FGO ANOTHER TALE   作:風仙

64 / 262
第64話 ガリアを取り戻せ!3

 カエサルとレオニダスが光の粒子となって消えていくのを見た連合兵たちは、動揺を隠せなかった。

 連合兵たちは生前のカエサルの顔を知らない。しかし彼の風格や弁才などを見て本物だと確信していたのに、遺体も遺品も残らず消えてしまうとは一体どうしたことか。真正の終身独裁官ではないどころか、生身の人間ですらなかったというのか……!?

 ―――それなら、首都におわす「あの御方」ももしかして!?

 脳裏に浮かんだその恐ろしい考えを、兵士はあわてて頭を振って振り払った。

 とにかく今は撤退せねばならない。総大将が討たれた以上、戦闘を継続するのは無理だ。撤退するにもいくらかの犠牲は出るが、指揮官不在のまま戦い続けるよりはマシだろう。

 というわけで連合軍は撤退を開始したが、その頃には通信機でカエサルとレオニダスの死去を聞いていた正統軍は、すかさず追撃を開始した。

 

「今こそ好機、全軍突撃! 皆の者、我に続けぇー! にゃー!!」

 

 景虎が「龍」の旗を振って兵士たちに出撃命令を下すと、投石に飽いていた軍団兵たちは投石紐(スリンガー)を槍と剣に持ち替えて、(とき)の声を上げながら走り出した。

 ネロにとっては、連合兵も元は自分の家来なのでなるべく殺したくないのだが、実際問題としてはただ逃がすのは論外だし、降伏させるにしても1度強打を加えて心を折っておかないと、後でまた叛かれる恐れがあるのでやむを得ないのだ。

 最初から味方だった正統兵との兼ね合いもあって、あまり甘すぎる対応はできないし。

 

「うむ、今こそガリアを我らの手に取り戻す時! 進めーーーッ!!」

 

 ゆえにネロはその内心を隠して兵士たちを鼓舞していた。

 戦でもっとも戦果が出るのは追撃戦の時であり、逆にいえばもっとも被害が出るのは退却戦の時である。しかも追撃部隊の先頭にやたら強い異国人が2人もいた上に、どういうわけか連合軍が逃げようとする先に必ず正統軍の別動隊が先回りしていたため、連合軍は当初の予想を超えた壊滅的な損害をこうむっていた。カエサルとレオニダスを斃した謎のビームと槍が来なかったのは不幸中の幸いだったが。

 なお段蔵とブラダマンテは、手札を隠すのとあまり手柄を立て過ぎないようにするため、今回はネロの本陣に控えている。

 やがて日が暮れる頃、正統軍は十分な打撃を与えたと判断して追撃を打ち切り、野営の支度と戦後処理を行っていた。天幕の中で、ネロが光己たちをねぎらう。

 

「今日の戦もそなたたちのおかげで大勝を収めた。我が正統ローマの兵と民に成り代わって礼を言おう」

「はい、どう致しまして」

 

 心からの感謝の言葉に、光己も丁寧に頭を下げた。

 

「カエサルを手にかけさせてしまったのは、少々心苦しくはあるが」

「いえ、それは大丈夫ですよ。ルーラーたち以外はローマ出身じゃありませんので」

「……そうか、すまぬな」

 

 ネロは今現在の、すなわち唯一の皇帝としてカエサルを討つのは自分の責務だという気持ちがあったのだが、光己たちはさほど気にした様子がなかったので少し気が軽くなった。

 

「そなたたちに正式な恩賞を渡すのはローマ市に帰ってからになるが、それだけでは余の気がすまぬ。明日にでも、そなたたちのためにまたミニコンサートを開くゆえ、楽しみにしていてくれ」

 

 なので彼らに礼をしようとしたのだが、光己たちにとってはお礼どころか処刑通告のようなものであった。

 しかしその時光己に電流走る!

 

「いえ陛下。俺たちより、捕虜の人たちに聞かせてやって下さい!」

「捕虜たちに? 何故か?」

「はい。無礼は承知の上であえて言いますけど、連合の兵士って、陛下より連合の『皇帝』がローマ皇帝にふさわしいと思って連合についてるわけですよね。でも陛下の歌を聞けば、陛下の芸術の才能とローマへの愛に感動して、心から降伏するんじゃないかなと」

(おためごかし……圧倒的おためごかし……!)

 

 マシュや段蔵たちは心の中でそう思ったが、口には出さなかった。彼女たちも我が身は可愛いのだ。

 一方ネロ当人は本気で感心していた。

 

「おお、ミツキは本当に知恵者よな! よし、さっそくそのように取り計らおう」

 

 こうして約6千人もの連合兵捕虜たちは、ネロの超絶音痴な歌により完全に心を折られ、もとい真正の皇帝のローマへの愛の深さに感動して、正統ローマに服従を誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後正統軍は大した抵抗を受けることもなく、ディジョンやショーモン、トロワといった主要都市を奪回しながら北上して、ついにカエサルが本拠地にしていたルテティア(現在のパリ)を占領した。

 光己たちは例によってルテティアの宿屋にいる。道中でカーマ(と割り込んできたアルトリアズ)にスイーツをごちそうする約束は果たしていたが、スルーズとの混浴はできていなかった。街中や市役所付属の浴場では無理だし、屋外で若い女性が五右衛門風呂は難があるので。

 

「やっぱカルデアに大浴場つくってもらうしかないんかな?」

 

 お風呂が心身のリフレッシュに有効なのは実証されたから、コスパは悪くないと思う。

 しかし、それは普通の男風呂と女風呂であって混浴ではないわけで。どうしたものか?

 

「そうだ、家族風呂! 家族風呂というのはどうだろう」

 

 響きがすでに素晴らしい。光己とワルキューレズが入る分にはたいした設備はいらないし、マスター手当てとして支給してもらってもバチは当たるまい。

 しかしいつも通りマシュが立ちはだかった。

 

「は、破廉恥です先輩! ご禁制です」

「ご禁制だと? そんな法律がどこにある!」

「法律はありませんが、私の意志があります! 先輩の貞操を守るためなら、私の盾はダイヤモンドより固くなるのです。

 というか所長が許すはずないと思いますが」

「むうー」

 

 確かにあのお堅そうなオルガマリーが、若い男女が混浴するのを前提とした施設など認めるはずがない。何か策を考える必要があるだろう。

 なおこんな話をしている光己はベッドに座って、カーマを抱っこしてブラダマンテに後ろから抱きつかれつつ、スルーズが隣に貼りついている。彼の発言を不快に思っている様子はなさそうだ。

 

「マスターがどうしてもっていうんなら入ってあげなくもないですよ」

「マスターとまたお風呂ですか? 2人きりはちょっと困っちゃいますけど、みんなででしたら入りたいですね!」

「今こそマスターとして知恵の絞り時では」

 

 むしろこんなことを言いながらカラダをすりつけてきたりしているので賛成のようだが、思春期少年としては気持ちはうれしくても思考回路は逆に働かなくなってしまうのであった……。

 そこにいつも通りラクシュミーと荊軻がやってきた。景虎と金時も後ろにいる。

 

「こんばんは。貴殿たちはいつも仲がいいな」

「毎日同じ釜の飯食ってますからね、もはや家族も同然です!」

 

 この発言はさっきの「家族風呂」とリンクしているが、ツッコミを入れる者はいなかった。

 とりあえずベッドから立って、景虎と並んでテーブルにつく。

 

「―――さて。貴殿たちも承知の通り、今のところ我々の行軍は順調だ。ガリアの東部は奪回したといえるし、中部と西部、それにブリタニアとゲルマニアも空白地だから、取り返すのに困難はないだろう」

 

 なので皇帝が同行する必要性は薄く、ネロは政務と戦果報告のためいったんローマ市に帰りたいという意向である。明日その辺について会議をするので、カルデア勢に事前に話して意見があれば聞いて来てほしいという趣旨だった。

 

「えー、ローマ市に帰るんですか」

 

 光己は露骨に不服そうな顔をした。

 何しろ第2特異点に来た時から数えると3ヶ月も経っているのだ。むやみな日数消費はカルデアの望むところではない。

 

「ああ、しかしネロ陛下の考え自体はいたって合理的なのだ」

 

 ネロは親衛隊とともにローマ市に帰って、政務をこなしたらまたマッシリアに来る予定だが、他の部隊はマッシリアに直帰するわけではなく、ガリア中部と西部の各都市を占領しながらだから時間を食うので、ネロが正統軍全体の足並みを乱すというわけではないのだ。

 さらにここにいる軍とは別の「呂布」と「陳宮」が率いている部隊もあって、彼らをマッシリアに呼び寄せる計画もあった。それらが集結したらヒスパニアに攻め込もうという算段なのである。

 

「んー、なるほど」

「だが貴殿たちがこれに付き合っていたらどれだけかかるか分からない。立ち去るなら今だと思う」

 

 ネロの護衛として景虎と金時とブーディカを残せるから、カルデア勢が去っても彼女の身柄は安全だ。確かに考えどころである。

 ただ、カエサル戦で捕虜にした連合兵はヒスパニアに行ったことはないらしく、連合首都の位置は知らないようだったので、もしネロと別れるなら自力で探すことになる。それでも正統軍と同行するよりは短期間で済むだろうが……。

 

「でもキミたちが逃げたらネロ公だいぶ落ち込むと思うんだよね。どこまで事情明かすかにもよると思うけど」

 

 ブーディカにとってネロは仇敵とはいえ、若い女性の身でありながら国を背負って苦闘している姿には共感を抱くのか、同情的だった。

 カルデア側の事情はもちろん聞いているのだが、もしネロがこの件で心がぽっきり折れて再起不能になったりしたら、いろいろまずいことになりかねない。

 

「軍隊がすごい速さで動けるようになる宝具でもあればいいんだけど」

 

 日数がかかるのは主に軍隊の移動なので、それが少なくなれば、光己たちはあえて正統軍から離脱しなくてもよくなるはずなのだ。

 残念ながらブーディカの空飛ぶ戦車(チャリオット)に乗れるのは、彼女自身を含めて5~6人なのでとても足りないのだが。偵察や連絡にはすこぶる有用なのだけれど。

 

「そうですね。俺もネロ陛下を見放すようなことするのは本意じゃないですし、最後まで一緒ならブーディカさんたちにも決戦に参加してもらえますから。

 スルーズ、さすルーンで何とかならない?」

「確かに8騎と15騎ではだいぶ差がありますね。

 ……うーん」

 

 水を向けられたスルーズがちょっと考え込む。

 移動や加速に関するルーンはあるが、個々の兵士たちにかけても彼らはそれを制御できないので不可である。馬車などにかける場合も同様だ。

 つまり運転手はスルーズ1人なので、車も1台でなければならない。

 

「そうですね、4万人が1度に乗れる荷車の類があればいけると思うのですが」

「4万人」

 

 正確には死傷者が抜けて志願者が加わって約3万8千人で、防衛部隊を残すなら帰るのは3万人くらいになるだろうが、どちらにしても途方もない数字である。

 しかし手がないではなかった。

 

「ん~~~~~~。そうだな、貨物列車?」

 

 ローマ兵の土木スキルなら、木製のコンテナ車を連結する仕組みくらいは作れるだろう。普通の貨物列車と違って個々の貨車に動力を付けられるから、積載量の上限は事実上ない。

 幸いにして都市と都市の間には例の石畳の道路があるから、線路がなくても乗り心地はそんなに悪くないはずだ。

 

「でも4万人はさすがに長くなりすぎるか。といってピストン輸送じゃ、大幅に遅くなるから意味がないな……」

「いえ、それでしたら同位体を呼べば解決します。マスターの魔力負担が重くなりますが、今のマスターなら耐えられるかと」

「んー、まあ仕方ないか。景虎、何かいい大義名分ない?」

 

 こちらの方針が決まっても、ネロを説得できなければ意味がないのだ。

 

「そういうことなら、『兵は拙速を聞く』でいけると思いますよ」

 

 領地の奪還より、首魁を倒して戦争そのものを早期に終わらせるのを優先すべきということである。占領行動中に、連合の援軍がマッシリアを襲う可能性などを挙げればネロも同意するだろう。

 

「おおー、さすが軍神!」

「フフ、どう致しまして」

 

 光己が感嘆して褒めそやすと、景虎は満足そうに口角を上げて笑みを浮かべた。

 結論が出たと見たラクシュミーが話に加わる。

 

「つまり防衛部隊以外のネロ陛下を含めた全軍でマッシリアに直帰して、そこからヒスパニアに攻め込むということでいいのか?」

「うーん。別にマッシリアに帰らなくても、オルレアンやボルドーを経由する道の方が近くありません?」

「いや、呂布軍と合流するにはマッシリアの方がいいと思う。もともと味方の街だからな。それこそさっきの景虎殿の話もあるし」

「ああ、なるほど」

 

 ラクシュミーほどの名将が言うことなので、光己はあっさり自論を取り下げた。

 しかし、呂布といえば裏切りの逸話が有名だから、むしろ合流しない方がいいような気もしたが、ネロとラクシュミーが信用しているのだから大丈夫なのだろう……。

 

「それじゃラクシュミーさん、すみませんけどルーラーたち呼んできてくれませんか? 大事なことですから、先に皆に話しておきたいんで」

「分かった、では私たちはそのまま戻ることにしよう」

 

 ラクシュミーと荊軻が「そのまま戻る」と言ったのは、表向きにはしていないがネロの護衛のためである。夜中はアルトリアズか彼女たち2人のどちらかがそばにいることにしているのだ。

 連合帝国の今までのやり方から見て、サーヴァントがネロを暗殺しに来る可能性は低いが、万が一の警戒である。

 

「分かりました、よろしくお願いします」

「ああ、ではおやすみ。よい夢を」

 

 こうして2人が帰ってしばらくすると、アルトリアズが戻って来た。

 

「マスター、何か大事な話があるとラクシュミーから聞いてきたのですが」

「ああ、今後の方針についてちょっとね」

 

 光己はそう言うと、席に着いたアルトリアズに今しがたの話の概要を説明した。

 ルーラーがこっくり頷く。

 

「なるほど、要するに日数を取るか戦力を取るかということですね。どちらが正解とも言えませんから、マスターの判断に従いますよ。

 マーリンがいれば答えが分かるのでしょうけど」

 

 千里眼スキルがあれば、連合首都の位置やそこにいる戦力が分かる。つまり8騎で十分か15騎いた方がいいのか判断できるのだが、いないものは仕方なかった。

 

「でも千里眼って、本当に必要な時は使えないってイメージがあるんですよねー」

「まあ確かにマーリンは性格悪かったですが。

 私個人の希望としては女王と最後まで同行したいですし、マスターの判断に同意します」

 

 ヒロインXXが元部下を微妙にくさすと、アルトリアもそんなことを言った。マーリンといえば有名な魔術師だが、どんな仕え方をしていたのだろうか?

 しかしともかくも全員の合意が取れたので、光己がお仕事おしまいということでベッドにぽふんと倒れ込むと、XXが覆いかぶさってきた。

 

「ダ、XX!?」

「えへへー、マスターくんつかまえました!」

「!?」

 

 XXが意味不明なことを言ってきたので光己が視線で訊ねると、宇宙OLさんはじーっと見つめ返してきた。

 

「だってほら、私ネロ陛下についてることが多いですから、マスターくんのそばにいる時間短いですよね。でも今日は寝るまで一緒ですから、マスターくん分いっぱい補充させてもらおうかなと」

「あー、確かにそうだなあ。じゃあ俺もXX分補充させてもらおっかな」

「きゃー、もうマスターくんってば」

 

 光己がXXをぎゅーっと抱きしめると、XXは手足をぱたぱた振り回したが、逃げるつもりはないようだ。

 こうして、ルテティアでの夜は静かに更けていったのだった。

 

 

 




 千里眼持ちたちって、二部冒頭で退去する前に異星の神やコヤンたちのこと教えてくれなかったんですよね(メメタァ



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。