FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第7話 洞窟の番人

 いろいろあったが、ともかくカルデア一行は無事洞窟が見えるところまでたどり着いた。アーチャーの姿は見えない。洞窟の中にいるのだろうか。

 

「そういえばさ、ヒルドはアーチャーの真名って知ってる?」

「うーん、それがまったく想像つかないんだよね。アーサー王に従ってるんだから円卓の騎士かなとも思ったんだけど、それっぽい人はいないし」

 

 アーチャーはそのクラスが示す通り弓を持っていたが、普通の矢だけでなく、当たると大爆発する剣のような形をした「矢」も射ることができた。円卓の騎士の中で弓兵といえばトリスタンだが、彼の得物は妖弦の弓「フェイルノート」だから多分違う。

 

「うーん、そうなのですか。円卓の騎士と戦わずにすむのは私としてはうれしいですが、相手の正体がわからないのは不安ですね」

「でも正体がわからないのは向こうも同じですから、こっちが不利というわけではないと思いますよ!」

 

 ちょっと憂い顔になったリリィをブラダマンテが元気づける。確かにその通りなので、リリィも愁眉を開いた。

 

「じゃ、そろそろフォーメーションを組んでいきましょう。みんな、油断しないようにね。

 特にそこの煩悩まみれな一般人」

 

 伝説の騎士王の本拠地の目の前まで来たとあって、オルガマリーは実力に見合わず怖がりなだけに、手がかすかに震えていた。それでもカルデア所長として懸命に虚勢を張って、まずは侵入前に隊形を取ることを指示する。

 今回アーサー王やアーチャーと戦うのは彼女個人の事情が多分に含まれているので、せめて己の役割くらいはまっとうしようと思っているのだ。ただ最後に新入りへの皮肉が混じったのは、彼の流儀に合わせて過度の緊張はほぐしておこうという彼女なりの気遣いであった。

 

「いや、俺だってここで気を抜くほどお花畑じゃないですよ!?」

 

 光己もオルガマリーが本気で彼に不快感を抱いているわけではないことは承知しているので、軽い口調で抗議してみせただけである。

 フォーメーションはまず人間であるオルガマリーと光己はマシュの後ろに控え、リリィとブラダマンテがその右前と左前で前衛を務める。ヒルドは最後尾で背後の警戒と「原初のルーン」による支援という役割だ。特にクセのない、順当な布陣といえよう。

 

「では、いきましょう!」

 

 ブラダマンテが槍をかかげて、彼女らしい元気の良さで出発を促す。その直後、暗い洞穴の奥からヒュンッと小気味いい風切り音をあげながら1本の矢が飛んできた!

 

「!!」

 

 ブラダマンテがとっさに盾をかざすのとほぼ同時に、すでにこれを予測していたヒルドが左手の指先を舞わせて「矢避けの加護」のルーンを起動する。すると矢は強風に煽られたかのように軌道が曲がって、あさっての方向に飛んで行った。

 しかし、息つく間もなく数本の矢が追加で飛んできたが、同様に逸らしてやる。

 だが都合6本めの「矢」はわけが違った。矢というより細い槍のような形をしたそれは、1度は「矢避けの加護」で逸らされたものの、空中で回れ右して再び向かってきたのだ。

 

「無線……じゃないよな。思念で誘導とかしてるのか!?」

 

 見た目からしてただの矢とは違う迫力に光己は腰を抜かしそうになったが、幸い加護の力はパーティ全員に有効で、「矢」は彼らを捉えることはできなかった。しかし同じ矢が2本3本と追加されてきたため、光己よりもオルガマリーが恐慌し始める。

 

「ちょ、ちょっとどうにかしなさいよ!」

「ええっ!?」

 

 オルガマリーが腕にしがみついてきたので、光己はまたおっぱいの感触が大変気持ち良かったが、さすがに今はそんなこと言っていられない。実際自力飛行する矢に囲まれているのは怖いので、早急に対策を考えることにした。

 

「じゃあバリアが保っている間に吶喊……いや」

 

 そのくらいのことはアーチャーも考慮済みだろう。彼はここで待っていたのだから、トラップの1つや2つ仕掛ける時間は十分ある。やみくもに突撃するのは危険だ。

 

「じゃあどうしよう……そうだ! ブラダマンテ、ビームを洞窟のちょっと上くらいのとこ撃って入口ふさいでくれ」

「はい!」

 

 なるほど時間稼ぎとしては悪くない。少女騎士は槍の穂先からビームを連射して、岩崩れを起こして入口を岩塊で閉じてしまった。

 

「ええと、次はこの矢がどうやって俺たちを追ってるかだな」

 

 射手が目視で矢を動かしているのならこれで追尾できなくなるはずだが、しかし矢はまだ光己たちを狙い続けていた。するとこれは矢が自律駆動しているということになる。

 サーヴァントだけならいったん遠くに逃げるとか適当な硬い物を盾にして動きを止めるとかして対処できるだろうが、光己とオルガマリーが一緒では厳しい。

 

「無駄に高性能だな! どうすりゃいいんだ」

「ううん、ナイスアイデアだよミツキ!」

 

 光己は思考を言葉に出してしまっていたらしく、ヒルドがぱっと明るい顔を見せてまた左手を宙に舞わせる。その直後、一行の周囲にいくつもの大きな氷塊が出現した。

 矢はぐさりと氷塊に突き刺さったが、通り抜けることまではできない。すると重心のバランスが崩れてまともに飛べなくなり、へろへろと地面に墜落した。

 

「おお、すげえ! さすが戦乙女っていわれるだけはあるな」

 

 感嘆した光己が手を拍って称賛すると、ヒルドはえっへんと胸を張った。

 

「それはもう、あたしたちのルーン魔術はお父様直伝だからね! もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「お父様っていうと北欧神話の主神のオーディンか? そういえば矢が逸れてくバリアー(?)も役に立ったし、ヒルドは当たりサーヴァントだな!」

「えへへー」

 

 ヒルドは見た目も中身も可愛いのもあって光己が調子よく持ち上げると、ヒルドも機嫌よく笑顔を見せた。しかしその時、光己は横からちょっと剣呑な視線を感じた。

 

「ん?」

 

 そちらに目を向けると、マシュたちが少し不機嫌そうに彼の顔を見ているではないか。光己は不審に思ったが、すぐ謎は解けた。

 

(ああ、ヒルドばかり褒めてたからか)

 

 いくら活躍したからといって、自分のサーヴァントを放置して他者のサーヴァントばかりちやほやするとは何事かとスネているのだろう。いや役に立ってくれたなら感謝や称賛の気持ちを示すのは当然だが、それはヒルドのマスターであるオルガマリーの役目なわけだし。

 こんな美少女3人がかわいくヤキモチを焼いてくれるとは実に光栄だが、ここはきちんとなだめておかねばなるまい。

 

「あー、ごめんな。本物の魔術なんて初めて見たからついさ。

 でもこれはモテ期ってやつか? まあ俺もできる範囲でがんばって貢献してるしなー」

「いえ、そういうわけではないのですが……私恋人いますし」

 

 しかし彼の最高というほどでもないがハイ!な気分は、ブラダマンテの正直なカミングアウトによりあっさり標準以下まで急降下した。

 

「んー、まあ確かにブラダマンテほどのイイ娘だったら彼氏いても当然だよなあ……。

 ところでこんな世界継続する意味あるのかな?」

「先輩!?」

「いや冗談だって! イッツアジャパニーズジョーク」

「ふざけてないで真面目にやりなさい。まだアーチャー倒したわけじゃないんだから」

 

 そしてバカを言ってマシュに睨まれ、ついでにオルガマリーにも叱られたので光己はそろそろ瘴気に、いや正気に戻ることにした。

 

「それじゃブラダマンテ、次は入口の手前の地面にビーム撃ってくれる? そればっかで悪いとは思うけど」

「いえ、別にかまいませんが……でもどうして?」

「いや、俺がアーチャーだったらあの辺にトラップ仕掛けるってだけだよ。だからさっきも突っ込まなかったんだ」

 

 弓兵だからといって接近戦がまるでできないということはあるまいが、その専門家の剣士や槍兵複数に囲まれたらお手上げだろう。だからこそ彼は堂々と姿を見せて「ドーモ、アーチャーです」なんて律儀にアイサツしたりせず、暗闇からアンブッシュしてきたわけだ。

 それなら当然、入口にも何か仕掛けがあるだろう。実際、人類は古くから落とし穴などのトラップを戦争や狩猟に使ってきたのだ。

 光己がその旨を簡単に説明すると、ブラダマンテはいたく感銘を受けたようだった。

 

「なるほど! マスターは本当に用心深くて配慮がいきとどいてますね!

 私は生前は魔術師の奸計で何度も煮え湯を飲まされたものですから、実に心強いです」

 

 だからもし光己が魔術師で魔術的な罠に詳しいというのなら正直好きになれないところだったが、今彼が語った罠談義は魔術と関係ない。恋愛感情は抱かないが、信頼度はアップである。

 アーチャーが罠を仕掛けていない可能性はもちろんあるが、そうだったとしてもこちらに実害はない。ブラダマンテはマスターの指示通り、洞窟の手前の地面にビームを何発かぶっ放した。

 爆音とともに土塊がはじけ土煙があがるが、罠らしきものは見えない。

 

「うーん、心配しすぎだったかな?」

「そうみたいですね。どうしますか?」

「そうだな。もう少し深く掘って、落とし穴とはいかなくても足を取られてよろめく程度の穴をつくるってのはどう?」

「なるほど、マスターは面白いことを考えますね!」

 

 ブラダマンテは聖騎士とはいえそこまで一騎打ちとか正々堂々とかにこだわるタイプではないらしく、悪戯を思いついた幼児のような顔で地面に穴を穿っていく。

 しかしそれを察して妨害するかのごとく、洞穴をふさいでいた岩塊がこちら側にはじけ飛んだ。

 

「!? な、何だ!?」

「こちらが乗り込まないので痺れを切らしたのでしょう。気をつけて!」

 

 リリィが剣を構え直し、マシュも盾をかざす。ブラダマンテはアーチャーが出てきたところを狙い撃とうとしたが、ヒルドが前に出てそれを制した。

 

「ヒルドさん?」

「……少し彼と話してみようよ」

「……わかったわ、とりあえず任せる」

 

 一応は彼と面識があるヒルドがそう言う以上、何か考えがあるのだろう。オルガマリーは一瞬は躊躇したが、思い直して彼女に任せることにした。

 やがてアーチャーが洞穴の入り口の際まで現れる。

 シャドウサーヴァント化しているので顔の細かい輪郭は読み取れないが、日本人ぽい容姿のようだ。かなりの高身長で、ぱっと見でも相当鍛えてそうな体躯である。なぜか弓ではなく、両手に短い剣を持っていた。

 

「……って、男じゃねーか! 聖杯戦争はミスコンじゃなかったのかよ」

「いえ先輩。彼はミスターコンの参加者という可能性も」

「む。確かにあいつなかなかイケメンぽいし、女の子何人もコマしてそうな雰囲気出してるからあり得るな……」

「2人とも黙ってなさい」

 

 光己のボケに珍しくマシュが乗ったが、まとめてオルガマリーに黙らされた。

 アーチャーは3人の話が聞こえたのかちょっとあきれた、いや何か痛い所を突かれたような顔になったが、その間にヒルドが声をかける。

 

「相変わらず熱心だね。円卓の騎士ってわけでもないのに、なんでそこまで義理立てしてるの?」

「また君か。確かに私は生前の彼女とは無関係だが、ちょっとした縁があってね」

「へええ。ならこの娘の邪魔はできる?」

「何!?」

 

 アーチャーがヒルドの手が向いた方に油断なく視線を向けると、そこには彼の背後にいるアーサー王とそっくりの姿をした少女がいた。いや顔形や体格は同じだが雰囲気がだいぶ幼く純真そうなので、王位に即く前とか王にならなかったとかそういうイフの姿なのだろう。

 今の泥に染まった身からは、まるで太陽のように眩しく見えた。

 

(こ、これは……斬れん!!)

 

 アーチャーはアーサー王と縁があると言っただけに、この純白の姫騎士を斬り倒す気にはとてもなれなかった。といって話し合いで追い返せるわけもなし、ならどうするか……。

 

「君は……アルトリア・ペンドラゴンなのか?」

「はい。まだ王位に即く前の半人前の身ではありますが」

「なるほど、やはりな……本人同士の対決を邪魔するのも無粋だ、案内してやろう」

「え、本当ですか!?」

「ああ。別に洞窟の外に去ってもいいのだが、私が背後にいては君たちは気が気でなかろう?」

「確かにそうですね。ありがとうございます!」

 

 リリィが無邪気にも、ついさっきまで命の取り合いをしていた相手に心からの謝辞と笑顔を向ける。

 こうして、カルデア一行はアーサー王が待つ洞窟最奥に向かって駒を進めたのだった。

 




 戦わずして勝つ、これがベストよ!byヒルド(いつわり)

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