FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第92話 英霊召喚 4回目

 オルガマリーが幹部会議をしている間、光己は彼の私室―――ではサーヴァントたち皆を呼ぶには狭すぎるので、もう少し広い空き部屋の1つをマスターとサーヴァント専用の談話室に改装した部屋に行っていた。マシュたちに景虎&リリィとの親睦を深めてもらうのと、レムレム特異点でのことを詳しく話すためである。

 

「しかし不思議なものだなあ……気分的にはあれから3ヶ月経ってるのに、カレンダーはちゃんと『昨日』の次の日の12月13日になってるなんて。景虎が言った通りだ」

「でしょう? 私、マスターのためにならないことは言いませんから!」

 

 カレンダーを眺めて感慨にひたっている光己に、景虎はぴったり寄り添っていかにもご満悦そうだった。

 しかし心穏やかではいられない者もいる。

 

「ちょ、ちょっとお待ち下さいますたぁ! 今のお話ですと、ますたぁにとってわたくしたちは3ヶ月ぶりに会ったことになるのですか?」

「うん、まさにそんな感じ。清姫たちにとっては昨夜ぶりだと思うけど、俺にとってはかなり久しぶりになるんだよな」

「な、何という!?」

 

 それでは光己視点では清姫はローマに行っている間4ヶ月離れ離れで、帰って来た日の夜からまた3ヶ月離れていたことになるではないか。そんなに別居ばかりしていては印象が薄くなってしまう!

 

「いやいや、清姫もみんなも大事だから印象薄くなったりしないって」

「いいえ、物理的に離れ離れでは人の心も縁も冷めるというものです。もちろんわたくしのますたぁへの愛は例外ですが!

 とにかくここは、インパクトある行動で今一度わたくしの印象を強めなくては」

 

 清姫は一息でそう言い切ると、委細構わず光己に抱きついた。

 

「おおっ!?」

 

 光己はローマや戦国時代では隙あらば景虎たちといちゃついていたので、ただ抱きつかれただけではそこまで強いインパクトは受けないのだが、女の子がくっついてきてくれるのは肉体的にも精神的にも大変嬉しい。清姫の背中を軽く抱き返して頭を撫でた。

 

「ああ、ますたぁ……」

 

 というかインパクトを受けたのは清姫の方であった。

 生前想い人に逃げられた上に嘘をつかれた彼女にとって、「安珍様」が受け入れてくれるのは身が震えるほどに感動的なことなのだ。

 ただ彼は他の女性たちとも仲睦まじいのが玉に瑕だったが。

 

「マスター! 今の清姫の話だとあたしたちも印象薄くなってるってことだよね? それは看過できないなあ」

「……右に同じ」

 

 すると案の定、ヒルドとオルトリンデが光己の後ろから抱きついた。しかも清姫からは見えないが、ヒルドは乳房を意図的にむにむにと押しつけている。

 

「えへへ、どうかな? 印象強くなったかな?」

「おぉぉ、確かに印象的だ……!」

 

 ワルキューレズは服の生地が清姫や景虎のものより薄いので、体の感触がよりはっきり感じられる。思春期少年には実に刺激が強かった。

 

「でもこのくらいじゃ4ヶ月と3ヶ月のブランクは埋まらないな。もう一声!」

「しょうがないなあ。でもマスターは色々大変だっただろうから、あたしもがんばってリクエストにお応えするね」

 

 鼻の下を伸ばしつつもさらなるサービスを要求する光己と、わりとノリよく彼に体をすりつけるヒルド。大変仲がよろしくて結構な話だったが、そこにスルーズが割り込んだ。

 

「3人とも離れなさい。そういうことはお話が済んでからにするべきです」

 

 親睦はともかく、特異点の話を聞く前にいちゃいちゃを始められたら他の人たちに迷惑である。なので注意したのだが、三人娘の中では1番光己と親密なのに抑え役に回れるあたり、精神的には1番大人のようだ。

 

「はーい」

 

 ヒルドたちが仕方なく彼のそばから離れ、光己も名残惜しそうな顔をしつつも近くの座布団に腰を下ろした。この部屋はマスターの出身地に合わせて和風に近いつくり、つまり床に畳の代わりに厚手のマットを敷いて、その上にカーペットを敷いて直座りできるようにしてあるのだ。

 彼の傍らに景虎とリリィ、正面側にマシュたちが座ったところで話を始める。

 

「んーと、こっちの日付でいう昨晩だな。所長に気分転換してもらうためにレクリエーションルームでゲームとかしてたんだけど、そのまま寝ちゃったんだ。で、気がついたら戦国時代の越後国にいたっていう……」

「……所長と先輩と私が冬木に行った時に似てますね」

 

 光己がまず前日譚を述べると、マシュがそんなことを呟いた。

 なるほど、コフィンに入ってもいないのに、知らない内に特異点に行ってしまったという点は同じである。

 

「でも今回はカルデアスも関係なかったからなあ。だからあそこに行っちゃった理由は正直想像もつかないんだ。

 ……もしかしたら愛の奇跡なのかも」

「あ、私もそれに1票です! だって私、マスターと会えるよう毎日毘沙門天に祈ってましたから!」

 

 光己がまた余計なことを言ったので、景虎ががばーっと彼に抱きついた。

 

「ちょ、長尾さん!? 自分が来るんじゃなくてますたぁを呼びつけるなんてずるいですよ!?」

 

 するとそれを真に受けた清姫が、蛇のように舌を出してシャーッと威嚇音を立てる。両手を上げて蛇の鎌首めいてゆらゆら揺らしているし、これは一触即発レベルの攻撃態勢だ!

 

「清姫ステイ! 今のは言葉のアヤだから! 想像もつかないって言ったろ」

「しかしますたぁ。サーヴァントがマスターを召喚するなんて羨まし、もとい大変けしからんことなのでは」

 

 光己があわててなだめたが、清姫はすぐには引かなかった。おそらく景虎が彼を3ヶ月も1人、いや2人占めしていたのがよほど羨ましかったのだろう。

 一方景虎はまったく気にかけた様子もなく、どことなく勝ち誇ったような顔で反論した。

 

「はて。仮に私の祈りが本当にマスターに届いたのだとして、それの何がいけないのですか?

 国主の権限を使いまくって全力で歓待しましたし、オルガマリー殿も特異点修正に行っているのだから、対策の必要性は薄いと言っていたではありませんか」

「ぐぬぬ」

 

 なるほどトップが問題視していないのでは咎め立てしづらい。清姫は劣勢であった。

 

「ならわたくしもどこかにますたぁをお招きして……!」

「どこかって、どこにです? いえまあ、個室に来ていただいておやつをご一緒するくらいなら簡単でしょうけど」

 

 越後の龍は口論も強かったが、あえてとどめを刺さずに敵?に塩を送る寛大な心を持っていた。いや史実では単に元々あった販路を閉じなかっただけというか、そもそも卑怯を問うなら武田の方がよっぽどアレだったのだが……。

 その塩はちょうどニーズに合っていたようで、清姫がぱーっと明るい顔になって手を打つ。

 

「それです! さすがは長尾さん、一国を治められていただけのことはありますね!

 ではますたぁ、この集会が終わり次第わたくしの部屋へどうぞ!」

「…………。いいけど、順番でね?」

 

 ものすごく気の早い清姫に、光己はちょっと乾いた声でそう答えた。

 いや彼女の部屋に行くこと自体は構わないのだが、他の視線がいくつか突き刺さってきたので配慮したのだ。

 

「でもこの形だと女の子をとっかえひっかえ、いや平安時代チックに通い婚してるみたいだな。

 もちろん俺は一向にかまわんッッ!」

「かまって下さい」

「……」

 

 何か都合のいい妄想をして舞い上がってしまった光己だが、後輩のコールドなツッコミでしゅーんと我に返った。

 仕方ないので元の話に戻ることにする。

 

「平和な街中だったのが不幸中の幸いだったな。冬木みたいな所だったら大変だった」

「そうですね。所長も仰っていましたが、サーヴァントなしで特異点に行くのはやはり危険かと」

 

 といっても原因が不明で防止策もなかったが、「サーヴァントなし」の部分は改善案があった。カーマが見せつけるようなドヤ顔で手を挙げる。

 

「なら私を呼べばいいんじゃないですか? ビーストの権能は剥がされましたけど、『単独顕現』は残ってますからねー。マスターがお呼びとあれば、どこにだって行けますよ」

 

 単独顕現とは、マスターに召喚されなくても自力で現世に出現できるスキルで、無条件にどこにでもとはいかないが、契約したマスターというビーコンがあれば出向けるだろうという意味だ。

 

「でもただ口先で呪文唱えるだけじゃダメですねー。もっとこうカーマちゃん愛してる、俺にはおまえが必要なんだ、うおおおおー!!って往来で人目もはばからずに絶叫するくらいの勢いが欲しいです」

「…………」

 

 このチョーシくれてる幼女をどうシバくべきか光己はちょっと悩んだが、ものぐさな彼女が1人でも自分を助けようと思ってくれているのも事実だ。ここは大人の対応をすることにした。

 

「そっか、ありがとな。ただ叫ぶだけでカルデアまで念が届くかどうかは分からないけど、令呪使えばいけるだろ」

 

 遠くにいるサーヴァントをマスターの傍らに瞬間移動させるというのは、令呪の一般的な用法の1つだが、カルデアから特異点まで呼びつけることはさすがにできない。しかし、自前でその手のスキルを持っている者なら相乗効果で何とかなるだろうという意味だ。

 

「えー、そこで令呪に頼っちゃうんですか? マスターってば日頃は愛だの何だの言ってるくせに、とんだヘタレですね」

「ええい、やっぱりシメてやる!」

 

 光己は口が減らない幼女の腕を引っ張って自分の脚の間に座らせると、まずは左右のほっぺたを指でつまんでぐりぐりひねってやった。カーマは「幼女にDVなんて最低ですー!」などと抗議しているが、抱っこ席から逃げようとしないあたり嫌ではないのだろう……。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。令呪を使う前提ならわたくしだって」

 

 そのじゃれ合いが羨ましくなったのか、清姫がまた割り込んできた。

 清姫は単独顕現どころか単独行動すら持たないが、召喚の儀式抜きでカルデアに来た実績がある。令呪の後押しがあれば来られるかもしれない。

 

「そうですね、私もマスターくんのためなら行きますよ!!

 私はカーマさんや清姫さんと違って前衛もできますから、マスターくんを守るという観点ならむしろ私だけ呼ぶというのもアリなのでは」

「シャーッ!」

 

 おまけにヒロインXXが立候補した上に前の2人をディスり始めたので、清姫が即反応してまた蛇チックな威嚇を始める。

 すっかり話が脱線してしまったが、そこに内線電話の呼び出し音がなった。

 

「お!? ……はい、もしもし。藤宮です」

 

 光己が受話器を取ると、何用なのかオルガマリーの声が聞こえた。

 

「ああ、まだそこにいたわね。実は早めに次のサーヴァントを召喚しておこうということになって」

 

 光己たちがローマにいる間に、ダ・ヴィンチたちは暇を見て聖晶石を作っていた。それがようやく3個たまって、めでたく1騎召喚できる運びになったのだ。

 オルガマリーたち新幹部組は7騎制限を超過していることは百も承知しているが、それを是正するより人理修復の成功率を上げることを選んだわけである。

 ただそれなら、景虎たちを所内案内する前に召喚すれば2度手間にならずに済んだのだが、エルメロイⅡ世=新副所長がいたから話が複雑になるのを避けたのだろう。

 

「分かりました。召喚ルームに行けばいいんですか?」

「ええ、私たちもこれから行くから」

 

 そういうわけで光己たちが召喚ルームに赴くと、オルガマリーたち4人はすでに支度をして待っていた。

 

「急に呼びつけてごめんなさいね。心の準備はいい?」

「はい、大丈夫です」

(所長本当に丸くなったなぁ!?)

 

 オルガマリーが細やかに光己を気づかう様子にロマニは思わず目と耳を疑ったが、彼女にバレたらまた頬をつねられるのでささっとⅡ世の後ろに隠れた。

 

「ふむ、これがカルデアの召喚式か……」

 

 当のⅡ世は室内の設備を興味深げにきょろきょろと見回しており、ロマニの挙動に関心はないようだ。

 オルガマリーがこほんと咳払いして、光己に儀式の開始を促す。

 

「それじゃ始めてちょうだい」

「はい」

 

 光己にとってはもう3回目のイベントだ。特に気負うこともなく魔法陣の真ん中に聖晶石を置いて、高らかに召喚の呪文を唱える。

 

「――――――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!!」

 

(役に立ってくれる人希望なのはもちろんだけど、できれば美人さんでーーー!!)

 

 ただし頭の中は半分ほどピンク色に染まっていたが……。

 それでも術式は無事に起動し、魔法陣の上に青白い光が走り始める。最後にまばゆい光の柱が立ち昇り、それが消えた後には若い女性らしき人影が立っていた。

 顔形や衣服を見るに昔の日本人のようである。身長は160センチほど、年の頃は20歳くらいか。スタイル抜群のすごい美人だった。

 青を基調とした和服を着崩している、というか布地が妙に少なく、肩から胸の上部辺りまで露出しており、太腿も絶対領域めいて見せつけている。

 ピンク色の長い髪をツインテ―ルに結わえているのはいいとして、頭の上にはキツネのような耳が左右一対生えていた。どうやら化生の類のようである。

 雰囲気的には明るいというか軽い感じに見受けられた。邪悪な妖怪というわけではなさそうだが……?

 

 

 

「御用とあらば即参上! 貴方の頼れる巫女狐、キャスター降臨っ! です!」

 

 

 

「……ほえ!?」

 

 巫女で狐、つまり稲荷狐の類だろうか。それにしては巫女装束を着ていないのが減点1だが、彼女の名乗りでは真名はまだ分からない。

 

「初めまして、カルデアのマスターの藤宮光己です。お名前を教えてもらっても?」

「ああ、これは失礼をば。私、マスターと同じ日本出身の玉藻の前と申しますぅ」

「「ぶふぅぅぅっ!?」」

 

 光己と景虎は並んで噴き出した。

 彼女の自己紹介はかわい子ぶっていたが、玉藻の前といえば、かの有名な白面金毛九尾の妖狐ではないか! 伝説では8万の追っ手を1度は退けたという大妖怪である。

 当然ながら反英雄だろう。人理継続保障機関に何の用があって来たのだろうか?

 2人は思わず身構えたが、なぜか清姫がとてとてと玉藻の前に近づいた。

 

「これは驚きました、まさか貴女がここに来られるなんて」

「おや、貴女もここにいたんですね。お久しぶりです」

「……??」

 

 光己と景虎には信じられないことに、清姫と玉藻の前は知り合いのようだ。つまり玉藻の前は清姫の縁で召喚されたということか?

 

「ええと、2人は知り合いなの?」

「はい。メル友ですが、料理修業した時に1度お会いしたことが」

「メル友」

 

 時代背景を無視した台詞に光己は目がくらむ思いがしたが、英霊の座には時間軸がないそうだから、そういうこともあるのだろう……。

 

「それで、玉藻の前さんは人理修復に協力してくれそうな人?」

 

 光己が当人には聞こえないよう小声で訊ねると、清姫はこっくり頷いた。

 

「はい。彼女は一目惚れした方がいるそうですので、人類が滅びるのは困るはずですから」

「へえ」

 

 どうやら玉藻の前は光己の大奥には入ってくれなさそうだが、白面金毛九尾が味方というだけでも実に心強い話である。私情は横に措いておいて歓迎の意向を示した。

 

「ここに来たということは、生前はどうあれ今は人理修復に協力してくれるってことですよね。よろしくお願いします」

「はい、お任せ下さいませ~~♪」

 

 こうしてカルデアはまた1騎強力なサーヴァントを迎えたわけだが、後ろの方でカーマがちょっと思案顔をしていた。

 

(玉藻の前、白面金毛九尾……確か摩竭陀(まがだ)国の斑足太子(はんぞくたいし)に1千人の首を要求したとびっきりの悪女ですよね。いえそれは別にいいんですが、あのヒト日本の太陽神の分け御霊なんですよね……)

 

 で、その太陽神は人類悪を自称しているという。つまり玉藻の前が来たのはカーマの縁なのかもしれない。

 

(となるとアレですよね。マスターの翼の力って私と契約した影響だそうですから、玉藻の前と契約したらまた影響受けませんかね。マスターのことですから頭の中身は大丈夫だと思いますけど)

 

 そして(いっそのこと人類悪になってくれたら()()()も怖くないんですがー!)などと口には出さずに呟くのだった。

 

 

 




 ある意味主人公の1番の天敵なサーヴァントが来てしまいましたが、はたして主人公は夢をかなえることができるのだろうか……?



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