FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第90話 ぐだぐだ大坂攻め

 光己とミスター・チンの爆撃により、大坂城の天守閣とその近辺の建物は完全に破壊されて粉みじんに吹っ飛ばされた。当然中にいた者は全員死亡したと思われたが、爆発による周囲の魔力流の乱れが落ち着いた時、光己はそこに1つだけ魔力反応を感じていた。

 

「さっきよりだいぶ小さくなってるけど、これはまだ生きてる……!

 あ、上の方に飛び上がった……!!」

 

 さすがは英雄王、そんな状況でもなお生きていたようだ。こちらに乗り込んでくるつもりだろうか。

 

「いや、それでこそ最古の王というものですな!」

 

 するとチンはむしろ嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべ、空中に飛び上がったギルガメッシュをじっと見据えた。彼が一直線に飛んでくるのを見さだめて、宝具開帳の準備を始める。

 

「では今一度、『掎角一陣(きかくいちじん)』ーーー!」

「ごはーーー!?」

 

 超速で射出されたワイバーンはみごと命中したらしく、空中で盛大な花火が上がった。

 いかな英雄王でも今度こそあの世に行ったと思われたが、信じられないことに魔力反応はまだ残っている。

 

「すごいな、もしかして最強の鎧でも着てるんだろうか」

 

 へろへろと墜落していくギルガメッシュを驚きの目で見つめつつ、そんなことを呟く光己。

 しかも彼は川に落ちたが泳いで近づいてきている。水中に潜られてはワイバーン射出は使えない。

 

「あ、これはケース3になっちゃうか」

 

 光己たちは戦闘を始める前に、どんな展開になるかいくつか予想して、それへの対応策を決めていた。ケース3というのはギルガメッシュに船の甲板の上まで来られた、あるいは来られる可能性が高い場合のムーブである。

 エルメロイⅡ世がギルガメッシュのことをある程度知っていたからこそできる事前準備だった。

 

「えーと、俺はまず急いで人間の姿に戻るんだっけ」

 

 竜の姿のままだと「竜殺しの宝具の原典」を飛ばされて、即死とはいかずとも大ケガする恐れがあるからだ。ギルガメッシュが泳いでくるというのは、こちらが変身する時間を取れるので好都合だった。

 そして光己が人間モードに戻ってズボンを穿いて翼を出し終えたのとほぼ同時に、ギルガメッシュが甲板の上によじ登ってきた。ずぶ濡れなのはともかく、生きているのが不思議なくらいの重傷で鎧もぼろぼろになっているが、闘志というか怒気は満々のようである。

 

「おのれ雑種ども、よくもやってくれたな! (オレ)がセイバーとの結婚式の準備で忙しい隙を突くとは、もはや不敬とか不埒だのといったありきたりな言葉では表現できぬほどの罪悪よ」

「……ほえ?」

 

 ギルガメッシュにとっては当然の理屈でも、光己たちにとっては意味不明な話である。不意打ちされたのを怒るのは分かるが、セイバーとの結婚式とは一体。

 光己たちはあっけに取られてつい攻撃しそこねてしまったが、その間にギルガメッシュは彼らの顔を見渡して―――アルトリアリリィの存在に気づくと一瞬で殺気が消えて驚愕と歓喜に満ちた表情になった。

 

「おぉぉ、貴様は、貴様はまさか王位に即く前のセイバーか!? 可憐すぎて胸が苦しい……!

 よかろう、貴様は許そう! 絶対に許そう!

 だが周りにいる胡散臭い雑種どもは超許さん。我が裁きを受けて死ね!」

 

 ギルガメッシュの後ろに金色に輝く波紋のようなものがいくつも浮かび上がる。それぞれの真ん中から刃物が出てきた。

 

「気をつけろ! あの1つ1つが宝具の原典だ」

「なんと!?」

 

 Ⅱ世が大声で注意を促した直後、波紋から剣や槍や鎌といった武器が矢のように飛んでくる。

 景虎と沖田は得物を振るって打ち払い、Ⅱ世とチンと黒髭は甲板の上を走り回って逃げた。リリィの方にも飛んできてはいるが当たらない軌道であり、牽制にすぎないようだ。

 光己はリリィのすぐ後ろにいるのでとりあえずは安全だった。

 なおオルガマリーと信長はケース3と判断された時点で下の船室に退避している。ワイバーンたちは上空に逃げていた。

 不幸中の幸いとしては、黒髭の船が超強化されているおかげで甲板やマストに武器が当たっても壊されずにいることだろうか。壊れて破片が飛び散ったら動きが阻害されるので。

 

「うーん、これでは反撃できません!」

 

 リリィの技量では武器の雨をかいくぐってギルガメッシュに斬りつけるのは無理のようだ。王の務めを終えた後のアルトリアたちならできるのかも知れないが。

 景虎と沖田も今は防戦一方のようである。それとも慣れれば反撃できるのだろうか……?

 

「むうー」

 

 当初の予定ではこれだけの人数をそろえれば囲んで討ち取れる予定だったのだが、ギルガメッシュの攻撃は予想以上に苛烈でつけ入る隙がない。

 せめて信長が本調子であれば、神性特攻付きの火縄銃乱射でだいぶ有利になるのだけれど。

 Ⅱ世も自分の身を守るのに手一杯で策を考える余裕がないようだし、ここはマスターとして光己が何とかしなければならないようだ。

 

「といって呼吸法で天啓もらう暇もないし、どうするかなあ。

 …………うーん。そうだ、いろいろアレだけどやってみるか」

 

 光己は何か閃いたらしく、まずリリィの真後ろのポジションを確保した上で悪魔の翼の力を行使した。ケガで弱っているギルガメッシュの魔力をさらに奪おうというのだ。

 ギルガメッシュは英雄王と呼ばれるだけあって平均的なサーヴァントの3倍以上もの魂容量を誇っているが、対魔力はEと低い。しかも重傷を負っているので、傷口からすごい勢いで魔力を吸い取られていく。

 

「ぐぅぅっ!?」

 

 不意に襲った虚脱感に、ギルガメッシュは一瞬目がくらんで甲板に片膝をついた。

 

「お、おのれぇぇぇ!? 誰だ、断りもなく我の魔力をかすめ取った上に、こともあろうに我に膝をつかせた不敬者は!」

 

 鬼のような形相で咎めるが、当然名乗り出る者はない。しかしギルガメッシュは眼力もまた優秀で、犯人をすぐに割り出した。

 

「おのれ雑種! 我が妃の後ろに隠れるとは、恥を知れ恥を! そして()くそこから失せよ!」

「絶対にノゥ! いやえげつないことしてるって自覚はあるんだけど」

 

 光己はギルガメッシュがリリィを妻にしたいという気持ち自体は否定しないし、むしろ道義的にはいきなり夜襲した自分たちに非があるとすら思っていた。しかしだからといって馬鹿正直に正々堂々と振る舞えるほどの余裕はないのだ。

 

「だってまだ死にたくないからさ。これも俺のため所長のため人類のため!

 いや王様が気前よく帝都聖杯を御下賜して下さったら和平してもいいんですが」

「ふざけるのもたいがいにしておけよ小僧!!!」

「ですよねー!」

 

 なおこのやり取りの間も光己は魔力を吸い続けている。ギルガメッシュとしては早々に彼を討たないと自分が魔力切れで倒れてしまう。

 しかし王としても男としても、セイバー(=リリィ)を巻き込むような攻撃はできない―――が、ギルガメッシュはその気になればターゲットを取り囲む形で武器を射出することができる。つまり、光己の真上や真横からまっすぐ射てば、セイバーに当てずに済むというわけだ。

 

「そこだっ!」

 

 5つほどの波紋が光己の上や横に出現し、一斉に武器を飛ばす。

 しかし光己はこと回避については日々訓練を積んでおり、それにギルガメッシュの攻撃方法はすでに十分見ていたので、危なげなく後ろに跳んでかわすことができた。

 

「おのれ!」

 

 ギルガメッシュはムキになって武器を連射するが、リリィが邪魔なのと魔力不足で集中力が落ちているため、1度に大量の武器を撃ち出すことができず、なかなか当てられない。

 一方光己はローマでレフの魔力を吸った時と同様に全身の肌が黒ずみ、いや黒い鱗が現れていた。さらに腕や脚が一回りゴツくなり、円錐形の突起が何本も生えてくる。手足の指先が角質化し、指先自体が大きな爪のようになった。

 要するに首から下が人間サイズのファヴニールになったような姿である。もちろんただ見た目が変わっただけではなく、パワーとスピードも大幅に上がっていた。

 

「むう!? 貴様、何だ……!? 人か竜かそれとも悪魔の類か……?

 まあ何でも良いわ、死ねいっ!」

 

 ギルガメッシュも光己の変貌に不審を抱いたが、それを追及している暇はない。彼がたまたまリリィの横に移動したのを見逃さず、その顔面と胸板に武器を飛ばそうとする。

 しかしその拍子に立ち眩みがしてよろめいたため、武器は少し軌道がずれてリリィの方に向かってしまった。

 

「!!」

 

 油断していたリリィも極大のミスをしてしまったギルガメッシュも青ざめたが、光己がすかさずリリィの正面に跳んで武器を掴み取ったおかげで最悪の事態は免れた。ドラゴンのパワーと鱗の硬さがあってこその荒業である。

 

「おお、これが宝具の原典ってやつか……何の原典かは分からないけどすごい魔力だな」

「我が妃を救った功績には最大の賞賛を与えるが、薄汚い手で我の財に触れるでないわ!」

「ひどい言い草だ!?」

 

 光己はさすがに抗議したがギルガメッシュは聞く耳持たず、また彼の上と左右から武器を射出した。しかし光己は横から来たのは今掴んだ武器で打ち払い、上から来たのは翼で巻き取る。

 そしてふと何かに気づくと、武器を両手で抱えて挑発的な笑みを浮かべた。

 

「もっとだ! もっとよこせギルガメッシュ!!」

「吠えたな雑……ぐあぁぁ!?」

 

 煽り耐性が極低なギルガメッシュはこめかみに青筋を浮かべてさらなる攻撃を加えようとしたが、その直前に彼の胸板が爆ぜた。血と肉片が噴水のように飛び散る。

 

「が……は!?」

 

 今やギルガメッシュの胸には直径15センチほどの風穴が開いており、前から後ろを見ることができるほどだった。その風穴から鋭い刃物の切っ先が突き出る。

 何者かが彼の後ろから強烈な不意打ちを喰らわせたのだ。

 

「ふっふふ、沖田さん大勝利~~! ですね! ……こふっ!?」

「ぎゃーっ、王の玉体に吐血するでないわ!」

 

 完全に致命傷だったが、ギルガメッシュはとりあえず人の背中にいきなり血を吐いた不届き者に渾身の叱責を浴びせた。不意打ちよりそちらが気にかかったようだが、無理もないことであろう……。

 しかしいつまでも沖田に関わってはいられない。ギルガメッシュは(彼視点では)妃に最期の言葉を告げるべくリリィの方に向き直った。

 光己もそれを邪魔するほど無神経ではなく、ギルガメッシュにリリィの姿が全部見えるよう1歩下がった。

 

「セイバーよ、此度(こたび)は退くがまたいずれ会う時もあろう。いや必ず会うと我は確信している。その時までその可憐さを失うでないぞ。

 …………露と落ち露と消えにし我が身かな……ウルクの事も夢のまた夢……。

 ウルク民募集……中……」

 

 ギルガメッシュは遺言と辞世の句のついでに国民の募集をし終えると、光の粒子となって現世から退去した。

 

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュが消えた後には、茶釜のような物が残っていた。

 尋常ではない存在感を感じるので、もしかしたらこれが聖杯かもしれない。沖田はそれを拾って光己に差し出した。

 

「貴方もなかなかやりますね! 私が英雄王の後ろに回ろうとしたのを気づかせないために挑発して、自分に目を向けさせるなんて」

「いやあ、綱渡り気分だったけどうまくいってよかった。

 ところで沖田さん吐血してたけど大丈夫?」

「あ、はい。わりといつものことなのでお気になさらず」

「サーヴァントも大変なんだなあ……」

 

 などと2人が話していると、沖田の体が足元から消え始めた。

 

「おお、やっぱりこの茶釜が聖杯だったか」

「そうみたいですね。短い間でしたがお世話になりました。

 もし縁があったらまた会いましょう」

「うん、その時はよろしく」

 

 光己は沖田と別れの挨拶をすると、急いで景虎とリリィとⅡ世のそばに駆け寄った。近くにいた方がカルデアに連れ帰れる可能性が高いと思ったからだ。

 船室にいたオルガマリーと信長も戻ってきた。それはよかったが、チンと黒髭は何故かとても無念そうな顔をしていた。

 

「うむむ、まさかこのタイミングで強制退去とは……! これでは追加の報酬がもらえないではないですか」

「そんな、拙者の船結構役に立ったはずなのに!?」

 

 光己たちは2人に月給は渡していたが、この戦いの分のボーナスはまだ渡していないのでそれが残念無念なようだ。

 

「うーん、仕方ない。これあげるか」

 

 光己もその気持ちは十二分によく分かる。幸いにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()ので、2人に半分ずつ手渡した。

 

「聖杯はさすがにあげられないけど、この宝具だけでも売れば結構なお金になるでしょ」

「おお、これはありがたい……まさに豊臣秀吉を思わせる気前良さですな」

「これが噂に聞くホワイト企業というやつですか……この黒髭、ユニヴァースに帰っても藤宮氏のことは忘れませんぞ!」

「どう致しまして、またいつか」

 

 チンはいつもの笑顔で内心は今いち想像しきれないが、黒髭は本気で感涙にむせんでおり、心底感謝してくれているようだ……。

 光己がオルガマリーたちのところに駆け戻るその後ろで、2人はすうっと消えていった。

 

「世話になったな皆の者! また会おうぞ!」

「皆さんお元気で!」

 

 ついで信長と沖田も退去する。光己たちの姿も薄れてきていた。

 すると景虎がいきなり光己に抱きついてきた。

 

「マスター! 私、私絶対、今度こそマスターについていきますから! 必ずカルデアに行きますから」

「うん、待ってる。絶対来てくれ!」

 

 半分泣いたような声で訴えてきた彼女を思い切り抱き返しながら、光己も心からそう答える。

 その直後、光己は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 光己がはっと目を覚ますと、そこは体感では何ヶ月も前にオルガマリーと遊んでいたカルデアのレクリエーションルームだった。

 隣ではオルガマリーがすうすう寝ている。こういう姿はなかなか可愛い―――ではなくて! 光己が慌てて周りを見回すと、景虎とリリィも同じように横たわっていた。

 

「おお、2人とも来てくれてたのか!」

 

 光己が喜びのあまり大声でそう言うと、寝ていた2人も目を覚ました。そして景虎が感動を満面に表しながら抱きついてくる。

 

「マスター! 良かった……! これでずっと一緒にいられるんですね」

 

 なおリリィはいきなり彼に抱きつくほど絆レベルは上がっていないので、光己と景虎が抱き合うのを見守っているだけである。

 

「朝からうるさいわねえ……って、思い出した! Ⅱ世! Ⅱ世はいるかしら」

 

 2人の大声で目が覚めたオルガマリーが、こちらも目を血走らせて部屋中を見渡す。

 

「やれやれ、ようやくお目覚めかと思ったら騒がしいな。私ならここにいるぞ」

 

 するとTVモニターの前からわずらわしそうな返事が聞こえた。どうやらTVゲームをしているようだ。

 

「Ⅱ世! 良かった、いてくれてたのね……って、契約、契約! 藤宮、早くⅡ世と契約するのよ」

「ちょ、しょ、所長、そんなに強く引っ張らなくても」

 

 オルガマリーは光己と景虎が抱き合っているのを容赦なく引っぺがすと、光己をⅡ世のそばに連行してそのまま契約させた。Ⅱ世には単独行動のスキルがなく、放っておいたら退去になってしまうので、ちょっと強引ではあったが妥当な措置だろう……。

 ともかくこれで、光己とオルガマリーは無事カルデアに帰還し、新しい仲間を迎えることにも成功したのだった。

 

 

 




 英雄王がリリィといずれ会えると言い残しましたが、AZOイベントやると本当に実現してしまうのですなw



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