ネロたちはマッシリアに戻ると、パールヴァティーと頼光を兵士と市民に紹介して士気と支持率を高めたり、軍の再編成をしたりして遠征の準備を整えた。
噂の「古き神」から遣わされた2人の戦士はたおやかな美女だったが、お披露目式での演武で見せた武力は人の域を超えていた。しかも、あの黒き竜が式場の上空に現れて式をしばらく見物していったという
なおラクシュミーがパールヴァティーを紹介された時、驚きのあまりひっくり返りそうになった。いや本当に足を滑らせて尻もちをついて、思春期少年にまたパンツを見られたりしたという事件もあったが、まあ些細なことだろう……。
遠征軍の総数は約4万人だ。まず前衛は1万人で、将軍は光己・マシュ・段蔵・ブラダマンテ・スルーズ・カーマ・景虎・金時・ブーディカ・頼光の10人。中軍は2万人で、皇帝ネロとラクシュミー・アルトリア・ルーラーアルトリア・ヒロインXX・パールヴァティーが指揮している。後衛も1万人で、呂布・陳宮・荊軻が率いていた。
連合首都を一気に攻略して戦争に終止符を打つべく、正統軍の戦力を結集した体制である。その首都は、ステンノにもらった地図によればヒスパニア中部の山の中にあり、マッシリアからだとバルセロナ辺りまで海沿いに進んだら、内陸側に入ってサラゴサを経由して到着するといった経路になる。距離的には1100キロくらいだった。
「いくぞ皆の者! この遠征で長きに渡った戦を終わらせ、我らがローマを正しき姿に戻すのだ!」
「おおーーーっ!!」
ネロの号令一下、マッシリアを発って第1目標であるバルセロナめざして進軍する正統兵たち。
彼らが乗っている貨物列車は馬より速いので、連合側の斥候が彼らを見つけても、報告に戻るより正統軍が着く方が早い。つまり、正統軍は連合軍の迎撃準備が整う前に先制攻撃することができるので、破竹の勢いで次々と道中の街を取り戻していた。
しかしサラゴサを目前にした辺りから、小規模のゲリラ部隊が頻繁に出没するようになった。まさか勝つつもりではないだろうから、狙いは足止めか、それとも情報収集だろうか?
その割にサーヴァントが出現しないのが不審である。
「確かに不審ですが、悩むことはありませんよ。こういうことは敵に聞けばいいんです」
景虎はこともなげにそう言うと、その次に現れた連合部隊をみずから追撃して、身分が高そうなのを何人かひっ捕らえてきた。捕虜から敵情を知ろうというわけである。
彼らは忠誠心が高くて容易に白状しなかったが、またネロに歌ってもらったら心が折れ、もとい正統ローマに降伏して、いくらかの情報を得ることができた。
それによると、総大将はカリギュラだが実際に指揮をとっているのはアレキサンダーという少年で、諸葛孔明なる軍師がついているという。兵士は2万人くらいで、サラゴサから少し離れた山中の隠し砦が本拠地らしい。敵兵を倒すことより情報を持ち帰ることを優先した作戦をとっているが、詳しい狙いは知らされていないようだ。
ネロは孔明のことは知らないが、アレキサンダーといえばかの有名な征服王である。さっそく対策会議を開くことにした。
「うむ、集まったな。忙しい中ご苦労である!
では始めるとしようか。すでに周知しているが、今回の敵将は偽伯父上とアレキサンダー、それに諸葛孔明なる軍師だという。偽伯父上は理性を奪われているからともかく、アレキサンダーは恐るべき敵であろう。何か存念がある者はいるか?」
すると、後衛では唯一の出席者である陳宮が手を挙げた。
「私はアレキサンダーのことは知りませんが、諸葛孔明とは同じ中国の軍師として、雌雄を競ってみたいのですが」
「ふむ? 意欲があるのはいいが、私情で我が兵たちをいたずらに危険にさらすのであれば認められぬが……」
なんとなーくデンジャーな気配を感じたネロがそう言うと、陳宮は大げさに両手の平を上に向けて、遺憾の意を示した。
「いや、それは誤解です陛下。確かに戦には犠牲が必要ですが、その犠牲をいかに減らすかが軍師の仕事ですから」
陳宮は必要な犠牲を出すことにためらいを持たない冷徹というかサディストぽい面があるが、必要のない犠牲を出したいわけではない。要らぬ犠牲を出す軍師など低能でしかないし、それでは先が続かぬではないか。
「それにマッシリアを発って以降、戦闘は毎回前衛だけでケリがついていますからな。なまじ士気が高い分、参加しておらぬ後衛の兵たちは、そろそろ不満に思い始めていますから」
「むう、それはその通りだな。分かった、では
ミツキ、それでよいか?」
ネロに意見を求められた光己だが、そういうことはまだ素人である。隣の景虎に丸投げした。
「景虎、いい?」
「はい、陳宮殿の言うことはもっともかと。しかし陳宮殿、策はおありなのですか?」
「さようですな。まずは隠し砦の件が事実かどうか、偵察して確かめるべきかと」
捕虜の言葉を鵜呑みにして、のこのこ山の中に入ったりしたら、途中に伏兵や火罠が待っている可能性は大いにある。陳宮は生前は孔明と面識はなかったが、現界した時に得た知識によれば、彼は伏兵の計を得意としていたようだし。
ただこの場合、その捕虜は死刑になるのだが、連合兵の忠誠度から考えて、死を恐れない者などごまんといるだろう。赤壁の戦というやつだ。
「ふむう。確かにヒスパニアに入って以降、連合兵の士気というか、気迫が一段と増しているからな……。
考えてみれば、連合の首魁はあのカエサルが『皇帝の1人』に甘んじるほどのカリスマの持ち主。今後は偽装降伏の類も警戒すべきだな」
ネロはそのカリスマの持ち主について、1人心当たりがあったが、その可能性についてはあえて考えないことにした。
「では直ちに、呂布軍で砦の調査をしてもらいたい。
その結果次第で次の作戦を考えよう」
「はい、承りました」
まずは裏付け調査をするという結論になったようだ。
軍議の後は夕食会(宴会ではない)となったが、その前の空き時間に光己はネロとパールヴァティーが話をしている時に近づいて、ついに2人の写真とサインを手に入れた。
すると陳宮が物珍しげに近づいてきて何をしているのか訊ねてきたので、これ幸いと彼の分もゲットする。
(くっくっくっ、大漁だぜ……価値を増す一方じゃないか我が家宝は!
あとは頼光さんと呂布将軍か。呂布将軍は迫力ありすぎる上に、言葉しゃべれないからなかなか仲良くなれんし、頼光さんは暇があると、ゴールデンに子離れできない母親みたいにべったり貼りついてるから、頼みづらいんだよな)
「ところでマスター、散歩にでも行きませんか?」
「ほえ?」
光己がお宝をかかえて悦に入っていると、アルトリアに散歩に誘われた。
もちろんかまわないが、2人きりで野営陣地の中を歩くのは問題があるので、同行者を
「すみません、マスターと少し話したいことがありまして」
もう日は落ちているが、星が明るいし所々に
「ああ、大丈夫だよ。アルトリアたちはネロ陛下付きになったから、長話できる機会減ったしね。
でもわざわざ外に誘うって、どういう風の吹き回し?」
「はい、ネロ陛下の前でするのは少々はばかりがある話題でして。
……突拍子もない話ですが、マスターにとって理想の王とはどんな感じですか?」
「ほむっ!?」
確かに突拍子もない話で、光己は一瞬足が止まってしまったが、アルトリアはかなり真剣そうなので、真面目に答えることにする。
「それはやっぱ、庶民をいたわってくれる王様かな。俺は庶民だから」
「ふむ」
正直なのはいいが、これではポジショントークにしかならない。もし彼が富裕層の出身であれば富裕層を優遇する王を望むだろうし、将軍や兵士だったら戦争に強い王がいいだろう。アルトリアは質問を変えることにした。
「ではもしマスターが王だったとしたらどうありたいですか?
たとえば私欲を捨てて民に尽くすとか、私欲全開で好き放題しまくって『我もまた王たらん』と人々に羨望させるとか」
「……その二択だったら前者の方がまだマシかなあ。別にそこまでワガママしたいわけじゃないし、てか王を羨ましがらせるって、庶民がどう頑張っても王にはなれないんだから、イヤミにしかならんだろ」
まあ本音をいえば、難しいことはそれこそ諸葛孔明のような有能で忠実な家来に任せて、自分は世継ぎをつくる仕事に専念するのがいいのだが、そんなこと言ったら3人とも怒るに決まっているので口にはしなかった。
「それに王の私欲って、たいていは無駄に威張り散らしたり、重税取って贅沢したり、要らん戦争起こしたりするってことだよな。そういうことすると国が潰れるって、この時代より千年も前に本になってるからさ」
「……ほう?」
光己が何気なく続けた言葉にアルトリアがはっと目の色を変える。
もし彼女がメガネっ娘であったなら、レンズがキラーンと光っていたことだろう。
「その本とやらについて詳しく」
「へ? あ、ああ。周っていう国を興す立役者だった姜子牙っていう人が書いた『六韜』って本の中に、『天下は一人の天下にあらず、天下の天下なり。天下の利を同じくする者は天下を得、天下の利をほしいままにする者は天下を失う』っていう一節があるんだ」
「素晴らしい……素晴らしい政治論です」
アルトリアは感動に身を震わせた。
分かりやすいし、これは某金ピカを殴る格好の棍棒になりそうだ。
「でも制服王、じゃなかった征服王にはあまり効かなさそうですね。他に何かありませんか?」
「……アルトリアってアレキサンダーに恨みでもあるの?」
不思議に思った光己は隣を歩いているアルトリアに顔を向けてそう訊ねてみたが、少女はついっと目をそらした。
しかし大事な仲間のお願いだから断るわけにもいかない。彼女が喜びそうな言葉を脳内で検索してみる。
「んー、じゃあ別の人の本だけどこんなのはどう? 『軍隊というのは、悪事をしてない国を攻めたり罪がない人を殺したりしないものだ。人の財産を奪ったり、家族を殺したり、奴隷や妾にしたりするのなら盗賊と同じだ』。確かこんな感じだったけど」
「素晴らしい……世界史レベルの征服者を盗賊扱いできる理論とは」
アルトリアは大変感銘を受けたようだ。感謝とやる気を満面に表しつつ、光己の手をがっしと握る。
「今回は呂布隊が先陣になるようですが、もし征服王たちがマスターたちの部隊に攻めてきたら、すぐ呼んで下さいね」
「お、おう」
アルトリアズはネロ隊に編入されたが、光己隊が戦う時は、状況次第でそちらに行ってもいいことになっているのだ。
まあ光己としても、アレクサンドロス大王や諸葛孔明なんてチートと戦うのならサーヴァントは1人でも多い方がいいわけで、彼女の自薦はありがたいことなのだけれど。
「うんうん、ミツキはやさしい子だね!」
「へ?」
すると、不意にブーディカが光己の前に来てハグしてきた。何故だろう?
「そういう言葉を覚えてて、すぐ出てくるってことは、ミツキはそういう感性持ってるってことだよ。守りがいがある子でお姉さん嬉しいなあ」
「は、はあ、ありがとうございます……」
光己は自分が特別やさしい性格だなどと思ってはいないが、とりあえず礼を言っておいた。
というかそうするくらいにしか頭が働かない。大きなおっぱいの感触が気持ちいいのもあるが、彼女のあふれ出る母性がヤバいのだ。
彼女の腕と胸に包まれていると、幼児退行して甘えたくなってしまいそうな気配さえある。なのに抜け出そうと思えない安心感と温かみ、まさかこんな所に無敵アーマーを貫通するワザがあったとは……!
「しかし今の言葉はもっともだな。東インド会社に限らず、侵略者の軍隊は街を占領するとたいてい食料や財貨を奪っていくし、逆らう者がいれば殺す。何がしかの大義名分を掲げてはいるが、やってることは野盗や山賊と変わらない。
その著者は物事の本質を見抜く鋭い感覚の持ち主のようだな」
一方ラクシュミーはうんうん頷いて感心しているが、光己とスキンシップするつもりはないようだ。ブーディカと経歴は似ていても、性格には違う点もあるということだろう……。
光己と景虎とブーディカが(今は)前衛の将軍用天幕に戻ると、マシュが何か書き物をしていた。
そういえば、彼女はローマに来て以来、ときどき机に向かっていることがある。日記でも付けているのだろうか?
「ドクターに頼まれているんです。戦記物っぽく、日記を付けてくれないかと」
「へえ」
すると通信機から通信音が鳴り、ついでロマニの声が聞こえた。
《そうとも、ボクが頼んだのさ! せっかく君がローマ総督のひとりになったんだからね!
新・ガリア戦記というのはどうだろう。かつてカエサルが書いた本をオマージュした題だよ》
「へえ……出版でもするつもりなんですか?」
光己がそう訊ねると、通信機の向こうでロマニが大きく頷いたような気がした。
《うん、ちょっと真面目な話をしよう。
君たちが世界を救うことができた、としてだ。それから先のことをボクは少し考えてみた。
もしも世界を救ったとしても、カルデアを襲った惨劇がくつがえることはないだろう。つまり―――ボクらの給料については保証がない。後は、わかるね?》
「なるほど。転ばぬ先の杖、というヤツですね。しかし、ドクターはなぜ肉体労働を避けるのです?」
するとマシュが話に割り込んだ。ロマニはちょっとひるんだようだが、光己は気にせず反論した。
「何言ってるんだマシュ。肉体労働より頭脳労働の方が給料高いんだから当然じゃないか」
「え? え、ええ、一般的には確かにそうですが……」
今度はマシュがひるむ。事実の前には返す言葉がないようだ。
ところが次にオルガマリーの声が響く。
《何を言ってるのロマニ。特異点を修正したらなかったことになるんだから、その過程を記録しても史実とはまるで異なる歴史小説にしかならないでしょう。ガリア戦記のオマージュだなんておこがましいというものよ》
《げえっ所長!》
《……向こうに呂布がいるからって、人を関羽みたいに言わないでくれる?》
《いたたたた!》
オルガマリーがロマニをつねるか何かしているらしく、ロマニの情けない悲鳴が聞こえた。
「それで、給料についてはどうなんです?」
しかし光己はその辺はスルーして、彼にとってより重要な問題について追及した。給料の保証がないとはどういう仕儀か?
オルガマリーにとってもそこは痛い所らしく、申し訳なさそうな口調で答える。
《私自身は、人理修復が成功したら貴方にも他の職員にも全力で報いるつもりよ。カーマ神が言った『異星の神』への対処もあるから、カルデアは残すべきだし。
といっても爆発事故の件は弁解しがたいから、カルデアが存続できるとは言い切れないのよ》
「むうー」
それでも懸命に役目を果たそうとしているオルガマリーに光己は尊敬の念を覚えたが、それと給料は別である。しかし雇用主に払う資力がないとなれば、倒産前にこちらで手立てを取るしかあるまい。
「安心して下さいドクター。ドクターが言った通り、今の俺はローマの総督。
サラゴサを占領したら、ネロ陛下に総督としての給料を請求してみます」
《それだ藤宮君! その時代の金貨ならきっと高値で売れるはず》
「……」
マシュは光己とロマニの俗物ぶりに白っぽい目を向けたが、しかし給料を請求するという行為自体はこの上なく正当である。文句をつける余地はなかった。
しかもトップも乗り気のようだ。
《確かにそれは正当な報酬というべきね。ところで藤宮、私の分はあるのかしら?》
「そりゃもちろん。所長が1番心労重いんですから、多少多めに取ってもいいと思いますよ」
《フフッ、ありがとう。そう言ってもらえるだけで気が楽になるわ》
オルガマリーがふんわりした微笑を浮かべる。金貨にはそこまで執着していないが、彼が自分を認めてくれたのが嬉しかったのだ。
《それにいつも食料送ってくれてありがとう。助かってるわ》
「どう致しまして。こっちもなかなか美味い現地メシ食べてますんで、お裾分けですよ」
《ええ、これからもお願いね。
やっぱりこう極限状況だからか、ごはん1つでみんなの顔つきが違ってくるから》
オルガマリーにとって光己はレフと違って頼れる感がないどころか、魔術師でも科学者でもない年下のパンピーだが、だからこそ気軽にお喋りできる数少ない相手になっていた。
冬木で会った時は彼の素人ぶりに絶望したものだが、今の彼は魔力容量だけなら一流魔術師以上だし、サーヴァントたちとも仲良くしているし、わりと当たりを引けたんじゃないかと思っている。
「そりゃそうですよ、ウマメシの力は偉大です。あの高潔な騎士王ですら、こだわりを隠さないくらいですからね」
《フフッ、確かにね》
オルガマリーはおかしそうに笑ったが、すぐに真面目な顔になった。
《―――ところでそっちはまた大変な強敵が出てきたみたいね。くれぐれも慎重に、何があっても絶対無事で帰ってくるのよ》
「はい、そっちもお体を大切に」
《ええ、それじゃお休みなさい》
それで通信を終えると、光己はマシュの方に顔を向けた。
「というわけで戦記物はいらなくなったけど、日報みたいなものはあった方がいいと思うから、簡単な記録だけお願いしていい?」
「はい、それは最初からそのつもりでしたから」
「うん、それじゃ寝る前に一息つこうかな」
光己はそう言うと、ポットに手を伸ばしてお茶の用意をするのだった。
アルトリアが理論武装しましたが、アレキサンダーはアルトリアに興味ないでしょうし7章のギルは賢王なので殴る隙はないのですなw
しかし原作では味方鯖は5騎でしたが、ここでは17騎もいるんですな。アレキサンダーはどうやってネロに会うんだろう(ぉ