FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第40話 開拓クエスト2

 オルトリンデとヒロインXXは、光己が戦っている間は自分に向かって来たヤドカリを適当にいなしていたが、彼の戦闘が終わったら、すぐとどめを刺して終わらせてしまった。さすがは戦乙女と騎士王、いや宇宙刑事というところか。

 

「マスター、お疲れさまでした。今回はこのくらいにしておきましょう」

 

 オルトリンデは訓練には厳しいが、予定外の実戦が入った後でまだ続けるほどの鬼教官ではなかったようだ。実際疲れていた光己がほっと安堵の息をつく。

 

「うん、今回は体はともかく精神的に疲れたから」

 

 無敵アーマーがあるから傷つく恐れはまずなかったとはいえ、命の取り合いだったことは間違いない。さしたる長時間ではなくても疲れるのは当然だった。

 

「というわけで、XXの提案で戦ったんだから、整理運動はXXに手伝ってもらうのが筋かなと思うんだけど」

 

 そこで先ほど出した話題を蒸し返してみると、当然ながら好感度がまったく足りていないため無情に断られてしまった。

 

「だ、だからそういうことはしませんって!」

 

 ただそう言った時に顔が真っ赤になっていた辺り、見た目は光己より年上ながらも恋愛スキルはほぼゼロっぽいのが見て取れて、実に微笑ましい。

 そういうわけで整理運動もオルトリンデに手伝ってもらって、心身ともに満足した光己が拠点に帰ってみると、家はほぼ完成していた。

 

「ただいま。家はもう出来上がり?」

「はいっ、あとはますたぁとわたくしの相合傘を書いた表札を付けるだけです!

 今夜からは枕を並べて寝られますね」

「…………無人島で表札?」

 

 突っ込みどころはいくつもあったが、狂化EXに言うだけ無駄ぽいので光己はスルーした。

 次に工房、といっても地面を(なら)して簡素な屋根と壁を建てただけの場所をそう呼んでいるだけだが、そこに向かうと完成品の(かめ)や壺や板がいくつか並んでいた。実用本位で飾り気は全然なかったが、今はこれで十分である。

 午前中の作業は終わったらしく、ブラダマンテとスルーズが後片づけをしていた。

 

「おお、もうこんなに作れたんだ」

「はい、1度コツを覚えればそんなに手間はかかりませんから。焼くのはいっぺんにできますし」

「そっか、お疲れさま。これだけあれば『製塩場』も解禁できそうだ」

「はい、塩を作るんでしたよね」

「ああ、俺とマシュにとっては必須栄養素だからな。調味料にも保存料にもなるし」

「大事なものなんですね! じゃあ私もがんばって作りますから」

「あ、ああ、ありがと」

 

 ブラダマンテのいつものまっすぐな好意表現に、光己はちょっと照れてどもってしまった。彼女には恋人がいるそうなので恋愛的な意味はナッシングなのだが、それでもまぶしいものはまぶしいのだ。

 最後に物干し場に行くと、探索組も戻っていて、何かの動物を解体したり植物を整理したりしていた。

 

「お疲れさま、どうだった?」

「はい。黒幕の手掛かりはありませんでしたが、アルトリア殿たちが鹿と兎を仕留めました。

 ケガ人はおりませぬのでご安心下さい」

「…………うーん、本当に食事にはこだわりがあるんだなあ」

 

 段蔵の報告に光己は小さく唸ってしまった。肉は十分あるのにまだ追加を求めるとは。

 まあ中世ヨーロッパは食事事情は結構厳しかったらしいから無理もない……いやマッシュポテトつまりジャガイモはあったそうだから量的には何とか、いやアーサー王の頃は芋はなかったような、それとも戦乱続きでていねいに調理している余裕がなかったのだろうか。

 

「それと、今回はこのようなものが見つかりました。

 生前には見たことがありませぬが、現界時に得た知識によればサトウキビだと思われまする」

「ほう、サトウキビとな」

 

 段蔵が指で示した緑と茶色の茎の束を見て、光己はピクリと唇の端を上げた。

 何しろ砂糖の原料として有名すぎる植物である。つまり食卓に新たな甘味が追加されるのだ。他にも蒸留酒やバイオ燃料に使えるが、今作れるのは黒砂糖だけだろう。

 和三盆まで作れれば、どこかの誰かと再会できそうな気がしたが、多分気のせいだ。そもそも作り方を知らないので。

 またそれとは別の誰かとゆかりがある植物のような気もしたが、さしあたって今どうこうできることはなさそうである。

 

「あともう1つ。ヒルド殿の提案で、彼女が上空から島の全体図を描いて下さいました」

「ああ、その手があったか。もっと早くやっておけばよかったな」

 

 手描きの簡単なものであっても、全体図があれば探索はより効率的になるというものだ。

 光己がそれを見せてもらうと、島はほぼ円形で、光己たちが拠点にしているここは南東の端であった。島の大部分は森林に覆われているが、中央やや北に大きな禿山があり、その南から海岸まで大きな川が流れている。

 

「うーん。この山が場所といい大きさといい、怪しいと思うのは気のせいかな?」

「地形自体は黒幕の手によるものではないと思いまするが、何らかの手掛かりがある可能性はあろうかと」

「なるほど。じゃあ食料に余裕ができたらみんなで行ってみようか」

「はい、その辺りが妥当かと思いまする」

 

 みんなで、というのは無論光己も一緒にという意味である。黒幕がいる可能性が高い場所なら、最初から同行した方がいいからだ。

 仮に黒幕がいたとして、禿山にこもって何がしたいかは分からない―――もしかしたら以前のXXたちのように、魔力が足りなくて引きこもっているだけかも知れないが。地形的に霊脈地っぽく見えるし。

 

「だとしたら行くのは早い方がいいけど、約4人くらいが反対しそうな気がするな」

「……食料の確保は死活問題ですから」

「それはそうなんだけど」

 

 平和で豊かな国で生まれ育った光己には実感しにくいことだったが、段蔵の言うことが間違いではないことくらいは分かる。サーヴァントに食事は不要なことも知っているが。

 

「まあとにかく、今日の午後は予定通り浜辺で塩作りと漁ってことで」

「はい」

 

 そんなわけで、昼食の後光己たちは海に向かった。残念ながらレジャーではなく食料調達のためだが。

 まずは支柱と屋根を立てて作業場兼日陰をつくってから、おもむろにこれからの作業について説明する。

 

「さて、取り出したるはこのホットプレート! この上で甕に入れた海水を蒸発させて塩を作るんだ」

 

 彼の言うホットプレートとは、板型の土器に火のルーンを刻んでもらったものだ。清姫の炎ほどの熱量はないが、水を蒸発させる程度なら十分である。

 

「海水中の塩分は確か3.5%くらいだったから、この甕いっぱいの海水で100グラムってことになるな」

「しょっぱいですねぇ……」

 

 ブラダマンテがしょんぼりした様子で肩を落としたが、別にシャレを言っているわけではない。

 

「まあそうだけど、原料はいっぱいあるから大丈夫だよ。

 あと蒸発するたびに塩をこそぎ出さなくても、水が減ってきたらそのまま継ぎ足ししていけば、多少は手間へるし」

「はい、わかりました!」

 

 すると元が楽天的な娘だけにあっさり立ち直って、さっそく甕を持って波打ち際に駆けていく。マシュと清姫が遅れじとそれに続くと、光己はアルトリアズの方に顔を向けた。

 

「こっちは売るほど作るわけじゃないからそんなに人数いらないから、アルトリアたちには漁の方頼んでいい?」

「はい、もちろん」

 

 元々彼女の方から希望した案件である。アルトリアは当然のように承知した。

 彼女たちは水の上を歩けるというスキルがあるので、他のメンバーより向いていることだし。

 

「しかし道具がないなら海より川の方がやりやすいので、そちらでもいいですか?」

「うん、俺はどっちでもいいよ。でも離れることになるから気をつけてな。

 そうだ、段蔵とヒルドとオルトリンデにも頼もうかな」

 

 この布陣なら、川に魚がいるなら道具がなくても確実にゲットできるだろう。アルトリアは大漁を確信してガッツポーズを決めた。

 

「ありがとうございます。必ずやマスターの元に鮮魚の山をお届けしますので!」

 

 アルトリアたちはそう言い残すと、やる気を全身にみなぎらせながら袋を持って川に向かった。

 それを見送った光己が、今度は別の袋からココナッツ(ぽい果物)を取り出す。

 

「……?」

 

 マシュたちは彼がもうおやつにするのかと不思議がったが、その想像は外れだった。

 彼はナイフでそれを2つに切ったが、中身を食べるのではなく果肉を挽いて粉にし始めたのだ。

 

「……? あの、先輩何を?」

 

 マシュがやや引き気味にそう訊ねると、先輩氏はむしろ当然のように答えた。

 

「ん? ああ、これでパンを作るんだよ。塩はマシュたちだけで十分だけど、俺も見てるだけじゃ何だからさ」

「パン、ですか? パンとは小麦粉で作るものでは?」

「うん、普通はそうだけど、他のものでも作れるんだよ。日本では大昔にドングリやクルミで作ってたしね。

 いやこのココナッツぽいので作れるかどうかは分からないけど、暇つぶしにもなるから実験をね」

「へえ、そうなんですか……」

 

 マシュは感心して大仰に頷いた。

 彼女はけっこうな博識だが、デミ・サーヴァントになるためのデザインベビーとして生まれた身なので、その知識はやや神霊や英雄についてのことに偏っている。つまり石器時代やサバイバルや料理については詳しくないのだ。

 それだけにこうした話や体験はとても好きなのだった。

 

「ちなみに今回はプレーンだけど、うまくいったら乾し肉とか塩とかサトウキビの絞り汁とか混ぜて、バリエーションを増やす予定だ」

「それは楽しみです」

 

 食卓が豊かになるのはマシュにとっても喜ばしいことである。嬉しそうに微笑んだ。

 実は自分もやってみたいと思ったのだが、マシュには塩作りという別の役目がある。そもそも光己の実験がうまくいくと決まったわけではないし、今は控えることにした。

 そして、マシュが一生懸命塩を作りつつも横目で光己を観察していると、彼は粉にした果肉に水を加えて捏ね出した。見た感じは小麦粉で作る場合と同じのようである。

 やがて捏ね上がったらしく、手のひら大にちぎると甕を熱しているホットプレートの隅に置いて焼き始めた。

 

「……」

 

 しばらくすると、うまいこと焼けてきたのか、ほんのり甘い匂いがただよってきたではないか。

 マシュは耐え切れなくなって、顔を乗り出して光己に注進した。

 

「先輩! この甘そうな匂い、これはもう十分焼けたのではないでしょうか!?」

「おおっ!? まあマシュがそう言うなら」

 

 光己はパンを皿に移してしばらく冷ますと、おもむろに指でつまんで口に運ぼうとして―――4対の瞳がじっと自分の口元を見つめ、いや凝視していることに気がついた。

 

「……4人とも食べる?」

「はい!!!!」

 

 その押しに負けた光己が、パンをナイフで5等分して4人に配る。

 そして4人の反応はといえば。

 

「何ていい匂い……それに果肉をそのまま食べるのとはまた違った甘みですね。それに先輩がおっしゃったように他の食材を混ぜればまた違った味わいになりそうです!」

「そうですね。わたくしの生前の頃は、お坊様といえば知識階級でもありましたが、これほどお食事に詳しかったとは。しかも費用や手間はさほどかからなさそうなものばかりなあたり、きっと貧しい方々に炊き出しをするためなのでしょう。さすがは安珍様……!」

「これは私も上手に焼いて、アーサー王様に差し上げませんと!」

「……北国では味わえない風味ですね。良いものです」

 

 一部妙な勘違いをしている者もいたが、おおむね好評なようだった。

 

 

 

 

 

 

 山腹にできた自然の洞窟の奥の一角で、少女が1人寝ころんでいた。

 さすがに岩肌にじか寝ではなく、外から草を刈ってきて布団にしている。

 

「………………」

 

 今は眠っているようだ。まだ10歳くらいに見える幼い娘だが、こんな所に1人でいる以上、ただの人間ではないだろう。

 薄紫色のきれいな髪は短めのショートカットで、黒と紫のノースリーブのワンピース風の服を着ている。顔立ちは非常に整っていて体型もバランスが良いので、将来はすごい美女になりそうだが、どこか拗ねた感じも見受けられた。

 

「…………んー」

 

 どうやら目が覚めたようだ。気だるげに身じろぎしているが、起き上がる様子はない。

 

「多少は回復しましたが、まだまだ程遠いですね……まったくあのク〇アマめぇ」

 

 恨めしげにぼそぼそと独り言をつぶやく。どうやら誰かにひどい目に遭わされて、そのダメージを癒すために休養しているということらしい。

 

「しかしあの徳川の連中って何なんですかね、覚悟キメすぎでしょう……愛の神に愛されることの何に不満があるっていうんですか」

 

 ごろごろ転がりつつまた繰り言を述べる。だいぶ恨みがあるらしい。

 

「それにしてもここはどこなんでしょうねぇ。この感覚だと、ただの特異点じゃなくて世界自体が違うというか、もしかして平行世界まで飛ばされちゃったとかですか?

 だとすると困りましたねぇ。どうやって戻ればいいんでしょう」

 

 この世界にも当然「自分」はいるだろうから、万が一会ってしまったらとても気恥ずかしい。それにこのままでは仕返しすることもできないし、何とかして元の世界に戻りたいものだが……。

 

「それはそうと、(気分的に)おなかがすきました。何か食べにいきましょう」

 

 少女はそれでも面倒そうに起き上がると、頼りない足取りで外に向かうのだった。

 

 

 




 カーマちゃんマジカーマちゃん。しかし魅了スキル持ちを味方にすると扱いが難し……ギャグ展開でガウェイン魅了しちゃうとかでいいか(ぇ



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