織田家と徳川家を吸収したことで、長尾家の上洛軍は今や一流魔術師1人と竜人1人とサーヴァント7騎、そしてちびノブ5万人とワイバーン40頭という大軍勢に膨れ上がっていた。
なお7騎めのサーヴァントというのは、ミスター・チンがビーコン役として連れてきていた人物である。名前を登録番号9685番改め元宇宙海賊の黒髭ビンクスといった。
筋骨逞しい強面の大男なのだが、笑うと意外に愛嬌がある。
「まんまじゃないか!?」
黒髭といえば地球では18世紀初頭にカリブ海を荒らし回った大海賊なのだが、彼もユニヴァース出身で地球人ではないらしい……。
「うーん、サーヴァント・ユニヴァースについては真面目に考えない方がいいのかも」
何にせよ、真っ当に仕事してくれるなら宇宙での前歴は問うまい。ヒロインXXがいたら逮捕したがるかもしれないが、今はいないし。
「新選組はその辺どんな感じ?」
「新選組ですか? 外国の人が向こうで仕出かしたことまでは追及しませんよ。日本に来てから何かしたら、もちろんひっ捕らえますが」
「なるほど」
新選組は攘夷を目的とした組織ではないからか、沖田はチンや黒髭に特段の敵意は抱いていないようだ。しかし(一般的な意味での)抑止力としては有効そうである。
「とにかくこれで戦力は整ったわね。先に進みましょう」
実はヘタレなオルガマリーも、これだけの人数が集まれば自信が湧いてきたらしい。トップの精神状態は皆の士気に影響するから喜ばしいことである。
そして浜松城を出た長尾軍は、当初の予定通り遠江・三河・尾張・美濃を経て浅井家が支配する北近江に攻め込んだ。
すると信長がいるからか、朝倉家が介入してきて姉川の戦いが起こる。
「ううむ、これが逸話再現というやつか……? 史実とはこちらの戦力が違い過ぎるのだが」
「是非もないよネ!」
エルメロイⅡ世は心底あきれるというか不思議にさえ思ったが、当の信長は実にあっけらかんとしていた……。
戦いは当然ながら長尾軍の完勝に終わり、浅井家は滅亡し朝倉家も大打撃を受けて当分は外征不能になる。
長尾軍はそのまま南近江の六角氏を滅ぼして近江国全部を支配下に置くと、いったん進軍を停止した。豊臣家いや豊臣ギル吉との決戦の前に、(幹部だけで)彼の拠点たる大坂城を見に行くためである。
「南蛮街……!?」
不思議なことに、大坂城の城下町は栄えてはいたものの、何故か建物はみなヨーロッパ風のものであった。道行く人々は日本人なのだが……。
「何となくローマに似てるような気がするなあ」
「気のせいだ、きっと」
光己がぼそっと呟いた言葉にⅡ世が妙に素早くツッコミを入れる。何か事情でもあるのだろうか?
しかし街自体はいたって平和で活気もあり、特段の異常は見当たらない。ギルガメッシュがもし「この世のすべての財は我のもの」という信条を実践していたらとんでもない酷税国になっているはずだが、そんな様子はないようで何よりだった。
「でも散策やショッピングは城を見てからにしましょう」
真面目なオルガマリーがそう言って、先に立って城の方に歩いていく。光己たちもそれに続いた。
「うわあ、大きな城ねえ……!」
「そうですねえ……」
大坂城の外堀の前に着いたオルガマリーたちが、今までに見ていた城とは一線を画する広大さと壮麗さに感嘆の声を上げる。空高くそびえる天守閣、立ち並ぶ建物、立派な石垣、広い水堀……一代で天下人になった男が全力で築いた名城だけのことはあった。
水堀の水は淀川とその支川から引き込んだもので、つまり川も天然の堀として利用している。堀と川の何ヶ所かに橋が渡されているが、これを渡って城内に攻め込むなら相当な犠牲を覚悟すべきだろう。いや何人犠牲にしても通れないかもしれない。
「確か史実で徳川家康が攻めた時は、攻め切れずに1度和平して、施設を壊してから再戦して陥としたんだったな。無理もない……」
橋を渡って攻め寄せるちびノブたちが城壁の裏からの銃撃で次々斃れていく無惨な光景を想像してⅡ世はため息をついた。やはり
「それでミスター・チン。ここから天守閣を撃つことはできるのか?」
「もちろん。あれだけ大きいと当てやすくていいですね。
ただこのような広い
「あの広い川の上でしたら、拙者の宝具も使えますからな!」
チンが余裕綽々といった顔で頷くと、黒髭も報酬上乗せを期待してか握り拳と力こぶを見せつけるポーズをしながらアピールした。
黒髭の宝具「
……雇用主とその仲間を「部下」と言いくるめられるのならだが。
「ふむ、一考には値するな。夜中なら見えにくいだろうし。
いっそのこと我々だけで今夜にでも……いや、ダメか」
今日はワイバーンを連れて来ていない。黒髭の船の大砲がどのくらいの威力かは分からないが、火力をそれだけに頼るのは危険だろう。
ではちびノブは連れて来ずワイバーンだけ使うのはどうだろうか。ギルガメッシュが気づかずにいてくれれば夜襲できるが、見つかって先制攻撃されたら最悪だ。
「うーむ、難しいものだな」
「Ⅱ世さんかミスター・チンで認識阻害の魔術はかけられないんですか?」
「ああ、その手があったか」
Ⅱ世が頭を悩ませていると、光己がアイデアを出してくれた。
ワイバーンに乗って移動するなら、たとえば大津から大阪まで1時間で行ける。つまり日が暮れて人目につきにくくなってから出発しても間に合うわけだ。
ちびノブたちを近江国に残しておけばギルガメッシュは夜襲の警戒などしないだろうし、これなら見つからずに先制攻撃できる可能性は高い。
もちろん大坂城の中にはギルガメッシュ側のちびノブが何千人、あるいは何万人もいるのだろうが、黒髭の船の上にいれば問題ないだろう。
「どう思うかね、マスター」
考えを整理したⅡ世がオルガマリーにそう訊ねると、最高責任者である彼女はしばらく黙考した末に1つの懸念を口にした。
「筋書きは分かったけど、もし最初の攻撃で英雄王を倒し切れなかったらどうなるのかしら?」
「そうなったら間違いなく、彼は先頭を切ってこちらに突撃してくるだろうな。逃げ隠れるとか、ちびノブに任せて本陣に引っ込んでるなんてことは絶対にない」
Ⅱ世は自信満々でそう言い切った。つまりギルガメッシュを取り逃がす、あるいは彼側のちびノブたちだけと延々戦うハメになるといった事態は考えなくていいというわけだ。
「なるほど……でもそれなら近江国まで征服しなくても、最初から私たちだけで来れば良かったんじゃない?」
「そうでもない。これはミスター・チンたちあっての策だからな」
信長&沖田とチン&黒髭が長尾家に来たのは今川家まで征服して大勢力になったからなので、それまでの軍事行動は決して無意味ではない。近江を占領したのもちびノブたちの駐屯地が必要だったからだし。
「それもそうね、それじゃ貴方の策を採用しましょう。
みんな、他に意見はないかしら?」
こうして自然に皆に発言の機会を与える、あるいは求めている辺り、オルガマリーはリーダーとして一皮むけてきたようだ。光己とⅡ世のおかげで精神的に余裕ができたというのもあるが、やはり彼女自身がより良いトップたらんと自分を律しているからだろう。
「はい、俺は特に」
「いいんじゃないかのう?」
意見は特に出なかったので、一行は偵察を終えて城の前から立ち去った。
――――――ちょうどそのころ。噂のギルガメッシュは天守閣の1番上の部屋で城下町を見下ろしながら、最高級の茶器と茶葉で茶を喫していた。
普段の黄金の鎧ではなく日本風の
「クックックッ……セイバーめ、ようやく
長尾家が近江国まで制圧していて、その中に上杉アルトリアがいることはすでに掴んでいるようだ。
しかし豊臣秀吉の晩年のよろしくない面の影響を受けたのか、それともこの特異点の怪しい粒子のせいなのか、頭の中身はいささか残念になっていた……。
「だがそうなると、我もそれなりのモノを贈らねば王として格好がつかぬな。花嫁衣裳と指輪の原典は当然として、それだけでは意外性に欠けるというもの。
城門から式場までの通路を全部バージンロードにして、その左右にちびノブどもを並ばせてみるか? いやそういうことより先に出席者を決めねばならぬか。ううむ、実に悩ましいな。
……む。もしかしてセイバーが近江にとどまっているのは、我がその辺の準備を整えるのを待っているからか? ふっふふ、これは我ともあろう者が1本取られたわ!」
そう、本当に残念であった……。
その数日後の夜、長尾軍のマスターとサーヴァントたちとワイバーン勢は大坂城の北を流れる寝屋川に無事到着していた。今のところ気づかれた様子はない。
さっそく黒髭が宝具の船を出し、オルガマリーたちが乗り込む。光己は竜モードになって水中に隠れ、片手だけ甲板の上に置いて乗船しているという体裁だけ整えていた。
それでもパワーアップ効果は有効のようで、黒髭の船はかつてないレベルの強さになっている。
「これは凄いですな! 藤宮氏、よかったら正式に拙者の部下になりません?」
「なりませんし、なれません」
黒髭の勧誘を光己はあっさり拒絶した。実に残当である。
光己は話を長引かせないために黒髭から離れて、オルガマリーに頭を近づけた。
「な、何かしら?」
100%の味方だと分かっていても、巨竜が目の前まで迫ってくるのは非常に怖い。オルガマリーはかなりビクつきつつ、しかし所長のメンツを保つため精いっぱいの虚勢を張りながら用向きを訊ねた。
「俺たちがラスボスを倒して、聖杯を手に入れてから強制退去が始まるまでに多少は時間がありますよね。その間に聖杯を使えないかなと思ったんですが」
それができるならオルガマリーにレイシフト適性を付けることもできるし、景虎たちを確実に連れ帰ることもできる。そういう趣旨の質問だったが、オルガマリーは首を横に振った。
「いい考えだとは思うけど、やめておいた方がいいわね。
はぐれサーヴァントの退去はともかく、レイシフトは周囲の魔力が乱れすぎてると失敗する恐れがあるから。
……貴方が冬木で私を生き返らせてくれたことには感謝してるけど、今後は控えた方がいいわ」
「うーん、そうですか」
どうあっても聖杯は魔力リソース以外の用途には使わせてもらえないようだ……。
しかしトップに止められては仕方ない。光己はいさぎよく諦めることにした。
「じゃ、ギルガメッシュが城にいるかどうか確かめますね」
そう言って目を閉じ、感覚に意識を集中する光己。
すると無数のちびノブたちとは別に、天守閣の最上階の辺りに非常に大きな光が1つ、1階らしき所にもう1つサーヴァントとおぼしき光があるのが感じられた。
普通に考えて、上の階にいるのがギルガメッシュだろう。
「いますね。それじゃ始めますか?」
「ええ、お願い」
こうして長尾軍による大坂城奇襲作戦が始まった。まずは最大の火力「滅びの吐息」による天守閣爆撃である。
「ファイエルーーーーーーッッ!!」
光己が渾身の魔力をこめた火球が放物線を描いて飛び、惜しくも天守閣には命中しなかったがそのすぐそばの地面に落下して大爆発を起こした。
その威力は爆風と爆音が数百メートル離れているこの船まで届いてぐらぐら揺れるほどのもので、オルガマリーなど思わず悲鳴を上げて耳を手で覆ってしまったくらいである。
「きゃあっ!?」
「相変わらずとんでもない威力だな……」
Ⅱ世も同じように耳を塞ぎつつ、むしろ呆れたような声を出した。
何しろ火球が落ちた辺りが廃墟になったばかりか、天守閣が倒壊してしまったのである。
「なるほど、これが名高い邪竜の力ですか……いや私も負けてはいられませんな!」
一方チンは対抗心を起こしたようで、さっそく宝具を使う態勢に入った。
「では逝きましょうか。出撃! ワイバーンズ! 大・撃・沈!!
炸裂するは『
チンが宝具を開帳すると、彼のそばに配置されていたワイバーンが砲弾のように撃ち出された―――が、一応外見的なイメージに配慮して幻術により矢を放ったように見せかけている。
チンにとっては滅多にない宝具を連発できる機会なのですっかりノリノリだった。
「『
チンが矢を放つたびに、天守閣があった辺りで激しい爆発が起こる。1発1発の威力は「滅びの吐息」には及ばないが、売り込みに来ただけのことはある代物だった。
その連続砲撃を20回ほども続けたところで、さすがに集中力が切れたのか一休みする。
「さて、これだけの砲撃を喰らったらいかな英雄王でも跡形もなくなってると思いますが……どんなものでしょうかねえ?」
実際天守閣の周囲一帯はもはや更地同然になっており、これではどんな頑強なサーヴァントでも生きてはいられないだろう。しかし最古の英雄王ともあろう者が一矢も報いないまま斃れるとも思えない。
さて、ギルガメッシュともう1騎のサーヴァントはどうなっているのであろうか……?
ギル様とても残念ですが、原作でも残念でしたから仕方ないのです(ぉ
それはそうとセイバーオルタ霊衣キター! 思わずスキルマにしてしまいましたフォーウ!