FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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 今回はいつもより長めです。



第41話 悪い愛の女神

 日暮れ頃、光己たちは家に戻ってさらに彩豊かになった夕食を楽しんでいた。

 何しろ鹿肉・兎肉・川魚・サトウキビ・パンという美味な食品群と、その味をさらに高める塩という必須調味料がいっぺんに加わったのである。特にアルトリアズは最高にハイ!なくらいにご機嫌だった。

 

「いやあ、最初ここに召喚された時はどうしようかと思ってましたが、こんな美味しいごはんにありつけるとは、マスターくんたちに会えて本当によかったです。ありがとうございます!!」

 

 ヒロインXXが塩をたっぷりかけた川魚の串焼きにかぶりつきながら、満足そうにニカッと笑った。その飾り気のない笑顔に光己はちょっとドキッとしたが、みんなの前なのでここは抑えて普通に答える。

 

「ん、どう致しまして。こちらこそXXたちのおかげで助かってるよ」

「はい、こちらこそ!」

「そうですね、ありがとうございます」

 

 そう言ったルーラーアルトリアは貴婦人風の雰囲気を崩さず、2枚のパンで肉や野菜を挟んだサンドイッチを上品な仕草でいただいていた。なお上品だからといってペースが遅いということはなく、量的には他の3人と同じくらい食べている。

 

「これからもよろしくお願いしますね!」

「うむ、メイドとして実にやりがいがある。今後とも励むがいい、ご主人様」

 

 アルトリアとメイドオルタも満足そうな面持ちである。

 ただ、4人ともここには異変の解決のために召喚されたことは、すっかり忘れ果てた様子だったが―――そこに、段蔵がまた何者かが接近していることを注進してきた。

 

「マスター、皆様。何者かがこちらに歩いてきています!」

 

 鋭くも小さな声でそう言いつつルーラーの顔を見たが、ルーラーはこちらも表情を引き締めつつも首は横に振った。つまり来訪者はサーヴァントではないということになる。

 段蔵は光己を促してマシュの後ろに移動させ、マシュにも向こうから見えない角度で盾を用意してもらう。見えないようにしてもらったのは、無論先方の正体が定かでない段階で刺激しないためだ。

 とりあえず、気づいていない体を装って食事を続ける。やがて来訪者がまだ幼い少女であることが判明する距離になったが、そこで少女は足を止めた。

 

(人がいる……10……12人ですか。この島の原住民?)

 

 さらによく見てみると、食事をしているようだ。ぜひ混ぜてもらいたいものだが……。

 

(でも本当に原住民でしょうか?)

 

 何か違うような気がする。男女比と年齢分布が偏っているのは、まあそういうイベントか何かなのだとしても、どこか違和感がある。

 もし少女がサーヴァントであれば12人のうち11人はサーヴァントであることに気づけたのだが、あいにく違うので正体が分からないのだった。

 

(まさか抑止力からのカウンター?)

 

 少女は元の世界では人類悪(ビースト)なんて物騒な存在だったので、ここの抑止力からも危険視されて刺客を送られるというのは十分あり得る。

 だとすると、サーヴァントのくせに捜索をサボって食事にうつつを抜かしてるのがちょっと不審だが、しかし仮に刺客だとしたら、グランドどころか普通のサーヴァントでも、現状では12対1では勝ち目はない。

 

(どうしましょう。人間のふりをして混ざって、ごはんもらうついでに観察するか、それとも大事をとって退くか)

 

 少女はすぐに決めかねていたが、先方はこちらに気づいているのかいないのか、こちらに来る様子はないので、今少しこの場で観察することにした。

 歓談している声がかすかに聞こえてくる。

 

「ところでマスター、あれはまだなんですか? 試食もさせて下さらなかったから、すごく楽しみなんですが」

「ああ、あれは冷やして食べるものだからな。夕ご飯食べ終わった後のデザートだよ。

 というかあれは労作だったから、簡単に試食なんてさせてやらないのさ。ちゃんと冷えてから食べさせて、ブラダマンテの舌にらめぇとか言わせてやるんだ」

「も、もうマスターってば意地悪です!」

「ふふ。ますたぁがそこまで言うとは、その『ぷりん』というのはかなり美味しいようですね。楽しみです」

 

「ぷりん」

 

 その3文字を聞いた瞬間、少女は脊髄反射で走り出していた。

 それでも最低限の思考力は残っていたらしく、魔力は抑えているし走る速さも人間の少女レベルに落としている。そして12人のそばに行くと、愛の神の演技力を振るっていかにも疲れて空腹そうな、しかも愛らしい振る舞いで話しかけた。

 

「こんばんは……私北の方の村の者で果物集めてたんですけど、イノシシに追われて全部落としてしまった上に、皆とはぐれてしまいまして。

 お腹すいたので少し分けていただけませんか」

 

 この連中が仮に刺客だったとしても、この持ちかけ方ならいきなり攻撃されたりしないだろう。少女はそう思っていたが、ここで自分と似た髪の色をした娘が、水色の髪で白いツノが生えた娘に顔を向けた。

 

「どうですか? 清姫さん」

「嘘、ですわね。後半は本当のこと言ってますが、前半はまったくの嘘です」

「ふえ!?」

 

 まさか初手で見破られるとは。少女は心底驚いたが、とりあえずその理由を訊ねてみることにした。

 

「え、あの、何でそんな細かく分かるんですか?」

 

 するとツノ娘はついっと立ち上がると、ドヤ顔キメながらも解説してくれた。

 

「それはもう、わたくし嘘だけは許せない女ですから。

 そして安珍様みたいな徳の高い御方でも、どこぞの教授みたいな筋金入りの悪人でも、『魂』は嘘をつけませんから」

「何それ!?」

 

 そんなのずるい、と思わず少女は普段より1オクターブ高い声でツッコミを入れてしまったが、その間に白い帽子の女と青い帽子の女に背後に回られてしまった。

 

「それで貴女のお名前は?」

 

 もはや隠しても仕方がない。少女はちょっとふてくされた口調で答えた。

 

「……カーマ」

「へえ!? カーマといえばインドの愛の神様じゃないですか」

 

 まさかこんな幼女が。ヒロインXXはびっくりしたが、清姫が反応しないので嘘ではないようだ。

 

「しかし……だとするとこれは変ですね」

「何が?」

「ルーラーの感知能力にヒットしないから、貴女はサーヴァントではない。つまり神霊のまま地上に来たということになりますが……でも私のこの最果ての正義の力(ツインミニアド)が、貴女は『この地球の』存在ではないと言っているんですよね」

 

 これはつまり、カーマは平行世界の地球から来た者か、さもなければこの世界のどこか他の星から来た、偶然名前が同じ別の神ということになる。どちらだろうか?

 

「その2つなら前の方ですよ。私本当に地球のインドの愛の神ですから」

「なるほど、そうでしたか。まあどっちにしてもフォーリナーですので、私的にはアウトなんですが。

 フォーリナー死すべし。最果ての光よ、私にボーナスを!」

「ぶっ!?」

 

 青帽子の女が輝く槍をぶん回し始めたので、カーマはあわてて逃げ出した。

 しかし白帽子の女に道を阻まれてしまう。さらに水鉄砲を持った女2人に左右をふさがれてしまった。

 

(か、囲まれ……そ、そうだ!)

 

 進退窮まったカーマだが、ふと12人の中に1人だけ男がいたことを思い出した。

 若い男なら(見た目)幼い少女に暴力を振るうのを止めてくれるのではあるまいか。カーマは目の端に涙など浮かべつつ、哀れっぽい口調で助けを乞うた。

 

「お、お兄さん! こんなかよわい幼子をリンチするなんてひどいんじゃないでしょうか!?」

「ん? そりゃ本当にただの幼子だったらシバいたりしないけど、神様だったら俺の何倍も年上だし強いだろ」

「レディに歳の話するなんて失礼ですよ!?」

「というか平行世界から来た神霊なんて、どう考えてもラスボスだしな。本拠地に攻め込むよりは、ここで終わらせる方が楽だろ」

「はあ!?」

 

 男はレディへの配慮を知らないばかりか、初対面の幼女を助けないどころかラスボス扱いしてきた。なんて時代だ!

 

「何でそうなるんです。私はここに来てからは何もしてませんし、この特異点つくったのも私じゃないですよ」

「……そうなの?」

 

 この発言は意外だった光己が清姫の顔を顧みると、嘘発見娘はこっくり頷いた。

 

「はい、これは嘘ではないようです」

「うーん、するとこの娘はラスボスじゃないのかな? いや待て。

 ここに来てからはって言ったよな。じゃあここに来る前は何をしてた、というか何で平行世界に飛ばされるハメになったんだ?」

「ぐ」

 

 これはカーマにとって答えたい質問ではない。とりあえず黙秘してみることにした。

 

「その辺はレディの体面にかかわるのでノーコメントで」

「つまり悪いことしてたってことですね? なら邪神ハンターの役目を果たすまでです」

 

 すると青帽子の女が肩に槍の穂先を置いてきた。なんて野蛮な連中だ!

 

「大丈夫、その邪神的アトモスフィア漂う権能を剥いでから、元の世界にブッ飛ばすだけですので!

 まあその拍子に向こうの惑星ごと爆発するかも知れませんが、気にしないで下さい」

「気にしますよッッッ!!!」

 

 カーマは思い切り叫んだ。何この凶悪サーヴァント、人類悪より危ないんじゃないですか!?

 仕方ないので、なるべく簡略に白状することにする。

 

「別に大したことじゃないですよ。ちょっとこうビーストらしく、カルデアってとこからサーヴァントさらって特異点つくってたら逆襲されただけですから。当然ながら、貴方たちには関係ないと思います」

「!?」

 

 当然ながら光己たちにとっては物凄く大したことで、関係ありまくりなのだが、カーマはまだ光己たちの正体を知らないので仕方ない。というか、わざと話を小さく語っているのだった。

 しかしこれを流してしまうカルデア一行ではない。

 

「……デジマ。これはもっと詳しく聞く必要ありそうだけど、長話してたら途中で不意打ちとかされそうだよな」

「では私にお任せ下さい! さっきも言いましたが、権能剥いで弱体化させれば大丈夫かと」

「すごいなXX。本当にそんなことできるんだ。じゃあそれで頼む」

「え!? ちょ、何勝手に話進めてるんですか」

 

 カーマは当然抗議したが、カルデア側としては彼女をそのままにしておくのは危険すぎる。少女が逃げようとするのを数の暴力でどつき倒して取り押さえ、その間にXXが宝具の準備をした。

 

「―――ダブルエックス・ダイナミックみねうちVerーーーッ!!」

「ぴぎゃーーっ!」

 

 こうして、哀れにもカーマは獣の権能をすべて失って、ただのC級疑似サーヴァントになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 気絶したカーマが目を覚ました時、少女は強化ワイヤーで厳重に縛られていた。

 傍らにいた金色の髪の娘が、その旨を他のメンバーに報告する。

 

「マスター、カーマが目を覚ましたようです」

 

 カーマがとりあえず周囲を観察してみると、自分を見張っているのは3人で、残った9人は食事を再開しているようだ。

 その9人が一斉にカーマに目を向ける。

 

「ああ、起きたんだ。あんたから見たら理不尽かも知れんけど、ビーストをそのままにしておくわけにはいかないからさ。

 もう少しで食べ終わるからちょっと待ってて」

「……」

 

 そののんびりした口調と言い草にカーマは激怒した。

 必ず、かの少年たちからご飯を奪わねばならぬと決意した。

 

「いやあの、それって拷問じゃありません?

 私はご飯を分けて下さいってお願いしたのに、わざわざ食べてるところ見せつけるなんて」

「ん? ああ、そういえばそうだったな。まさかプリンのくだりで本当に近づいてくるとは思ってなかったけど」

「……」

 

 どうやら罠にハメられたようだが、しかし今は食料を得るのが先である。カーマがとりあえず沈黙していると、少年は桃色の髪の娘に顔を向けた。

 

「それじゃヒルド、適当に見繕って食べさせてあげてくれる?」

「うん」

「…………用心深いことですね」

 

 カーマは本当にサーヴァントにされてしまったらしく、少年以外の11人がサーヴァントであることが分かる。つまり彼がマスターと思われるが、これだけの戦力差があるのに縄を解かないとはどこまで慎重なのか。

 

「じゃあ清姫の前で、絶対自分からは攻撃しないって誓ってくれる?」

 

 すると少年はそんな提案をしてきたが、カーマはそれに諾と言えなかったので縄は解いてもらえなかった。

 

「まあまあ、とりあえずどうぞ」

 

 しかし食事は出してくれるようで、桃髪娘がカーマの口元にパンを差し出してきた。

 少女がそれをほおばると、焼き立てパンの温かく柔らかい風味とともに、口の中いっぱいにやさしい甘みが広がる。

 

「……美味しい」

「ココナッツパウダーとさとうきびの絞り汁を混ぜて作ったパンですからね。甘いでしょう?」

「さとうきび」

 

 それは彼女の弓の素材である。無論偶然だろうが、カーマはちょっと嬉しかった。

 

「でも屈辱です。一応は愛の神なのに、縛られて食べ物を口に運ばれて食べるなんて」

「ならさっき言ったことに『うん』って言ってくれればいいんだけどな。何も無抵抗で殴られろなんて言ってないんだし」

「え、あ、それでいいんですか……」

 

 実は「無抵抗で殴られろ」という意味で解釈していたカーマだったが、殴ってきたら殴り返してもいいルールならプライドは守られる。カーマはそれを約束して縄をほどいてもらった。

 

「それじゃひどい目に遭わされた分、たくさん食べさせてもらいますね。あ、素朴な割に美味しい」

「意外と図太いな……」

 

 自由の身になったとたん、当たり前のように空いている席に座ってぱくぱくもぐもぐと遠慮なく食べ始めたカーマに光己はちょっと呆れたが、確かに先に殴ったのはこちらなので、好きなだけ食べさせてやることにした。

 やがて皿が空になると、カーマはデザートを要求してきた。

 

「ごちそうさまでした。無人島でつくったごはんの割には美味でしたよ。

 それじゃお待ちかね、プリンを下さい」

「…………そうだな。あんたが元の世界でやったこと、ちゃんと教えてくれたら。

 いやひどいことしてたらシバくとかプリンやらんとか、そういうことはしないから」

 

 光己としてはカーマが平行世界とやらでやったことまで断罪するつもりはなく、それより情報を得る方が有益だと思ったのだ。無論平行世界のことをこの世界ですべて適用できるわけではないが、参考にはなるだろう。

 カーマもそれは理解できたが、その先のことも考えていた。

 

「それで、話が終わったらどうするんです? 用済みになったら殺すんですか?

 ま、人類悪を生かしておく理由なんてないでしょうけど」

「んん? うーん、難しいな」

 

 確かに彼女が人類悪であることをやめないなら殺すしかない―――が、そもそも何故彼女は仮にも愛の神でありながら、人類を滅ぼそうとする獣(ビースト)になどなったのだろうか?

 それを訊ねると、少女は皮肉げに唇をゆがめた。

 

「私のエピソード、知りません? シヴァの瞑想を中断させるために情欲の矢を射させられて、それで怒ったシヴァに焼き殺されたっていうの」

「ああ、その話は本で読んだことあるな。うろ覚えだけど、何とかっていう魔神に対抗するには、シヴァにどうにかしてもらうしかなかったんだっけ?

 それなら恨みに思うのは分かるけど、でもその話だと人間関係ないよな。恨みを晴らすなら、シヴァなりパールヴァティーなりを殴ればいいじゃないか」

 

 するとカーマはむーっと頬を膨らませて、身を乗り出してつっかかってきた。

 

「そりゃ私だってメインはそっちですよ。シヴァのク〇バカ野郎にはさすがに手が出せませんけど、パールヴァティー見かけたら、陰険な嫌がらせの1つや2つはします。

 でもそれはそれとして、愛の神はお仕事ですから」

「愛の神の仕事で何で人間滅ぼすんだ?」

「滅ぼしたりしませんよ、ずっとずっと愛してあげます。私以外の何もかもを忘れるまで。

 どれだけ堕落してダメになっても、私だけはどこまでも甘やかしてあげるんですよ。

 人間社会ってつらいことばっかりですよね。でも私の愛に浸っていれば幸せです。まさに救済じゃないですか。愛ですよね」

「そんなもん愛っていうかーーーーっ!!!」

 

 光己もぐわーっと吠えてカーマと額を突き合わせた。

 

「俺は宗教家でも哲学者でもないから詳しくはないけど、愛ってのは相手を成長させるもんじゃないのか? 堕落させてどうするんだよ」

 

 それはおそらく人類の過半の支持を得られる主張ではあったろうが、カーマはふんっと鼻で笑った。

 

「それはギリシャ語で言うところの造物主の無償の愛(アガペー)隣人愛(フィリア)の話ですよね。私が司る愛は性愛(エロース)ですから。

 ほら、男女の愛なんてちょっとしたことですぐこじれて憎しみに変わったりするでしょう? でも私は愛し続けてあげるんですから褒めてほしいくらいです」

「こじらせてるなあ……」

 

 要するに人類に恨みがあるわけではなく、単に性格が歪んだだけということのようだ。

 しかしまだ言ってみたいことはある。

 

「でも俺がフランスで会ったジャンヌやマリー王妃なんて、捨てられたり処刑されたりしてもなお、フランスを助けるためにがんばってくれたりしたぞ。まして愛の神だったら、それ以上の寛大さというか器の大きさを見せてくれてもいいと思うんだよな。よっ、カーマちゃんインドいちー」

「絶対にノゥ!」

 

 カーマの意志は固かった。

 こうなったら、光己としては最終的な質問をするだけだ。

 

「それで、あんたはこれからも人類悪を続ける気なのか?」

「やめてほしいんですか?」

「いや、見た目幼女とはいえ神様を説得できるなんて思ってないよ。ただ聞いてるだけ」

「…………」

 

 すると、カーマは真面目な顔になって黙り込んだ。

 てっきり説得してくる気だと思っていたのに、よく言えば相手を尊重した、悪く言えば突き放した言い方をしてきたのが意外で、すぐ返事が思い浮かばなかったのである。

 

(……まあ、今の私が人類悪を名乗るなんておこがましい限りなんですけど)

 

 C級、いや休養して回復すればA級サーヴァントくらいの力にはなると思うが、どちらにせよその程度の力では、人類すべてをどうこうなんてとても無理だ。殷の妲己みたいな傾国ムーブはできるだろうが、人間同士に戦争させて国を滅ぼさせるとか、そういうのは自分のスタイルではない。

 

「……………………仮にやめるって言ったらどうします?」

「ん? そうだな。この島で好きにしてくれてもいいし、ケンカしないでくれるなら俺たちの仲間になってくれてもいい。別にどうしろとは言わないよ」

「この島で好きにって言われても、この小さな特異点が消えるまでのことじゃないですか……って、そういえば貴方は何者なんです?」

 

 サーヴァントたちは自分へのカウンターなのだろうが、この少年は人間だから違うはずだ。この無人島に最初からいたとは思えないし、どこの誰がどうやって入ってきたのか?

 

「ああ、俺はこの世界のカルデアのマスターなんだよ。だからあんたのこといろいろ聞こうと思ったんだ」

「な、何ですってーーーー!?」

 

 カーマは思い切りかん高い声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 まあ考えてみれば、外から特異点に入って来られる人間といえばそれしかない。カーマはすぐ納得した。

 

「つまり、この特異点を観測して消去しに来てたってわけですか?」

「いや。もともとはバカンスのつもりだったけど、レイシフトの事故か何かでたまたまここに来ちゃったんだよ。だからみんな水着だし、無人島生活用の装備なんて持って来てないからこうして家建てたり食料採集したりして自活してるんだ」

「ああ、そういう……」

 

 そういえば、元の世界のカルデアの連中もどこか抜けた、というか能天気なところがあった。その方が付き合う相手としては好ましいが……。

 

「分かりました。この島にいても、貴方たちが異変解決したら消えるか英霊の座に行くかですし、せっかく生き延びたんですから、もう少し現世に居座ることにします」

「つまり仲間になってくれるってこと?」

「はい。ただしごはんとおやつは下さいね」

 

 この辺は女神様も見た目年齢相応のようだ。光己はすぐ了承した。

 

「わかった、それじゃよろしくな。じゃあまず自己紹介……おぉっ!?」

 

 光己がそう答えたとたん、周りで地鳴りのような音が起こった。地震……いや!?

 

「マスター! 冬木でアーサー王様を倒した時と同じ感じがします。この特異点が崩壊し始めてるんじゃないでしょうか」

 

 あの時も現場にいたブラダマンテが悲鳴のような声を上げる。まさかいきなり異変解決になるとは!?

 仮にカーマがこの特異点をつくったのではないとしても、ここを延命させていたのは彼女なのだろう。しかし今彼女がカルデアの仲間になる、つまりここを去る意志を示したので維持できなくなったのだ。

 

「マジか」

 

 せっかくみんなが麗しい水着姿でいてくれてるのだから、あと1週間いや1ヶ月くらい続けばよかったのに、じゃなかった異変解決したのはいいが、カルデアとの通信が回復していない今どうすればいいのだろう。光己がそう思った時、空中にディスプレイが浮かび上がった。

 

《やっと繋がったわ! 藤宮、いる? いるなら返事をしなさい》

「おお、所長! そっか、特異点が崩壊しだしたから、逆に通信を邪魔するものがなくなったんだ」

 

 これなら無事に帰れそうだ。光己は急いでディスプレイ上のオルガマリーに要点を告げた。

 

「この特異点もう崩壊しそうなんで、至急強制帰還させて下さい! できればここにいる全員を」

《全員? ……ってなんかずいぶん増えてるじゃない。何があったの?》

「その辺は後で説明しますんで……っと、40秒で荷物まとめて1ヶ所に固まりますんでとにかく帰還の方を」

《わ、わかったわ》

 

 オルガマリーは急な話に泡を食ったが、彼の周囲を計測してみると、確かに魔力の流れが異様に乱れている。詳しい状況までは分からないが、現地の彼が帰還したいと言うのならそうした方が良さそうだ。

 

《ロマニ、急いで作業を!》

《はい、もうやってますよ! ……うーん。冬木やフランスよりはだいぶマシだから、何とか全員こっちに来させられそうだ》

 

 そしてロマニがレイシフト実行の命令キーを押すと、光己たちの姿が薄れ始める。

 こうして彼らの2泊3日のバカンスは、無事(?)終わったのだった。

 

 

 




 ヒロインXXがカウンターとして来てたのはこういうわけだったのであります。
 あと嘘発見スキルって尋問に使うと便利すぎますね。さす清姫!(ぉ


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