FGO ANOTHER TALE   作:風仙

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第97話 海賊女王

 魔神・沖田総司は、顔立ちは光己が戦国時代で会った沖田総司ノーマルとよく似ているが、雰囲気や肌の色はだいぶ違う。アルトリアとアルトリアオルタのような関係だろうか。

 それにしては武器まで違うが……しかしそんなことより、彼女からは他のサーヴァントにはない何か、自分との共通点というか縁というか、そんなものを感じる。

 

「―――!」

 

 そして彼女と目が合った一瞬、全身にビリビリッと電流が走るのを感じた。

 彼女もそれを感じたようで、ドレイクの後ろから離れて光己の前に駆け寄ってくる。

 

「今分かった。私は貴方のことを何も知らないし、それどころか自分のことすらよく分からない。しかし私は貴方に会いたくて、いや会うために、か……? とにかくそのためにこの特異点(ここ)に来たんだ」

 

 会いたくてと会うためにではだいぶ意味合いが違ってくるが、本人は分からないようだ。光己としてはそこははっきりして、ついでにその理由も明らかにしてほしいところだが、聞いても無駄に悩ませるだけだろうからやめておいた。

 もし2人が自分のことをもっとよく知っていたら、片や抑止の後押しを受ける者、片や抑止の守護者ということで理解しあえたのだが、光己はともかく沖田にはその辺の自覚がないのだった。

 

「そっか、俺も貴女からは何か特別なものを感じるよ。会えてよかった」

「あ、安珍様ぁぁぁぁ! わたくしというものがありながら、初対面の女性にまるで運命の結婚相手に出会ったかのような言い草をぉぉぉ!?」

 

 すると清姫が泣きながらすがりついてきた。

 

「ちょ!? いやそんなこと言ってないだろ。落ち着けって」

 

 確かに沖田は美少女だしスタイルもいいし、スカート?の裾が短いからノーマルのようにひゅんひゅん駆け回ったらめくれてパンツが見えそうだし、その上何故か服の胸元が三角形にくり抜かれていて立派なおっぱいの谷間を見せつけている。性格も悪くはなさそうだ。

 ぜひ大奥に迎え入れたい逸材ではあるが、初対面でそんなことを口にしたのではない。

 

「しかし明らかに他のサーヴァントの時とは違うお言葉を」

「それは認めるけど、仲間とか同志という意味であってだな」

 

「…………で、アンタたち何しに来たんだい?」

 

 そこにいかにもイラついて不機嫌そうな声色でクレームが来たので、光己はあわてて清姫を引っぺがして謝罪した。

 

「あー、すみません。こんな展開になるとは思ってなかったもので。

 清姫はとりあえず下がって」

「むー」

 

 清姫はまだ納得してはいなかったが、これ以上騒ぐのはさすがにまずいのは分かる。大人しく後ろに引っ込んだ。

 光己が改めて、まずは自己紹介から始める。

 

「えーと。俺たちはカルデアっていう団体の現地派遣部隊で、今はこの海域の異変の調査をしてるんです」

「カルデアぁ? 星見屋が何の用だい? 新しい星図でも売りつけに来たとか?」

 

 ドレイクのこの反応は、彼女が海賊というバイオレンスな生業に反して意外と博学であることを示すものだったが、光己には理解できなかったのでスルーした。

 

「……? いや、どっちかというと情報を買いに来た方で。

 もちろん海賊がタダで情報くれるわけないんで、さっきこの人たちに襲われたけど許してやったお礼代わりにって言うつもりだったんですが……」

 

 光己はそこで一拍置くと、チラリと沖田の方に目をやった。

 

「何故か彼女がこっちに来てくれることになったみたいなんで、別の対価を出そうとは思っているんですが……その前に、ドレイクさんとしては彼女が移籍するのは許せる話ですか?」

「んん? そうだねえ、そりゃ面白い話じゃないけど、沖田はもともと正式な船員じゃなくて居候みたいなもんだし、出て行かれちゃ困るほど人手不足ってわけでもない。本人がそうしたいってんなら止めないよ」

 

 ドレイクは豪放な雰囲気の通り、海賊ながら寛容なところもあるようだ。光己はほっとして本題を再開した。

 

「それじゃ話の続きですね。ドレイクさんはこの海域についての情報……たとえば海図とかどこそこにどんな島があるとか、こんな怪しい出来事があったとか、そういうネタを何か持ってたりします?」

「情報ねえ……なくはないけど、その前にアンタが今言った対価ってやつを見せてもらおうか。いや先によこせとまでは言わないから」

 

 ドレイクとしては元居候の転職先を襲撃する気はないが、騙されて商品―――情報も立派な商品である―――だけ持って行かれるようなハメになるのは認めがたい。まずは先方が持っているブツを見たかった。

 

「ああ、それはそうですね。マシュ、アレ出して」

「はい」

 

 光己はマシュが収納袋から出した小瓶を受け取ると、フタを開けて中身の黒っぽい粉末を手のひらの上に少しだけ振りかけた。

 まずは自分で舐めて毒見をしてみせた後、頭目の口元に持っていく。

 

「味見しろってことか? どれどれ」

 

 求められるままにその粉末を舐めた頭目はあっと声を上げて驚いた。

 

胡椒(こしょう)じゃねえか! 姐御、黒胡椒ですぜこの粉」

「な、何だってー!?」

 

 ドレイクも驚いた。武力だけでなく財力もお持ちとは、なかなかやる連中のようだ。

 なおこの胡椒は光己たちがローマで買ってカルデアに送った食料の一部である。彼はフランスで三角貿易を提案したくらいだから、この時代での香辛料の価値はよく知っているのだ。

 

「それなら知ってるだけのこと教えてやっても問題ないねえ。

 てかそこまで詳しいわけじゃないから貰い過ぎになるかもしれないけど、まあ細かいことはいっか!」

 

 ドレイクは大ざっぱだったが、情報なんて無形かつ状況次第で価値が変わるモノに適正な値段なんてつけられないのだから、交渉成立ということで問題あるまい……。

 

「ええと、まずここから北東に100キロくらい行った所にこの島より一回り大きな島があったね。で、そこから北北西に150キロくらい行くともっと大きい島がある。

 1つ目の島はここと同じような無人島だけど、2つ目の島は周りに見えない壁みたいなものがあって上陸できなかったから内実は分からなかったよ」

「へえ……」

 

 おそらくはサーヴァントもしくは聖杯絡みだろう。いい話を聞けた。

 

「アタシたちは西の方から来たから、ここより東のことは知らない。

 西には他にも島があったけど、嵐に巻き込まれたからここからの距離は分からないねえ。何かこう、パズルみたいにいろんな地方の海を切り取ってはめこんだような所だし」

「なるほど」

「確かにおかしな所だよ。アタシたちにとっては面白おかしいって意味だけどね。

 ただ問題は、この海には『無敵の超人』がいるってことさ」

「無敵の超人?」

 

 この女傑をして無敵と言わしめるとは、2つ目の島の住人以外にもサーヴァントがいるようだ。

 

「うん、どんな手品使ったのか分からないけど、大砲の弾が当たったのにピンピンしてやがったからね。

 アンタたちが星見屋ならこの海を調べたいのは分かるけど、せいぜい気をつけな」

「ん、ありがとう」

「…………っと、アタシらが知ってることはこのくらいかねえ?

 野郎ども、何か他にあったっけ?」

「アレを忘れてますぜ姐御! ウチらが自称ポセイドンを海の藻屑にしてやったあの大冒険を」

「おお、そういえばそんなことがあったねえ。済んだことだから忘れてたよ」

「自称ポセイドン?」

 

 ローマで会ったステンノやパールヴァティーのようなはぐれ神霊サーヴァントなのだろうか。

 海賊たちの説明によると、ある日突然海に大渦が現れ、そこからかの有名な沈没都市アトランティスが出現したらしい。

 その沈没都市と一緒にこれまた有名な海神ポセイドンが現れて、「今一度洪水を起こして文明を一掃する」といったようなことを言ってきて戦いになったが、すったもんだの末にポセイドンとアトランティスはともに海の底に沈んでいったそうだ。

 

「…………???」

 

 何をどうすればそうなるのか光己たちには見当もつかなかったが、海賊たちは真顔で語っており、清姫も反応しないので嘘は言っていないようだ……。

 

「で、戦利品として手に入れたのがこの金のジョッキってわけさ。

 金で出来たジョッキなんて悪趣味だが、コイツは別だよ。

 何しろテーブルに置けばあら不思議、酒と肉と魚がドカドカ盛られていきやがる。こんなご機嫌なお宝は他にないんじゃないかねえ?」

「―――!?」

 

 光己たちの目が一瞬点になる。

 ドレイクが言う金のジョッキが彼女の体の中から出てきたのもだが、彼女がその金ジョッキを傾けると本当に酒が湧いて出てきたのだ。

 それに何より、あのジョッキから感じる気配―――!

 

《マスター! 今ちょっと探査プログラムの調子が悪いんだが、計器に狂いがなければ君たちの目の前に聖杯が現れたことになってるんだがどうなってるんだ!?》

 

 そこにエルメロイⅡ世が珍しく泡喰った口調で連絡を飛ばしてきたので、やはりドレイクが持っているジョッキは聖杯で間違いないようだ。

 まさか特異点入りしたその日に聖杯が見つかるとは何という幸運! 光己はさっそく〇してでもうばいとる、もとい金ジョッキを譲ってもらう交渉を試みた。

 

「えーと、ドレイクさん。つかぬことを伺いますが、その金のジョッキっておいくら万円くらいするんでしょうか……?」

 

 光己にはローマでネロ帝にもらった金貨があるので金銭で対価を支払うことも可能といえば可能なのだが、ドレイクはこのジョッキだけは売る気がないようだった。

 

「んん? これに目をつけるとはなかなかお目が高いね。

 でもこれは今言ったように最近じゃ1番ご機嫌なお宝だからね、いくら金を積まれても売る気にはならないねえ」

 

 そこでドレイクはいったん言葉を切り、海賊らしい獰猛な笑みを浮かべた。

 

「でもアンタらの顔つき見ると何か事情があるみたいだし、どうしても欲しいなら腕ずくでくればいいんじゃないかい?」

「おおぉ、これが海賊脳か……」

 

 光己は(基本的には)平和的な性格の一般市民だから、創作ならともかくリアルの海賊はあまり好きにはなれないのだが、ドレイクのこの発言にはいっそ清々しさを感じてしまった。

 しかし彼女は酒で酔っているからか、敵の強弱を見る鑑識眼は曇っているようだ。さっきの話が事実なら船戦は超強いのだろうが、陸の上ではどう考えてもこちらの方が強い。光己は彼女の話に乗ることにした。

 

「分かった、それでいいなら話は早い。

 んじゃその前に」

 

 戦うことになったので敬語はやめてタメ口でそう言うと、胡椒の小瓶を彼女の方に放り投げ、ついで人質にしていた頭目も解放した。

 ドレイクが不思議そうに訊ねてくる。

 

「んん? 腕力で決めることにしたのにわざわざ貴重品をよこすのかい?」

「ああ。俺たちは海賊じゃないのに海賊の真似事するんだから、せめて義理は果たしておこうと思ってね。だから彼女にも参加させない」

 

 彼女とは沖田のことである。名前はもう知っているが、自己紹介はまだしていないので口に出すのは避けたのだった。

 

「へええ、ずいぶんと紳士じゃないか。

 それじゃこっちも紳士、いや淑女的にいこうかね。総がかりじゃなくて大将同士の一騎打ちってのはどうだい」

「ファッ!?」

 

 何ということだ。この大海賊、無意識かもしれないが有利な方式を指定してきたではないか!

 少なくとも総力戦よりは一騎打ちの方が勝てる可能性が高いのだ。

 

「で、そっちの大将は誰だい? 黒い鎧の娘か、それとも白い貴婦人サマかい?」

 

 ただドレイクは光己を大将ではなく交渉役だと思っているようだが、比較対象が伝説の騎士王なのだからむしろ当然のことだろう……。

 光己としてはこのまま騎士王のどちらかに任せるという手もあったが、そうすると後でまずいことになりそうな気がしたので正直に名乗り出ることにした。

 

「いや、大将は俺だから。総がかりだと死人が大勢出かねないし、確かに一騎打ちの方が紳士的だな」

「え、アンタが大将だったのかい? そりゃ悪かった、まだ若いのに大したもんだねえ」

「先輩、本当にやるんですか?」

「ああ、万が一ヤバくなったらお願いな」

 

 光己はマシュに小声でそう言うと、紳士的かつ淑女的に海賊式決闘ということでドレイクの後について開けた場所に移動した。

 5メートルほど離れて向かい合い、その真ん中に審判として縄をほどいてもらった頭目が立っている。少し離れてカルデア勢と海賊たちが取り巻いていた。

 

「それじゃあー、フランシス・ドレイク対藤宮光己の決闘、始めえっ!」

 

 頭目がそう言って後ろに下がった直後に、ドレイクが腰に差した2丁のフリントロック式ピストルを両手に構える。光己は万が一に備えて、両腕を上げて頭部をかばった。

 そういえばこの時代にあんな銃あったっけと光己は思ったが、目の前にあるものは仕方がない。

 

「そーらよっ!」

 

 ドレイクが光己のガラ空きな胴を狙って発砲する。光己はサーヴァント並みの身体能力を持つとはいえ銃弾をかわせるレベルには至っておらず、弾は2発とも命中した。

 ちょっと痛みを感じたのは、彼女は聖杯の持ち主なので弾にも強い魔力がこもっているからか。しかし体に傷がつくほどではなく、弾はそのままぽろりと地面に落ちた。

 

「あれ? 今当たらなかった?」

「当たったけど、俺は頑丈さだけなら貴女がいう『無敵の超人』より上だから。そいつらを大砲で倒せなかったなら、拳銃じゃなおさら無理だよ」

 

 間の抜けた声で訊ねてきたドレイクに光己がそう答えると、豪胆なドレイクもさすがにちょっと青ざめた。

 

「姐御、殴り合いをするつもりなら気をつけて下せえ! そいつは炎を操る魔男ですが、炎なしでも俺が指一本触れられなかったくらい素早えですから」

「そういうことはもっと早く言うもんだよ!」

「すんません、でも姐御なら勝てると信じてやす!」

「……」

 

 熱い信頼は嬉しいが、度を超すとちょっと重たい。

 それはともかく、銃が効かないほど頑丈で魔術まで使えるのなら窒息させるくらいしか勝ち目はなさそうである。口をふさげば炎を操る魔術の呪文も唱えられないだろうし。

 なお光己が炎を出すのに呪文や動作は要らないが、それはドレイクには分からない。

 

「いくよっ!」

 

 ドレイクが銃をホルスターにしまい、素手で光己に襲いかかる。

 

「速い!?」

 

 聖杯の力なのか純粋に当人が強いのか、ドレイクはローマで会ったネロ帝にも匹敵する速さだった。光己は炎で迎撃するのは間に合わず、掴みかかってきた手をとっさに腕で払うと同時に彼女の横面に手刀を放つ。

 するとドレイクはもう片腕を上げてガードし、そのまま前のめりに頭突きを喰らわせてきた。

 

「おぉっ!?」

 

 額と額がまともにぶつかり、いかにも痛そうな音が響いた。

 いや光己は別に痛くなかったが、明らかに女性離れしたパワーで後ろに吹っ飛ばされてしまう。

 

「まだまだこれからだよっ!」

 

 ドレイクの方は相当痛かったはずなのにそんな素振りはまったく見せず、よろめいた光己を押し倒してマウントを取るべく間合いを詰めた。両肩を掴んで体重をかけるが、それと同時に顔に火を吐かれて驚いた隙に逃げられてしまう。

 

「熱つつつつつっ!? 魔術って呪文とか要るんじゃないのかい?」

「いや、俺のは魔術じゃなくて特殊能力だから。

 しかしドレイクさん強いな!」

 

 ドレイクが顔についた火をはたいて消そうとしているのは分かりやすい隙だったが、光己の方もびっくりして気が動転したのでつけ入る余裕はなかった。

 先に立ち直ったドレイクが再び突撃するが、光己は今度はサイドステップして逃げることができた。

 

「これは長引いたら怖いな……アレをやるしかないか」

「何か大技でも出す気かい?」

 

 接近戦を挑むしか手がないドレイクがまた飛びかかるが、光己は避けずに踏みとどまった。そして精神集中し、全身から炎を放出する!

 

「な!?」

 

 ドレイク視点だと光己が自分から火達磨になったように見えたので仰天したが、光己は火竜だから自分が出した火は平気である。反射的に足を止めたドレイクに体当たりして、そのままがっぷり組み合う形になった。

 

「あーつーいー!?」

「負け認めた方がいいんじゃないかなあ?」

「分かった、降参、こーうーさーんー!」

 

 いくらドレイクが女傑でも、火達磨になっている人間に組みつかれては意地は張れない。いさぎよく敗北を認めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「いやあ負けた負けた! ここまで完璧に負けると文句のつけようもないねえ!

 でもアンタ、何で最初から最後のアレやらなかったんだい? やっぱり自分も熱いとか?」

 

 ドレイクは全身火傷を負っていたが、玉藻の前の治療によりほぼ治っていた。多少痕が残っているが、しばらくすれば綺麗に消えるだろう。

 

「いやそれは平気。でも上着は耐火仕様だけど下着が燃えちゃうんだ。

 着替えはあるけどあんまり余裕はなくてさ」

「そ、そうかい」

 

 なるほどそれでは多用できない。ドレイクも頷くしかなかった。

 

「それじゃ、約束通りジョッキもらえる?」

「ああ、アタシに二言はないよ。持ってきな」

 

 ドレイクは惜しむ様子もなく、胸元からジョッキを出すと光己に投げてよこした。

 光己がそれをキャッチしたら、聖杯の所有権が移転したことになる。

 

「よし、ねんがんの聖杯をてにいれたぞ!

 本当に1日で仕事が終わるなんてぶぶ漬けおいしいヤッター!」

 

 よほど嬉しいのか意味不明なことをテンション高めに放言しつつ、万歳のポーズでジョッキいや聖杯をかかげる光己。

 しかし何も起こらなかった。

 

「………………あれ?」

 

 ラスボスに勝って聖杯を奪取したのに何故だろう。フランスの時だってジルを倒したら修正が始まったのに。

 試みに聖杯に特異点修正を始めるよう命じてみたが、やっぱり何も起きない。

 

「Ⅱ世さん、聖杯ゲットしたのに何も起きないんですが理由分かります?」

 

 仕方ないので知恵袋に意見を求めてみると、Ⅱ世も確証はないのか推測だと前置きした上で見解を述べてくれた。

 

《おそらくその聖杯はレフ、いや魔術王がこの時代に投入したものではないのだろう。

 この海域が特異点と化した影響で、アトランティスにあったその聖杯が起動したんだと思う。それでアトランティスが浮上してポセイドンが出現したというわけだ》

「つまりこの特異点を修正するには、これとは別に魔術王製の聖杯を探さなきゃいけないってことですか?」

Exactly(そのとおり)

「何てことだ……」

 

 まさかヌカ喜びだったとは。地面に「九」の字になってうなだれる光己。

 

「まあ仕方ないか。いつまでも居座ってたら迷惑だろうし、用は済んだから出発しようか」

 

 しかしやがて気を取り直してマシュたちにそう言うと、ドレイクが声をかけてきた。

 

「おや、もう行くのかい? いや止めはしないけど、そういえばアンタたちどうやってこの島に来たんだい」

 

 ドレイクの船はガレオン船としては大きな方ではないが、それでも乗組員は70人前後いる。いくら魔男魔女の集団でも、たった10人で船は操れまい。

 

「ああ、カルデアの技術でワープしてきたんだけど、ここからは……そうだ、魔力リソースが手に入ったならいい手があるな。

 ルーラー、宝具頼む」

「なるほど、聖杯があるなら問題ありませんね」

 

 幸い目の前に船着き場がある。ルーラーアルトリアは桟橋の端までいくと、海の方に手をかざして宝具を開帳した。

 

燦々とあれ、我が輝きの広間(ブライト・エハングウェン)

 

 すると海面にいきなり船が現れる。大きさはドレイクの船と同じくらいで、純白で優美な白鳥のごとき佇まいだ。

 

「おおおおおっ!?」

 

 ドレイクたちの驚くまいことか。思わず目をこすって何度も見直したが、間違いなく白い船はそこに浮かんでいる。

 

「うーん、これはたまげた。ただの星見屋だと思ってたけど、カルデアってすごいんだねえ。こんな綺麗な船を見られるなんて、いやあ眼福眼福。

 アタシに勝ったんだから心配なんかいらないだろうけど、仕事がうまくいくよう祈ってるよ」

「ありがと、ドレイクたちも元気でね」

 

 こうして別れの挨拶をすませると、光己たちは船に乗り込んで出航したのだった。

 

 

 




 本当にドレイクたちと別れてしまいましたが、彼女がこのままフェードアウトするかどうかはネタバレ禁止事項であります。
 守護者勢は基本的に主人公に好意的もしくは同情的です。特にエミヤは「いいか、死んでも守護者にはなるなよ。いや守護者になるのは死ぬ時なのだが」とか言って親身に忠告してくれますが、それゆえに派遣されてくる可能性は低いですw



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