゃいきましょう、マスター」
「いろいろ教えて下さい」
「お、おおぅ……!?」
3人がかりで肌色アタックされては防ぎ切れるはずもなく、あっさり引っ張られていく光己。
「……って、何ますたぁを1人、いや3人占めしてるんですかー!」
無論、清姫やマシュたちも追いかけていくわけだが。
その頃島の反対側では、若い女性3人が砂浜を大儀そうに歩いていた。当然ながらサーヴァントだ。
「暑い……まったく、なぜ私がこんな所に呼びつけられねばならんのだ。
おそらくは貴様のせいなのだろうがな、刑事女」
「えー、そんなこと言われても証拠はないじゃないですか。
自分だけ鎧着てて暑いからって、八つ当たりしないで下さいよ」
1人めは、病的なほどに白い肌をした15歳くらいの少女である。いかにも暴君的なオーラをただよわせており、一言でいえば冬木で会ったアーサー王にそっくりだった。黒い甲冑の下に黒い服を着ているので、南国で暑いのは当然のことだろう……。
2人めは20歳くらい、美少女から美女に変わる微妙な時期っぽい娘である。明るく闊達な印象だが、どこか疲れたOLのような雰囲気も感じられた。金髪碧眼でスタイル抜群、バストの迫力はブラダマンテに匹敵するレベルだ。
服装は青いジャージの肩から上の部分と青い帽子、それに白地に青いラインで縁取りした紐ビキニである。なるほどこれなら南国に適応しているので、黒鎧娘に妬まれても仕方かも知れない。
「でも実際、私とオルタがいるのは貴女からの連鎖召喚なんでしょう?
こう、あの制服、じゃなかった征服狂いのヤンキーを召喚したら、誰も呼んでないのにダレイオス三世が現れたって感じで」
こう言ったのは3人めの娘、顔立ちと体格は1人めそっくりだが、普通に健康的な肌つやの少女である。服は露出は少ないが、鎧なしで青と白のドレスっぽい装束なので、1人めよりはだいぶ過ごしやすい感じだった。
「いや、私だってセイバーというか、本家になんて絶対来てほしくなかったんですが……。
むしろセイバー殺すべし。全アルトリア顔セイバー殺すべし」
「物騒なこと言いますね……。
しかし、今はなぜ私たちがこの地に呼ばれたのかすら分からない状況ですからね。くれぐれも暴発は控えて下さいよ」
「わかってますよ。この土地なんだか魔力少ないですしね……」
3人はどうやら聖杯に召喚されたのではなく、この島自体に呼ばれたようだ。しかし魔力供給は潤沢ではなく、1人めの娘が暑そうにしていたのはこのせいでもあった。
この島で起こっているのだろう異変のせいか、それとも単に本来1人で受け取るべき魔力を3人で分けてしまっているためか。
「どこかに頼れるお財布、もとい良いマスターでもいないものですかねぇ」
「そんな態度で引っかかるマスターはいないと思うがな。それともその無駄に育った乳で、色仕掛けでもするか?」
「なっ、い、色仕掛け……!? し、しませんよそんなこと。
だいたい貴女だって、その暴君的アトモスフィアどうにかしないと、普通のマスターは逃げちゃいますよ」
「フン、そんな軟弱者、こちらから願い下げだ」
1人めと2人めはいまいち仲が良くないようだ。やむを得ず、1番常識的で穏当な性格の3人めが仲裁に入る。
「2人とも無駄な争いはやめて下さい。ここには魔物だっているんですから……ほら言ってるそばからまた!」
何しろこの島には敵性生物がいるのだから。突如海中から現れた巨大なヤドカリの群れに向かって、3人はそれぞれ得物を構えるのだった。
章題でネタバレしていくスタイル(ぉ
謎の刑事娘が呼ばれた理由はヒント:「宇宙」「ブラック上司」