FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第93話 報告会1

 召喚に応じてやってきた玉藻の前は日本の妖怪ではトップクラスの実力で、人理修復のメンバーに加えるのに不足はない。

 まずは自己紹介した後、2度手間になったがカルデアの構内を案内する。

 

「これはまた広くて立派ですねえ。人類最後の拠点と見ると、うーん……建物はともかく人数が少ないのが痛いですね」

「爆破テロ喰らっちゃったからなあ……」

 

 玉藻の前は反英雄の大妖怪ながらけっこう気さくな性格で、マスターの光己はもうタメ口で話しても良い間柄になっていた。

 

「5ヶ月近く経つのにまだ修繕終わってないなんて大変ですねえ」

「これでも最初の頃よりはだいぶマシなんだよな……。

 っと、そうそう。玉藻の前はキャスターって聞いたけど、具体的にはどんなことができるの?」

 

 これは重要な質問である。玉藻の前も真面目に、ただし口調はいつも通りのぶりっ子風で答えた。

 

「呪術です。三騎士がよく持ってる『対魔力』を貫通できるのがウリなんですよ♪」

 

 たとえば火炎や氷礫や突風や呪力弾を飛ばしたり、直接デバフをかけたりといった具合だ。あとは()()()()()()()鏡をぶつけたりといった物理攻撃もできるが、この辺はおまけである。

 しかしどちらかといえば、味方を治癒したり強化したりといった支援系の方が得意だった。宝具なら最大100人まで捕捉できるし。

 

「へえー、支援型か。そういうタイプは初めてかな? ワルキューレたちもできるけど、専門ってわけじゃないからなあ」

「ホントですか? 被る人がいないというのはいいですねえ」

 

 そんなことを話しながら案内を終えると、光己たちはレムレム特異点の話が途中だったので、また談話室に戻った。

 玉藻の前にはまだ前日譚を話していないので、そこから改めて再開する。

 

「―――というわけで、俺と所長は戦国時代の越後国に行っちゃったんだ」

「目が覚めたら異世界だった、ですか……最後のマスターって大変なんですねえ」

 

 これには反英雄でも同情せざるを得なかった。召喚に応じた時にカルデアの役目や状況についてはある程度知識として与えられたが、ここまでハードワークだったとは。

 

「それでどうなったんです?」

「ああ、とりあえず街を歩いて情報収集と、できればお金が欲しかったんだけどさ」

 

 その後ひと悶着あったがお金が手に入ってアルトリアリリィとも会えたのは、今思い出してみると本当に幸運なことだった。

 さらに考えるに冬木でもフランスでも無人島でもローマでも、着いてからわりとすぐに現地のサーヴァントなり協力者なりと出会えている。もしかしてレイシフトというのはそういう位置を選んで送り届けているのだろうか?

 光己はマシュに顔を向けてそれを訊ねてみたが、物知りな彼女にもその答えは分からなかった。

 

「うーん、そういう話は聞いたことがありませんが……。

 第二特異点に行った時はローマ市を目標地点にしていましたが、特定の協力者を当てにしてというわけではありませんし」

「そっか、じゃあ単に運がいいだけなのかな?」

 

 運というのは戦争においてもバカにできない要素である。何しろサーヴァントのパラメーターの1つに「幸運」があるくらいなのだから。

 誰の幸運度が1番影響が大きいのかは分からないが、光己自身は少なくともカルデアに来て以降はなかなかの幸運児であると自認している。何故なら今のところ、聖晶石で召喚したサーヴァントは全員有能で好意的な美人なのだから!

 

「先輩、また何かピンク色なこと考えてませんか?」

「何のことかな?」

 

 最初からいる後輩は時々辛辣だけれど。

 

「―――とにかくリリィに会えたおかげで景虎ともすぐ会えて、初日で衣食住ゲットできたんだ」

 

 そう言いながら光己が春日山城のことを思い出して懐かしんでいると、なぜかアルトリアがずずいっと身を乗り出してきた。

 

「ちょっと待って下さい。今までの話から考えるに、私たちが寝ている間に、マスターたちは450年前のとはいえ上等な日本食を3ヶ月間食べ放題だったということですか?

 ずるいです! 私も大名が食べるような御膳料理をお腹いっぱい食べまくってみたいです」

「ずるいって言われても……」

 

 貴女大名どころか国王でしょうに、と光己は思ったが、当時のブリテンはそれほどの食料難だったのだろうか。だとしたら、アーサー王と魔術師マーリンと円卓の騎士たちという名君名臣を擁していたのに、あえなく滅びてしまったのも頷けるが……。

 

「……はっ! さてはXX、レムレム特異点に行くのを申し出たのはそれが目当てなんですか?」

「え、いやそれは言いがかりですよ。私は純粋にマスターくんのユウジョウに応えたいと思っただけで。

 ただサーヴァントがマスターのお食事にご相伴するのは何もおかしくないですよね?」

「おのれ裏切り者め!」

 

 食べ物の恨みは怖いということか、レムレム特異点では上等な食事が食べられると決まったわけでもないのに、アルトリアが聖剣を抜く。

 

「わああ、アルトリアステイ! ルーラー止めて!」

「……はい」

 

 アルトリアズはみんな健啖家だが、ルーラーはクラス柄ゆえか比較的自制心が強い。アルトリアを後ろから羽交い絞めにして取り押さえた。

 なおオルタは自制心はむしろノーマルより弱いのだが、好みがジャンクフードなので今回は乗ってきていない。

 

「……本当に大変ですね」

 

 ハードワークの上に仲間がここまで私欲に正直な者ばかりだとは。玉藻の前は光己に憐憫の情すら抱いてしまった。

 

「いや、アルトリアたちは強いしやる気もあるし頼りになるから……」

 

 光己は一応彼女たちを弁護したが、その声がちょっと乾いていたのは致し方ないことだろう……。

 アルトリアがどうにかおとなしくなったところで話を再開する。ここからは景虎とリリィ以外の全員向けだ。

 

「―――でも聖杯戦争しなきゃいけないから、城からはすぐ出たんだ。ローマの時と似てて、大名と彼らが持ってる軍隊……といってもちびノブだけど、とにかく軍隊同士の戦争」

「戦争ですか……確かにローマの時と似てますね。

 でもサーヴァントが2騎だけだと苦しいのでは?」

 

 マシュの質問に光己は首を縦に振った。

 

「うん。向こうも2騎だから普通にやったら負けてもおかしくないし、勝っても無傷じゃすまないよな。

 そんなこと何度も続けられないから、最初の武田戦は逸話再現の途中で、夜中に俺が空からぶっぱ。今まで意識してなかったけど、ドラゴンって夜目が利くから夜襲がしやすいんだよな」

「そ、そうですか」

 

 マシュの額に10本ばかり縦線効果が入った。いや理屈は分かるのだが、えげつないというか味も素っ気もないというか。

 光己も彼女の言いたいことは分かるので、先手を打って自己弁護した。

 

「でもダレイオスはともかくメドゥーサは危険だからなあ。名前が武田ダレイオスとか真田メドゥーサとかだったから、正直力抜けたけど」

「メドゥーサ……姿を見たら石になってしまうというあのメドゥーサですか!」

 

 なるほどそれなら多少悪辣な作戦になっても仕方ない。

 そうそう、メドゥーサといえばローマで会ったステンノ神の妹でもあるので、もし彼女と再会することがあったら、この件がバレないよう口元を引き締めておくべきだろう。

 

(へえー、夜目が利くから夜襲しやすい、かあ……マスターってばどんどん成長していくねえ)

 

 内心でそんなことを考えた者もいたが、光己はそれに気づかず話を続けた。

 竹中半兵衛=エルメロイⅡ世が織田家の使者としてやってきたので、オルガマリーと会わせて味方に引き入れた後は、北条家との戦いである。

 

「でも今度の敵はランサーのアルトリアのオルタだったんだよな。しかも城にこもってるから大変だった」

「クラスを変える前の私のオルタですか……!」

 

 するとルーラーがアルトリアをオルタに任せて、関心ありまくりに最前列に乗り出してきた。まあ当然のムーブだろう。

 

「オルタの私も聖槍は持っています。どうやって攻略したのですか?」

「うん。普通に攻めたらいつぶっぱされるか分からないから、また俺が空から夜襲したんだけど、さすがアルトリアってことかなあ。いや俺が新スキルにかまけてたせいでもあるけど、バレてぶっぱで先制攻撃された」

「なっ、大丈夫なんですか!?」

 

 聖槍の宝具開帳で迎撃されたと聞いてルーラーが目の色を変えた。いくらファヴニールでも当たり所によっては命はあるまい。

 いや光己は今ここにいるのだけれど、後遺症の類はないだろうか?

 

「ん、喰らった時は墜落しそうに痛かったけど、もう大丈夫だよ。礼装の『応急手当』のおかげで傷口はすぐふさがったし、呪いの方も呼吸法やってたら良くなったから」

「呪い!?」

 

 文字通りの厄ワードにサーヴァントたちが色めき立つ。光己は景虎の献策だとは言わなかったので彼女に突っかかる者はいなかったが、光己を取り囲んでじーっと凝視している。

 光己としては心配してくれるのは嬉しいが、ちょっと対処に困った。

 

「い、いや本当に大丈夫だって!」

「確かにぱっと見では異常なさそうですが、念のためバイタルチェックを受けた方が良いのでは」

 

 マシュがそう提案すると玉藻の前が手を挙げた。

 

「呪い関係なら私にお任せ下さい! 何しろ専門家ですから」

「ほむ」

 

 そういえば彼女の戦闘スタイルは呪術であった。ならば当然、診断や解呪もできるだろう。伝説によれば医学知識の方も本職を論破できるほどに詳しかったそうだし。

 光己とマシュは念のため、ルーラーに顔を向けて意見を求めてみたが、呪いという認識は間違いないらしくこっくり頷いた。

 

「では善は急げですね。というかなぜもっと早く言って下さらなかったんですか。

 それじゃ先輩、上着を脱いで下さい」

「ちょ、人前でいきなり脱がすなんてセクハラじゃないか!?」

「ならこれでお互い様かと」

 

 医務室に連れて行こうともせずに問答無用で衣服を剥いできたマシュに、光己はせめてもの抗議をしてみたが、後輩氏はまったく聞く耳持ってくれなかった……。

 他のサーヴァントたちも何もせず()()()()だけなので、結局光己は全員の前で診察を受けることになった。

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

「はいはい、では診ますのでおとなしくしてて下さいませねー♪」

 

 玉藻の前は「傾国の美女」だけあって、上半身だけとはいえ若い男の裸を見せつけられても気にした様子はなく、真面目な顔で診察を始める。

 光己としては彼女が目を覗き込んだり体を撫でたりしてくるのは良かったが、何しろ超美人な上に胸元や太腿を露出しているので目のやり場に困る、いや表情を神妙に保つのが大変であった。

 すでに仲良くなった娘たちなら多少表情筋を崩しても気にしないでいてくれるだろうが、「九尾の妖狐」相手に初対面でやらかすのはどう考えても賢明なことではないので。

 玉藻の前が彼のその辺の心事に気づいたか気づかなかったかは不明だが、何でもない様子で診察を終えると彼の正面に座り直した。

 

「肉体の傷も呪いもほぼ治ってますが、ちょっとだけ残ってますね。まあこれくらいならこの場で治せますので、もうちょっと力を抜いて下さい」

「あ、はい」

 

 光己が言われた通りにすると、玉藻の前はどこからか祓串(はらえぐし)を取り出した。

 

「それではさっそく。祓い給え、清め給え……え~いっ!

 はい終わりました!」

「え、それだけ?」

 

 祓串を頭の上で2、3回ばさばさっと振っておしまいとか簡単すぎではなかろうか。もうちょっとこう儀式っぽく色々あってもいいんじゃないかと光己は思ったのだが、その注文に狐の美女は余裕の笑みを返した。

 

「いえいえ、私くらいになればこのくらい朝ごはん前ですので!」

「そ、そっか。ありがとな」

 

 まあ光己自身自覚症状があったわけではないので、素直に納得することにした。

 サーヴァントたちも()()()()落ち着いた様子なので、服を着て話を再開する。

 

「とにかくそんなわけで俺自身が乗り込むのはNGになったし、普通に攻めるのも無理があるってことで作戦を練り直すことになったんだ」

「ふむ、それでどうなさったのですか?」

 

 ルーラーが早く先を聞きたいといった風情でそう訊ねる。オルタとはいえ「自分」が攻略された話なんて面白くないのではないかとも思われたが、マスターがどんな策を考えたかの方に関心が強いようだ。

 

「ああ、そこで俺の起死回生の名案が炸裂したんだ。具体的にはワイバーン軍団で焼き討ちすれば、ランサーオルタも出て来ざるを得んだろっていうわけさ」

 

 光己はルーラーをサーヴァント大奥の正室に迎えたいという構想があるので、珍しく自慢げな口調であった。

 しかしあまり通じた様子はなく、ルーラーが不思議そうに首をかしげる。

 

「ワイバーン軍団、ですか?」

「あー、ルーラーはフランスの時はいなかったっけ。ファヴニールはワイバーンを産めるんだよ」

「へええー、えっちしないで子供だけ産むなんて、マスターは未来に生きてますね」

「そこ、うるさい!」

 

 するとカーマがまたチャチャを入れてきたので、光己は彼女を脚の間に抱き寄せて、左右のこめかみを指先でぐりぐり押し込んでやった。

 

「ちょ、それ痛いですホントに!」

「反省した?」

「絶対にしません!」

「この性悪幼女め!」

 

 まあ傍からは兄妹のじゃれ合いにしか見えないのだが、すると清姫が羨んだのか吶喊してカーマを引き剥がすと自分が抱っこ席に収まった。

 しかしカーマも黙って放り出されるほどおとなしくはない。

 

「わー、何するんですか年増!」

「と、年……!?」

 

 初めて聞く罵倒に清姫はぷっつん来て、せっかくの抱っこ席から飛び出してカーマとキャットファイトを始める。光己は仲裁する気力はなかったので、また誰かに任せることにした。

 

「ブラダマンテにスルーズ、2人を引っぺがしてやってくれる?」

「……はい」

 

 2人がいろいろあきれつつも承知してくれたので、光己はなるべくそちらは見ないようにして話を続けた。

 

「でも産み方は天啓頼みだったからなあ。ホント段蔵には頭が上がらないよ。ありがと」

「い、いえそんな。でもマスターのお役に立てたなら良かったです」

 

 今回に限らず天啓には色々助けられている。光己が改めて礼を言うと、段蔵は照れくさそうに視線をそらしたが、嬉しそうではあるようだった。

 

「ちなみに産み方は細胞分裂な。卵や雛を産むわけじゃないからそこんとこよろしく」

 

 その辺は男子としてこだわりがあるようだ。

 

「でもって夜襲して食糧庫らしき所焼いたら、翌朝にはさっそく全軍出撃してきてくれたんだ」

「…………。どう考えても愚策ですが、ランサーオルタの気持ちはとてもよく分かりますね」

 

 ルーラーもアルトリアだけに、準備万端で待ち受けている敵に向かっていくことの愚かさを承知しつつも否定はできない様子である。まあ援軍のアテがないのに籠城し続けても意味はないので、この時点で詰みなのだが。

 

「実際野戦なら景虎が超強いしⅡ世さんが風起こせるし、勝ったようなものなんだよな。

 それにリリィの宝具は男性特攻ついてるから、あのランスロット卿を一撃で倒しちゃったし」

「だ、男性特攻って何ですかー!」

 

 リリィは真っ赤になって抗議したが、冬木でレフにやった時に続いて2回連続だから、こう思われるのも無理のないことであろう……。

 

(それよりマスターがワイバーンを産んだってすごくない? すごくない?)

(最初からある能力を使えるようになっただけとも言えますが、ラグナロクでも役に立つのは間違いないですね)

(魔力感知の方も有用です。しかしマスターにとっては夢の中の出来事ですので、後でここでも使えるかどうか確かめてもらうべきですね)

(うん、でもホントにマスターすごい勢いで成長してるよねー! 今回は夢の中では何ヶ月か経ってるんだけど。

 とにかくマスターはもう絶対逃がせないよね!)

(そうですね。サーヴァントがまた増えたことですし、私たちの印象が薄まらないよう頑張らないと)

 

 なおワルキューレズはまた戦乙女な会議をしていたりしたが。

 

 

 


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