朝になり目を覚ます
寝た時には手を繋いでいたが、今はいないってことは寝てる間に行ったってことか
「……手が動く。起き上がることもできる」
身体が凄く軽く感じる
昨日の力が抜けた感覚がまるで嘘のようで、軽いのに力が漲ってくるのがわかる
これが力を貸してもらったってことなのか?
「あれ、なんだこれ。こんなの付けてた覚えはないけど」
首に身につけた覚えがないネックレスがあった
そのネックレスにはひとつの玉石が付いてる
もしかして、女神様がくれたのかな
優しいものを感じる。大切にしないと
「身体はもう動くのか?」
「ああ、ムラサメおはよう。昨日のはまるで嘘のように感じるよ」
「そうか、それならば良い。それよりも随分と早起きなのだな」
「いつも鍛錬してるからな。早起きは当たり前なんだよ」
「それは感心だ。では吾輩はご主人を起こしてくる」
そのまま部屋から出ていく
というか将臣は起こしてもらってるのか
まあ普通の学生だったわけでこっちに来てから鍛錬を始めたんだし、早く起きれないのは仕方ないか
さてと、一泊させてもらったのだから何かしないとな
朝ご飯は常陸さんが作ってるだろうし、どうしようか
「──────!」
なんか少し離れたところで騒ぎ声が聞こえる
部屋の位置的に……将臣の部屋だよな
挨拶ついでに行ってみるか
「おはようございます。えっと、何があったのですか?」
「操真君、動いても大丈夫なのですか?」
「ええ、ご覧の通りで。それより一体?」
「実は、芳乃様が有地さんの部屋で朝チュンを迎えまして」
「えっ!?」
「どうやら芳乃が夜這いしたらしくてな」
「なっ!?」
将臣のやつ、もう大人の階段を登ったのか!?
しかも巫女姫様の方からってこの2人もうそこまで行ってたなんて全然思わなかった……!
「ですから夜這いなんてしていません!操真君も真に受けないでください!」
「えっ?じゃあ一体何が起きて?」
「私もわかりません!でも、起きたら目の前に有地さんの顔があって……」
とりあえず、夜這いと言うのは全くの誤解ってことだな。後でムラサメにお仕置きしないと
だか、そうなるとなぜこうなったんだ?それに耳も生えてるのも気になる
「では一回落ち着いて考えてみよう。巫女姫様、昨日の夜に何か変わったことはありませんか?」
「そうですね……昨日は……胸がざわついて、とても寝苦しかったです」
「胸のざわつき……。今の様子は?」
い、今ですか?えーっと……その……まだ胸のドキドキが治っていなくて、よくわかりません……すみません」
起きたら目の前に将臣がいたんだ。無理もない
それに変わった様子は見られないから多分治ったと考えていいだろう
「では次に、将臣はどうだ?巫女姫様はここに引き寄せられて来たんだ。お前の方に変化はあるか?」
「お、俺か?……そうだな……俺も、まだ胸が落ち着いてないんだ。今でも心臓がバクバクしたままで────ッ」
「どうしたっ」
「あ、いや……なんかバクバクしすぎて目眩が……」
なんだこの様子
普段と違うから何かがあるはずだ
「ご主人、例の憑代は?」
「言われた通り、叢雨丸のそばに置いてあるよ。……あれ?憑代が……赤い?」
確か昨日は白い靄だったはず……
もしかして、女神様が俺に力を貸してくれたから、それが原因か……?
でもみづはさんが祟り神が出て来た時は黒くなったと言ってたらしいが……
今はムラサメがレナさんにも関係があると考えた様だ
常陸さんが志那都荘に向かったから戻ってくるのを待つか
常陸さんがレナさんを連れて戻って来たが、何やらレナさんの表情が少し辛そうにしてる
「わざわざすまぬな」
「いえ、それはヘーキでありますが」
「早速で悪いが、今その身に起こっている事を教えてくれぬか?」
「ここにいると、耳鳴りがします。そんなにひどくはないのですが……」
耳鳴りときたか
これで憑代からの影響を受けてるのは将臣、巫女姫様、レナさんの3人……
俺には……影響がない、むしろ力が余ってるぐらいだ
「呪詛の力が強まったということでしょうか?」
「欠片を集めることで以前よりも力が増しておるのは間違いない。しかし……呪いが強まっているわけではなさそうだ」
「なら、これは一体?」
「他の欠片に呼びかけておるのではないか?力を信号のように飛ばしてな」
『弟を頼む』って言われたけど、まさか散らばってる欠片を集めるために残りの祟り神を全部相手にしろってことか?
それか……女神様の力が弱まったせいで、この集まってる憑代にある犬神の怒り、怨念に耐えきれなくなって巫女姫様を乗っ取ったかのどっちかという考えなら女神様の行動に納得がいく
首飾りの玉石に意識を傾けてみるが、何も反応はない
力だけか、それとも応えられるほどは残ってないのか
「つまり……昨日のざわつきは全部、憑代の信号のせいだった……そっか、そうよね。よかった、理由がハッキリして……」
謎が解明できたんだ。巫女姫様はホッとしてるな
だが別の問題が残ってる
「巫女姫様の意識がないときに操られるのはわかった。だが次の問題、その受信をどうするかだ。ずっと徹夜なんかしてたらいざという時は動けないし、一人一人見張るのも効率が悪いだろう」
「それなのだが……むしろ吾輩は、この信号を利用できるのではないかと思うのだが」
「利用だと?」
今は状況を打破することが先決
ムラサメの提案に乗ってみるしかないか
時間は夜、今は巫女姫様の部屋にいる
……女の子の部屋に入るなんて初めてだから緊張してしまっている
まあそれはいいとして、ムラサメの言ってた利用する
それは巫女姫様に寝てもらい、憑代に身体を預け、欠片を集めるために動かすという方法だ
「では……お、おやすみなさい」
巫女姫様がおやすみになられる、つまり作戦実行の合図だが……
「…………」
「寝たか?」
「……まだです。…………」
「寝られました?」
「……まだ。…………」
「寝た?」
「ですからまだです」
「そっか……」
焦るのもわかるがこんなのじゃ寝てられない
全く……
「みんな、そんなに聞いてたりジッと見つめていたら巫女姫様だって寝られないだろ?」
「気になって」
「わかってるが焦っても始まらんから俺たちは向こうに行くぞ。常陸さんは巫女姫様のおそばに、何かあったら呼んでください」
「わかりました。ここはワタシにお任せください」
「いやでも」
「こういう時は女の子の気持ちも考えろ」
寝顔を見られるのも恥ずかしいだろう
女の子と暮らしているのに、そんなこともわからないのだろうか
いや、逆にそれで鈍ったのかもしれない
部屋には常陸さんを残し、俺たち3人は居間に戻った
「ところで、ご主人と久遠の体調は?」
「さっき測ったときは7度4分。微熱がずっと続いている
「将臣はわかるけど、なんで俺にも聞くんだ?」
「昨日の事を忘れたとは言わせんぞ?」
「それなら今朝も言った通りだ。何も悪いところはなく好調」
多分今までで最高のコンディションだ
今なら祟り神が襲って来てもすぐに対処できるはず
「ところで朝武さんはさ、憑代の意思を受けて、無意識のうちに身体が勝手に動いたんだよな?」
「うむ、そのはずだ」
「欠片を集めるためなのに、なんで俺の布団に入って来たんだろう?」
「……それに関してだが、ひとつ将臣に聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「ああ。お前欠片を持ってないか?」
将臣と初めてあった時に感じたもの
あれはレナさんと初めてあった時と少しだけ違うものだったがほとんど同じものだった
それでレナさんは欠片を持ってることが判明したから将臣も持ってる可能性がある
「いや。もし心当たりがあれば、もう憑代に近づけて試してるよ。久遠は俺が欠片を持ってると?」
「俺たちの考え違いじゃなきゃ、欠片を求めるはずだ。なのに将臣の布団に潜り込んで寝てたんだからな。その可能性が大きい」
「……ご主人、以前、その……なんだ……ご主人の身体に神力を無理矢理流し込んだであろう?」
「え?ああ……うん、アレな……」
神力を渡したではなく流し込んだ……
まだ方法は聞いていなかったけど……何故かわからないけどそれを聞いたら俺は酷くダメージを受けそうだから追求するのはやめておこう
「ムラサメちゃんの方からそれを持ち出すなんて……どうした?」
「あの時、ご主人とその……深い接触をした時にだな……気付いたのだ。普通とは違う気配をご主人から感じると」
「それって……レナさんが、子供の頃から欠片を手にして、その影響を受けやすくなったような?」
「もしかすると……それこそが、ご主人が特別な理由かも知れぬ。久遠も気付いておったのだろう?」
「確かに初めて会った時に普通の人が持ってないような気配を感じたな」
「俺が特別?叢雨丸に選ばれたことが?」
「それだけではない。吾輩の身体にも触れられる」
「でも久遠だって触れられるじゃないか」
「俺だって普通の人とは違う。ご先祖様の生まれ変わり、二重の魂を持ち、物の声が聞こえる。これだけで十分に特別だ」
こうちゃんと考えてみるとだいぶ一般人と懸け離れてる気もするな
だが操真家での選ばれた者なんだ。誇らしく思わないと
「それでご主人が気付かずに持っているのかも、と思ったのだが……」
「悪いが、やっぱり心当たりはない。子供の頃からずっと持ってるものなんてない。断言できる」
「まあ、そうであろうな……」
「とにかく、2人の言葉は覚えておくよ。何か思い出したら報告する」
「頼む」
話が一段落ち着いた時、居間に常陸さんが駆け込んできた
「有地さん、ムラサメ様、操真君、すぐにいらして下さいっ」
とうとう動き出したか
俺たちは急いで部屋に向かい、入ったらさっきまで寝ようとしてた巫女姫様が憑代を手にし、起きていた
「予定通り、憑代に動かされておるようだな」
「…………」
巫女姫様の目は焦点があっておらず、放心してるかのように見える
だがフラつくことはなく、しっかりとその場に立っている
「これからどうしましょう?芳乃様を観察……でしょうか?」
「そうなるな。だが、そう時間はかからぬようだぞ」
「…………」
俺たちが目に入ってないのか、視線を向けても反応しないまま歩きだした
「後を追うぞ」
歩き始めた巫女姫様を追いかけ、外に出てそのまま山の中に入る
巫女姫様は相変わらずの様子でゆっくり歩いている
……辺りがザワつくように感じる
油断しないよう警戒しつつ歩いていたら、ついに足を止める
「ここに、欠片が落ちてるのかな?わかるか、ムラサメちゃん?」
「すまぬ……憑代の放つ信号が強くて、他の気配が拾えぬ」
「そうか……とにかく、もうしばらく様子を見るしか──」
将臣が言いかけた時、巫女姫様が憑代を掲げるような動きを見せ、憑代の輝きがまして、その輝きが周囲に広がる素振りを見せた
「今のは……」
「大きな気配が広がったな」
「それって、これから何が起きるってことですよね?」
「そのはず……将臣、刀は抜いとけ」
「わかった。ムラサメちゃん」
「うむ」
将臣が叢雨丸を抜き、ムラサメがその刀身に入る
俺も続き、都牟刈村を抜いたが、以前よりも輝きが増し、まるで月のような光を放っていた
首飾りも光を放ってるように見える
なんて考えてる暇はないか、茂みから音がした
「今、音がしましたよね?」
「俺が前に出るから、朝武さんのことは頼むよ」
「1人でやれるのか?」
「大丈夫だ、それにいつまでも頼ってられない」
なかなか言うじゃないか
なら俺は常陸さんと巫女姫様を守ることだけに専念しよう
祟り神が出ても、将臣は構えを崩さず、相手をじっと見てた
いや、見すぎてたのか触手が動いた時には反射で防いでいた
……危なっかしいぞ
『ご主人!』
「すまん!」
猶予は1回だ。次集中が途切れるようだったらあとは全部俺がやる
けどそんな心配はいらなかった
触手を躱し、懐に飛び込み、最小限の動きで手首を返し、いつも通りに斬り裂いていた
「……今ので……終わりか?」
いつもと変わらず、欠片を回収する
巫女姫様を見たが何も変化はない
「さっきの憑代の瞬きは、一番近くにある欠片を呼び寄せるものだったのかな?」
『今のところは、そういう感じであるが……』
「いや、まだだ」
こっちに何かが近づいてきている
そっから2体目の祟り神が現れた
「やっぱりまだいたのか」
いや、なんだこの気配……!
2体どころじゃない!
「ムラサメちゃん……なんかあの祟り神、でっかくないか?」
『い、いや……デカいというか、アレは──』
「っていうか……2体いる……?……2体!?」
「将臣、2体いる所で驚いてちゃ困るぜ」
『ご主人!よく見るのだ、アレは2体ではない』
「いや、でも、確かにアレは──」
『2体ではなく3体だ』
祟り神はさらに増える
俺の読み取りが正しければその倍は近くにいる
下手すりゃ……囲まれてる
「あ、有地さん!?操真君!」
「わかってる。さすがにここは、引いた方が……」
「い、いえ……そうではなくて……」
常陸さんの声から漂う不穏な声
時すでに遅しか
「こちらにも祟り神がっ」
『5体以上はおる!』
「はぁっ!?じょ……冗談だって言ってくれないか?」
「倍の数はこっちに向かってきてるぞ。最悪の場合はそれを遥かに上回るな」
「そ、それだけいたら、完全に囲まれるんじゃ……?」
「はぁ……仕方ない」
駆け出し、逃げ道を塞いでる祟り神を斬り裂く
後ろは数が少なかったからすぐに終わった
「はやく逃げろ!モタモタしてたらこっちがやられるぞ!」
移動しかけたら多方面から触手が襲ってくる
冷静に、一つ一つの動きと未来予知を照らし合わせ、こちらに近いやつから叩き落としていく
「巫女姫様は抱えたな!はやく行け!」
「でも久遠は!」
「俺が足止めしてやる!」
「馬鹿言うでない!何を考えておるのだ!」
「相手の動きが確実に見れて、多数相手でも戦えるのは俺だけだ。なら必然的にこうなる」
例え相手が何人いようが、攻撃がどこから来ようが俺を対象にする攻撃ならその未来が見える
守るものがない方が、多数相手でも1人で戦える
「だが、久遠が危険では──」
「なら約束だ!絶対無事に無傷で合流してやる!」
「……約束したからな!こっちだ、ご主人、茉子!」
ムラサメの誘導に従い、将臣と常陸さんが走っていく
この数相手にするのは初めてだが……
だけどやられる訳にはいかない。無傷でって約束したんだからな!
──────────────────────
「ぜぇーはぁー……ぜぇーはぁー……ごほっ、ごほっ……」
「大丈夫か、ご主人」
「はぁ、はぁ、はぁ、……なっ、なんとか……はぁ……はぁ……怪我は、ない……ぜぇ、ぜぇ」
「あ……有地さん、大丈夫ですから、そろそろ下ろしてもらえますか?」
「あ、ゴメン」
逃げるのに無我夢中になってたから、朝武さんをそのまま抱えてたままだった
「いえ、助けて頂いて……ありがとうございました。そ、それよりも私が寝ている間に何があったんですか?」
「すまぬ。吾輩の考えが浅はかだったのだ。まさか、ここまでとは……」
「眠ったあとすぐに、芳乃様は憑代に動かされて山の中に来たんです」
「そして一際大きな信号の波を、憑代が発した」
「最初に1体きて、それは何とかしたんだけど……」
「その後、わらわらと集まってきてな。欠片が反応を示せばと考えておったが……甘かった。今は久遠が抑えててくれておる」
いくら久遠が強いと言ってもあの数の祟り神を相手にするなんて無理のはず
この少しの間だけでも何か考えて久遠を助けたりしないと!
「……ムラサメちゃん、全ての欠片が祟り神になってる可能性があるんだよね?」
「うむ。全てが相手となると久遠も無理であろう……」
「でもさ、もし全ての欠片が祟り神になったのなら、これを乗り越えれば全て集まるってことだよ!だから久遠を救出してなんとか倒していけば!」
「だがあの数をどうやって相手にするのだ?いくらなんでも無茶だ」
確かに、あの数では無理がある
逃げながら1体づつ倒していけばもしかしたらって思ったけど、さすがにこんなペースで走り回りながら戦うのはすぐに体力が尽きる
「また、身体に神力を……」
「それはダメだ。もうやらぬと言ったはずだぞ」
「だけど、このままじゃ!」
他に良案はないのか?
頭をフル回転させて考えるが、タイムリミットはすぐに訪れてしまった
「……くっ」
久遠が足止めしてたはずの祟り神の群れ
だが見た限りさっきの数よりも大幅に減っていた
「久遠はなぜおらんのだ!?もしや……」
「大丈夫だムラサメちゃん。祟り神はこっちを狙ってきてるんだ。もしかしたら久遠を相手にせずにこっちに来たんだと思う」
そう考えないと久遠がやられたってことになる
それにまだ数が多いが、さっきよりは何とかなるはず
ムラサメちゃんの目くらましで怯んでる隙に少しでも減らしていけば……なんで襲ってこないんだ?
「えっ……?」
祟り神が溶けるように、泥となって辺りに広がった?
ひとつに集まってきて……
「えぇぇぇ!?ちょ──ちょっと格好よくなってるっ!?」
まるで溶けかけているみたいだった身体が、黒い獣になっていた
ハッキリとした四肢。大きな口と、鋭い牙。触手だと思っていたソレは、長い尻尾のようだった
犬……というよりも、狼と言うべきだろう
「おそらく、憑代の一つになりたいという願いをより近くで受け止めたせいであろうが……よもや、このような事態になろうとは……」
「で、ですが、これはむしろチャンスなのでは?」
「チャンス?」
「10体以上いた祟り神が1体になったと考えれば、手の打ちようがあるかもしれません」
「そ、そうか!確かに!」
一体一ならいつも通りだ
合体という予想外な展開に驚いたけどらむしろこっちの方がいいかもしれない
「よしっ」
叢雨丸を構え、慎重に間合いを詰めていく
「…………」
祟り神に動きはない。これなら……このままイケる!?
そうして間合いに踏み込んだ瞬間──
「──は?」
俺の身体は宙に浮いていた
「っっ!?」
背中から落ちた衝撃で、ようやく自分が吹き飛ばされたことを把握する
「げほっ、げほっ!?」
背中を襲う衝撃にむせながらも、慌てて転がった
その直後、俺を叩き潰そうとするような衝撃が飛んでくる
──が、その衝撃は俺に当たることはなかった
「すまない。なんとか間に合ったが遅れてしまったな」