FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第51話 お風呂イベント・案内編

 ネロの先導で入った高温浴室(カルダリウム)は長方形の部屋だった。中央部に浴槽があり、湯がいっぱいに張られている。

 全体的に白色メインの石造りで、浴槽は大理石で出来ているようだ。浴槽の中央に獅子の像があって、その口から湯が注がれている。

 さらには部屋の壁が彫刻になっているという凝りようだ。つくりの美しさといいデザインの秀逸さといい、戦国時代どころか21世紀日本の温泉宿でも通用する代物に思えた。

 

「す、すげぇ……」

「こ、これは確かに……」

 

 光己と景虎は圧倒されて息を飲んでしまった。

 マシュとブラダマンテも目をぱちくりさせており、アルトリアズは立場上何でもないかのように振る舞っているが、内心では相当びっくりしたようだ。

 カーマとスルーズは神界なんて特殊地域の出身だからか珍しくもなさそうな様子だが。

 

「驚いてくれたようだな。これが我がローマが誇る浴場文化である!

 もっともここは特に大きい方という程のものではないがな」

「確かにこれはすごいですね」

 

 まあ光己にとっては風呂だけではなく、自慢げにふんぞり返る皇帝陛下の湯浴み着姿も実に見事なものであったが。美人で立派なおっぱいで、しかも華やかさがある。それにレア度ではサーヴァントたちより上なので、不自然にならない程度に注目していた。

 トップスは何気に布面積少なめなので、彼女だけでなくみんな胸の谷間が常時見えているし、腕を上げると横乳がえろい。スルーズが意図的にやったのか偶然なのかは不明だが、さすがは戦乙女の仕事だった。

 

(でもおっぱいといえばやっぱルーラーだよな)

 

 光己が生まれて初めて見たほどのグレートサイズ、しかもまったく垂れずに前方に突き出ている形の良さ。それがあんなふわっとした薄布に覆われてるだけだなんてもうたまらん!

 

「……マスター、何か?」

「え? あ、いや。ルーラー綺麗だなって」

 

 すると見ていたのがバレたのか、声をかけられたので月並みな台詞で誤魔化してみると、ルーラーアルトリアはついっと光己のそばに歩み寄ってきた。距離が近い。

 

「……え?」

 

 そしてなんと、少年をそっと抱きしめてくれたのだ!

 

「マスターはいつも頑張ってますし、私たちのことも大切にしてくれてますからお礼ですよ。

 お風呂はめったに入れませんから、今日はじっくり堪能して下さいね」

「は、はひ」

 

 LLサイズのバストが押しつけられる官能的な感触と、母性的な抱擁に包まれる幸せに光己はまともに返事をかえすこともできない。ルーラーはそんな彼の髪と背中をやさしく撫でていたが―――ふと横からの視線に気づいた。

 

「陛下、何か?」

「うむ。仲間同士仲がいいのは結構だが、頑張ってるといえば余も頑張ってると思うのだ。

 いや自分の意志でやりたくてやっていることではあるが、頑張っているのは事実だぞ?」

 

 どうやら光己がおっぱい、いや包容力ある美女に抱きしめてもらっているのが羨ましくなったようだ。ルーラーはクスッと笑うと、光己の体を離してネロの方に両腕を開いた。

 

「では陛下、どうぞ」

「うむー!」

 

 ネロは子供のような笑顔でルーラーに飛びついたが、さりげなく胸の谷間に顔を突っ込んでいる辺り、頭の中身は子供ではなかった。同性ゆえに許されるスキンシップと理解して堪能する邪帝であり、8年後に反乱を起こされたのもやむなしといえよう……。

 一方至福の地から追い出されてしまった光己は、別の理想郷を求めていた。

 

「XX、アルトリア。姉が途中で放棄したことは妹が引き継ぐべきだと思うんだ」

「し、しませんよそんなこと」

 

 ヒロインXXは真っ赤に頬を染めながら、アルトリアは特に顔色を変えずに同じことを言った。

 アルトリアは水着の時はだいぶ明るく開放的だったが、セイバークラスだと生真面目な委員長気質が強いようである。しかしそれでも混浴してくれているのだから、絆レベルはだいぶ上がっていると見るべきか。

 

「むうー、どうしよう」

 

 あえなく撃沈した光己が次なる手を模索していると、誰かがいきなり抱きついてきた。

 

「わっ!?」

「それでは私が代わりに。フフ」

「景虎!?」

 

 なんと軍神様が代役を申し出てくれたのだった。しかし不意打ちだったので光己はちょっとよろめいてしまい、反射的に彼女の体を抱きしめていた。

 

(おぉ、やーらかい、それにいい匂い……)

 

 じかに触れ合った素肌はルーラーとはまた違う気持ち良さだ。光己は感動したが、抱き合う形になった景虎はさすがに困った顔をした。

 

「こ、この体勢はちょっと恥ずかしいですね」

「ああ、ご、ごめん。でも何でまた?」

「いえ、気まぐれですが失意のマスターを励ましてみようと思っただけで。私はルーラー殿ほどの包容力はありませんが」

「そっか、ありがとな。じゃあこのまま離さないということでっ!」

「マ、マスター」

 

 こんな良イベントが次回があるとは思えないので、光己はできるだけ堪能することにした。景虎のルーラーほどではないが豊かな肢体をぎゅーっと抱きしめてその感触を楽しむ。

 まあ彼女も恥ずかしがってるだけで嫌がってる感じはしないので問題はあるまい。光己を抱きしめた手もそのままだし。

 

(んー? 恥ずかしがってるだけ、嫌がってないって分かる?

 顔見てるわけじゃないのに? というか伝わってくる? 何ぞこれ?)

 

 何か不思議な感覚がやってきた。

 それは彼女と感情や思考がつながっているというか、深い共感というか、その辺りを飛び越えて1つの存在になったようなというか。脳波や心臓の鼓動、呼吸のリズムまで同じになったみたいだ。

 彼女の存在と気持ちを自分のことのようにはっきり感じて、彼女も自分のそれを感じているのが分かる。それがとても嬉しくて、幸せで満ち足りて心が洗われていくような気分だった。

 景虎はどうも普通の人間と違う、戦国人ですら理解しがたいような精神構造をしているようなのを感じるが、別に気にならない。ただ心が混じり合うのが気持ち良かった。

 マスターとサーヴァントは魔力パスでつながっているので、マスターはサーヴァントの生前のことを夢に見ることがあるというが、それと似た現象だろうか。

 

「―――それともこれがローマの風呂の魔力なのか? 某浴場技師によれば湯のある場所に(いさか)いは生じないそうだから、元々仲が良かったらもっと仲良くなるだろ。

 でもまだ湯に入ってもいないのにここまでなるとは恐ろしいな……」

「ふふっ、マスターはなかなか面白いことを言いますね」

 

 ただその感覚は長くは続かず、我に返った光己はまたしょうもないことを言っていた。

 こちらも我に返った景虎がおかしそうに微笑んだが、もうあんまり恥ずかしがってなさそうである。なので光己はそのまま抱きしめつつ、その時間を延ばすためもあって持論を展開してみた。

 

「だってほら、風呂ってリラックスする所だろ? それに狭い分近くにいるわけだし、精神的にも近づきやすくなるんじゃないかと思ってさ」

「なるほど、そういえば私たちの頃にもふるまい風呂というのがありました。

 ああ、マスターが混浴したがったのはそのためですか?」

「うん、それもある」

 

 純粋に彼女たちともっと仲良くなりたい気持ちが半分、彼女たちの美しい肢体を眺めたり、あわよくばそれ以上のことをしたいというのが半分だ。さっきまでならこの思考は筒抜けだったが、今はもうバレないだろう。

 

「なるほど、マスターは常に私たちと親睦を深めることを意識しておられるわけですね。統率者として立派なことです。……フフ」

 

 いや、分かってて見逃してくれたようだ……さす軍神。

 

「それに……少し人のことが分かったような気がします」

「……そっか」

 

 光己がそれ以上は何も言わず彼女の背中を撫でていると、不意に肩を指でつつかれた。

 

「ん?」

「ミツキにカゲトラよ。仲が良いのはわかったがほどほどにしてくれぬか?」

「!? こ、これははしたない所をお見せしまして」

 

 光己があわてて景虎の体を離し、さすがの景虎も恐縮して肩をすくめる。

 ネロはそれ以上追及せず、くるっと身をひるがえした。

 

「うむ、分かってくれればよい。では次に行こう!

 あのドアの向こうが発汗室(ラコニクム)のようだ」

「はい!」

 

 そして一行がそちらにてくてく歩いていく途中、ブラダマンテとヒロインXXが光己のそばに来て小声で話しかけてきた。

 

「マスターくん、さっきの一体何なんですか?

 何かもう2人の世界的アトモスフィアがすごかったんですが、もしかしてあれが胸ドキドキの恋愛関係ってやつですか? 私そちらは疎いんでよく分からないんですが」

「へ? いや俺にも何が起こったのかよく分からんのだけど、恋愛とは違うような感じだったなあ。カーマが言ってた分類でいうと性愛(エロース)じゃなくて隣人愛(フィリア)というか。

 俺はXXもブラダマンテも好きだから2人ならウェルカムだぞ」

 

 どっちかというと隣人愛より性愛の方が嬉しいけど!こっちだと精神的Hになるのか!?などとは言わない程度の腹黒さ、もとい良識を光己は持っていた……。

 

「ふーむ、そういうことなら私もやぶさかではありませんが……」

「それにそちらの景虎さんの、『私はマスターのこと全部分かってるんだぞ』って感じの余裕ぶりがちょっと」

「いえ、()()そこまではいかないですよ」

「むうー」

 

 どうやらブラダマンテとXXは、マスターとの親密度で追い抜かれたと思って妬いているようだ。しかし彼の横や後ろからならともかく、正面から抱き合うのは抵抗があって悩んでいる模様である。

 2人が悩んでいる間に一行はラコニクムの前に着き、ネロがドアを開けると熱い湿った空気がもわっと溢れでてきた。

 

「へえー、これは本当にサウナだな」

「ここは日の本のとあまり変わりませんね」

 

 スチームで加熱された狭い部屋の壁沿いに長い椅子が据えつけられており、そこに座って汗を流す部屋のようだ。外見的には光己と景虎を驚かすほどのものではなかったらしく、2人の反応はややおとなしかった。

 

「もう分かったろうが、ここは汗を流すための部屋だな。

 もちろんずっといたらのぼせるから、水風呂と交互に入るのだ。途中で水を飲むといいぞ。

 街のテルマエなら従業員が飲み物を売っているが、ここにもどこかに水飲み場があると思う」

 

 いわゆる温冷交代浴で、疲労回復や血行促進に効果があるといわれている。

 時代を考えれば実に進んだお風呂文化であった。

 

「では次に行こう。微温浴室(テピダリウム)だ」

 

 そこはカルダリウムより広くて豪華なホールだった。

 そこかしこに彫像が飾られ、壁には絵画がかけられている。天井は大きなアーチ式で、高窓もいくつかある。壁や床にはモザイク模様が彫られていた。ベンチがあるのは休憩あるいはオイルを塗るためだろう。

 しかし浴槽はない。光己と景虎の予想とは違って、いわゆる低温サウナのようだ。

 暖かくて湿度も適度にあって、休憩や団欒には向いてそうな感じである。

 

「しかしそのためだけにここまで飾り立てるとは……」

「これは驚きました……」

 

 2人は改めて古代ローマ人の風呂にかける情熱に絶句したが、それについてネロが解説してくれた。

 

「ふふふ、驚いたようだな、驚いたであろう?

 何しろ我らローマ人にとって、風呂とは単に身を清めたり健康のためというだけのものではなく、文化であり生活の一部であるからな!

 街のテルマエなら運動場もあるし、食事や読書、商売もできるのだ」

「なんと……」

 

 どうやら21世紀日本のスーパー銭湯のごときもののようだ。しかし、そういう知識のない景虎にとっては驚愕の異文化である。本当に1500年前なのか?と軽い敗北感まで覚えてしまった。

 

「うむうむ、しかし安心せよ。連合を打ち倒した暁には、そなたたちも私邸にこれくらいのものは作れるのだからな!」

「…………」

 

 実は光己や景虎たちは連合帝国を倒す=特異点修正が終わったらこの国から消えるのだが、明るく無邪気に未来を語る皇帝サマにそれは言えなかった。

 気持ちを切り替えて、ルーラーアルトリアがネロに声をかける。

 

「じっくり見て回るのは後にして、先に最後の部屋に行きませんか?」

「そうだな。次は冷水浴室(フリギダリウム)だ」

 

 そこはカルダリウムと同じようなつくりの部屋で、浴槽に入っているのが冷水という点だけが違っていた。それだけにちょっとひんやりする。

 

「ここの浴槽は狭い場合もあるが、この広さなら水泳もできそうだな。

 たださっきの湯の浴槽もそうだが、いきなり全身浸からず少しずつ入るようにな」

「はい」

 

 光己や景虎には言われるまでもない注意だったが、一応頷いておいた。

 生まれた頃には浴場文化がなくなっていたブラダマンテはかなり真剣に聞いていたが。

 

「さて、これで全部見て回ったな。まずは汗をかいて汚れを落とすところからだ!」

 

 ネロは何かすごく楽しみなことがあるらしく、うずうずした様子で握り拳をぐっとかかげた。

 

 

 




 いろいろ書いてたら進行が遅く……orz
 唐突に景虎との絆レベルが上がりましたが、隣人愛では大奥には入ってもらえないのですな(ぉ 多少のサービスはしてくれそうですがー。



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