FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第78話 魔術王の使徒

「くっ、ブーディカめ、勝手に消えおって……いや! いかな神祖でもそろそろ疲れてくるはずだ。休む間を与えず畳みかけるのだ!」

 

 ネロはせっかく和解できたブーディカが消えてしまったことに、相当なショックを受けて顔を青ざめさせていたが、すぐに立ち直って攻撃再開を命じた。

 ただし彼女自身はマシュの後ろから動いていない。ネロはこの戦争で斃れたすべての者の無念と願いを背負っているつもりでいるからみずから剣を振るって戦いたい気持ちはあったが、ロムルスは先ほど「帝国(ローマ)を示してみよ」と言った。ならば一騎駆けの武者のように自分が前に出るのではなく、皇帝らしく指揮に専念するべきだろう。

 アルトリアにも一騎打ちはしないと約束したことだし。

 

「はい!」

 

 ブーディカの遺託を受けたアルトリアズが先頭を切って駆け出す。

 一方ロムルスは呪詛と負傷と魔力消費で今にも消えそうなほど弱っていたが、なお雄々しさを失っていなかった。自身の宝具を防ぎ切ったブーディカの健闘を称える余裕すら見せている。

 

「見事であった。ローマと敵対していた国の者のようだが、その魂にはロ……いや、やめておこう」

 

 見所のある人や物事はたいていローマ認定する彼も、このたびは空気を読んだようだ。

 それはそれとして、正面に向かってきたルーラーアルトリアに大樹の槍を振り下ろす。

 

「ローマ!」

「くぅっ!? ま、まだこれほどの力を」

 

 ルーラーはロムルスの一撃を日傘(に擬態したロンゴミニアド)で受け止めたが、まるで巨木が倒れてきたかのような重さだった。踏ん張った足の下の床にびしりとヒビが入る。

 

「でも横がガラ空きですよ!」

 

 その間にヒロインXXがロムルスの左に回り、ツインミニアドを彼の腰に突き立てた。しかし深追いはせずにいったん跳び退き、代わりにアルトリアが右から風王結界で斬りつける。

 見えない刃で太腿を深く斬られてロムルスはがくっとよろめいたが、それでも倒れる気配はない。

 

「光る槍と見えない剣か……大いなる輝きと力(ローマ)を感じる。これもまたローマか」

「勝手にローマ認定しないでくれます?」

 

 一応はネロに聞こえないよう小声で抗議しつつ、ロムルスが振り回してきた槍を大きく跳び下がって避けるXX。しかしロムルスがさらに踏み込んで突いてきたのは避けようがなく、ツインミニアド中央部についた円盾で受けることになった。

 

「痛ったぁ! 骨が折れたらどうしてくれるんですか」

 

 ちゃんと受けたのにとんでもない衝撃が伝わってくる。しかもそのまま壁際まで吹っ飛ばされてしまった。

 しかしやられっ放しでいるXXではない。空中で姿勢を整えると同時に、ビームマシンガンをロムルスの顔面に連射していた。

 

「っぐぅぁ!」

 

 いかに頑強な建国王でもこれはたまらない。左腕で顔をかばいながら、射線から逃げるため床に身を投げてごろごろ転がった。

 その起き上がり際に、ルーラーがつくった光のライオンが飛びかかる。

 

「セプテム!」

 

 巨木の槍の一突きでライオンは頭部を砕かれて消滅したが、その陰から段蔵とカーマと頼光が射った矢弾が迫る。即席とは思えない見事な連携ぶりだった。

 

「ぬぅおぉぉっ!」

 

 それをロムルスは槍を盾代わりにして防ぐ。腕力だけの槍術ではなく技量も秀抜であった。

 とはいえやはり数の不利は否めず押され気味であり、今も矢弾を防ぐため注意が前方に偏っている。その分警戒がおろそかになっていた背中に鋭い痛みを感じた。

 

「ぐぅっ!? あ、暗殺者(アサシン)か……! しかしこの矢弾の雨の中で私のそばに近づくとは」

「ああ、貴方が避けた矢が何本か当たったとも。でも貴方ほどの大物を()れるのなら安いものさ」

 

 ロムルスの後ろから、心臓の真裏に荊軻が短刀を突き立てていた。

 彼女自身が言ったように矢が何本か刺さって流血しているが、気にした様子はない。何故なら荊軻が宝具「不還匕首(ただ、あやめるのみ)」を使う時は、その宝具の名が示すように自身は生きて還らぬことを前提にしているのだから、矢傷の3つや4つなど軽いものである。

 

「それと当然ながら、この匕首には猛毒が塗ってある。いくら強かろうと得物が凄かろうと、毒なら関係なく()れるからな」

「ぐ、ぅ……!」

 

 荊軻が短刀を抜いて後ろに跳ぶと、ロムルスは早くも毒が回ってきたのか、苦しげに呻きながら床に片膝をついた。

 もはや勝負はついたが、そこに3人に分身したパールヴァティーがロムルスを囲むようにして出現する。

 

「―――!?」

「毒で最期を迎えるのは苦しいでしょう。お節介でなければ介錯を致しますが」

「……有難く頂こう」

 

 ロムルスは死に方に特にこだわりはなかったが、せっかくの善意なのでお願いすることにした。

 パールヴァティー3人が手に持った三叉戟を天に向けると、ロムルスの真上に大きな青白い雷球が現れる。

 

「後のことはお任せ下さい。……『恋見てせざるは愛無きなり(トリシューラ・シャクティ)』!!」

 

 雷球から強烈な稲妻が放たれて、ロムルスの全身を貫通し焼き尽くした。

 

 

 

 

 

 

 ロムルスの身体が先ほどのブーディカと同じように薄れていくのを見て、ネロは慌てて駆け寄った。

 

「神祖……!」

「愛し子ネロ、そしてその仲間たちよ。よくぞ(ローマ)を乗り越えた。その強き意志と輝きこそが人であり、ローマのローマたる所以(ゆえん)である。

 それを忘れぬ限り、ローマは、世界は、人の営みは永遠であろう……」

 

 その言葉を最後に、ロムルスは現世から退去した。

 

「神祖……やはり貴方は」

 

 こんな遺言を残した以上、ローマを割ったのは彼の本意ではないだろう。

 それはネロにとって喜ばしい話だったが、悪い話でもあった。何しろ神祖にこんな悪行を強制できるほどの大敵がいることを意味しているのだから。

 その敵、連合の宮廷魔術師が奥の扉から入ってくる。

 

「……いや、いや。

 ロムルスを倒しきるとは」

 

 その人物は、モスグリーンのスーツとシルクハットで身を固めた壮年の男性だった。アレキサンダーが言ったように一見は紳士的で、穏やかな微笑を浮かべている。

 ネロを初めとしたほとんどの者は見覚えがなかったが、光己とマシュは知っていた。

 

「どこかで見たことあるような……?」

「レフ教授……!?」

 

 しかし彼はカルデア本部での爆発事故で死亡したはずだ。マシュが状況を理解しかねていると、レフらしき男性は急に不快そうな顔つきになって、語調も刺々しくなった。

 

「デミ・サーヴァント風情がよくやるものだ。冬木で目にした時よりも、多少は力を付けたのか?」

(……冬木?)

 

 マシュはまだ戸惑っていたが、光己は彼に思い入れがない分冷静に頭を働かせていた。

 冬木で目にしたということは、あの時見た「魔術王の使徒」は目の前にいるこの男ということになる。アルトリアオルタに倒されたはずなのに蘇ったのか?

 

「それともお仲間のおかげか? ずいぶん大勢集めたものだ。

 だがどちらにせよ、所詮はサーヴァント。聖杯の力に勝ることなど有り得ない」

(…………聖杯)

 

 レフは意味ありげに黄金の杯を手の中で弄んでいるが、それはやはり聖杯で間違いないようだ。まあそうでなければ、ロムルスに命令なんてできないだろうが。

 

「48人目のマスター適性者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

「……! それじゃ、あの爆発事故はあんたがやったのか?」

 

 思わぬ発言に光己が反射的にそう訊ねると、レフはいかにもという感じで頷いた。

 

「改めて自己紹介をしようか。君とはほんの少し話しただけだからね。

 私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。

 貴様たちの未来はすでに焼却された。貴様たちの時代はもう存在しないのだ。

 なのに貴様がここにいるということは、やはりカルデアはカルデアスの磁場で守られているということか。しかしそれも、カルデア内の時間が2016年を過ぎれば消滅する」

「な、何を……!?」

 

 話が突拍子もなさ過ぎて、光己にはちょっとついていけない部分もあったが、少なくとも彼がウソやハッタリを言っているのではないことは分かる。

 この男は本当に何者なのだろうか。フラウロスというのはどこかで聞いたことがあるような気もするが……。

 

「貴様たちがどうあがこうと、この結末は変えられない。

 自らの無意味さ故に! 自らの無能さ故に! 我らが王の寵愛を失ったが故に! 貴様たちは2016年をもって跡形もなく消え失せるのだ!!」

「…………」

 

 レフの身体と言葉からはもはや隠しようのない、いや隠す気がない嫌悪と侮蔑があふれ返っていた。無意味とか無能とか言っているが、何故それほどまでに人類を憎み蔑むのだろうか。

 

「……だというのに何故ここまで無駄な徒労を続けるのだ。おとなしく滅びを受け入れればいいものを。

 聞けばフランスでは大活躍だったとか。まったく、おかげで私は大目玉さ!

 本来ならとっくに神殿に帰還しているというのに、子供の使いさえできないのかと追い返された! 結果、こんな時代で後始末だ」

(……ほう!?)

 

 レフの心底いまいましげな述懐にエルメロイⅡ世はぴくりと眉を上げた。

 彼が誰かの命令で動いていることは間違いないようだ。聖杯の力で神殿とやらから時間移動してきて、ついでにサーヴァントを召喚して時代を破壊させようとしたのだろう。

 フラウロスというのはかのソロモン王が使役したという72柱の悪魔の一角だが、こうなれば魔術王の正体は明白である。

 

「聖杯を相応しい愚者に与え、その顛末を見物する愉しみも台無しだよ」

(……なるほど、ラスボス面した三流愉悦系ということか)

 

 つまらなさそうに舌打ちしたレフを、Ⅱ世は冷静にそう評した。

 最初から出て来なかったこともそうだが、そんな余裕ぶっこいてるからここまで乗り込まれるハメになるのだ。

 

「しかし、それもこれもここまでだ。

 君は凡百のサーヴァントをかき集めれば私を阻めると思っているのかも知れないが、それが完全なる間違いであることを教えてやろう!」

 

 その言葉が終わると同時に、レフの身体が変貌を始める。

 全身が風船のように膨らみながら、黒ずんだ肉塊のようなモノに変わっていった。その各所から赤い目玉のような物が浮かび上がる。

 やがて変貌を終えた時、レフは巨大な肉の柱とでも言うべきナニカになっていた。

 そのサイズは玉座の間の天井に届くほどで、根元には赤黒い毒液のようなものがたゆたっている。

 

「なんだあの怪物は……! 醜い! この世のどんな怪物より醜いぞ、貴様!」

「はは! はははは! それはその通り! その醜さこそが貴様らを滅ぼすのだ!」

 

 ネロがそう糾弾するが、レフは気にした風もなく嘲笑をもって返した。

 肉柱の魔力反応が増大していく。

 

「滅びるがいい、愚かな人間ども!!」

「!! 皆さん、私の後ろに!」

 

 マシュが慌ててシールドエフェクトを展開し、アルトリアズがネロと荊軻の手を引っ張ってその陰に引っ込む。その直後に肉柱の赤い眼球が怪しくきらめき、肉柱の下の方から黒っぽい煙が吐き出された。

 まるで悪意がそのまま物質化したかのような禍々しさを感じる。浴びたら恐らくひどいダメージを受けるだろう。

 

「うわあっ!?」

 

 黒煙は光己たち全員を優に飲み込めるほどの量があったが、マシュの防御によりとりあえずは防げていた。しかし黒煙の圧力はかなり強く、長くは保たなさそうに思える。

 レフの方は冬木で痛い目に遭ったからか、今回は速攻をかけてきた。

 

「抗うか、だが哀れなほどに無駄だ。燃え尽きろ! 『焼却式 フラウロス』!!」

 

 眼球がさらに強く光り、薄赤い火柱が何本も噴き上がってマシュの正面に迫る。恐るべき魔力と熱量の塊だと一目で分かるこの炎は、普通のエフェクトでは防げそうになかった。

 

「でも今の私なら! ―――『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

 冬木の時と同じようにキャメロット城の幻像が出現し、火柱の侵攻を食い止める。

 マシュはレフが裏切者、あるいはスパイだったと分かった時はかなり動揺していたが、今はもう迷いはなかった。過去の感傷より、今ここにいるマスターと仲間たちを守ることの方が万倍も大事なのだから。

 

「宝具を使えるようになったのか!? 小賢しい真似を!

 苦しむ時間が長引くだけだと何故分からないのだ!!」

 

 焼却式を防ぎ切られたレフが苛立たしげに叫ぶ。いつまで無駄なあがきを続ける気なのか。

 こうなれば防ぐ力が尽きるまで攻め続けてくれる、と盛大に黒煙を吐き出す。

 

「た、確かに強いな」

 

 光己は小さく身震いしながら呟いた。

 巨大な黒い濁流が蛇のようにうねって自分たちを飲み込もうとする様子は実際恐ろしいの一言である。しかも部屋の床全体が黒煙に浸されていては反撃は難しい。

 マシュの魔力については令呪で補給することもできるから、今すぐどうこうということはないが、このまま防戦一方では勝てないのは明らかだ。

 

「ここはマスターとして、ちょっとは役に立つべきだよな」

 

 あの肉柱は死んでも生き返れるようだから、すべてを見せるのは好ましくない。しかし試せることはあった。

 おもむろに上着を脱ぎ、いつもの呼吸法で気を落ち着ける。

 

「スゥーッ! ハァーッ!」

 

 そしてアレキサンダー戦で見せた2対の翼を出したが、ここで光己が(1番体が大きい)金時の後ろに隠れたのは、憶病からではなく情報を隠すためと解釈してやるのが優しさというものだろう……。

 

「よし、やるぞ! 名づけて『神恩/神罰(グレース/パニッシュ)』!!」

 

 天使の翼から白い光があふれ出す。それを浴びたマシュやアルトリアたちは元気と活力が全身に湧き上がるのを感じていたが、レフは光己に向けている感情が正反対だから受ける効果も逆である。

 

「るぐぉぉあぁお!? な、何だこれは。まるで私の方が()()()()()()()()()()()()()()()あぅおおぁ!?」

 

 まさしく地獄で責め苦を受けている罪人のように、レフは全身を苛む激痛にのたうち回った。いや肉柱には手も足もないのでまともに動けないのだが、精神的には七転八倒しまくりの苦しみである。

 スペックが大幅に低下し、黒煙を吐くペースも落ちていた。

 

「おおっ、ダメもとだったけどここまで効くとは。よしみんな、ためらいもなくリンチして()()()()()()()()()()!」

 

 自分たちと肉柱を完全に覆えるだけの光量を出し続けるのはかなりの負担だったが、光己はそれを顔には出さずにそう号令した。

 

 

 




 このSSでは冬木では主人公たちとレフは話をしていませんので、原作の冬木でした会話の一部を今やったわけであります。


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