FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第71話 連合首都進撃3

 光己たちが骸骨兵団と戦っている間に、ネロたちがいる中軍にもアレキサンダーの本隊が接近していた。ルーラーアルトリアのサーヴァント探知スキルにも、すでに3騎引っかかっているが、まだ聖剣を確実に当てられる距離ではない。

 ネロとラクシュミーが陣形を整えている間に、アルトリアズとブーディカとパールヴァティーは最前線に赴いていた。

 ところでアルトリアはネロの替え玉を演じるため、彼女に服を借りて髪型も同じにしている。髪型は別に良かったが……。

 

「ま、前から思っていましたが、何なんですこの破廉恥な服は! どこが男装なんですか」

 

 何しろこのネロの服、スカートの前の部分が透けていて、パンツが見えるのだ。また、上半身も胸元がかなり大きく開いている上に(ネロがアルトリアよりバストが大きいので)布がぶかぶかなので、激しく動いたらずり落ちてしまいそうだった。一応2ヶ所ほどヒモで結んだが、サーヴァントの戦闘に耐えられるかどうかは怪しい。

 ネロによれば、スカートは透けているのではなく見せているそうだが、アルトリアの感覚だと痴女そのものである。実害がなければ他人の趣味にとやかく言う気はないが、自分が着るのは勘弁願いたかった。

 ……のだが、服の色というのはわりと人のイメージに影響する。赤と青は反対色に近いので、着替えた方が無難だった。

 

「くくぅ……この恥辱、倍にして制服王にぶつけてやります!

 兵士の皆さんは、くれぐれも私の胸元と下半身を見ないように。見た者はセクハラとして処罰します」

 

 なのでアルトリアはネロの服を着ざるを得ず、その羞恥と怒りをアレキサンダーに八つ当たりとしてぶつけるべく、彼の襲来を今か今かと待ち受けているのである。「征服王」ではなく「制服王」と呼んでいるのもその一環だ。

 兵士たちは(なら見せなきゃいいのに……)と内心では思ったが、アルトリアも被害者なのは分かっているので口にはしなかった。

 連合軍がさらに近づき、もう少しで槍を投げる距離になる―――その時まったく突然に、連合軍は90度右に曲がり始めた。

 

「敵の目の前で進路変更ですか!?」

 

 光己がいたら「日本海海戦か!?」とか言っていたかもしれないが、アルトリアたちはそこまでの知識はもらっていない。しかし曲がっている間が攻撃のチャンスであることは分かる……のだが、アレキサンダーと諸葛孔明がそんな分かりやすい隙をさらすとは思えない。やはりこれも罠、それともこちらがそう読んで攻撃を控えるという読みか?

 

「いやアルトリア、連中は全員曲がってるわけじゃないよ!」

 

 そこに、戦車(チャリオット)に乗って上空から敵情を見ていたブーディカが降りて来て、大声でそう叫ぶ。なるほど、一部の兵は曲がらず、まっすぐこちらに攻めてきていた。

 しかしそんな少数では撃破されるだけだが、また足止めをしたいのか?

 

「いえ、サーヴァントも1騎来ています!」

「ネロォォオオオオ!!」

 

 ルーラーアルトリアがはっと顔色を変えた直後、足止め(?)部隊の先頭にサーヴァントが現れて、1人で駆け寄ってくる。ローマ市で1度出会ったカリギュラだ。

 

「本当に何が狙いなんですか!?」

 

 アルトリアにもルーラーにも、アレキサンダーたちの目論見は見当もつかなかったが、今はカリギュラを倒すしかない。アルトリアは聖剣を構えて宝具の開帳準備に入ったが、それよりカリギュラの方が早かった。

 

「女神よ……おお……女神が見える……! 『我が心を喰らえ、月の光(フルクティクルス・ディアーナ)』!!」

 

 呻くような詠唱と共に、カリギュラの全身が月の光のように輝く。それを見た兵士たちはある者は狂ったように叫び悶え、別の者はすくみ上って硬直し、また別の者は隣の味方に斬りつけ始めた。カリギュラの狂気が伝染したのである。

 カリギュラは先手を取るために遠い所から宝具を使ったので、アルトリアたちサーヴァント勢は大した影響を受けなかったが、この地獄絵図のごとき惨状では動きが取れない。

 ただし連合の兵士も同じように錯乱していたが、カリギュラは気にかけずに1人で突き進んできた。

 

「ネロ…………ネロオオオオオ!!」

 

 まだ少し遠いせいか、カリギュラは陳宮の計算通り、アルトリアをネロと誤認したようだ。だからこその単身突撃なのだろう。

 野獣のような咆哮をあげながら、一直線に向かってくる。

 

「くっ!」

 

 アルトリアたちは、兵士たちの近くにいると同士討ちに巻き込まれる恐れがあるので、前に出て離れるしかない。そんなことをしている間にカリギュラはさらに疾走し、もはや聖剣解放は間に合わない距離まで近づかれてしまった。

 

「なるほど、やられましたね……ですがまだ決まってはいませんよ!」

 

 もしアレキサンダーがカリギュラを足止めに使うつもりだったなら、カリギュラは宝具を使った後いったん退くべきだった。しかし正統側にネロそっくりな者がいたため、カリギュラは無謀にも1人で突進してきたのである。

 今度こそ逃がさずに討ち取れば、大きなアドバンテージになるだろう。

 

「ネロ……オォ、オ!? ネロ、じゃない!? チガウ!?」

 

 しかも、遅まきながらカリギュラは、ネロだと思っていた者がただのそっくりさんだったことに気づいて当惑している。チャンスだった。

 ただ彼は生前は特段の武勇譚はないが、今は知名度補正と狂化補正がかなり大きい。再度の宝具開帳に必要な魔力を貯める前に倒したいが、油断はできない。

 

「容赦はしませんよ!」

 

 まずはヒロインXXが斜め前からビームマシンガンを連射する。初手から頭部や胸部つまり霊核を狙った攻撃に、カリギュラはさすがに直進を止めていったん横に跳んで避けた。

 

「ライオンさん!」

「私も!」

 

 ついでルーラーが光のライオンをつくって体当たりさせ、それでカリギュラがよろめいたところへ、パールヴァティーが得物の三叉戟(トリシューラ)の先端から青白い稲妻を撃ち出す。

 

「ぬうあ!」

 

 カリギュラはしつこくまとわりつくライオンを手刀で叩き伏せると、攻撃してきた4人の顔を見渡して―――やはりアルトリアに狙いをつけた。そっくりさんであっても他の3人よりは優先のようだ。いや、3人のうちの2人も、顔立ちは非常に似ているのだが。

 

「らぁああああ!」

「来ますか!」

 

 カリギュラの赤い瞳が放つ禍々しい眼光は、スパルタクスとはまた違う狂気を感じさせる。ただ今回は、光己やネロではなくアルトリア自身が狙われているので、誰かを守る必要はなく、退いて距離を取ることが許された。ひょいひょいと跳び回って巧みに間合いを外すアルトリア。

 

「あいにくですが、今はあまり暴れたくないんですよ」

 

 下手に切った張ったをして、例の胸元のヒモがちぎれてしまっては大変なので。

 

「捧げよ……その命……!」

 

 それでも追いすがるカリギュラに、アルトリアは風王結界を振るって払いのけ、ルーラーたちが飛び道具で援護する。カリギュラは全身傷だらけになったが、なおもアルトリアを追うことを諦めない。

 よほどネロを憎んで……いや、これは愛しているのだろう。月の光で狂わされているだけで。

 

「しかしそろそろ決めないと、また令呪か何かで逃げられるかもしれませんね」

 

 そうなったら後々面倒だし、いつまでも彼にかかずらわってはいられない。アルトリアは多少のリスクは承知で決着をつけることにした。

 

「皆さん、そろそろ!」

 

 まずは3人に合図してから、足を止めてカリギュラの正面に対峙する。カリギュラの方も、狂化A+ながら4人の気配が変わったのには気づいて身構えた。

 まずは、XXが彼の背後からX字型の大型ビームをぶつけて注意をそらし、その一瞬にアルトリアが剣を水平に突き出す。

 

「くらえ、風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 突くと同時に、剣にまとわせた風を横倒しの竜巻のような形で撃ち出した。剣の切っ先はカリギュラの胸元に向いており、カリギュラは反射的に腕でガードしたが、暴風の余波が目に入ったため、思わず目をぎゅっとつぶると同時に片手を上げてかばってしまう。

 これは決定な隙だった。ルーラーが傘を振るって地を這う光の衝撃波を飛ばし、パールヴァティーも渾身の稲妻を撃ち出す。

 

「うっぐぅ……余は……!」

 

 4人がかりの連撃で、ついに片膝を地面につくカリギュラ。アルトリアは彼をなぶるような戦いをするつもりはなく、風を放出したため金色の刃があらわになった聖剣をかざして突進した。

 

「はあぁぁぁあぁっ!!」

「おぉ、ネロ……!?」

 

 その気高く戦う姿と剣の輝きに姪の面影を見たのか、それとも正気が戻ったのか、カリギュラの動きがわずかに鈍る。

 聖剣がその胸板を真横に薙いで、霊核を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「我が妹の子、ネロよ……これで、いい……」

 

 カリギュラはバーサーカーらしからぬ静かで落ち着いた口調でそう言いながら、金色の粒子となって消えていった。

 アルトリアは月の女神に愛されてしまった不運な名君に数秒ほど黙祷をささげたが、いつまでもそうしてはいられない。いや、パールヴァティーがちょっと気まずげに声をかけてきた。

 

「あの、アルトリアさん……胸のヒモ、切れてます」

「!!??」

 

 おかげで服の胸部の白い部分がめくれて下に落ちてしまい、ブラジャーが露出してしまっていた。なおネロの服の構造上、ブラジャーはストラップレスで、純白のシンプルなデザインのものである。

 アルトリアは真っ赤になってしゃがみ込むと、とりあえず応急処置として切れた紐を結んでおいた。

 

「何の因果でこんな目に……おのれ制服王、この恨み晴らさでおくべきか」

 

 紐を結び終えたアルトリアは立ち上がりはしたものの、涙目でぷるぷる震えてアレキサンダーへの憤怒が烈火のごとく燃えている。まあ闘志が萎えていないのなら問題はないだろう……。

 そこに上空にいたブーディカが降りてきた。

 

「みんな、アレキサンダーの狙いが分かったよ。連中が進んでる方向にこっちの前衛が来てるんだ。でも数が少ないから、まともにぶつかったらすぐ負けちゃいそう」

「なるほど、そういうことですか!」

 

 アレキサンダーはネロを討つために前衛と後衛を牽制した上で中軍を襲ってきたが、こちらの前衛が兵の一部を送り込んできたので、側面攻撃を避けるために先にそちらを撃破しようと考えたのだろう。

 もっとも方向転換した時の整然とした動きを見るに、ある程度予測済みだったかもしれないが。

 

「なら追わないといけませんね。その援軍の中に陳宮や荊軻がいたら危険です」

「そうですね、でもどうしましょう」

 

 パールヴァティーが顎に手をあてて思案顔をする。カリギュラは倒したものの、彼の宝具を喰らった兵士たちはまだ回復していないのだ。

 恐慌しているのは前の方にいた者だけなので、後ろの者が取り押さえているのだが、この状態で出撃するのは無理がある。といって皇帝の従姉妹が兵士を連れずに出向くわけにもいかないし、どうしたものか?

 しかしありがたいことに、アレキサンダー軍が去ったのとは逆方向からこちらの援軍がやってきた。

 

「みんな、大丈夫?」

 

 光己とマシュ・ブラダマンテ・スルーズが連れてきた2千人である。前衛全員が動くのはまだ早いし、時間がかかるので少数で急いで来たのだ。

 

「……ってアルトリア!? ネロ陛下のコスプレか、他の人が着てもやっぱりパンツ見えるんだな。写真撮らないと!」

「戦闘中に何考えてるんですかマスター!」

「そ、そこまで怒らんでも……というかまずい状況?」

 

 見れば、中軍の前の方の兵士が錯乱して同士討ちみたいなことになっている。敵の宝具でも喰らったのだろうか。

 

「はい。ですが被害者はそこまで多くありませんので、私たち自身で処置する必要はありません。

 それより早くアレキサンダーを追わないと、その先にいる前衛からの援軍が危険です」

「そっか、じゃあ早く行こう」

「はい!」

 

 光己たちが連れてきた兵は数は少ないが、皇帝の従姉妹と神から遣わされた戦士が先頭に立つとあって、士気は天元突破している。というかこれだけの武闘系サーヴァントがいるだけで戦力は十分だった。

 

「マスターくん、私のカッコいいとこ見てて下さいね!」

「うおおおおお、アレキサンダー死すべしフォーウ!

 皇帝と大王の一騎打ちを所望する! 余の剣が怖くないのなら出て来るがいい(大根)」

 

 特にヒロインXXのビームマシンガンと、アルトリアが羞恥と怒りでぶん回す風王結界付き隕鉄の剣(借り物)の威力は凶悪で、その後ろに続く兵士たちは、ケガしたり吹っ飛ばされたりして倒れた敵のとどめを刺すだけで、手柄がずんどこ増えていくボーナスタイムになっているくらいである。

 ただこの状況は、当然敵将のアレキサンダーと諸葛孔明にも知らされていた。

 

「まさかの展開だが、向こうからやってきたぞ。我が軍の後方に、ネロ・クラウディウスと思われる者が数千人の兵とともに急襲してきたそうだ」

「へえっ!? いずれは来てもらうつもりだったけど、ちょっと早すぎるんじゃないかな」

 

 それに背後からの急襲とはいえ、2万人相手に数千人は少なすぎる。誤報ではあるまいか?

 

「いや、周りにやたら強い戦士、つまりサーヴァントだな。これが何人もいるというから、そこまで無謀ではない」

「ああ、そういえばあっちにも何人かいるんだったね」

 

 今日までに偵知できたのは、前衛の呂布・陳宮・荊軻と、中軍のラクシュミーとブーディカ、それに後衛の長尾景虎ほか数名である。ネロの従姉妹3人が妙に強いという話もあったが、彼女たちがサーヴァントかどうかは不明だった。

 おそらくこの中の何人かをお供にしてきたのだろう。それなら話は分かる。

 

「つまり自分を囮にして、一直線に僕の首を取ろうってわけか。皇帝自身が出張ってきたなら、未来のとはいえ征服王が対決を避けるわけないからね。

 いいよ、ここまで来た甲斐があった」

「で、どうするんだ?」

 

 アレキサンダーは少数で突撃してきたネロの勇気を称えていたが、孔明はそれより具体的な行動の方が気になっていた。

 ―――実際は来たのはネロではなく替え玉なのだが、アルトリアが羞恥心をこらえてネロの服を着たのはちゃんと効果があったようだ。

 

「もちろん、僕自身が丁重にお出迎えするさ。そのためにここに来たんだから。

 それじゃ、兵士たちの方向転換頼むよ」

「やれやれ。しかしいきなり全軍回れ右したら大渋滞になるし、前方で足を止めてる連中が喜び勇んで攻めてくるだろうからな。

 幸い今はこちらの方が兵が多い。単純に私たちより前にいる兵は一旦停止、後ろにいる兵だけ回れ右でいいだろう」

「分かった、それじゃ行こう」

「ああ」

 

 というわけで、アレキサンダーと諸葛孔明はネロ(偽)を迎えるため後方に出向くのだった。

 

 

 




 アルトリアさん受難。南無ー(ぉ



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