叢雨丸、それは昔の朝武家の人が神から授かった御神刀
何百年と前に人柱によって、妖を祓い、戦に勝利を導いたとされる
その後は岩にささり、選ばれし者だけが抜けるという状態になっていた
昨日そんな叢雨丸が抜けて(折って)からはや一日が経った
俺としてはあの後将臣がどうなったかが気になるんだけど、それは報告待ち
「久遠、悪いが買い物頼む。夕飯の材料がもうないんだよ」
「そんなの父さんが行けば……行くわけないか」
「お金は多く渡すから帰りに田心屋にでも寄ってこい。もちろんいつもの土産は頼むな!」
「どうせそれが目的なんだろ、わかったから後で行ってくるよ」
「おう!頼むな〜」
適当に買い物を済ませ、早足で田心屋に向かう
実の所は自分のお金を使わずに田心屋で何か食べていいからいつもより楽しみなんだ
お土産は後でお金貰えるけど自分の分は自分で払ってるからな
でも今日はお小遣い減らないしついてるぜ!
「おや、くーちゃん。いらっしゃい」
「こんにちは、芦花さん。空いてる席でいい?」
「今は人が少ない時間だからね、大丈夫だよ」
俺はだいたい混んでない時間帯を選ぶんだ
甘いものを食べる時はゆっくりしたいからっていう理由だけでだけど
「今日は抹茶パフェとグリーンティーで。あといつものお持ち帰り用のパフェを」
「いつもパフェ食べてるようだけどおじさん血糖値とか大丈夫なの?」
「驚くことになんにもないんだよ。健康体そのもの」
「それならいいんだけどね。ちょっと待っててね」
うちの家族の大体が甘いもの好きなんだけどみんな糖尿病にならなかったり、血糖値も正常と健康なんだ
もちろん俺もよく甘いもの食べるけどなんともない
我が一族の不思議の一個だ、ってそんなにないけど
「はい、お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
「ありがと、それじゃあいただきます!」
やっぱりパフェは最高だ……
そしてこの甘いものを食べる時が俺の中でも至福の時間だ
いっそ永遠に続けばいいと思ってしまうほどだ
食べ終わってからの少しの虚無感が辛い
「はい、お持ち帰り用のパフェ」
「ありがと、いつもの事ながらまた近いうちに来るから」
「たまにはおじさんに来るようにって言っておいてね」
「りょーかい、芦花さんの言葉と甘いものの誘惑があればすぐに出てくるはずだよ」
さてと、用事は済んだし家に帰るか
もうじき日も沈むし、今日は夕ご飯食べてさっさと寝るに限るかな
「どうしよう、どこかに落としちゃったかも!」
「山の中で遊んでたからそこかも!でももう夜になっちゃうよ……」
ん?
何やら子供たちが困っているようだな
ここで見て見ぬふりをしたら名前に泥を付けるもんだな
「どうしたんだ?」
「あ!操真お兄ちゃん!」
「何か困り事でもあるのか?兄ちゃんが話聞いてやるよ」
「うん。実はね、今日山で釣りをして遊んでたんだけど大切なお守りを無くしちゃって……」
「でももうすぐ夜だから山の中には入っちゃいけないし……」
この街には夜に山には入っていけないっていう決まりみたいなものがある
穂織の街の伝承で妖が出て危ないとかそういう話があるから入っちゃ行けないんだ
「……わかった。なら兄ちゃんが今から取りに行ってやるよ」
「ホント!?でも山には入っていけないって……」
「心配すんな、誰かにバレる前にサッと行ってサッと戻ってくりゃいいんだよ。絶対に見つけといてやるから明日、うちの鍛冶屋に来てくれ」
「ありがとう!操真お兄ちゃん!」
「ただいま、これいつもの」
「おう、待ってたぜ!」
「そういや、後でちょっと出かけてくる」
「そりゃあ構わんが、どこに行くんだ?」
「ちょっとブラッとな。すぐ戻ってくるから」
「待て、お前山に行く気だろ」
クソ、早速バレたのかよ
というか勘が鋭すぎるだろ、うちの父親は
「日が沈んだら山には入ってはいけないって知ってるだろ」
「わかってる。けど子供たちと約束をしたんだ、大切なお守りを取ってきてやるって。例え伝承があるから山に入っちゃ行けないとしても、約束を破る方がご先祖に叱られる」
「…………」
「父さん!」
「……そういうことなら仕方ねぇ、それならさっさと戻ってこい」
「……わかった!」
理解ある人で良かった
これが普通の親だったら絶対に止められていたからな
こういう時があるから親が父さんで良かったって思える時がある
「それからこれを持ってけ」
「これって……木刀?」
「何も無いよりはマシだろ、真剣はさすがに捕まっちまうからな」
「わかった、それじゃ行ってくる!」
「飯は勝手に食べてるからなー」
やっぱり夜の山だけあってかなり薄気味悪いな
いくらお化けとか怖くなくてもずっとはいられる気がしない
本当にさっさと戻るに限るな
確か釣りをして遊んでたって言ってたから川沿いのここら辺にあると思うんだけど……
「おっ、あったあった。お守りって言ってたからこれだよな」
よし、捜し物は見つけたし家に戻るか
そんなに時間かからなかったから何事もなく終わるな
やっぱり伝承は伝承、妖なんているわけがないよな
そう思った時後ろで物音がした
「!な、なんの音だ!?」
何かドサッっていう音から結構な重さを持っている音がしたけど
とりあえず近くに行ってみるか
何かあるかわからないけど、確認してみないと
音がしたのはこの辺りだったよな
それに音も大きかったからさほど離れていないと思うんだけど
「人が倒れて……あれは将臣!?」
なんで将臣がこんな所に!
いや、それよりも擦り傷と切り傷だらけだ
もしかしてあそこから転げ落ちたのか?
ん?右肩の部分だけ傷の具合がおかしい……
これはいったい……
「おい将臣、しっかり……おいおい、なんなんだよお前……」
将臣を起こそうとしたらあとを追いかけるようにして何かが近づいていた
でもそれは生き物とは言えず、泥の塊のような、そんなものだった
右肩の部分はこいつがやったのか?
再び動き──、いや、攻撃してきやがった!?
「らぁっ!!」
持ってる木刀で何とか軌道をずらす
その触手みたいな物の軌道がずれて、地面を叩いたが激しい音が鳴った
「あっぶねぇ……、あんなもん当たりゃ痛いだけじゃすまねぇじゃねぇか」
けれどこんな木刀なんかでいつまでも戦ってなんていられねぇ
逃げるとしても将臣を担ぐとなると逃げ切れる自信もねぇ
クソッタレ!どうすりゃいいんだよ!
──刀を抜け
「次はなんなんだよ!?というか刀なんでどこにも」
──声が聞こえるんだろ?それは物の本当の性質を聞き出すためのもんだ。だからその持ってる物の声を聞け
「声が聞けるってまさか……いや、考えてる時間はねぇ!僅かな声だけでも!」
目をつぶり、攻撃が来ないうちに木刀に意識を向ける
本来の名前、作った人、使い方、効果
これだけ聞けりゃ十分だ!
目を開けるとよくわからない生物が攻撃しようと動きかけてる
──名前は聞いたな?では呼び、引き抜け。儂が作った究極の一振り、神器から頂いたその名前を
「────
名前を呼びながら木刀を引き抜くと、木刀の刀身が鞘となり、目をくらますほどの銀色の光を放った
目を開けるとそこには銀一色の刀を持っていた
鍔は無く、柄は木刀の部分そのまま
けれど刀身の部分には、峰さえも刃と同じように銀色に輝く刀身が付いていた
「これが、ご先祖様が作った神刀・都牟刈村。これならいける!」
泥も光によって動けなかったのか何もしてこなかったが前を向けば動き出していた
けれどその動きは全て見えていた
都牟刈村を持っていると敵意を向けてる相手の動きが読めるんだ
ギリギリ避けれる歩数だけ下がり、その直後に斬る
手応えは十分にあり、泥は霧散するように消滅した
「これが智之様が残した神刀……うっ!?」
また急に眩しく光って……!?
ここは……どこだ?
刀が急に光ったから目をつぶったけど、次に目を開けたら今いた所じゃないし……
何が起きたんだ?
『こうして顔を会わせるのは初めてだな。お前が儂の生まれ変わりみたいなものか』
「あなたは……智之様ですか」
『おう、そうだ。こうして何百年先の子孫と話すなんて変な感じだな』
このお方が、操真智之様
操真家で一番の職人であり、強さも一番の人
そして未だに超えられず、操真の家に生まれたら誰もが目指すべき目標
『さて、時間がねぇからさっさと話しちまうぞ。儂は神刀を作った後に神々に呪われちまってな、なんでも人が神の力を得るのはありえないとされていて、それで天罰として衰弱死しちまったんだ。それで済めば良かったんじゃがどうやら人間以上神未満という中途半端になっちまってあの世でも地獄でもない所をさまよっていた。そして今、久遠が生まれたのと同時にお前の中に入ったんだ』
「それが智之様の過去というわけですか。でも何故俺があなたの生まれ変わりになれたのですか?それに呪いって一族にかかったりするんじゃあ……」
『んなもん簡単な話だ。儂とお前が瓜二つなぐらい似てるからな、ちなみに顔じゃなくて性格とかそっちのことじゃぞ。呪いに関しては心配すんな。儂を超える才能があればどうなるかわからんが、今の世代は刀なんぞ作らんからな、人の世のためになるもんを作ってる限りは呪いはかからんだろ』
俺と智之様が似てるのか、それはとても光栄な事で嬉しい
それにこうして話してることが自慢出来ることだからな
呪いの事は、何も無いのはいいけど智之様の才能を超えたらどうなるかわからないのは怖いな
『儂の事はこんなもんでいいだろ、次は頼みたいことがある』
「それはだいたいわかります。あの子の役割を終わらせ、解放させることですよね?」
『話が早くて助かる、その通りだ。そのためにはまず朝武家の呪いをとけ。そうしなければ何もできん。呪いについては本人達に聞け』
「は、はい。わかりました」
『ちっ、もう時間か。都牟刈村を扱えるから儂の魂はお前の魂と一つになる』
「一つにですか?」
「ああ、儂の過去、果たす約束、全てわかるはずだ。全部お前に託す。もしかしたらまた話すことが出来るかもな────頼んだぞ、久遠」
智之様は光の玉となり、俺の中に入ってきた
その直後に、いろんなものが流れてきた
書物では知ることが出来ない生前のこと、あの女の子の名前や過ごした日々、そして最後にかわした約束
俺は、智之様の生まれ変わりとして認められたんだ
ちょっと長くなりそうだったので2話にわけちゃいました
一つになったといっても人格が変わるわけではありません
次で芳乃が初めて出ます
後はレナだけどまだちょっと先かな…