呂布隊の入念な偵察により、山の中に砦があるのは確認できた。しかし1つではなくいくつもあったのは、拠点を複数設けることでゲリラ部隊が動きやすくする狙いがあるものと思われた。
砦が全部でいくつあるかは分からないので、もし全ての砦を発見するのなら相当な日数がかかってしまう。しかしここでいつまでも足止めされるわけにはいかないので、ネロはまた知恵を求めて軍議を開くことにした。
「陳宮、そなたはどう見る?」
「さよう。いくつかありますが、まずは単純な時間稼ぎ……我々がここまであまりにも速く進軍してきたので、首都が迎撃準備を整えるまで足止めしようということですな」
「ふむ、確かに貨物列車は大いに役立ったな。ミツキとスルーズには改めて礼を言おう」
「はい、光栄の至りです」
光己が礼節としてそう答えると、陳宮は次の可能性を語り始めた。
「しかし、ただ足止めするだけでは芸がない。先の捕虜が言った通り、我らの陣容を探るという目的もあるでしょう。特にサーヴァントについて」
「確かにな。サーヴァントは皆一騎当千、できるだけ先に調べておこうと思うのは道理だ。
その上で、連合はどう動くか?」
「連合の最終目的は、当然ながら陛下のお命……ですが、我が軍が今のように整然と陣を構えている間は、いかな征服王と孔明でも、半分の兵数で陛下の御前までたどり着くのは無理でしょう。
しかし前衛と後衛を何らかの方法で引き離して、その上で全軍突撃すれば、あるいは」
「なるほど……」
陳宮が言う通り、征服王と同戦力で戦うことになったら、さすがのネロも勝てる自信はない。つまり常に前衛と後衛としっかり連携を取っておく必要があるわけだ。
しかしそれでは小規模な作戦もいちいち全軍でやることになり、砦を1つ1つ落としていくのは大変な時間と労力を要するだろう。いや、それも連合側の狙い通りなのだろうが。
「さよう、それではみすみす相手の術中にはまるようなもの。しかし彼らの狙いを逆手に取って、誘い込む策があります」
「ほう? どのような策か」
「はい。失礼ながらアルトリア殿は陛下とお顔も背格好もそっくり……つまり替え玉として前に出ていただくわけですな」
連合の斥候にネロの顔を知っている者がいたとしても、斥候が近づけるような距離では識別できないだろう。つまり、アレキサンダーたちはネロが足止めされているのに痺れを切らして、前線に出てきたと思うはずだ。
そうしたら当然全力で突っ込んでくるだろう。そこに聖剣ぶっぱすれば、逆に敵将を一気に討つことができるというわけだ。
「ふうむ……こちらには空から偵察できる者もおるし、征服王たちを見つけてそこを狙うことはできそうだな。しかし見つけるのが遅れた場合、アルトリアの周りにいる我が兵がビームの巻き添えを喰らうことになるのではないか?」
「多少は喰らいましょうが、普通に戦うのと比べればずっと少ない犠牲です」
「むう」
これは多を救うために少を切り捨てるとか、トロッコとかそういうノリか。
普通に考えれば犠牲が少ない方が良いに決まっているが、しかし人の心は理屈だけでは測れない。味方を巻き添えにする攻撃を容認すれば、兵の士気が下がる恐れはある。
特に今の戦いは歴代皇帝が相手なだけに、士気を下げる行動は離反を招く危険があった。
「……いや待て。一般の兵はともかく、偽伯父上なら余とアルトリアを見分けるであろう。ローマ市でも偽伯父上は1人で突出してきたからな」
「む、これは私ともあろう者が失策を致しました。しかし違いが分かるほどに近づいたなら、聖剣を外すことはないのでは」
「ふむ」
敵将3名がどのような配置で来るかにもよるし、偽者とはいえ伯父を初手ビームぶっぱで葬る作戦には思うところもあるが、替え玉作戦自体は採用して良さそうだ。
あとは巻き添えなしで出来れば理想的なのだが……。
そこに部屋の外から兵士の声が聞こえた。
「軍議中に失礼致します! 前衛から火急の伝令が参りましたが、いかが致しましょう」
「構わぬ。用件を申してみよ」
「はっ。またも敵軍の小部隊が現れましたが追い払ったところ、呂布将軍が隊列を離れて単身で追いかけて行ってしまったとのことです!」
「ぶーーーーっ!」
陳宮は噴き出した。
まさか自分が軍議で席を外している時を狙って攻撃してくるとは。孔明はそこまでこちらの内情を掴んでいたのか、それともアレキサンダーの豪運か!?
ネロもあわてて陳宮に指示を出す。
「と、とにかく陳宮よ、そなたは急ぎ戻るがよい。細かいことはそなたに任せるが、できれば呂布将軍は連れ戻してもらいたい」
「はっ、では失礼致します!」
陳宮は顔を真っ青にしながら、走って部屋を出て行った。
しかしこれはいつも通りのゲリラか、それとも何か別の狙いがあるのか? ネロたちが判じかねている間に、今度は後衛からの伝令がやってきた。
「後衛からの伝令です! 突然骸骨兵の大集団が現れて襲いかかってきたので、応戦中だが指示を求めるとのことであります!」
「ぶっ!?」
今度は光己が噴き出した。
どうやら連合軍は本腰上げて戦う気になったようだ。しかも、骸骨を出すというのはカリギュラやアレキサンダーや諸葛孔明の宝具ではなさそうだし、時間稼ぎは援軍を待つ意味もあったということか。
「そ、そうか。ミツキたちも戻るがよい。軍議はおしまいとしよう」
ネロもあたふたしながら散会を宣言する。光己と景虎は急いで部屋を出たが、ブーディカは残っていた。
「あたしはこっちに入るよ。今の話だとアレキサンダーの本隊がすぐここに来るだろうからね。
空飛ぶ斥候くらいはできるからさ」
「そうか、頼む」
ネロたちも部屋を出て、迎撃の手筈を整える。その最中、ルーラーがついとアルトリアのそばに寄って小声で話しかけた。
「アレキサンダーに聖杯問答を挑むのは構いませんが、兵士たちの前ではやらないように。ネロ陛下のフリをしようがしまいが、長話したら正体がバレますから」
「…………え゛!?」
予想外の注意にアルトリアがぴしりと凍りつく。
そういえばそうだった。いつかどこかの第4次聖杯戦争と違って、ここではサーヴァントであることを隠しているのだった。
「それにマスターのあの理論はローマ帝国にも刺さりますしね。私たちの時のブリテンはまだマシですが」
「……」
確かにその通りで、そもそも戦の最中に敵将と問答なんてできるわけがない。リベンジの機会が来たと思ったのに何てことだ!
こうなったら口舌の刃ではなく星の剣で斬ることにして、アルトリアはエクスカリバーの柄をぐっと握りしめるのだった。
陳宮が前衛に戻った時には、連合軍はすでに退却した後だった。そこで荊軻たちから話を聞いたところ、連合軍はほぼ全員が騎兵で、しかも正体不明のサーヴァントがいたという。計画的に呂布を誘い出そうとしたようだ。
武闘系サーヴァントは馬より速く走れるが、呂布は重装甲なのでやや遅く、しかも敵サーヴァントが飛び道具で足止めをしたためなかなか距離を詰めることができず、うまいこと誘導されてしまったのである。
どう考えても罠なので、荊軻はあまり深追いするわけにはいかず、しかし呂布は声をかける程度では止まらないので見送るしかなかったのだった。
「なるほど、それでは致し方ありませんね。
そのサーヴァントはどんな風体でしたか?」
「水着並みに露出が多い若い女で、大きな頭蓋骨に乗って宙に浮いてたから兵士たちは気味悪がって攻撃するのをためらっていたな。
しかも、普通の大きさの頭蓋骨をぽんぽん飛ばしてきたから私でもちょっと引いた」
「それはまた不気味な……」
どこの反英雄であろうか、まったく想像がつかない。
「それはそれとして、呂将軍がもう近くにはいないのなら、ルーラー殿に来てほしいところですな。
陛下の従姉妹ということになってますから、ちと頼みづらいですが、私のヘマというわけでなし、問題はないでしょう」
彼女がいれば捜索はぐっと楽になるし、戦力としても心強い。ただ皇帝の従姉妹を使者で呼びつけたら周囲に非礼と思われるから、自分で迎えに行くべきである。
そう考えた陳宮が踵を返してもう1度ネロの本陣に行こうとした時、その本陣から伝令がやってくるのが見えた。
「おや、何事ですか?」
「はっ。前衛の北方に骸骨兵の大集団が、中軍の南方にアレキサンダーの本隊と思われる大軍が現れたので、後衛はアレキサンダーの側面を突いてもらいたいとの陛下からのご命令であります!」
「なんと!?」
なるほど援軍を待っての三方からの同時攻撃か、これはしてやられた。
しかし死霊術師を2人も駆り出してくるとは、連合もローマの誇りやら何やらをかなぐり捨てて、なりふり構わなくなってきたようだ。
無論正しい判断である。誇りも正義も名誉も、勝ってこそのものなのだから。
「で、どうするんだ?」
「こうなっては呂将軍の捜索は後回しにせざるを得ませんね。
それに貴女が言った女サーヴァントの行方が分からぬ以上、全軍突進というわけにはいきません。私が半分を率いて援軍に行きますので、貴女は残る半分で背後を守っていただきたい」
女サーヴァントが対軍宝具を持っている可能性はゼロではないのだから、背中を見せるのは危険だろう。慎重だが順当な判断だった。
「分かった、安心して行ってこい」
「ええ、それではまた後で」
そうして陳宮と荊軻が動き出した頃、光己と景虎も前衛の留守番大将をしている頼光に状況を説明してもらっていた。
「頼光さん、骸骨兵の大集団が現れたってほんとですか?」
「はい。報告によれば巨大な象に乗った巨漢が1人で現れた直後、無数の骸骨が煙のように沸いて出たそうです。マシュ様たちにも出てもらっていますが、兵士たちは腰が引け気味のようです。
ですので今は突出せずに防戦に徹していますが、どうなさいますか?」
「スケルトンは見た目コワいですからねえ」
いかにローマ兵が勇猛とはいえ、動く骸骨の群れは怖いだろう。それに骸骨兵は頭蓋を壊すか首を断つかしないと完全には動きを止めないので、細っこい姿に反してかなりしぶといのだ。
「で、そいつらどのくらい強いんですか?」
「武技はこちらが勝っていますが倒し切るのが大変なので、死者は少ないですが負傷者は多いですね」
「うーん、ならまた俺が行きます」
今回は光己の決断は速かった。カエサルの時は出なかったし、相手はどう考えてもサーヴァントとその宝具だから遠慮しなくていいので。
「分かりました、お気をつけて。それと景虎様、兵の指揮の方よろしくお願いします」
「はい、お任せをー!」
生前の身分は頼光の方が上といえるが、軍隊指揮の経験は景虎の方がずっと多いので、指揮官は景虎のままになっているのだ。
まあ生前の身分を持ち出したらブーディカがトップになってしまうのだけれど。
「じゃ、行ってくる。後よろしくね」
のんびりしているとその分無駄な犠牲者が出てしまう。光己は急ぎスルーズとカーマを呼んでもらうと、例によって軍中から離れて竜に変身した。
不意に上空に現れた黒きドラゴンの雄姿に正統兵たちが歓喜の声を上げる。
「おお、また来てくれたのか!」
「人間以外と戦う時は来てくれるってことなのか?」
どちらにしても心強い援軍だ。
ただし以前ネロが言っていたように、彼に対しては任せ切りではなくみずから戦う気概を見せねばならない。無論それに異存があるはずもなく、兵士たちは骸骨に対するおぞましさと否応なしに感じさせられる「死」の恐怖を振り払って、一段と勇敢に剣と槍を振るった。
上空にいる光己には人間たちの細かい動きの変化は見分けられないが、彼らが自分が来たことを喜んでくれているのは感じられる。素直に嬉しかった。
(で、連合のサーヴァントはどこに…………っと、何だありゃーー!?)
ブーディカ戦の時は彼女がどこにいるか分からなかったが、今回はすぐ分かった。頼光が言った通り、身の丈3.5メートルほどもありそうな真っ黒い巨漢が、こちらも巨大な戦象の背中の上に座っていたからだ。それはもう目立つ。
(ど、どう見ても人間じゃないな。地獄の悪魔ってやつか!? 神様がサーヴァントになれるなら悪魔だってなれるだろうし)
「うーん、まさか巨人種ではないですよね? 北欧に象はいませんし」
「もしかしてブードゥー教の呪術師だとか……?」
今はルーラーアルトリアがいないので、巨漢の正体は分からないのだった。
ただ味方にしたいとは思えなかった。見るからに獰猛そうだし、骸骨兵なんておぞましい連中を大勢連れているし。
骸骨兵たちは竜の出現に気づいたのか気づいていないのか、反応を見せずにひたすらローマ軍の方に進軍している。しかし巨漢は気づいたようで、鋭いまなざしで光己たちを見上げた。
「オォォオオ……!!」
巨漢が何ごとかを大声で叫ぶ。はるか遠くの光己たちまで届くほどの声量だったが、意味は分からなかった。呂布のような言葉をしゃべれないバーサーカーなのかも知れない。
「見つかりましたが、攻撃はしてきませんね」
「まだだいぶ遠いですからね。アーチャーでもなければ無理でしょう」
しかし光己からは攻撃できる。前回と同じように、口腔の中に魔力を貯めた。
(くらいやがれぇー! 今必殺の『
青い火球が巨漢に向かって吐き出される。あまり練習できない技なので遠くの的に正確に当てることはできないが、多少それても破壊力は十分だ。
「オォォ……!?」
巨漢は火の玉が飛んでくるのを視認はできたが、防ぐ手段は持っていない。直撃はしなさそうなので逃げることはしなかった、というか完全に回避する方法はなかった。
ブーディカ戦の時と同様に熱波と爆風が炸裂し、近くにいた骸骨兵が蒸発する。そこまではいかない者も木の葉のように吹っ飛んで粉々に砕け散り、あるいは溶けて動かなくなった。
ただ、敵兵の数が前回よりずっと少ない分占める面積も狭いので、光己は爆風がローマ軍に届かないようにかなり手加減していた。そのためか、巨漢と象は全身に火傷を負ったものの、まだ十分動けるようだった。
(むうー、手加減しすぎたか)
「別にいいんじゃありません? 練習台代わりに何発でも打ってやれば」
カーマはいたってドライであった。まあ確かに、敵軍が大巨人とスケルトンなら何発打っても助けすぎにはならないだろう。
巨漢が怒りをこめた視線で睨みつけてきたが、竜モードだとずっと小さい相手なのでそこまで怖くなかった。人間モードだったら超迫力になるから逃げ出していそうだったが。
(というわけで、倒れるまでくらえー!)
巨漢は飛び道具を持っていないので、空飛ぶ竜を攻撃する手段がない。無抵抗のまま3発目の火球で力尽きて消滅し、ついで骸骨兵たちも消え去ったのだった。
陳宮VS諸葛亮の軍師対決はどうなるのか!? まあどんな賢いキャラでも作者より賢くはなれないのですがー(メメタァ
それはそうとファヴニールが味方だと本当に強い……。