「やっぱりあの女の子は夢に出てきた子か……」
昨日見かけた宙に浮いていた子
夢で見たと思ったけどあれは間違いない
でも俺の夢に出て来たってことは俺に関わりが?
それとも操真家のご先祖様と縁がある人か……
ご先祖様が残した書物でも探ってみるか
「おーい、久遠!オレは先に祭り行っちゃうぞー?」
「あいよー、ってか父さんも行くの?」
「ちょっと集まりがあってな。まっ、酒を飲みに行くもんさ」
「父さんが外に出るなんてそんなことだよな。でも今日は休みにしたんだからぶっ倒れないように飲んで来な」
「そこらへんは安心しとけ、ぶっ倒れちゃあしないからよ。そんじゃ行ってきまーす」
今日は春祭りの日だ
うちで作った甲冑がいろんな人に見られるんだよな
さてと、俺も支度して祭りに赴きますか
祭りに来たはいいけど……
「よ、予想以上に賑わってるな。前来た時はこんな人いたか?」
ここ数年は修行のため仕事を手伝ってたから参加してなかったからな
まさかこの街にそれなりに人がいるなんて
それに海外の観光客もちらほら見える
さて、祭りで一人で歩くなんてつまらないからな
どっか探せば廉太郎や小春ちゃんがいると思うけど、玄十郎さんに手伝わされてるってこともあるかも
廉太郎が手伝わされてたら軽くからかってやるか
練り歩きが終わる前に健実神社によってそっから逆回りで探してみるか
まだ巫女姫様の舞は始まってないようだな
そこまで人もいないから練り歩きの方を見に言ってるんだろう
「よっ、久遠じゃねーか」
「おう廉太郎、それと小春ちゃんも」
「操真先輩、こんにちは。」
小春ちゃんと一緒にいるのが廉太郎
小春ちゃんの兄で、俺の友達だ
よくナンパしたりしてるからだらしないけど、なんだかんだ良い奴だ
それにしてもよかった、これで一人で回ることはなくなったな
さすがに祭りに来てまでぼっちを味わいたくねーし
別に友達がいないとかそんなんじゃねーからな?
「ここにいるってことは、手伝いはないのか?」
「そうなんだ、今日は休みで父さんもどっかで酒を飲んでる」
「おじさんが外に出てるなんて珍しいですね」
「年に何回かしか休み取らないからね。その日以外は基本仕事してるから」
「な、なんかすごいですね」
よほどのことがない限り仕事優先の人間だからなぁ
夜に誘われてお酒飲みに行くこともあるけど無性に酒に強いから次の日には仕事やってるし
考えてもよくわからない人だ
「そういや久遠ってあのイベントに参加しないよな」
「あのイベント?」
「叢雨丸のことだよ」
「あぁ、あれか。だって叢雨丸から「あなたでは抜くことができない」って言われたからな」
「叢雨丸から言われた?それってどういうことですか?」
「そのまんまの意味、俺は刀とかの声が聞こえてね。ご先祖様の一人もそんな人がいたらしいしうちの一族だけだと思うよ」
操真家の稀代の天才と言われた俺のご先祖様、
俺と同じく作り出した物の声が聞こえてたらしく、俺と同じ歳にはもう一人前の職人に付いていた
さらに人の身でありながら神の力を宿した神刀を作ったなんて記載もあったんだけどその神刀はいまだに見つかってないから本当かどうかはわからない
「本当久遠の家ってよくわかんないよな」
「うっせ、そんなことよりそろそろ巫女姫様の舞が始まる頃だろ?」
「そうだよ!廉兄、操真先輩!見に行こう!」
実は俺巫女姫様の舞を見るのは初めてなんだよな
祭りの見どころの一つだし凄いって評判だからな、毎度楽しみだったんだがタイミングが悪くって
けれど今年はやっと見れるのか!
巫女姫様の舞が始まる
舞台の鈴の音が響き渡り、舞に目を奪われる
「……んっ?」
巫女姫様に獣の耳が生えてる?
さっきまではなかったよな
どうなってるんだ?
「なぁ廉太郎」
「なんだよ」
「巫女姫様のあの獣耳って何なんだ?」
「獣耳?そんなものついてないぞ?」
は?何を言ってるんだ?
あんな物がついてればわかる……ついてない?
「あれ、なくなってる?」
「疲れてるんじゃねーのか?きっと見間違いだよ」
「そう……かもな」
さっきの耳が気になって結局集中して見れなかった
一体何だったんだ?
「廉太郎ー!小春ちゃーん!くーちゃーん!」
「その呼び方をするんじゃない」
この呼び方をするのは一人しかいない
声のする方を見てみると、芦花さんと……あれは誰だ?
俺や廉太郎と同い歳ぐらいに見えるが
「うん?なんだ芦花姉」
「どうしたの、お姉ちゃん」
「って……あれ?お前、将臣か?」
「あ、本当だ!お兄ちゃん!」
廉太郎と小春ちゃんの知り合いか
芦花さんと一緒にいたってことは芦花さんとも
……あれ?これは俺だけが知らない奴だよな?
「久しぶりだな、二人とも。そっちは?」
「なんだ、久遠のこと知らなかったっけ?じゃあ紹介するよ。操真久遠、この街一の鍛冶屋の息子だ」
「操真久遠だ、よろしくな」
「俺は有地将臣、廉太郎と小春とは従兄妹なんだ」
なるほどな、それで二人と知り合いだったわけだ
……なんだ?将臣から何かを感じる
こんなものを人から感じるのは初めてだ
もしかして、叢雨丸が言ってた、「選ばれし者が現れる」って言ってたのはこういうことなのか?
それにしても穂織に来たのは久しぶりなんだな
廉太郎と小春ちゃんと話し込んでるし
「くーちゃんどうしたの?」
「いや、久しぶりに会ったってことはやっぱり話したいことがたくさんあるんじゃないかって思って」
「まー坊は穂織の外に住んでるからね、それに旅館の手伝いはおばさんがいつもしてたからね」
「有地……旅館の手伝い……もしかして将臣って都子さんの息子?」
「そうだよ、もしかして気が付かなかった?」
「都子さん自身とあまり会ったことないからな、旅館の手伝いの時に何度かうちに来たぐらいだから」
「そりゃあわからないかー、まー坊と会うのも初めてっぽいからね」
確かに今日で初めて会うよな
それになにか違う雰囲気を感じたんだ
会ったら忘れることはないはず
「バーカバーカ」
「ブースブース」
「なんかいつもの兄妹喧嘩が始まってないか?」
「全く二人とも……、はい、ヤメヤメー、兄妹のじゃれ合いはそこらへんで」
「そういうところは変わらないな、お前ら……」
昔っからこんなんだからな
慣れた身としては仲のいい兄妹喧嘩にしか見えない
俺は兄妹なんていないから少し羨ましいと思うよ
「それよりも玄十郎さんはどこにいるかな?」
「祖父ちゃんなら今は中にいるよ」
「ほら、例のイベントが行われてるから」
「あー、アレねー」
「???例のイベントって?」
「伝説の勇者イベント」
「なんだそりゃ」
「御神刀・叢雨丸のことさ、担い手じゃなければ抜けないって話聞いたことないか?」
「御神刀……あー、アレか……話は知ってるけど、実物は見たことないんだよな」
叢雨丸を引き抜くことが出来るかチャレンジするというイベント
これが結構観光客に受けてるらしく、抽選じゃないと中に入れないらしい
俺も挑みたかったんだけど声を聞ける体質だから挑む前に引き抜けないってわかっちゃったからな
「……お前が担い手かもな」
「何か言ったか?」
「なんでもない、それより玄十郎さんに挨拶しにいくんだろ?行こうぜ」
三十人近くは並んでるな
それに女性も数人見えるし外国人もいる
室内に大きな岩があり、そこに日本刀が突き刺さってる
あれがこの穂織の御神刀・叢雨丸だ
刀身は美しく、輝くような銀色の光を放っている
いつか俺もあんな刀を作ってみたいもんだ
……なんだ?刀が震えてる?
いや、本当に震えてる訳じゃなく俺にはそういう風に映って見えるだけだ
何か、共鳴してるというのか?
「実際抜けないもんなの?」
「抜けない抜けない、どれだけ力を入れても、一ミリたりとも動かないんだよ、あれ」
「俺もやったことあるけど無理だったな。押しても引いても全く動かない。なんか腹が立ったから、横方向に力を入れてみたんだけど、それでもビクともしやしない」
「そんな扱いすんな、例え御神刀とは言えそう無茶な扱いされると悲鳴をあげるんだぞ」
「悪かったよ、でもその程度で悲鳴をあげるくらないなら、今までのチャレンジですでに折れてるって絶対」
「そういう問題じゃない、俺には実際に聞こえたんだからよ」
普通に使うか、長持ちするように大切に扱っているとまるで寝ているかのように声がしないか感謝の言葉を述べるとこが基本だ
逆に壊れたり、扱いが悪いと悲鳴や愚痴を言う
俺にはそんな声が聞こえるんだ
けど常に聞こえるわけじゃなく意識を少し傾ければ聞こえると言うわけだから常日頃声が聞こえて静かな時がないってわけじゃない
「フッ、ンンンンンンーーーーーーーーッッ!!」
「ンィィィィィーーーーーーーッッ!フンガッフッフッ!」
「フッ、ンンンーーーー!ゥワッショォォォォォイッ!」
めちゃくちゃ筋肉がついてる外国人のマッチョが何人もチャレンジしてるがビクともしない
叢雨丸から声は……しないか
けど今日は刀がいつもと違うように感じた
つまり……今日誰かが叢雨丸を抜くことになる
さて、チャレンジする人が終えて玄十郎さんに呼ばれて将臣がチャレンジか
部屋の中には俺たちぐらいしかいないけどみんな将臣に視線を向けてる
将臣が柄をしっかりと握りしめたその時、叢雨丸が認めたような気がした
「──ふんっ」
「「わっ」」
「マジかっ」
「引き抜くんじゃなく折るとは」
「……はて……?…………は?」
そりゃ驚くか
誰も抜けなかった刀を自分が折ってしまったんだからな
何度も元の位置に戻そうとしてるし、まぁ無理だけど
「あ、あ、あ、あ、あ……ははははは、あはははははは、笑える、なにこれ、あはははは、うけるー、ほら廉太郎、見てみろよ。ほら持ってみろって!」
「ちょっ、お前っ、俺に押し付けようとすんな!こっちくんな!俺は関係ない!」
あまりの衝撃にパニックになってるし廉太郎に押し付けようとしてるし……
それにしても夢の女の子を見かけたり、叢雨丸が引き抜……折られたり今年はなにかといろいろ起きてるな
だから……何かの前触れか……
「あー……そろそろ晩飯の時間かなー」
「あー……アタシ、そろそろ戻らないとー……お仕事しなくちゃねー」
「あー……私も、宿題がー」
「待って置いていかないで!一人にしないで!」
「落ち着け、パニクってるぞ」
「落ち着いていられねぇよ!」
「じゃあ一言だけ、叢雨丸は生きている。俺には無理だけど完璧に直せる」
大抵の刀は折れたらそこで死ぬことになる
けれど叢雨丸はまだ生きている
声はしないけど、生気みたいなのが感じられるんだ
「ほ、本当か!?」
「ああ、だからとりあえず安心しろ。今から玄十郎さんに話してやるからここで待ってろ」
さて、どう説明したものか
「玄十郎さん、叢雨丸のことで話しがあります」
「うむ、久遠君はどう見る」
「折ったのは想定してませんでしたけど彼が選ばれたのはわかっていました」
「それも叢雨丸から声を聞いたのか?」
玄十郎さんは俺が物から声を聞けることを信じてくれてる数少ない人だ
俺のご先祖様も知ってるし、信頼もあるからな
「今回は少し違い、叢雨丸からいつもと違う感覚がありました。それも将臣が柄を握ったら安定したためそこで確信を得ました」
「そうか……」
「それともうひとつ、俺、いや人の技術でいうとご先祖様の智之様以外では直せませんが、叢雨丸は今も生きているし直ることができます。だから将臣を責めてやるのは……」
「わかっておる、さて、ワシはそろそろ将臣と話をするから久遠君は帰りなさい。また変わったことがあれば報告をする」
「わかりました、その時はよろしくお願いします。ではこれで失礼します」
祭りだけで済むと思ったんだけどちょっと長引いたから夜になっちゃったな
はやく帰らないと
「いま、またあの夢の懐かしい感覚が?」
近くにあの子がいるのか?
話したいことや聞きたいことがある
けれど辺りを見回しても誰もいない……
まだ機会はある、次に話せればいいんだ
──────────────────────
物の声が聞ける、吾輩の気配もわかる
本当に生まれ変わりおったのだな、智之
いや、今は久遠と言った方がよかろう
まさか五百年前の約束のためだけに生まれ変わりおるとはな
でも吾輩は嬉しいぞ、何年経とうが変わっておらんからのう
さて、吾輩のご主人となる者はあそこじゃな
「ふむ。お主が、吾輩のご主人か?」
原作主人公である将臣が出てきました
良き友人として絡んでいけるようにしていきたいです