FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第67話 古き神の謎3

 光己たちは洞窟に入るということで、船の備品から松明やロープなど使いそうなグッズを借りてから、ステンノの指示通り海岸沿いに西に向かって歩いた。

 それはいいのだが、道中カーマはちょっとご機嫌斜めであった。

 

「まったくもう。私という女神を迎えておきながら、他の女神の戯言に乗って、こんなメンドくさそうなことするなんて」

 

 どうやら、光己たちがステンノの言う通りに探索をしているのが面白くないようだ。ヤキモチをやいているのだろう。

 

「んー。気持ちは分かるけど、カーマは女神だってこと隠してるし、予言みたいなことは苦手なんだろ?」

「それはそうなんですけどねー」

 

 カーマも理屈では分かっているが、感情面で納得しがたいらしい。

 その穴埋めをするためか、光己の後ろから飛びついてきた。

 

「仕方ありません。代わりに洞窟に着くまで肩車していって下さい」

「しょうがないなあ」

 

 まあそのくらいのことで機嫌を直してくれるなら安いものだろう。光己がかがむと、カーマは彼の首をまたいで座った。

 

「んっ、と」

 

 特に力むこともなくすいっと立ち上がる光己。相当体力がついてきたようだ。

 そのまま光己が歩き出すと、傍らに景虎が近づいてきた。

 

「マスター、荷物を持ちましょう」

「ああ、ありがと」

 

 気を利かせてくれた軍神サマに、光己は片手に持っていた備品袋を渡した。

 景虎がくすっと小さく微笑む。

 

「そんな風にしていると、仲がいい兄妹みたいですね」

「まあなー」

 

 カーマは本物の女神で元ビーストなのだが、特に一緒にお風呂に入った時からはそういうスタンスではなく、ちょっとヒネた妹分みたいな感じで接していた。彼女もそういう接し方を望んでいると分かっているし。

 

「ところで船や港っていえば、景虎は何とかっていう糸を海路で売り出してたんだっけ?」

「はい、青苧糸(あおそいと)ですね。私が毎年のように戦をしていられたのは、これの売り上げのおかげでした」

「へえー。軍神っていう二つ名が有名だけど、内政もちゃんとしてたんだな」

「あー、いえ。具体的なことは宇佐美定満(うさみん)たちに任せっ放しでしたけれど……」

 

 光己が感心して褒めると、景虎は気まずげに目をそらした。性格的に不向きだったのだろう。

 光己はフォローする必要を感じた。

 

「そ、そっか。まあ軍神っていわれるくらいの戦争スキルがあったんだから、内政スキルまで望むのは贅沢だしな」

「そ、そうですとも! ここで内政スキルがあっても役に立ちませんから、戦争スキルにリソースを全突っ込みした方が、よりマスターの役に立てますしね!」

 

 景虎はちょっと声が乾いているが、何とかフォローはできたようだ。

 ついでに話題を変えることにする。

 

「それで話はまったく変わるんだけど、一般的な魔術師って根源とかいうのを目指してるんだよな」

「私はよく知りませんが、現界した時に得た知識によれば、南蛮の魔術師はそういうものみたいですね」

 

 西洋魔術でいう根源と仏教でいう悟りが同じものであるなら、日本の修験者や法力僧も「魔術師」の括りに入れてよさそうだが、景虎的には違うものに思えたので言及しなかった。

 

「でもさ、宇宙の根源っていったらあれだろ。神とか仏とか(タオ)とか愛とか。あまり身勝手なことやってたら、かえって遠ざかると思うんだけど」

「そう、そうですよね! さすがマスターは分かってます」

 

 すると、何故かブラダマンテが抱きついてきた。

 

「だから邪悪な魔術師が本懐を遂げることなんてないんです。冷たくて意地悪で、いつも何か恐ろしいことを考えている人たちが、最後に勝利を得るなんてダメですからね」

 

 ブラダマンテはマーリン以外の魔術師は嫌いなので、彼らを批判する話と見て乗ってきたのだった。

 なお彼女の生前の頃の一般的宇宙観はキリスト教的なもので、宇宙を創造したのは神で、神は愛なのだから、すなわち宇宙は愛。よって宇宙の根源をめざすなら、愛を体現すべきという結論になる。ゆえに魔術師のあり方では遠ざかるはずで、光己が同じ主張をしてくれたので嬉しくなって抱きついたというわけだ。

 

「お、おう」

 

 光己は「邪悪な魔術師」の実物を見たことがないので、あまり深い話はできない。とりあえず相槌を打ったが、ちゃっかり彼女の腰を抱きしめてスキンシップは図っていたりする。

 するとカーマも話に入ってきた。

 

「宇宙=愛ですか、ところで愛といえば私ですよね。

 つまり私=宇宙なんですから、もっと崇め奉ってくれていいですよ」

 

 冗談めかして言っているが、ビースト化すると本当に「無辺際の領域(宇宙)」の身体を得るので、決して誇張表現ではない。

 もっとも今はそういうことにあまり関心はなく、光己と遊んだり美味しいものを食べたりしていられれば満足だったが。

 

「おお、そういえばそうだったな。あ、でもカーマって確かシヴァに焼かれちゃったんだよな」

「むー、痛いとこ突いてきますね。でもあいつは宇宙すら破壊する神だからしょうがないんですよ」

「デジマ!? 宇宙の辺境の銀河系の、そのまた片隅の太陽系の、一惑星の一部をしろしめてるだけなのに!?」

 

 その割に攻撃範囲があまりにも広すぎる。にわかに信じがたかった。

 

「んー、まあその辺は概念的な話ですからね。実際に宇宙のすべての星を粉みじんにできるかどうかは私にも分からないです。

 宇宙には地球の神や人には想像もつかないすごい奴だっているかもしれませんし」

「なるほどなー」

 

 ―――などとだべっている間に、一行は洞窟の前に着いていた。ブラダマンテとカーマが光己から離れ、光己も表情と気持ちを引き締める。

 

「多分何かあるだろうから、みんな気をつけてな」

 

 人間視点だと厄逸話揃いのギリシャ系神々の中で、ステンノにはそういうエピソードがないそうだが、しかし彼女は光己を勇者と呼んだという。勇者や英雄の物語で、宝物を得る時に何の障害もなかったという例はあまりなく、たいていは危険や強敵を乗り越えてからのことである。何事もなくお宝に到着できると考えるのは、楽天的にすぎるだろう。

 

「そうですね、わざわざ洞窟の奥に用意するくらいですから」

 

 家で渡せば済むものを、あえて洞窟や迷宮に置いたからには、道中で何かをさせたいはずである。それが何かはまだ分からないが。

 

「んじゃ入ろうか。隊列はどうする?」

「僭越ながら、ワタシが先頭を引き受けまする」

 

 光己が備品袋から松明を取り出しながら一同に訊ねると、段蔵がそう言って先頭に立候補した。

 夜目が利く上に気配遮断スキルがあるので、先頭というより偵察役として打ってつけなのだ。

 

「そだな、じゃあよろしく。でも無理しないようにな」

「はい」

 

 その少し後ろに金時、3列目にブラダマンテと光己と景虎が並んで、後衛にカーマという配置になった。マスターを守るのを重視した隊形である。

 そして松明に火を点し、いよいよ洞窟の中に足を踏み入れる光己たち。当然ながら真っ暗で、潮風が入るからか空気がじめじめしており、地面もちょっとぬかるんでいる。

 敵が現れても普通に戦える程度の広さはあったが、岩の塊や鍾乳石が多いので、見通しはあまり良くない。

 しばらく歩いたところで、段蔵の目つきがふっと鋭くなる。

 

「魔力……かなり多い? この感じは怪物、いえ死霊の類……!?」

 

 段蔵がぱっと光己たちの方に跳び下がって注意を促す。その数秒後、岩陰から骸骨の群れが現れた。

 

「スケルトン!?」

 

 やはり宝を得るには試練を果たす必要があるようだ。

 しかもただの骸骨ではなく剣や弓といった武器を持っている。生前は兵士だったのだろうか。

 

「なるほど、大将の予想通りってわけか。まあこの場は俺に任せときな、クールに決めてやっからよ!」

 

 金時がさっとファイティングポーズをとって1歩前に出る。しかし何故か段蔵がそれを制止した。

 

「いえゴールデン殿、これはマスターの実戦訓練にちょうどいいのでは」

「ふえ!?」

 

 未成年の民間人に骸骨の群れと殴り合いさせようとは、さすがニンジャの修業は過酷であった。

 

「おお、確かにこれはちょうどいいな!」

「そうですね」

「ナンデ!?」

 

 しかも賛同者はいても反対者は出なかったため、多数決であっさり決まってしまう。何という数の暴力!

 仕方ないので前に出た光己だが、骸骨たちがカタカタ骨を鳴らしながら迫ってくるのは怖くはないが、はっきり言っておぞましい。こちらの歯が鳴りそうなほどに。

 盾兵の後ろから指揮するのと自分で戦うのとでは、まったく心象が違うことが身をもって分かった。しかしまず、不要な戦いを避けるため和平を試みることにする。

 

「ええい、あっちに行け! 行かないとニンポを使うぞ! 死ぬぞ!」

 

 光己は火遁の術を使えるからハッタリではないのだが、やはり威圧感が足りないのか骸骨たちは恐れ入る気配すらなく、そのままのペースで近づいてきた。どうやら戦うしかないようだ。

 しかもアンデッド系にドレインはこちらがダメージをくらうし、骨に高熱はコスパが悪い。打撃で壊す一択であろう。

 

「畜生め!」

 

 半分ヤケで自分から突っ込む光己。先頭の骸骨が剣を振り下ろしてきたのを半身になってかわすと同時に、彼の額に魔力放出を乗せた必殺の手刀を叩き込んだ。

 

「イヤーッ!」

 

 みごと命中、なんとその一撃で骸骨兵の頭蓋が両断される。光己もいよいよ逸般人の域に足を踏み入れてきたようだ。

 しかし実戦慣れしていないのは否めず、その間に他の骸骨が回り込んできて囲まれてしまった。地面が濡れているので全力疾走して離脱というわけにもいかず、そのまま四方から斬りかかられる。

 

「あわわっ!?」

 

 もっともスルーズや段蔵たちに比べればはるかに遅い攻撃だが、四方から来るのでは避け切れない。横や後ろからがつんごつんとどつかれた。

 身体的には平気だが、精神的には非常に痛い。

 

「ええい、この骨どもが!」

 

 それでも数体はチョップで頭蓋を割ったり頚骨をチョンパしたりしてやったが、やはり足元が滑るのが実にやりにくい。何故か骸骨たちは普通に歩いているが、どうしたものか。

 

「いや待てよ。滑るのが問題なら滑らなくすればいいんだ」

 

 光己が地面に向けて火を吹くと、シュワーッという音とともに白い蒸気が湧き上がる。滑る原因の水を蒸発させているのだ。

 

「うわー、さっすがマスター頭いいです!」

「やるじゃねェか大将」

 

 とっさの機転としては上々で、ブラダマンテが手を打って褒め称え、金時がニヤリと笑みを浮かべる。

 実際足場が乾いて普通に動けるようになれば、今の光己なら骸骨兵など何人いようと苦労はない。数分後には、彼らを今度こそ二度と動くことのないただの遺骨に還していた。

 

 

 

 

 

 

「はあー、疲れた」

「お疲れさまでしたマスター!」

 

 光己が(主に精神的に)ぐったりした顔でサーヴァントたちのところに戻ると、ブラダマンテが満面の笑顔で抱きついてねぎらってくれた。

 地面乾燥作戦によほど感銘を受けたらしい。

 

「うわっ、と。どう致しまして」

 

 せっかくなのでしっかりと抱き返す光己。柔らかくて温かくて、いかにも女の子という感じのいい匂いがして、至福の感触でAPがもりもりと回復していく。

 

「マスターはホントにすごいですね! マスターみたいな方と一緒に、人理修復なんて正義そのもののお仕事ができて嬉しいです」

 

 ブラダマンテは猪突猛進タイプで、生前は何度も騙されたり罠にかかったりした経験があるだけに、いろいろ考えてくれる慎重な相方というのはとてもありがたいのだった。同僚の十二勇士も頭がアレな人が多かったし。

 それに光己は魔術師ではないしやさしいし、その上アーサー王と一緒に戦えるなんて栄誉にもめぐり合えたし、どうお礼していいか分からないくらいである。

 

「いやあ、俺の方こそブラダマンテがいてくれて嬉しいよ。いつも頑張ってくれてありがとな、これからも頼む」

「はい、もちろん!」

 

 そのまましばらくくっついていたが、いつまでもそうしてはいられない。カーマに引っぺがされたので、光己は改めて出発を指示した。

 

「それじゃ行こっか」

「はい!」

 

 その後しばらくは何事もなかったが、一行がちょっと道が狭くなってきたなと思ったところで、上の方からギシギシと何かが軋む音が聞こえた。

 イヤな予感がした段蔵が見上げてみると、何と天井がひび割れているではないか。今にも崩れ落ちて来そうである。

 

「落盤です! 皆様お下がりを!」

「!?」

 

 光己たちが慌てて逃げた直後、前方で轟音とともに大小の岩塊や土砂が雪崩のように落ちて来る。思わず耳をふさぐ光己たち。

 逃げるのが早かったので巻き込まれずにすんだが、通路は完全に埋まってしまった。

 

「……これは罠なんか? それとも偶然?」

「さすがに測りかねまするが、掘っていくのは大変そうですね」

 

 アルトリアズがいればぶっぱで穴を開けられるのだが……いやその衝撃で二次災害が起きそうだからやめておく方が無難か。しかしいくらサーヴァントが百人力とはいえ、工具もなしに大量の土砂を掘り返すのは手間がかかる。

 

「うーん、仕方ないな。俺が変身しよう」

 

 ドラゴンの巨体なら土砂を取り除くのも手早くできる。反対意見は出なかったので、光己は服を脱いで金時に預けると、竜モードに変身した。

 

「ドラゴン・チェーンジ! …………っと、ちょっと狭いな」

 

 人間サイズの時には十分広かった洞窟も、巨竜視点では雪でつくったカマクラのように窮屈である。しかしこれなら土砂の撤去などたやすい。

 子供が公園の砂場で遊ぶのにも似た手軽さで通路を開けると、この先のこともあるので竜モードのままで進むことにした。

 

「では、私たちはマスターの背中に乗らせていただいてよろしいでしょうか?」

(こくこく)

 

 巨竜のすぐそばを歩くのはサーヴァントでも危険だから当然の方針であろう……。

 その先はまた骸骨兵が出たり落とし穴があったりしたが、ファヴニールの図体の前には足止めにすらならず、一行はつつがなく洞窟の最深部らしい広間にたどり着いた。

 

(冬木でアルトリアオルタに会った時のこと思い出すな)

 

 もちろんここには黒い騎士王はいないし聖杯もないのだが、怪しい気配はあった。

 奥の方に猛獣めいた何者かがいる。

 

「あれは……キメラ!?」

 

 そいつはライオンとヤギとヘビが合体した怪物だった。それも魔術師がつくった合成生物ではなく本物の幻想種である。

 

「まさかこれが宝物なんてことはないですよねぇ……!?」

 

 カーマはちょっと胡乱げな目でキメラを見つめていた。確かにこの時代には存在しないものだし、食材としても魔術素材としても優秀だが、だからお宝だと主張するのは強弁が過ぎると思う。

 

「とにかく倒すしかなさそうですが……」

 

 しかしまあ、何というか。キメラは普通のライオンより一回り大きく三回りほどは強いとはいえ、ファヴニールと比べればネコとネズミほどの体重差がある。勝ち目はゼロと見て回れ右したが逃げ場はなく、巨竜の尻尾で張り倒されて気絶した。

 

「……さすがに可哀そうな気もしますが、トドメ刺します?」

 

 キメラが宝物だというなら容赦なく食材と魔術素材にしてもいいが、他に本命があるなら殺すのは哀れである。カーマがそう提案すると、ファヴニールは長い首をこくこく上下に動かした。

 

「では探してみましょう」

 

 マスターの意向により、段蔵たちが彼の背中から降りて広間を調べる。すると、隅っこの方に大きな木箱が見つかった。

 おそらくはこちらが本命だろう。

 

「ではワタシが」

 

 光己とカーマたちはいったん下がり、段蔵が1人で箱の周りを注意深く調べる。罠がないと判断すると、慎重に蓋を開けた。

 

「ぷはー! やっと来てくれたのですね」

 

 すると中から若い女性が2人、待ちかねたといった様子で顔を出す。

 

「こ、この神気……ま、ままままさかパ、パ、パールヴァティィィィ!?」

「アイエエエ!? 頼光=サン!? 頼光=サンナンデ!?」

 

 そしてカーマと金時の悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 




 ステンノ様マジ愉悦!



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