FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第54話 お風呂イベント・飲茶編

 ネロはルーラーアルトリアの反撃でKOされてしまったが、今は彼女に膝枕してもらって長椅子に横たわっていた。

 もちろん意識はあって、ぶっちゃけ普通に休んでいるのと変わらない。ルーラーが髪を撫でたり梳いたりしてくれるのが心地よかった。

 娘を普通に愛している母親、あるいは妹を愛している姉というのはこういうものなのだろうか。それならさっき反撃されたのも愛の鞭と解釈できそうだ。

 スルーズとカーマがオイルの塗りっこをしているのが何かこう尊みを感じる。アルトリアは自分でやっているようだ。

 

「ところで陛下、何か飲みますか?」

「そうだな、では大麦茶(オルゾ)を頼む。

 そうそう、最近は風呂上りに牛の乳の果汁割りを飲むのが流行りで、余も気に入っておる。何でも立って片手を腰に当ててぐい飲みするのが作法らしい」

「へえ……?」

 

 ルーラーたちは牛の乳の果汁割り=フルーツ牛乳というフレーズにマスターの生国の公衆浴場を思い出したが、多分関連はないだろう……。

 

「スルーズとカーマは知らぬだろうが、我がローマ建国の神祖ロムルスは狼の乳を飲んで育ったといわれていてな。子供はもちろん、大人も毎朝乳を飲む。

 といっても牛の乳は好まれていなかったのだが、果汁と混ぜることでとても美味になったのだ。牛の乳も果汁も昔からあったのだが、それを混ぜて冷やしたものを湯上がりに出すという発想が天才的だ!」

 

 えっへんと胸を張るネロ。自国の文化が本当に好きで自信を持っているのだろう。

 アルトリアはそんな彼女に微笑ましさを覚えつつ、椅子を立って水飲み場に向かった。

 そこは簡易なドリンクサーバーになっており、栓がいくつかあって数種類の飲み物を選べるようだ。

 古代ローマ人の主飲料であるワインはなかった。入浴前中後に酒を飲むのは危険なので、備品として置くのを避けたのだろう。真面目な市長のようだ。

 傍らには錆びたり割れたりしないためか、木製のコップとトレイが置いてあって、アルトリアはそれを借りて5人分のお茶を調達した。

 

「お待たせしました」

 

 アルトリアが戻るとネロも体を起こして、5人でゆったりお茶を楽しむ。

 ここに来るまでに何度も飲んでいたものなので味には特に意見はなかったが、カーマはちょっと不満があるようだった。

 

「でもこれぬるいですね。さっき陛下は『冷やしたものを湯上がりに出す』って言ったのに」

 

 なるほどお茶やフルーツ牛乳に限らず、熱いなら熱い、冷たいなら冷たいとはっきりしてくれた方が美味しいだろう。ネロもそこは理解しているらしくすまなさそうな顔をした。

 

「売り物の場合は売る者が地下水で冷やしたりしているようだが、ここはセルフサービスの備品だからな。残念だが許すがよい」

「ああ、冷やすのでしたら私が」

 

 するとスルーズが口をはさんできた。

 彼女は原初のルーンの使い手であり、小さな氷塊をつくるくらい造作もない。人差し指をささっと宙に舞わせるだけで、透明な氷粒がカーマのコップの上に現れて水面にぽちゃりと落ちた。

 

「おおっ!? 何という器用な。余の分にも頼む!」

「はい」

 

 ネロが知らないおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせて頼んできたので、スルーズは彼女のコップと、ついでに自分とルーラーとアルトリアの分も氷を入れた。

 

「普通の氷より冷たいので、すぐ触らないで下さいね」

「うむ、確かにそんな感じがするな……感じ入ったぞ」

 

 本当にカルデアの者たちは優秀だ。人格面も問題なく、容姿も男性2人がちと好みに合わないのとカーマが守備範囲外なのを除けば麗しい者ばかりである。

 きっとローマの神々と神祖ロムルスの助けだろう。ネロは心の中で感謝の祈りをささげた。

 

「―――うむ、やはり風呂で飲むものはちゃんと冷たい方が良いな!」

 

 ネロが冷えたお茶をぐい飲みし、ぷはーっと息をついて満足の意を示す。え、行儀が悪い? 皇帝特権だ、許すが良い!

 ちなみにカーマは女神だからかお子様だからか、ちびちびと少しずつ飲んでいるが不満はなさそうである。

 

「ところでミツキたちが戻って来ぬな。ちょっと探してみるか?」

「そうですね」

 

 こうしてネロたちはお茶を飲み終わると、光己たちを探しに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 光己は左手でヒロインXXの右手を軽く握ると、右手で彼女の手にオイルをさわさわと塗り始めた。

 

「きゃー、手を握られるのって何だかどきどきしますね」

「だよなー。何ならXXも俺の手握ってくれていいんだぞ」

「も、もうマスターくんってば。そんなことしたら恋人同士みたいじゃないですか」

 

 もじもじしているXXに光己が露骨にチラチラ視線を送ってみると、自称年上さんは恥ずかしそうに視線をそらした。

 やはり恋愛スキルはゼロに近いようだが、それがまた可愛い。

 まあ光己も人のことは言えないのだが、それはそれとしてさらに攻めてみる。

 

「だってこんなに堂々とスキンシップできる機会もうないかも知れないだろ? だからやれるだけのことはやっときたいからさ」

 

 行軍中は言うまでもなく無理だし、次の目的地のマッシリア(付近につくられた野営地)でこんなチャンスがあるかどうかは分からない。ましてその先のことは予定すら立っていないのだから。

 カルデアにお風呂をつくってもらうという手はあるが、そこは当然男女別だろうし。

 

「あー、そういえばそうですね。マスターくんのお国言葉でいう『一期一会』というやつですか」

 

 なるほどそういうことなら彼がいつにも増してはっちゃけているのも分かる。いやそれを言い訳にして思春期男子的行動を正当化してるだけかも知れないが。

 しかし「今回限りかも」と言われると、XXもあまり恥ずかしがっていてはもったいないような気がしてきた。

 

「分かりました。そういうことならめいっぱいふれ合いましょう!」

「……! うおお、やはりXXはマイソウルエルダーフレンドだった!」

 

 XXが左手を掲げてガッツポーズをしながら右手は光己の左手をきゅっと握ってくれたので、光己は心からの喜びの声で応えた。

 なぜならXXが両手とも胸元から離したため、手で押さえていた湯浴み着が下に落ちたからである。特盛のえっちぃおっぱいが少年の視線にさらされた。

 

「……? マスターくん、どうかしましたか?」

 

 XX当人は何が起こったのか分からないようだったが、やがて彼のびっくりした様子と視線の方向でようやく胸を露出してしまっていたことに気づく。

 

「っきゃぁぁぁぁ!?」

 

 左腕で胸を隠しつつ、上半身を90度突っ伏す。顔は茹でダコ並みに赤くなって頭から蒸気が噴き出していた。

 

「ああっ、ご、ごめん! 俺が変なこと言ったばかりに」

「い、いえ、マスターくんのせいではないので気にしないで下さい……」

 

 ついつい凝視してしまっていた光己が我に返ってあわてて謝る。XXは羞恥で頭が真っ白だったが、騙されたとか誘導されたとかではないという認識はあったので彼を責めはしなかった。

 とりあえず湯浴み着を胸に当て直してから体を起こす。

 

「今のは私が勝手に腕を上げただけですから……そういうことで流しちゃってくれると助かります」

「あ、ああ、わかった」

 

 どうやらXXは話を長引かせずすぐ幕引きにしたいようだ。光己はこっくり頷いた。

 

「では続きをしましょう」

「いいの?」

「はい、むしろ中止にする方が引きずっちゃいますので」

「そっか、じゃあ遠慮なく」

 

 光己にとっても喜ばしい申し出なので、思春期少年はすぐ乗った。改めてXXの手を握って塗り直す。

 ところでこのポジションだと彼女の立派な胸をかなりの近距離から拝見できる。白い薄布を片手で押えているだけというそそりまくる格好で、光己は理性の糸が今にも切れそうだったが根性で耐えた。

 なお見ないという選択肢はない。

 

「…………」

 

 お互い何を話していいか分からず無言だったが、XXは照れくさそうにしてはいるが心地よく感じてくれてはいるようだった。

 やがて両腕とも塗り終わって、次に塗る場所はといえば―――。

 

「脚はさすがに無理か……」

「そ、そうですね。普通の水着だったら太腿の真ん中くらいまではOKだったんですが」

 

 何しろボトムスはタオルを巻いているだけだから、一歩間違ったら見せられない所をまた見られてしまう。タオルだけというのは男子にとって非常に煽情的な格好ではあるのだが、今回はマイナスに働いてしまったようだ。

 

「じゃあお腹はいい?」

「はい、どんな姿勢にしましょうか?」

「んー」

 

 仰向けに寝てもらうか座ったままでいてもらって彼女の脚の間に入るかが普通だと思われたが、光己はあえて第3の道を選んだ。

 

「じゃあ抱っこがいいな。接触面積的に考えて」

「へ、抱っこ?」

 

 XXが戸惑っている間に、光己は彼女の後ろに座ると両手を彼女のお腹に回して抱き寄せた。

 

「つまりこういう体勢」

「うっわぁ、マスターくん本気ですか」

 

 XXの背中と光己の胸板がぴったりくっついている。その肌の熱い感触に恋愛スキルほぼゼロOLはまたどっきどきしてきてしまったが、年上としてこれ以上カッコ悪いところは見せられない。

 

「ま、まあ私は平気ですが」

「そっか、じゃあ塗るね」

「は、はい」

 

 なので平気である風に装うと、光己は当たり前のようにお腹にオイルを塗ってきた。

 いや当たり前なのだけれど。

 

(んっ……ふ、や、やっぱりぞくぞくしますね)

 

 ついでに首すじにかかる彼の吐息が少し荒くなってるような気もしたが、その辺もまとめて耐え切った!

 光己が手がすべったフリしておっぱいをつつくなんてことはしなかった点は褒めてあげていいと思うが、口にするのはやめておいた。

 

「ええと、これで終わりですか?」

「うーん、名残惜しいけどそうなるね。じゃあ最後に」

 

 胸に塗るのは残念ながら現在の親密度では無理である。光己はそこは諦めたが、やれるスキンシップはまだ残っている。

 いったん彼女の前に回って、その頬に軽く唇をつけた。

 

「きゃぅっ!? マ、マスターくんいったい何を」

「何って、XXがしてくれたからお返しだけど」

「ああ、そういえば私からしたんでしたっけね」

 

 びっくりして思わずのけぞってしまったXXだが、彼の反論は実に妥当だったので納得するしかなかった。

 

「よし、これでXXとはいつでもほっぺにちゅーし合える間柄になったってことだな! 明日からの楽しみが1つ増えた」

「えええっ!? 一期一会じゃなかったんですか!?」

「俺は『ないかも知れない』って言っただけだよ」

「そ、それは確かにそうですが! でも私はそんな軽くありませんからね!

 と、とりあえずまた後で!」

 

 XXはついに羞恥心をこらえ切れなくなって、彼の前から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「うーん、もう少しソフトな答えすればよかったか」

 

 光己はちょっと反省したが、本気で嫌がったというほどではなさそうなので追いかけるのはやめておいた。

 次はブラダマンテだが、少女騎士の姿を探すとマシュと仲良く塗りっこしているではないか。

 

「むう……」

 

 しかし今思い出したが、ブラダマンテには恋人がいるという話だった。彼女の方からくっついて来てくれる分には大歓迎だが、こちらからあまり深いスキンシップを求めるべきではないかも知れない。

 なおアルトリアズは既婚者だが、妻は王妃ともあろう者が不義密通したので処刑した、つまり離婚したわけだから先方から言われない限り問題ないと思われる。

 

「というわけで景虎、いい?」

 

 なので光己がブラダマンテは飛ばして景虎に声をかけると、軍神様はフフッと余裕ありげに嫣然と微笑んだ。

 

「はい、もちろん。

 しかしマスターはなかなか色好みのようですね」

 

 むろん責めているのではない。景虎の生前の頃は一夫多妻は合法どころか、ある程度の地位がある武士に子供がいなかったなら後継ぎをつくるために側室を取るのは半ば義務だったくらいなのだから。政略結婚も日常茶飯事だったし。

 実際もし景虎が治めていた頃の越後に光己が現れたなら、景虎は即養女をつくって差し出し、いやこの景虎自身が妻に!となっていたのは想像に難くない。ああこの場合だと他に妾をつくられては困るのか?

 それはそうと、光己が女の子といちゃつくのを楽しんでいるのは、精神的な余裕がある証だから好ましいことである。彼はいっぱいいっぱいなのをごまかすために女の子に目を向けて現実逃避するなんて高度な思考回路は持ってな、もといそこまで弱っていないのは分かっているし。

 

「ん? そりゃまあ、見た目も中身もここまでいい女性(ひと)たちなんて初めてだからさ。

 大奥王に俺はなる!」

 

 光己は久しぶりのお風呂で気が緩んでいるのか、それとも景虎とは分かり合えているからか、発言が実に正直であった。まあ前半は他の女性陣も喜ぶであろう……。

 

「ほほう。しかしサーヴァントは子をなせませんが」

 

 景虎の返事も封建領主的な思考法全開だったが、これには例外があった。

 

「いや、マシュなら大丈夫だぞ」

「ああ、そういえば彼女はデミ・サーヴァントなんでしたね。ならば彼女を正室に?」

「うーん、それがマシュの中の人はアーサー王の部下だったからちょっと」

「ふむ、それは難儀ですね……格だけならカーマ殿ですが」

 

 愛の神にして第六天魔王にして(元)ビーストⅢラプス。肩書としてはこれ以上ないが、さすがに危険すぎであった。

 

「うん、無理。そうなるとルーラーかなあ」

「そうですね、彼女なら奥の統率者としても申し分ありません。

 ……私も陰ながら応援しますので、がんばって下さいね」

「うわーん!」

 

 最大の理解者に加入も協力もしないと言われて光己は哭いたが、それはそれとしてオイルは塗る。

 

「じゃ、上の服脱いでくれる?」

 

 光己が景虎の後ろに回ってそう頼むと、景虎は「はい」と頷いて平然と上衣を脱いだ。

 マシュやXXと同じように胸は隠しているが、態度は実に堂々としている。

 

「さすがは軍神様……でも肌はきれいだなあ」

 

 光己は景虎のお肌と人格両方に感心しつつ、ぬりぬりとオイルを塗っていく。

 しかし堂々としているのはいいが可愛い反応がないのはさみしいという二律背反はあったが、かの上杉謙信(しかも若い美女の!)の背中にオイルを塗れる、それだけでも感動であった。

 

「でもやっぱ可愛いとこも見たいなあ。ちぇいっ!」

「ひゃんっ!?」

 

 光己は高望みにもそんな野望を抱いて、彼女の背筋に指先をついーっと這わせてみた。

 びくっと身を震わせて背中をそらす景虎。

 

「おお、ほとんど不敗だった軍神様にも弱点はあったんだな。よし、弱点には集中攻撃だ」

「きゃ!? マ、マスターといえどもそのような不埒は許しませんよ」

 

 景虎はしばらくは光己のおいたを受け入れてくれていたが、そのうち限界に達したのかぱっと彼の後ろに回り込むと首の下に腕をさしこんで裸絞めを決めた。

 いわば光己はネロと同じ末路を迎えたわけだが、景虎は回り込んだ拍子に湯浴み着を落としていた、つまり彼女の乳房が直接彼の背中に当たっていたことは明記しておくべきだろう……。

 そして2人がいろいろ満足した頃、ネロたちが探しにきたのと出会ったのだった。

 

 

 


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