カルデア現地組は、現在ルーラーはいないし本部による生体反応調査もないので、1番遠くまで目が届くのは、段蔵のニンジャ遠視力だ。それによると、接近中の3人は全員女性。1人は20歳くらいで水着姿、1人は15歳くらいで黒い鎧を着ており、1人はこれも15歳くらいで青と白のドレスっぽい服を着ている。顔立ちがほとんど同じなので、同じサーヴァントの別側面が同時に現界したものと思われた。
マスターらしき人影はない。聖杯か抑止力に呼ばれたのだろうか。
「……というかあれ、もしかして冬木で会ったアーサー王じゃありません?」
すると、目を凝らして注視していたブラダマンテがそんなことを言ったので、光己はびっくりしてしまった。
「え゛!? マジで!?」
まさかあの時の仕返しに!? 清姫がカルデアに来られたのだから、アーサー王がここに来られてもおかしくはない……が、冬木のアーサー王は自分たちを恨んでいる様子はなかったから、そこまではしないと思う。
「じゃあ何で走って来てるんだろ?」
「わかりませんが、先輩は下がってください」
それでも用心は必要だ。マシュは盾を出して光己をその後ろに隠し、ワルキューレたちもそれぞれ守護のルーンを使って3重の結界を張る。
3人は攻撃してくる様子はなく、カルデア一行から3メートルほど離れた位置で停止した。
間近で見ても、先頭の少女は冬木で会ったアーサー王に瓜二つだ。しかし彼女にあの時の記憶があるかどうかは分からないし、3人の意図もまだ分からない。果たして何が目当てでわざわざ走ってきたのだろうか……?
カルデア一行が固唾を呑んで3人の動向を見守っていると、アーサー王らしき少女がおもむろに口を開いた。
「あの肉を見ろ、青。あれをどう思う?」
「すごく……美味しそうです……」
「……んんん?」
もしかしてこの3人、バーベキュー目当てで来たのか?とカルデア一行が首をかしげる。そしてそれは正解だった。
「うむ。ではそこの8人、その肉を献上することを許す」
「そんな許可いりませんのでお引き取り下さい」
黒い王様の超上から目線での要求を、清姫はフンッと歯牙にもかけずに拒絶した。王様はこめかみにピシリと井桁を浮かべたが、そこに水着娘が仲裁に入る。
「ああもう、だから暴君アトモスフィアじゃ逃げられるって言ったじゃないですか。
すみません、このヒト生前の王様気質が抜けてなくて。私たち、いわゆるマスターがいないはぐれサーヴァントなんですけど、ここに来てから魔力不足な上に何も食べてなくてですね。頼れるお財布、もとい良いマスターを探してるんですよ」
「夫をえぇてぃぃえむ扱いする方ですか? よそを当たって下さいませ」
「はうっ!? いえそういうつもりではなくてですね」
実際のところ、サーヴァントがマスターに魔力や金銭(生活費)を要求するのはごく正当なことなのだが、多分言い方が悪かったのだろう。水着娘は弁解しようとしたが、それでは埒が明かぬと見たドレス少女が割り込んだ。
「いえ、私たちは別に三食昼寝おやつ付きのぐーたら生活がしたいわけでは……してみたいですが、サーヴァントとしてやるべきことはやりますよ。
というわけで―――問おう。貴方が私のマスターか?」
「違います」
しかし魔力不足のためか意欲を疑わせる台詞が出たので、清姫を納得させることはできなかった。ぴしゃりはねつけられた3人は、魔力不足のためこれ以上の侵攻が不可能になりへたりこんでしまう。
さすがに哀れを覚えた光己が話に加わった。
「清姫、いいディフェンスだったけど、はぐれサーヴァントがいるんなら、ここはやっぱり特異点なんだろうし、何か情報持ってるかも知れないから、話くらいは聞いてみようよ」
もし3人がフランスでの白ジャンヌやジークフリートと同じ立ち位置なのだったら、共闘するべきだという意味である。いたって順当な意見だったが、清姫はそれにも疑いの目を向けた。
「それはそうですが……ますたぁはこの方の胸が大きいからとか思ってません?」
「!?」
こういう場合男性側は普通嘘でも否定するものだが、こと清姫に対しては悪手である。光己はやむを得ず正直に答えた。
「そりゃ思ってるさ、男の子だからな! あーでも半分くらいだぞ、だいたい」
「!?」
素直にぶっちゃけられて今度は清姫の方が言葉に詰まってしまった。
もちろんセクハラ発言なのだが、「嘘をつかないで」という清姫の要求に沿ってのことだから仕方がない。といって「人理修復という大仕事の最中なんだから性欲は抑えろ」なんて綺麗ごとを言った日には、その瞬間に特大のブーメランが戻って来るわけで。
また光己は「清姫だけを愛する」といった類の発言はしていないので、他の女性に目移りしても不義理にはならない。
「…………ぐむむ、さすがは生まれ変わった安珍様。正直かつ隙がないです」
なので、清姫は今回はおとなしく引き下がることにした。
しかし当の水着娘は、恥ずかしそうに両腕で胸を隠している……が、大きすぎて隠し切れていない、というか腕に圧されてたわんでいるのが実にえっちぃ。
ちょっと気まずくなった光己はとりあえず謝罪することにした。
「あー、すみません。普通なら建前言うとこなんですけど、あの娘そういうの嫌いでして。
若気の至りってことで流してくれると嬉しいです」
一応誠実に頭を下げたつもりだったが、すると当人より先に黒い王様が反応した。
「気にするな。元はと言えばこの無駄乳、いや、気を引くことはできたのだから無駄ではないな。とにかく、この女がこんな露出の多い格好をしているのが悪いのだ。
……いや悪くはないな。せっかくだからもっと気を引け」
オルタは後ろから水着娘の両腕を引っぺがすと、背中をとんっと前に押した。水着娘がよろめいて、反射的に光己の体にしがみつく。
光己も思わず彼女をささえようと背中に手を回して―――つまり抱き合う形になった。
彼女の豊かでやわらかなバストが光己の胸板に押しつけられ、間近で目と目が合ってしまう。
「……ぁ」
しかし、甘美な時間は残念ながら一瞬で終わってしまった。当然ながら、水着娘はすぐ彼の腕の中から抜け出して、王様に苦情をつけに行ったので。
「何するんですか! いいかげんにしないと怒りますよ」
「まあそう言うな。見ての通り、私はこんな硬くて暑苦しい格好だから、自分ではできないのだ」
「だから何で色仕掛けにこだわるんですか!」
「1番手っ取り早そうだからに決まっているだろう」
もっとも王様の表情を見る限り、1人だけ水着で涼しそうなのが不愉快だからという理由の方が強そうではあったが……。
「―――まあまあ2人とも! 初対面の人の前で内輪もめするのはやめましょう」
2人の雰囲気が険悪になってきたので、ドレス少女が仲裁に入って引っぺがす。ついで光己の方に体を向けた。
「見苦しい所をお見せしてすみません。今更ですが自己紹介させてもらいますと、私たちはこの特異点に召喚されたはぐれサーヴァントで、アルトリア・ペンドラゴンといいます。ブリテンのアーサー王といった方がわかりやすいかも知れませんね。
ただ名前が同じだと不便ですので、私のことは普通にアルトリア、鎧を着てる方をオルタ、水着の方をヒロインXXと呼んでいただければ」
やっと話がまともになったようだ。光己も頭を切り替えてそれに応じることにした。
「ああ、これはどうもご丁寧に。
俺たちはカルデアという団体で現場担当してる職員で、今日はバカンスに行く予定が、事故でこの島に流れ着いてしまったんですよ」
アルトリアは冬木で会ったリリィが真っ当に成長した姿のようだから、人格はまともだろうが、最初から人理関係の話は避けるのは当然だった。
オルタはともかくヒロインXXというのは人名じゃなくてコードネームの類……というかフランスで会ったXオルタの関係者じゃないかと思ったが、初対面でそれを突っ込むのも避けることにする。
「で、俺はマスターしてる藤宮光己といいます。あとはみんなサーヴァントで……みんな、自己紹介してくれる?」
「はい」
というわけで、マシュたちが順番に名乗ってお互いの自己紹介が終わると、アルトリアが質問をしてきた。
「ところで先ほど事故といいましたね。参考までに、どんな経緯で? 飛行機事故か何かですか?」
無論興味本位ではなく、この特異点に入った方法によっては、何か分かることがあるかも知れないからである。
光己がマシュに頼んでレイシフトについて簡単に説明してもらうと、アルトリアは残念と感心を足して2で割ったような顔をした。
「なるほど。事故の細かい流れまで分かれば、この特異点について何か分かったかも知れませんが、まあ仕方ないですね。
しかし時空間移動とかマスター1人にこれだけのサーヴァントを抱えさせておける技術とか、カルデアというのはずいぶん高度なテクノロジーを持っているんですね」
「ああ、それは俺も最初は思いました」
しかも立地は南極である。あんな立派な建物を秘密裏に建てたというだけでも大したものだ。
「それでも通信ができないのは、ここの異変が原因という可能性もあります。私たちと一緒に解決するのが良策かと思いますが、いかがでしょう。
……私たちも今朝ここに来たばかりなので、役に立つ情報などは持っていませんが」
「ふむ」
アルトリアの提案はやや我田引水の感が否めないが、もしこの特異点が人類史に有害なものだったなら、どのみち解決する必要があるので共闘した方が得という考え方もある。
それにXXのむっちりボディは惜しい。あの美貌とカラダで1人だけ紐ビキニなんて着てるのは、きっとナンパを待っている、具体的には仕事に疲れたOLが、年下の男の子と遊んでみたいと思ってるに違いないのだから(偏見)。
「それはいいですが、俺たちも食料があり余ってるわけじゃないんで、あまりたくさんは出せないですよ。生身の俺とマシュが優先で、アルトリアさんたちはヒルドたちと一緒。それでいいなら」
とはいえ言うべきことは言っておかねばならない。食事に限らずあまり強欲な人、あるいはやたら威張る人や協調性のない人は、元パンピーかつコミュ力並みのマスターには荷が重いのだ。
オルタはともかく、アルトリアとXXは問題ないと思うが。
「ふむ、そちらとしては当然の要求ですね。私はそれでかまいません」
「私もOKですよー。むしろホワイトの気配がしますね!」
やはり2人はすぐ同意してくれた。
オルタは食事に制限がつくと言われてかなり不服そうな顔をしたが、断ったらゼロになるだけなので選択の余地はなかった。
「……私に節食を強いるとは許しがたいが、今回は特別に見逃してやろう。ありがたく思うがいい」
それでも暴君なので上から目線だったが。そして転んでもタダでは起きなかった。
「ところで貴様たちは何故全員水着姿なのだ? XXのような水着サーヴァントというものの存在は知っているが、たまたま7人全員がそうだとは考えにくいが」
無論マシュたちの水着が市販されている布製の物ではなく、彼女たちの霊基の一部であることを見抜いた上での発言である。
カルデア一行にはこの辺を隠す理由はない。
「ん? ああ、ヒルドたちに霊基を調整してもらったんだよ。せっかくバカンスに来たんだから服もそれらしくしたいしね。
なぜかクラスまで変わっちゃう人もいるけど」
「ほぅ……? それは私にもできるのか?」
「んー、そりゃまあできるとは思うけど」
光己がワルキューレ姉妹に顔を向けると、3人はこっくり頷いた。
「はい、大丈夫ですよ」
「そうか、なら私も頼む。南国でこの鎧は暑いのでな」
「あ、それじゃ私も」
オルタが着替えを求めると、1人だけ普段着なのは落ち着かないのか、アルトリアも希望してきた。
これも断る理由はない。姉妹が2人をテントに連れて行き、しばらくすると先に依頼したオルタが現れる。
「うむ、だいぶ涼しくなったな。これはいい」
満足げにそう言った彼女は黒い三角ビキニの上に黒いパーカーを羽織り、白い小さめのエプロンを付けていた。太腿の真ん中までの黒いストッキングを穿き、首にリボンを巻いている。
ここまではまあいいが、頭にホワイトブリムを付け、右手には黒い銃を、左手にはモップを持っているのはどういう仕儀なのだろう。
「……えっと、武装メイド? 護衛担当?」
光己が心底不思議そうな口調で訊ねると、オルタはふんすとドヤ顔で頷いた。
「うむ。どうやら貴様は暴君は好みじゃないようなので、方向性を変えてみた。
夏のメイドさんとして、貴様には理想の生活を覚悟してもらうぞ」
「えー……」
光己はちょっとげんなりしたが、暴君的アトモスフィアはだいぶ収まっているし、何より「メイドさん」という5文字から感じるコトダマは大変に素晴らしい。素直に受け入れることにした。
「まあいいや、よくわからないけどよろしく頼むよ」
「うむ、任されよう」
光己が仲間になった印に敬語はやめてタメ口でそう挨拶すると、オルタはまた満足そうに頷いた。
そしてアルトリアが現れる。
「お待たせしました。着慣れない服装でちょっと落ち着きませんが、似合ってるでしょうか?」
こちらは白のセパレートに青い縁取りとリボンを付けたシンプルなもので、右手には黄金色に輝く長剣、すなわち聖剣エクスカリバー、左手にはなぜか大型の水鉄砲を持っていた。
雰囲気もだいぶ明るくほがらかな感じになって、一言でいえばとても可愛い。特に形良くツンと張ったヒップがぐっと来る。
「ああもうバッチリだよ。ずっと見てたくなるくらい」
「そ、そこまで言われるとちょっと恥ずかしいですね」
水着を着慣れてないそうでもじもじして照れるアルトリアだったが、それがまた大変に可愛い。光己はこんな神イベントを組んでくれたオルガマリーたちに、改めて(心の中で)感謝したのだった。
というわけでアルトリアズも水着になりました。ひゃっほーい(ぇ