FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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封鎖終局四海 オケアノス
第95話 第三特異点


 その5日後の昼食の後、光己とサーヴァントたちは会議室に呼び出されていた。

 

「そろったわね。用件は想像つくと思うけど、次の特異点のだいたいのアウトラインが分かったから伝えておこうと思って」

「……だいたい?」

 

 オルガマリーの言葉の中でちょっと気になる点を光己が代表して訊ねると、オルガマリーは「いいところに気がついたわね」というような顔をした。

 

「ええ、ディティールやレイシフトの目標地点といった細かい点はまだ煮詰まっていないの。

 でも、貴方たちが予習したり行く人を決めたりできる程度の情報はそろったから」

「なるほど」

 

 光己たちが会議の趣旨を理解したところで、エルメロイⅡ世が一同にレジュメを配った。

 細かい説明は彼がやるようだ。何しろ彼は時計塔の名物教師だから、こういった説明役は慣れっこなので。

 光己たちが読み終えると、Ⅱ世は改めて口頭で解説を始めた。

 

「ではそのレジュメに沿って説明していこう。

 冒頭に書いてある通り、次の特異点は1573年の海域だ。年代は確定しているが、場所は海域のどこかというだけで特定できない」

 

 というのも特異点を中心に地形が変化しているようで、観測できるのは海面の他はぽつぽつと点在している島だけだからだ。太平洋か大西洋かインド洋か、その辺りの見当はつかない。

 なお特異点の広さは概算で東西に600キロ、南北に400キロくらいである。前回よりずっと狭い上に皇帝や軍隊といったものはいなさそうなので、修正に何ヶ月もかかることはないだろう。

 

「そんな所で聖杯戦争なんてできるんですか?」

「そうだな。人間やサーヴァントがいるとしたら、島に少数の部族が住んでいるか、でなければ商船や漁船や海賊船の類だろう。1番ありそうなのは海賊同士の争いだ」

「なるほど」

 

 古今東西の有名な海賊のサーヴァントたちが聖杯というお宝を奪い合う。十分考えられる話だ。

 しかしレイシフトは船なんて大きな物は持って行けないし、もしレイシフト先が大海原のド真ん中だったらどうするのだろう。

 

「マスターは翼を出せば空を飛べるから問題あるまい。サーヴァントは霊体化すればいいし、霊体化できないマシュ嬢はマスターが抱えて行けばよかろう」

 

 ここでⅡ世がマシュを抱える役に光己を指名したのは、むろん抱えられた体勢だろうと最後のマスターを守るのが彼女の役目だからである。マシュは真っ赤になったが、ここで恥ずかしいからといってワルキューレやヒロインXXに抱えてもらうのでは特異点に行く意味がないのだ。

 

「まあ~~藤宮君が竜の姿になってみんなを乗せていくという手もあるけどね。そのための命綱も用意したよ」

 

 すると、ダ・ヴィンチが机の下からハーネスを10着ほど取り出した。ロープの片方を竜の角かどこかに結びつければ、よほどのことがない限り振り落とされることはないだろう。

 遮蔽物のない高空を飛ぶのが不用心だというのなら、速度は落ちるが首だけ出して泳いでもいい。その辺は状況次第だ。

 

「いえダ・ヴィンチ、私がいれば不意打ちされることはありません。

 普段の移動はマスターにお願いして、サーヴァントを探知したら私が宝具を出すという形なら大丈夫でしょう」

 

 ルーラーのサーヴァント探知能力は半径10キロと広いので、その外から攻撃を受ける恐れはまずない。見つけてからルーラーアルトリアが宝具の船を出しても間に合うだろう。

 ただ、船を出しっ放しにするのはマスターの魔力負担が重いので、普段の移動では使い難いが。

 

「なるほど。まあその辺は現場の君たちに任せるよ」

「それと藤宮君は船酔いはする方かな? もしそうならよく効く薬を調合するよ。

 今の話だとサーヴァントを見かけたら船に乗るみたいだし、場合によっては商船に乗せてもらったり海賊船を分捕ったりすることも考えられるからね」

 

 そう言ったロマニはこの5日間たっぷり休養を取ったので、だいぶ血色が良くなっていた。オルガマリーが丸くなったのとⅡ世が来たおかげで、職員の統率や特異点の調査や魔神柱の分析といった職務範囲外の仕事から解放されて、心身ともに余裕ができたおかげである。

 なお海賊船を分捕った場合は、ルーンを動力にして騎乗スキル持ちのサーヴァントが操舵すれば十分運航できる見込みだ。

 

「あ、はい。ネロ陛下級のアクロバティック操船でなければ大丈夫です」

「そうか、なら良かった。

 じゃあボクからの話はこれだけだから、後は所長たちにバトンタッチするよ」

「ふむ」

 

 Ⅱ世はロマニにそう頷くと説明を再開した。

 

「マスターが常に気にしている金銭や食料についてだが、金銭で取引をする状況は考えづらいが、食料は少なくともマスターとマシュ嬢には必要だな。

 これについては、魚を獲るか島で食べられる動植物を探すかということになるだろう」

「んー、そうなると今回も段蔵は固定メンバーだな」

 

 段蔵は最初に現界した時に食料識別スキルをもらえたので、サバイバルが予想されるなら参加確定となる。また無人島の時は道具を作るのが結構大変だったので、最低限のアイテムは持って行きたいところだ。

 

「はい。マスターの仰せとあればこの段蔵、全力を尽くさせていただきまする」

 

 段蔵にとって光己は大奥云々の話は興味ないが、自分を重用して厚遇してくれる良い主君である。力強く承諾の意を示した。

 

「うん、よろしく」

「ふむ、そういえばマスターたちは無人島で数日過ごしたことがあるのだったな。なら食料や住居の面は心配ないか」

「できればもっといたかったんですけどねー」

 

 もし今回も無人島に拠点(寝床)をつくるのであれば、1日くらいは休暇として水遊びをしたいものである。

 そのためにも、サバイバルについての資料とグッズはきっちり用意しておくべきだろう。

 

「多少の気分転換は構わんがほどほどにな。

 次は1573年という年代についてだが、世界史的にはいわゆる大航海時代だ。ヨーロッパで船舶の技術が進んで遠洋航海が可能になり、アジアやアメリカやアフリカに()()()・経済的に進出していった時代だな。だからこそこの特異点は海が大半を占めるのだろう。

 参考までに、この時代に世界一周を成し遂げたフランシス・ドレイクの愛船『ゴールデン・ハインド号』は、排水量300トンの木造帆船で、速さは時速15キロくらい、武装は大砲が22門だ」

 

 この手のことに善悪の価値判断を下したような言い方をするとややこしいことになりかねないので、Ⅱ世は無造作に言ったように見えてそれなりに配慮していた。

 たとえば今名を挙げたドレイクは、イギリスでは英雄だがスペインにとっては「海の悪魔」だし、あのジャンヌ・ダルクでさえイギリスでは魔女だったのだ。人間関係に配慮するなら、露骨に褒めるのも貶すのもよろしくないわけである。

 

「ほむ」

 

 光己は大航海時代がどんな時代だったのか概要は知っているが、特定の国や人物に対する思い入れはない。短く相槌を入れるだけにとどめた。

 Ⅱ世はそのまま次の話題に移る。

 

「次はレフ・ライノールが変身したあの肉の柱の件だが、残念ながらまだ解析はできていない」

 

 人員も機器も時間も足りないので、そこまで手が回り切らないのである。

 

「ただ悪魔学でいうフラウロスとは外見も能力も明らかに違うから、『使徒』という言葉からしても使い魔の類と考えるのが順当だと思う。

 レフの経歴も少し調べてみたが、彼が最初から魔術王の使徒だったのなら『シバ』なぞ開発しなかっただろうから、使い魔に取り憑かれた元人間なのかもしれん」

 

 後半の部分は今さら検証してもあまり意味がないことなので、単に考察を語っているだけである。仮に本当に元人間だったとしても手加減するわけにはいかないし。

 

「しかしレフが『七十二柱』の中の1柱だというのなら、彼以外にも同類が71柱いることになる。つまり複数で現れることも考えられるから、今後も戦力の追加はしていきたいところだな」

「72柱いっぺんに出てくるってことはないですよね?」

「もしそうなったらさっさと逃げろ。ローマで見た通り、アレは足は遅いというか機動力はほとんどゼロのはずだ」

「アッハイ」

 

 ミもフタもない返事に光己もマシュたちもただ頷くしかなかった……。

 するとⅡ世は自分の話はこれで終わりということか、オルガマリーの方に顔を向ける。オルガマリーはダ・ヴィンチを顧みた。

 

「うん、後は私からだね。まずは藤宮君ご注文の礼装、ちゃんと作っておいたよ。

 お尻の上と背中が開閉式になってる以外は今までのと同じだ」

「あ、できましたか。ありがとうございます」

 

 これで翼と尾を出しても後で恥ずかしい思いをすることはない。光己は頭を下げて礼を言った。

 

「なあに、これも仕事の内さ。

 で、次の話はあまり褒めてもらえなさそうなんだけどね。今回の特異点に連れて行けるサーヴァントは、前回と同じ8騎だ」

「ええ!? 確か電力量増やすって話だったんじゃ」

 

 光己は不満を隠し切れない口調で苦情を述べたが、彼女にも言い分はあるようだった。

 

「いや、増やしたんだよ? 増やしたんだけど、その分は君が成長して必要電力が増えた分に喰われてしまったんだ」

「え」

 

 まさかヴァルハラ式トレーニングにそんな落とし穴があったとは。なら今後は訓練は控えた方がいいのだろうか?

 

「いや。言い方は悪いがマシュ以外のサーヴァントがやられてもカルデアに戻るだけですむけど、君が殺されたらゲームオーバーだからね。君が訓練して強くなるのは諸手を上げて大賛成さ。今後とも頑張ってくれたまえー。

 でもそれはそれ、これはこれというやつでね」

「あー」

 

 ダ・ヴィンチが言うことは実に妥当で、光己には反論の余地はなかった。

 

「でも特異点から戻るのは8騎より多くても大丈夫なんですよね?」

「ああ、それはOKだ。カーマ神たちを現地で呼ぶのは構わない」

 

 なら最大11騎ということになる。今はこれで納得すべきだろう。

 

「で、誰を連れて行くのかな?」

「そうですね。マシュとルーラーと段蔵は決まりとして、召喚したばかりの玉藻の前に留守番頼むのは義理が悪いですよね。

 後はローマの時に留守番頼んだヒルドとオルトリンデと清姫とオルタ……ってもう8騎!?」

 

 清姫は令呪で呼べると決まったわけではないのでメンバーに入れたのだが、これで定員が埋まってしまうとは。ワルキューレが2人いるからサバイバル面の問題はないけれど。

 しかしせっかく(Ⅱ世抜きでも)15騎もいるのに何とももったいない。ダ・ヴィンチたち技術局には今後とも奮励努力を願いたいものである。魔神柱が複数で来るという可能性も示されたことだし。

 

「え、私留守番なんですか? さみしいです」

 

 すると景虎が言葉通りの表情で訴えてきたが、光己も気持ちは同じでも賛成はできなかった。

 

「うん、俺もさみしいけど、リーダーとして訳もなくえこひいきはできないからなあ」

 

 固定枠に入るには皆が納得するだけのスキルか事情が求められるわけで、それがなければ一般枠、つまり順番にせざるを得ない。リーダーたる者公私混同は厳禁なのだ。

 

「むうー。やはりマスターは分かってるのが今回は残念です」

 

 景虎も一国の主を務めた身なので、彼が言うことは理解できる。しゅーんと小さくなりつつも引き下がった。ブラダマンテやスルーズといった絆レベル高い組も沈黙している。

 

「―――さて、これで議題は一通り話し終えたかしら。レイシフトは明日の朝食後を予定していますので、それまでは各自、端末でサバイバルの知識なり著名な海賊について調べるなりして下さい。

 あと何か意見や質問がある人はいますか? いなければ解散としましょう」

 

 最後にオルガマリーがそう言って閉会を告げ、一同は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「所長にダ・ヴィンチちゃん、これはどういうことなんですかね」

 

 その翌日レイシフトは予定通り実行され無事特異点に到着したが、光己たちが出現したのは海賊船の甲板の上だった。

 いかにもな風体をした荒くれ者たちに取り囲まれている。

 

《……ごめんなさい》

《海の上には落ちないようにっていう設定にはしたんだけど、まさか海賊船の上に出るとは思わなかったよ。本当に申し訳ない》

《いやここは喜ぶところだろう。何しろ初っ端で情報と物資が手に入るんだ。

 マスターも相手が海賊なら良心の呵責はあるまい》

 

 オルガマリーとダ・ヴィンチは謝罪したが、エルメロイⅡ世は逆に手柄扱いにしてマスターに海賊行為をそそのかす面の皮の厚さを持っていた……。

 

「何ごちゃごちゃ言ってやがる。やっちまえ!

 いや女は傷つけるんじゃねえぞ。ふん縛るだけにしておけ」

 

 海賊たちは何の予兆もなく人が現れたことに仰天して、当初はおっかなびっくりだったが、今はすでに本性を表して攻撃開始寸前の状況になっていた。

 なお女は傷つけるなというのは、8人とも稀に見る美女美少女ばかりなので(ぴー)した後で高く売ろうという魂胆だからである。

 

「でもあの黒い鎧の女強そうじゃねえか!?」

 

 ただアルトリアオルタは他の8人と違って威圧感たっぷりなので、怖がる者もいたが、海賊側は倍以上の人数がいる。多少強いぐらいなら囲んでボコれば勝てるだろう。

 ―――という見込みで海賊たちは一斉にカルデア側に襲いかかったが、むろんその見込みは絶望的なまでにハズレである。あっという間に全員のされて甲板のすみに転がった。

 

「ふん、他愛ない」

「つ、強ええ……」

「それじゃ念のため縛っておこうかな。あ、マスターに手加減戦闘の練習してもらえばよかった」

 

 ヒルドが相変わらず戦乙女脳な独り言を言いつつ、その辺にあったロープで海賊たちを縛り上げる。これで安心して情報収集できるというものだ。

 質問役は見た目が怖いオルタが適任だろう。

 

「私は気長な方じゃないからな。命が惜しかったらさっさと話せ。

 まずはこの海域についてだ。ここが普通の海と違うと思われる点を残らず、ただし簡潔に分かりやすく説明しろ」

「脅されたくらいで口を割るとでも思ってんのか? 海賊を舐めんじゃねーぞ」

「そうか」

 

 するとオルタは特に顔色も変えず、憎まれ口を叩いた海賊の襟首を掴んで船の外に放り投げた。

 ぼっちゃーん、と水に落ちた音がする。

 

「……」

「次は貴様だ。サメのエサになるか口を割るか、3秒以内に選べ」

「わああ、しゃべるしゃべる! しゃべるから勘弁してくれ」

 

 オルタの容赦なさに海賊たちはあっさり白旗を上げたが、まあ当然のことであろう……。

 彼らが言うにはこの海域に来たのはまったく想像外のことで、目の前の状況と海図や羅針盤が一致しなくなって初めて異常に気づいたらしい。どうすればいいか分からず漂流同然でいたのだが、同業者に会った時にこの近くに海賊島があるという話を聞いたので、水や食料を分けてもらうためにそこに向かっている途中だそうだ。

 

「なるほど、よく分かった。ではさっき放り投げた奴は助けてやろう」

 

 オルタがそう言ってオルトリンデの方を向くと、少女は心得て船の外に飛んで行った。

 やがて先ほどの海賊の襟首を掴んで戻ってくる。抱っことかはしたくないようだ。

 

「うう、ひどい目に遭った……」

「貴様たちがいつもしていることだろう。命があるだけ幸運に思え」

「……」

 

 ずぶ濡れで甲板に戻ってきた海賊は不満たらたらな顔をしていたが、オルタに一睨みされるとおとなしくなった。

 

「ではマスター、これからどうする?

 といっても行き先は1つしかないが」

「そうだなあ。清姫、この人たち嘘ついてなかった?」

「はい、この方たちは正直に話していたと思います」

 

 同業者が言った「海賊島」の話自体がガセということも考えられるが、そこまで疑っても仕方ない。行くのは決定として、考えることはこの海賊たちの処置と物資を奪うかどうかである。

 

「そっか、ありがと。んー、食料も水も乏しくなってきたっていうなら、取り上げるのは可哀そうかな。

 海賊とはいえ必要もないのに殺したくはないけど、一緒に行くのは無駄に時間喰うだけか」

 

 同行してもお互い気分は良くないし、さっさと別れた方がいいと思う。

 ただ竜モードを彼らに見せるのは気が進まなかったので、考えた末に光己は海賊たちを船室に押し込んだ上で1人だけ気絶させ、その人だけ縄をほどいた。

 つまり彼が目を覚まして仲間の縄をほどくまでは外の様子を見ることはできないというわけだ。

 

「じゃ、行こっか」

「はい」

 

 光己たちは諸々の支度を終えると、海賊島とやらをめざして船から飛び立った。

 

 

 




 本格的に(ドレイクの)船がいらなくなってきた……。ドレイク抜きでの攻略という珍しい展開になるのか!?
 あと原作でロマニがあまり寝ていないという描写があったので、ここではちゃんと睡眠を取っているという話にしてみました。


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