FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第37話 悪竜現象2

 まさかの1回目のチャレンジで本当にファヴニール化した光己が、どうも失神しているらしく、その場にうずくまったまま周囲の魔力を掃除機のように吸収している。

 マシュたちはどうしていいか分からず、手をつかねて見守るばかりだ。

 

「……ふーむ。確かマスターは元一般人だったんですよね? するとあれは、単に変身に使った分と巨体を維持するのに必要な魔力を摂取しているだけだと思いますが」

 

 ルーラーアルトリアが周囲に意見を求めるかのような口調で呟く。

 先ほど聞いた話によれば、光己はカルデアに来る前は魔術とは縁のない一般人だったという。それがファヴニールや清姫やタラスクやアルトリアたちの影響で竜人(ドラゴニュート)になったとはいえ、まだ日は浅い。というか、最初にファヴニールの血を浴びてから1週間ほどしか経っていないのでは未熟も未熟であり、それがいきなりあんな巨体を形成したのでは魔力が欠乏するのは当然だ。

 逆にいえば、たった1週間で変身できるほどに成長したのは早すぎるということになるが、おそらく竜の血を摂取しすぎたのであろう。素質もあったのだろうが。

 

「……そうですね、そんなところでしょう」

 

 マシュがこっくり頷く。言われてみればその通りだ。

 ならとりあえず、周囲に大きな被害をもたらすのでなければ止めなくてよさそうである。

 

「あとはあの白い翼ですが……?」

 

 光己説に沿って考察するなら、まず清姫、つまり東洋龍は水神として崇められているし、タラスクも神が創造したリヴァイアサンの子だから本来は神サイド、というかマルタの手で改心したのだから間違いなく神サイドの存在である。その神の要素が黒い皮膜の翼=悪魔の象徴の対立項として、天使の象徴である白い羽の翼として現れたというのが順当なところか。

 ―――彼の説を信じるとすればだが!

 

「まあ、その辺りは後で考えればいいかと。

 それより問題は、どうやってマスターを人間の姿に戻すかですが」

 

 ルーラーがそう言いながらメイドオルタの顔を顧みる。発案者なら当然考えてあると思ったからだ。

 しかしメイドオルタは平然とかぶりを振った。

 

「いや、私は知らんぞ? 私のご主人様ならそのくらい自分でやってもらわねばな」

「…………」

 

 信頼と評すべきか無責任となじるべきか。ルーラーはちょっと反応に困ってしまった。

 仕方ないのでとりあえずもう少し様子を見ていると、やがて魔力を吸う勢いが弱くなっていき、そしてついに巨竜はうっすらと目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 光己がはっと気づいて目を開くと、妙に視点が高いことに違和感を覚えた。まるでビルの屋上から風景を眺めているようだ。

 視線を下にずらすと、サーヴァントたちが砂浜に立ってこちらを見上げているのが見えた。表情までは判別できないが、心配しているのは分かる。

 声をかけて安心させようと思ったが―――。

 

(声が出ねえ!?)

 

 出たのはウオーとかガオーとかいう唸り声だけだった。何故だろう、別に口をケガしたとかではないのだが。

 

(いやそれどころか……)

 

 この気分の良さは何なのだろうか。まるでずっと縛られていた罪人が縄を解かれた瞬間のような解放感、高揚感を感じる。しかも全身が力に満ちて、このまま空を飛んで地球一周さえできそうに思えた。

 そしてふと手を上げて見てみると、何かどでかい恐竜の手のようなモノが視界に入った。

 

(何じゃこりゃーー!? って、そうか、さっきファヴニールになる実験したんだっけ)

 

 思い出した。そういえばそんなことをしていたのだった。

 どうやら本当に成功したようだ。首を回して自分の全身を見渡してみると、確かにフランスで戦ったあの巨竜の姿になっている。

 さっき喋れなかったのも、口の形状が違うのだから、人間と同じ動かし方では同じ発音ができないのも当然だ。まあ練習すればできるようになるだろう。

 

(それはそうとこの白い翼……どうやら俺の仮説が当たったか!?)

 

 素晴らしい。神と悪魔の間の子とか、脇腹の浪漫回路がぎゅんぎゅん回って魔力が無限に発生しそうである。そして最終的には人と竜と神と魔の血すべてを統合昇華して、何もかもを超越した超龍皇になるのだ。

 超龍皇の前には魔術王だろうと誰だろうと首を垂れることだろう。そうして人理修復を達成したら、その凄さにマシュやルーラーアルトリアたちがベタ惚れになってくれて、皆で末永く幸せに暮らすのだ。

 

(考えてみれば人類を救うんならそのくらいのご褒美あっていいはずだしな。よし、目指せ大奥王!)

 

 変身したからかすっかりテンションが上がった様子の光己がおバカなことを妄想していると、ワルキューレ3人がおっかなびっくりという感じで顔の前に飛んできた。

 まあ、ファヴニールの体重が仮に100トンとすると、体重差は2千倍以上になるので、光己がちょっと寝返りを打って振った尻尾に当たるだけでも死にかねないから当たり前ともいえるが―――そう考えると、フランスではよく倒せたものだと思う。

 

「マスター、起きてますか!?」

 

 スルーズが10メートルほど離れた所から大声で叫んできたので、光己は「大丈夫」と答えてみたが、やはり「ヴオガグガ」としか発音できなかったため、代わりにコクコク頷く。

 すると3人はほっと安心した様子で言葉を継いだ。

 

「それじゃとりあえず、今回は人間の姿に戻って下さい。その……できますよね?」

 

 少女がちょっと不安そうなのは、それをするための方法論がないからだろう。言われて光己も少し不安になったが、ためらっていても仕方ないのでやってみることにする。

 手順はさっきと同じ、人間の姿に戻ることを念じそれをイメージすることだ。

 せっかく変身したのだからドルオー、じゃない滅びの吐息とか試してみたかったりしたが、その意向を表明する手段もないことだし。

 

(……………………)

 

 今度はすぐには体に反応がなかったので光己は少々慌てたが、やがて体から何かが抜けていくような感覚と共に全身が縮んでいくのが分かった。よかった、うまくいったと安堵しつつ、さらにイメージを強める。

 数分後には無事元の姿に戻ることができて一安心したが、スルーズたちがちょっと困った様子で両手で顔を覆っているのは何故だろう。

 

「どうかした?」

「その、マスター今ハダカです」

「え゛」

 

 オルトリンデが顔を真っ赤にしながらも答えてくれたが、なるほど、竜に変身したなら腰に巻いたタオルなどびりびりに破れ散ることだろう。つまり光己は今オールヌード、生まれたままの姿なのだった。

 あわてて股間を隠しつつ、心底言いづらいがやむを得ないので、目の前の少女に頼む。

 

「…………オルトリンデ、服持ってきてくれる?」

「…………はい」

 

 ぱたぱたと駆け去っていく戦乙女の背中を見つめつつ、光己はふと残った2人の顔に視線を移した。手で覆ってはいるが、よくあるように指の間は開いていたので視界は半分残っている。

 

「…………」

 

 光己は沈黙している。見たのならお返しにそっちも見せて、と言いたかったがそんなこととても言えないヘタレ少年なのだった。

 ―――ただこうも簡単に人の姿と竜の姿を切り替えられたのは、もしかしたら清姫の血のおかげなのかも知れない。だって彼女とファヴニールとタラスクの中で、それができるのは「サーヴァントの清姫」だけなのだから。本人に言ったらどんな反応をするか分かり切っているので言えないけれど。

 

 

 

 

 

 

 最後はちょっとしまらなかったが、竜に変身するのも人間に戻るのも光己の意志だけでできることが分かった。竜の姿で直接戦うのはいろいろ問題があるので切り札……の二歩手前くらいの扱いとして、竜になれば大気中の魔力を大量に吸収できるし魔力容量も桁違いに増えるので、その辺に使い道がありそうである。

 

「ああ、安珍様……まさか本当にわたくしと同じモノになって下さるとは。わたくし歓喜に堪えません……!」

「さすがマスター! ファヴニールが味方になったなんて頼もしいです!」

 

 感極まった様子の清姫とブラダマンテが後ろと前から光己に抱きつく。もちろん光己もしっかりと抱き返した。

 やがて満足した2人が離れると、今度は今回の功労者というか責任者のメイドオルタが現れる。

 

「うむ、これでこそ私のご主人様だな。褒めてやろう。

 今後ともマスター道に邁進するがいい」

 

 彼女も抱きついてスキンシップしてくれるのかと光己は期待したが、残念ながらふんすとドヤ顔で一応ねぎらいの言葉らしきものをくれただけであった。厳しみ。

 一方こういう時はたいてい参戦するワルキューレズは今回は少し離れて、何やら密談している模様である。

 

「これは決まりだよね。マスターはヴァルハラにご招待に大決定!

 こんな逸材逃がしたら、お父様に叱られちゃうよ」

 

 ヒルドは声はひそめているがすっかりはしゃいだ様子である。左右の2人も同意ではあるようだが、いくつかの懸念があるようだった。

 

「そうですね。ただマスターはケルト人ではありませんから、ヴァルハラにお招きするにはちょっと手間がかかりそうですが」

 

 光己は日本人なので、仮にカルデアを退職した後は日本に帰り、普通に生きた後に死亡したら日本の冥界に行くだろう。それを覆すには、たとえばキリスト教徒が死後天国に行くのを願ったり、仏教徒が極楽浄土に行くのを望んだりするのと同じように、光己にヴァルハラに行くのを強く願ってもらう―――のは彼の性格から見て難があるので、自分たちと一緒にいたいと思ってもらう方がずっとやりやすそうである。

 

「それはお仕事だからいいっていうかマスターなら望むところだけど、現界した時にもらった知識から考えると、人理修復が終わったら、国連と魔術協会はあたしたちを退去させそうなんだよね」

 

 その指示をカルデアが拒否できるとは思えない。そうなると、今いくら好感度を高めたところで彼が日本で恋人ができたり結婚したりしたら、3人のことなど思い出になってしまうから、ヴァルハラ式修練に耐えてまでして会いたいとまでは思ってもらえなさそうだ。

 

「というかあたしたちがいなくなったら、魔術協会がマスターに何するかわかんないしね」

 

 光己が一般人のままならともかく、竜種に変身できるなんてことを知ったら、封印指定とか実験動物とか魔術道具化とか、ろくな扱いをしないだろう。サーヴァント、いや戦友として看過できない事態だ。

 カルデアの人々は皆善良だから隠してくれるかも知れないが、自分たちがいなくなるのにそういう不確定なことを期待すべきではない。

 

「ということは、カルデアが協会に報告書を出す前にマスターを連れて雲隠れということになりますね。

 人理修復が終わったら凍結中の47人を治療できますから、マスターがいなくなってもカルデアは困りませんし」

 

 それに、人理修復が終わった後も光己のそばにいれば、好感度を上げる時間はたっぷり取れるし、彼の臨終の場に立ち会うなら、必要好感度自体も彼単独で来てもらう場合より低くなる。ぜひそうすべきだ。

 

「できれば聖杯をいただいていきたいですね。それなら私たち3人とも維持できますから」

「そうだね、あともちろんこれは決行まで絶対秘密だよ。特にマシュさんや清姫さんには」

 

 この2人にバレたら騒ぎになるのは避けられない。もし雲隠れについて来られたら勧誘がやりにくくなるし。

 

「そうですね。マスターとお父様のためにがんばりましょう!」

 

 そんなわけで、マスター誘拐計画が秘密裏に立案されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃちょっと遅くなったけど、食料調達と拠点建設始めようか。

 まず午前中は俺とマシュ……と清姫って、生前の頃は竪穴式住居まだ残ってたんだっけ?」

「はい、わたくしの家は違いましたが、庶民の方々はそうでした」

「そっか、じゃあ清姫も残ってもらって家の設計図描き頼む。

 ヒルドとオルトリンデは工具やナイフ作ってもらって、残りの人は山で食料集めと異変調査……ってことでいい?」

 

 光己がそのように仕事の割り振りをすると、アルトリアがぱっと手を挙げた。

 

「ん、何かある?」

「はい。せっかくきれいな海が目の前にあるのですから、海の幸も採ってはいかがでしょう」

 

 さすが腹ペコ王はブレがなかった。

 しかし光己の感覚では、まだこの土地のことがまるで分かっていないのにむやみに人員を分散させるのは、あまり好ましいことではない。

 

「うーん。俺も魚は欲しいけど、ある程度山の状況が分かるまでは、なるべくバラけない方針にしたいんだけど。

 いずれは塩とか要るから嫌でも行くことになるから、その時まで待ってくれない?」

「なるほど、マスターはなかなかの慎重派ですね。分かりました、その日を楽しみにしています」

 

 アルトリアは意外とあっさり引き下がってくれた。まあ後日の約束をしたのと、塩という重要な保存料兼調味料についてマスターがちゃんと考えていることに感心したからだろう。今の光己の発言だと、彼は現在の状況でできる製塩法を知っているようだし。

 一方感心された当人は周囲をぐるっと見回して、改めてその絶景ぶりに内心で身を震わせていた。

 

(海辺で水着の美女美少女11人に囲まれて、しかもみんなだいたい俺に好意的とかどんな天国!?)

 

 清姫とメイドオルタはちょっと問題があるが、その程度は気にもならぬ。

 皆それぞれ違った素晴らしい魅力の持ち主だが、特にルーラーアルトリアとヒロインXXのおっぱい、あとブラダマンテとアルトリアの臀部はけしからん。つい凝視してセクハラ扱いされてしまったらどうするのだ。この辺りで俺に非はないラッキースケベイベントでも起こらないものか!?

 ―――などと南国の海の開放感にアテられたのか、思春期少年はまたあほなことを考えていたが、隣のマシュに声をかけられて我に返った。

 

「先輩、どうかしましたか? まさか熱中症とか」

「いや、大丈夫だよ。それじゃみんな、よろしく頼む! 特に山に行く人たちは気をつけてな」

「はい!」

 

 こうして、いよいよ本格的な探索が始まったのだった。

 

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