五百年の約束   作:シバヤ

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第16話

 

まずはそうじゃな……吾輩と智之について話そうか

久遠も記憶があるとはいえ、智之のことはあまり知らんじゃろ?

 

吾輩と智之は同じ年に生まれてな、家が近く今で言う幼馴染の関係であった

昔は子ども達も働いておって、智之も自身の家を継ぐためよく鍛冶場にこもってたこともあったんじゃが、あやつは吾輩たちの方にも顔を出し、手伝いまでしてきたのだ

 

「智之、何故こっちも手伝うのだ?1人でそんなに働いては倒れてしまうではないか」

「んなもんお前、早くみんなで遊びたいに決まってるからだろ。さすがにずっとってな訳にはいかないけど、儂は少しでもみんなと遊びたいしな!にっしっし!」

 

などという理由で村の誰よりも働いておった

責任感があるのか、何か失敗しようとも全て1人で背負おうとしおって、まさに今の久遠とそっくりだったのだ

でもそのおかげで大人たちからは頼りにされ、子どもたちからも兄貴分として信頼されておったのだよ

そして吾輩もいつも智之の隣におった……というか毎度毎度連れてこられたと言った方がいいのか?

何しろあやつは

 

「お前が一緒におらんと楽しいものもつまらん。だから儂と一緒におってくれ」

 

と言って引っ張るのじゃ

でも吾輩は悪い気はしなかった。むしろ智之と一緒にいることを楽しんでおったのだ

 

その時代、操真家は村の小さな鍛冶屋でな

まだ歴史が浅かったとはいえ、その腕は中々のものだった

そして智之はまさに天才と言うに値する才を持っておったな

村の誰もが『神童が現れた』だの『神様の腕を持ってる』だの言っておった

それに対して智之は

 

「余り期待されるのもたまったもんじゃねぇ、こちとら気楽にやりてぇもんだ。むしろお前の一言の上手いってだけで儂は十分だ」

 

と吾輩に愚痴を言っておったのう

その時には気が付かなかったが、智之は吾輩にしか愚痴を言っておらんかったのだ

 

それからこんなこともあったのだったな

あやつと吾輩が子どもたちの面倒を見ておったときに

 

「2人は夫婦にならないの?」

「なっ、なななな何を言っておるのだ!?」

「だって母様(かかさま)父様(ととさま)みたいに仲がいいのにいつまでも祝言を挙げないのがおかしいんだもん」

「ああ、それは儂が未熟者だからじゃ。まだ儂程度の小僧じゃ女子1人幸せにできん。それにまだ一人前の職人とも言えん!夫婦になるからには幸せにしてやりてぇもんだからな!そもそも相手がおらん!あっはっはっ!」

「と〜も〜ゆ〜き〜!」

「お、おおぅ?なぜ怒っとる?笑った顔の方が似合ってるぞ?」

「こんの阿呆がー!」

 

ということを話したのじゃが……今思い出すと吾輩が怒った理由は恥ずかしいことではないかぁ!

……むぅ、久遠に文句を言っても仕方がなかったな、すまぬ

まあこのように喧嘩もしたりしつつあったが、決して仲が悪うことはなく楽しく日々を過ごして行った

 

だが、久遠も知ってるように流行病が広がり、吾輩も病にかかってしまった

そうして、吾輩は人柱になることを選んだのだ

人柱になる前夜に宴があり、村中の者が会いに来て礼を言う中、智之だけは泣いておったのだ

愚痴は何度も言っておったが、涙は決して流さなかったあの智之が

 

「儂が、絶対に作り上げてみせる!病魔だろうが怨念だろうが、全てを断ち切ることが出来る刀を! 」

「きっと智之ならできる、病気がなく、皆が笑えるようにしてくれ。綾との約束だ」

「ああ、約束だ!何代にわたるかわからねぇが絶対に!……なぁ、その、綾も役目を終えて、儂も生まれ変わってたら……その時は儂と────祝言を挙げてほしい。儂と夫婦になってくれ」

「今、ここでそれを言うのか?この馬鹿者め」

 

そして、最後に約束をし、吾輩は人柱として叢雨丸の管理者になったのだ

その後も智之を見守り続けていた

年月が経ちあやつも結婚し、1人の父親となった

けれどあやつは吾輩との約束を守るために、ひたすら刀を打ち続け、名刀という名刀を作り上げてはまた刀を打ち始めた

 

「違ぇ!儂が求めてるのは人を斬るためのもんじゃねぇ!儂は惚れた女との約束すら守れないのか……?御神刀である叢雨丸、あれより上を作るとなると神を超えねば……いや、超えるしかねぇんだ。

人が神を超えられないなんて道理がどこにありやがる!そんなもん儂が覆してやる!」

 

自分を削ってまでただひたすらに刀を作りあげる姿には、今までの面影が見つからずとても見ていられなかった

そこから吾輩は智之から距離を置いてしまったのだ……

そこからさらに年月が経ち、智之の息子も立派な大人になってもあやつは刀を作り続けてた

それは村中の人が話してたのを聞いてしまったのだ

けれど少しして、あやつは外に出た。今までほとんど出てこなかったというのに

そこからの智之は息子に技術を教え、村中の人と笑いあっていて、吾輩も昔を思い出してるようだった

けれどその時にはもう衰弱が始まってしまってたのだ

誰よりも元気でいて、その明るさを周りに与え、流行病どころか風邪などの病魔すら払いのけてた奴が……だんだん痩せこけて、酷く弱っていってしまった……

 

そして、あれは夜なのに暖かい風が吹いていた満月の日──

 

「すまねぇな……お前達にはいろいろ苦労をかけちった……けほっ!」

「旦那様!もう休んで下さい!」

「いや……俺はもう死ぬのがわかるんだ……クソがっ、約束が果たせると思ったが──けほっ、ごほっ!」

「父上!」

「はぁ……はぁ……いいかっ、俺だけは山の中に埋葬するんだ。お前たちにも、村の連中にも移せるわけにはいかん。だから墓の場所は操真の者だけが分かるようにするんだ。それともう一つ、何代かかるかわからん。でも人柱になったあの子、俺の大切なあの子を救ってやってくれ」

「……はい!このことは何代にも、この先の子孫にも伝わるように必ず!」

「そうか……それなら後を託して逝ける……」

 

最期まで本当に吾輩のことを思ってくれてた……

でも死なせたくない、そう思い必死になって呼びかけてたのだ

 

「智之!お主は死ぬでない!こんなところで終わるでない!」

「……そう泣きそうな顔をすんなよ」

「智之……?お主、綾のことが見えて……」

「当たり前だ。最初は見えてなかったが……アレが出来上がってからは見えるようになったんだ。お前はいつも見守っててくれてたんだな」

「もう喋るではない!少しでも休むのだ!」

「儂はもう死ぬ……だが、約束通り絶対生まれ変わって……お前の前にきてやるよ。そんな時まで……待っててくれるよな?」

「うむ!いつまでも待つ!だからもう──」

「最期に、話せて良かった……綾……」

「智之?目を……目を開けるのだ!智之!……うっ、くっ…………うわあああああん!」

 

その日、操真智之は亡くなった

吾輩はその現実が信じられず、留めていた感情が抑えきれず泣いてしまった

本当なら、吾輩の家族となるかもしれなかった者の死が辛くて……

智之の死に村中の人々は嘆き、悲しみ、涙を流しておった。あやつは誰からも好かれておったのだ

そして墓は山の中に作られ、今でも墓の場所を知るものは操真の者と吾輩だけなのだ

これは朝武の者でさえも知らない

さて、ここまでが吾輩と智之の話。次に話すのが久遠、お主のことだ

 

智之亡き後、吾輩は村と共に操真の者達をずっと見守ってきた

智之が残した血筋、失うわけにはいかぬと思ってな

久遠の先祖たちは皆、教えの通り自らを強くし、代々名刀や農具など生活を豊かにする物を作っていき、遺言を守り吾輩のためにいろいろなことを考えてくれてたのだ

そしてもう何百年と経ち、吾輩は新たな操真の血を継ぐ者の顔を見に行ったのだ

 

「ふむ、この子が新しい操真の子か。何やら女子のような顔をしておるのう。要ではなく千早似じゃ。それに名も久遠と千早はまた可愛らしい名を考えたのう」

 

今までの子とは違い、聞いておらんかったら女子と思ってしまうほど可愛らしかった

だが違うのは顔つきだけではなかった。久遠は吾輩の方をじっと見てたのだ

 

「まさか……な、ただの偶然であろう!このように手を左右に振っても追いかけるはずが……」

 

吾輩は久遠の前で手を何度か振ってみせた

するとその手をちゃんと見ていて、きゃっきゃっと笑いおったのだ

その時の吾輩は喜びと恐怖を感じてたのだ

喜びはこの子が智之の生まれ変わりであること

恐怖は吾輩の姿が見えたのは偶然であり、この子も智之と関係がないってこと

子どもは7つになるまで神の子という言い伝えもある。操真の血を受け継いでるなら奇跡的にそうなることもありえるだろうし、吾輩は智之が生まれ変わるってことを信じきれておらんかったのだ

いくら智之とはいえ人の子。人が記憶を持ったまま生まれ変わるなどそんなことできもしないと……

吾輩は赤子である久遠の前から逃げるように去り、そこから久遠の前に姿を現すのが怖くなってしまったのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのに祭りが始まる前日、感じ取れなかった智之の気配を感じ取り、祭りの日にはお主が物の声を聞け、吾輩の気配が感じ取れると知り、智之の生まれ変わりと確信したわけだ」

「だから初めて会った時も俺の名前を知ってたわけだし、『やはり見えるのだな』と姿が見えることがわかってたんだな」

 

この話を聞けて良かったと俺は思った

ムラサメが智之様の事を、智之様がムラサメの事をお互いどれだけ大切に想っていたのかが、身に染みるほど伝わってきた

 

「久遠よ、今まで悪かったな。あやつは約束を果たすためにどれほどの努力をしてきたと言うのに……吾輩はお主から逃げてしまって──」

「お前はなんにも悪くはねぇ」

「……久遠」

「智之様に気が付かなかったのも仕方がないんだ。智之様は死んでから天国でも地獄でもない無の狭間をさまよってた。その中、生まれ変わりである俺が生まれ、ようやくこの世に戻ってこれたんだが、その魂は酷く傷ついてた。多分赤ん坊の時に見えたのは俺の中に入ってすぐだったからだと思う」

「では今までわからなかったのは……」

「それまで魂が眠ってたからだ。物の声が聞こえてたのは眠ってるとはいえ俺の中に智之様の魂があるため。数十年と時が経ったから癒され、あとは目覚めるだけだった。その時にお前を見たのがきっかけで魂が目覚めたんだ」

 

だから俺もムラサメのことを夢でしか見たことがなく、お互い今まで気配を感じ取れるほど近くにいたのにわからなかったんだ

 

「だから祭りの日には吾輩のことを感じ取れておったのか?」

「ああ、そしてお前と初めて会う前に魂が一つになったんだ。だからムラサメが謝る必要なんてない。お互いがお互いわからない状態だったんだから」

「吾輩を……許してくれるのか?」

「──ていっ」

 

俺はムラサメに思いっきりデコピンを食らわしてやった

 

「あうっ!いきなり何をするのだぁ!」

「許す許さないも何もお互い分からなかったんだから仕方がなかった、もうそれでいいだろ。それに──」

「くっ、久遠!?」

 

俺はムラサメを抱きしめていた

体が勝手に動いちゃったというやつだ

 

「こうして今はそばにいるだろ」

「……うむ、そうだな」

「もう少しだけこうしてていいか?今まで感じれなかった分、お前の温もりを感じてたい」

「吾輩も、もう少しでよいからこうしていたい」

 

俺たちは、少しの間だけどお互いそばにいるということを少しでもわかるように抱きしめあっていた

その日の夜は、いつもより暖かかい風が吹いていた満月の日だった





ムラサメちゃんと久遠の先祖である智之がどういう関係かを書いてみました
全部オリジナル設定ですのでご了承ください
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