「……もう朝かよ……」
ここ数日……いや2、3週間も全く寝れてなかった
何が原因かと言うと。レナさんから欠片をもらったあの日の夜、将臣と話したことについてずっと思いつめて考えてしまってたからだ
恋ってなんなんだよ……人を好きになるってどんなんだよ……
いくら考えてもわからないけど、それでもわかったことはある
俺は……ムラサメを気にしてしまってるのは確かなんだ
あの夜から何回かお祓いをしたが、その時にも目が彼女の方に行ってしまってたこともある
でも今は、欠片を一つにすることに集中しなきゃ……
重い足でようやく学院に着く
何回かランニングしてない日があるから朝から活発にってなれない
なんか調子が出ないなんて初めてかも
「おはよう、久遠」
「ああ。将臣おはよう」
「大丈夫か?なんか疲れた顔してるけど」
「いや、気にするな。俺は大丈夫だから」
「それならいいんだけど……それより今日の夜」
「お祓いだな。わかった」
疲れてるからなんて言い訳はしない
俺なんかよりも苦労してる人がいるんだから
「あとそれと」
「ん?」
「──いや、なんでもない」
「そうか。でも気になったことがあれば言ってくれ」
なんか気がついたけど本人がわかってない状態ってことかな
将臣のことだ。気がつけば教えてくれるだろう
授業中も将臣は何かを気にしていて授業に集中できてないようだった
そして時間が経ち、夜──
「はぁっ!」
都牟刈村を鞘から抜き、こちらに攻撃してくる触手を、未来予知で速い順番から断ち斬り、的確に攻撃を防ぐ
「将臣!巫女姫様!」
「わかった!」
「はいっ!」
俺が守り、隙を作ったらこの2人に攻撃の役割を担ってもらう
俺は常陸さん程ではないが動きが速い方で、何よりも数秒先、危険な出来事はより確実に早く見える未来予知がある。防御の役割をするのにうってつけだ
攻撃だって先が見えるから当たらなければ問題はない
巫女姫様は鉾鈴の先端を、祟り神に向けて相手の懐に駆け込む
将臣も大きく踏み込み間合いを一気に詰める
「このぉぉぉぉっ!」
「やああっ!」
将臣が触手を根元から斬り飛ばし、触手を失った祟り神が新たな動きを見せるよりも早く、巫女姫様が鉾鈴をその身体に突き立てる
泥のような黒い塊が震え、先ほどの触手同様、霧散していった
「はぁ……はぁ……」
穢れを祓った巫女姫様の頭から、ゆっくり獣の耳が消えていく
無事お祓い完了だ
「ふぅ……今夜も無事に終わったな。っと、ノイズが聞こえるから欠片もちゃんと落ちてるな」
将臣が欠片を回収したのを確認
……あいつ日に日に欠片に関して敏感になったというか、この暗闇の中でも見分けられてる
俺は音を頼りにすれば視覚に頼らなくても大丈夫だが、将臣は普通の青年だ
やっぱり、あいつに最初にあった時に感じた物が影響してるのか
「それじゃあ帰ろうか。常陸さんが心配してるよ」
「茉子は心配しすぎなんですよ」
「まあそう言わず。逆の立場になれば常陸さんの気持ちもわかるはずですよ」
そう。今は俺、将臣、ムラサメ、巫女姫様の4人で常陸さんは留守番をしている
正直言えば、俺としては将臣にも留守番してて欲しいんだけどな
だが、怪我が治りつつあっててもその強さは確実に出てきていた
……俺ももっと強くなんないと
「ただいま」
山から下り、俺も巫女姫様の家に上がらせてもらう
さすがに都牟刈村を使ったあとってかなり疲れるからな。多少でもいいから休憩が欲しい
「芳乃様!有地さん!ムラサメ様に操真君も!ちゃんと無事に戻ってきてくれたんですね!よかった……よかったぁ……」
心底安心したって見える
俺たちが山に行ってる間、相当心配してたんだろうな
「だから心配し過ぎだってば」
「だって……どうにもこうにも落ち着かないんです。待つだけなんて……」
それは……わかる気がする
俺の場合は動いても変わらなかったけど……
「有地さんやムラサメ様、それに操真君も一緒だから平気よ」
「久遠の守りもあるし、芳乃とご主人も、ちゃんと連携が取れるようになってきたしな」
「わかってはいても、どうしても気になってしまうんです……本当、心臓に悪いです」
「怪我の具合はどうですか?確かまだサポーターを付けてるとお聞きしましたが」
「一応。明日の診察で取れる予定です。もう治ってるのに……」
「はぁ……みづはさんの言うことには従わないといけませんよ?」
医者の言うことは絶対……とまではいかないが、素人が判断するよりも正しい
それに俺たちはみづはさんの人柄を知ってるからな。みんな信用してる
「……それはわかっているんですが……いえ、そうですね。グチグチ言っても仕方ありませんね。それにもうすぐなんですから。それで、憑代の方はどうでしか?」
「うん、この通り。ちゃんと見つかったよ」
「……。ちょっといいですか?」
「どうぞ」
常陸さんは手に持って憑代を見つめる。何か気になることがあるのか?
「この白い靄……少し濃くなっている気もしますね。そういえば、こうして過ぎ憑代が集まると……気配も変わったりするものなんですか?」
「うむ。気配は強まっておる。以前なら間近でなければわからなかったが、今は多少距離があっても感じられる」
「でしたら、もしかして……芳乃様や有地さんも感じ方に変化があるんでしょうか?それと操真君も声が聞けたりとか」
「この大きさなら多少は……」
「────」
「ん?」
今、誰かの声がした?
今ここにいる人の声ではなかったけれど
「どうかしたのか?」
「いや……気のせいか」
うん。なんとも反応がない
空耳か気のせいだったのかもな
「ご主人、昼間山から下りるとき、呼ばれたような気がすると言っておったな?」
「お前も声が聞けるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。実際に声が聞こえたわけじゃないから、あくまで“気がする”だぞ?」
「もしかすると、それは祟り神のものではないか?」
「そういえば、芳乃様の耳も同じタイミングでしたね」
「偶然と言うには、少々出来過ぎのように思うのだ」
「手元に憑代があるから……かな?」
「今ここで、改めて確認してみては如何ですか?」
将臣は常陸さんから憑代を受け取り、ギュッと握り込む
そして集中するように、目を瞑る
さて、どう出るか?
「なんか一瞬、憑代が熱くなって……不思議な光が見えた──気がしないでもないような」
「煮え切らんのう」
「本当に些細な感じだったんだ。憑代が熱くなったのだって、単に俺が握りしめてただけな気がするしさ」
確かに、憑代に何か反応は見受けられない
「他に気になることは、何もないなぁ」
「では次は、芳乃様でしょうか」
「俺じゃないんですか?」
「操真君は憑代が大きくなるほど、変化を感じ取れてます。なら最後により詳しくした方がいいかと思いまして」
「わかりました。そういうことなら」
確かに音は大きくなって、声に似て来た感じもする
なら今回は少し深めに意識を集中してみよう
「以前、憑代に触れた時はどうであった?」
「えっと、確か……安心できたと答えたと思うんですが……」
「診療所ではビリっとしてませんでしたか?」
「ぅっ。ビリっとするのは……ちょっと怖い……」
前の反応はどっちかっていうと痛みよりもビックリって感じだったから、それが怖いんだろう
「こういう度胸試しみたいなのは苦手なのですが……」
「怖いなら、止めとく?」
「いえ、これも重要な確認ですから……んっ……んんんーーー……」
指は伸ばしているが、抵抗するように身体は距離を離そうとそらしてた
やっと指が欠片にチョンッと触れると──
「……どう?」
「あ……普通です、特に何もありません。はぁ……よかった」
「そっか」
「むっ、なんだか残念そうじゃありませんか?」
「ああいやゴメン、今のは言い方が悪かったと思う、ごめんなさい」
「もう……本当に怖いんですからね」
なんてまるで夫婦漫才のようなものを見せつけられた
もうそんなに仲いいなら婚約すればいいのに……と、思っておくだけにしとこう
巫女姫様は欠片を手に取り、手の平に包み祈るように目を閉じる
だいたい1分ぐらいした時、ゆっくり目を開ける
「私も特に何も……」
「そうか。まあ、変化がないというのは順調の証かもしれん」
「確かにそうかもしれませんね。欠片を集めて、怒りが鎮まってきているのかも」
「それでは最後に、操真君にお渡ししますね」
俺は巫女姫様から憑代を受け取る
欠片が合わさってもうそれなりの大きさになってるはず
「触った感じは……特に何もないな」
「ではいつも通り、何か聞けるか試してみてくれんか?」
「ああ、わかった。それじゃあ……」
俺は目をつぶり、いつもより意識を深く潜り込ませるように集中する
この方法でやれば刀なんかは大抵のことがわかるし、都牟刈村の性質も聞き出せた
つまり俺が最大限に聞き出す方法なんだけど
…………何も聞こえない
というかノイズや何か音すらも聞こえなくなった
どうなってるんだ?
「すまない、俺も何も変化は……あれ?」
誰もいない……?
おかしい、さっきまでみんないたっていうのに
というかいつ夜が明けたんだ?全く暗くないんだけど
「ムラサメー!将臣ー!……本当に誰もいないのか?巫女姫様ー!常陸さーん!」
誰からも返事がない
あの一瞬でみんながいなくなるはずがないから……俺が神隠しか何かにあったとか?
とりあえず、外に出てみるか
……うん、見た目は建実神社だしどこかに移動したってわけじゃないけど、どうなってるんだこれ
街の方に下りていけば人に会えるかもしれないけど、なぜか山の方で呼ばれてる気がする
今は山に向かってみるか
それにしても、人の気配どころか動物の気配もしないし俺だけしかいないんじゃないかって思える
いや、何か気配がする!これは……人でもない。むしろそれは神々しく、この世のものでは無いものだ
山の中を進むと、1人の金髪の女性が立っていた
「す、すみません」
俺が声をかけるとこっちを振り向くが……その姿はレナさんに似ていた
「あなたは?どうやってここに?」
「俺は操真久遠。どうやって来たのかはわからなくて」
「操真……?あなたもしかして刀を打ち直したりしたことが?」
「いえ、刀なんて作ったことすら。俺のご先祖様なら何人も刀と関わったことがあります」
「そう。ならあの人の子孫なのね」
あの人?俺のご先祖様の誰かを示してるんだろうか
「えっと、あなたは一体?」
「私は──」
名前を言ったのだろうか?その部分だけが聞き取れなかった
この神々しい雰囲気、俺のご先祖様のことを知っている。もしかして書物に記してあった金髪の、玉石から生まれた女神様なんじゃないか?
「ねえ、1ついいかしら?」
「は、はい」
「弟のことを頼みたいの」
弟?
書物通りなら犬神が弟ってことになる
つまり、憑代を集めてその怒りを沈めてほしいってことかな
「俺が、俺たちが何とかしてみせます」
「ありがとう。なら私の力をあなたに貸してあげるわ。最初は少し辛いと思うけど。それともう時間ね、神の力を使ってるあなただからこっちに呼べたの」
神の力ってことは都牟刈村を使っているからしかない
それに智之様が神に触れられたって同じような力を持つ存在だったからなのか
もっと聞きたいことがあるけど、時間なら仕方がない
それにお願いされちゃったからな。それを俺が叶えてあげないと
「──ん!おい久遠!」
「っ!」
将臣の声でハッと目覚める
周りにはみんなちゃんといる
「みんな呼びかけたけど何の反応もしなくなったし、何があったんだ?」
「あれは、意識だけが憑代の中に入ったのかな。そして俺は神に会ったんだ」
「神って、もしかして犬神のことか?」
「いや、その犬神の姉である女神だ」
俺は憑代の中にいた事での出来事を説明した
そして、智之様が書き記した書物のことも一緒に
「智之は亡くなる間際にそのようなものを残しておったのだな……」
「ああ。だがそのおかげでもうすぐ終わるはずだ」
「もうすぐ……終わるのですね」
「はい、ようやくです。さて、それでは俺はそろそろ失礼します」
その場から立ち上がって帰ろうとした時、目線が急に床と並行なってた
「──あれ?」
「大丈夫か!?」
「操真君、今思いっきり倒れましたよ!?」
「これぐらいなんともないですよ」
笑顔で無事を知らせ、立ち上がろうとするが、なぜか力が入らない
いや、俺に元々力がなくこの状態が普通であるかのようだった
「久遠?どうしたのだ?」
「力が……入らねぇ……」
都牟刈村を杖代わりにして立つのが精一杯だ
何でこんなことが……女神様の最後の言葉に『最初は少し辛いと思うけど』って言ってたがそれがこれか?辛いなんてもんじゃないぞ
まるで衰弱しているようじゃないか……!
「待てよ久遠!そんな状態で外に向かおうとするな!」
「有地さんの言う通りです。要さんには連絡を入れますので今日は泊まっていってください」
「ですが……」
「久遠よ。ご主人と芳乃の言葉を聞き入れておくれ。吾輩はもう、大切な人を二度も目の前で失いたくないのだ」
ムラサメは今にも泣きだしそうだった
そうだった、この子は智之様の死に目に立ち会っていたんだ
「……わかった。巫女姫様。すみませんがお言葉に甘えさせていただきます」
「はい。茉子、お部屋の準備をお願いできる?私は要さんに連絡するから」
「わかりました!」
「ご主人、吾輩たちは久遠を部屋まで連れて行くぞ」
「でもムラサメちゃんは」
「久遠は触れられる。吾輩でも手伝うことはできるはずだ」
なんか大掛かりな事になってしまったな
女神様は俺に何をしたんだ?そして力を貸すって言ってたけどこれを乗り切れってことか?
いくら考えたってすぐに答えが出るわけじゃない。今はもう休ませてもらおう
部屋に連れて来させてもらって、そのまま横にさせてもらった
「3人とも、ありがとう」
「気にしないでくれ」
「そうですよ。操真君が弱気になるなんてらしくないですよ」
「ははっ。そうですね」
「吾輩は久遠が寝付けるまでそばにおる。2人は戻ってもよいぞ」
「わかった、あとはお願いねムラサメちゃん」
「では失礼します」
「ああ。2人ともおやすみ」
部屋には動けない俺と、ムラサメの二人っきりになった
動けないんだ。もう寝るしかないかな
「……なあムラサメ」
「どうしたのだ?」
「俺が寝るまで、手を握っててくれないか?」
「あの時と同じような事を言うのだな」
「あの時?」
「以前話したであろう?智之が倒れ、看病した時のことだ。久遠は智之と全く同じことを言ったのだぞ」
それは知らなかった
生まれ変わりで記憶を引き継いでいるといっても、ぼんやりとした部分もあるし、これは倒れた時の話だから智之様自身があまり覚えてなかったため会話の内容までは俺もわからないんだ
「このようにして手を握ってな。そしたらあやつは『そばにいることがわかるから安心できる』と言っておったのだ」
「ああ、確かにこれはとても安心できる。おやすみ、ムラサメ」
「うむ。おやすみ、久遠」
手に大切な人の温もりを感じながら、俺は眠りについた