世界気の向くまま旅~木組みの家と石畳の街の素敵なカフェ~ 作:長星浪漫
「金色少女の土下座」
「着いた~!!」
長い電車の旅が終わりボクは目的地の『木組みの家と石畳の街』に到着した。駅を出たとたん目の前に広がったのはまるで異国に迷い混んだかのような街並みだった。道路や歩道には石畳が敷かれ、建ち並ぶ家々はまるで木組みのおもちゃのように可愛らしいものから、歴史を感じさせるような荘厳なたたずまいのものもある。そしてなにより目を引いたのが…
「モ、モフモフ…!」
街のそこかしこにいるウサギたちだ。ボクは足元に寄ってきた一羽をひょいと持ち上げるとそのフワフワな毛並みを堪能した。
「ガイドブックにのってたから知ってはいたけどここまでとは思わなかった」
ウサギを放しながらあたりを見渡すと数えきれないほどのウサギがあたりをピョコピョコしている。それを見て思わず頬が緩む。
「は!いかんいかん…宿を探さなきゃ」
そう言ってボクは駅の出口にあった地図を確認する。適当な宿を探しているとふと青山先生のことを思い出した。
(『ラビットハウス』というお店がおすすめです)
『ラビットハウス』。その名前が頭の中で反響する。
「まずはそこに行ってみるか」
地図の中で『ラビットハウス』を確認し、スマホでも確認する。
「…よし!行くか!」
荷物を持ちボクは颯爽と街の中へ一歩踏み出した。
二時間後、ボクは公園のベンチでうなだれていた。
「迷った…」
そう迷った。スマホのマップを使ったり地元の人に聞いたりして動いたのだが迷ってしまった。迷いに迷ったあげく疲れはてたボクはこうして公園のベンチに座っているわけだ。
「少し浮かれすぎたかな?少し休んだら今度は慎重に…」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
どこからともなく誰かが何度も謝る声が聞こえてきた。
「ん?なんだろう?」
ボクは耳をそばだてよく聞こうとした。
「ごめんなさい!許してください!ごめんなさい!」
何度も何度も謝っている。時々言葉が変わる。その声色はなにか切羽詰まったような印象をもった。
「もしかしてなにかトラブルか?」
ボクは荷物をまとめその声の方に向かった。ボクは多少武術の心得がある。街のチンピラくらいなら10人くらいまでなら武器を持っていてもなんとかなるだろう。声がどんどん近づいてくる。そしてついに声の主が視界に飛び込んできた。
「………ん?」
『その光景』を見たボクは混乱した。ベンチの上に積まれた紙の束の上にちょこんと座った可愛らしい三羽の子ウサギ
その子ウサギに向かって地面に頭を打ち付けてしまいそうな勢いで何度も土下座を繰り返す金髪の女の子。その女の子はロップイヤーのついたカチューシャを頭につけてウェイトレスのような格好をしていた。その女の子が周りの目も気にせず(というよりも気にする余裕もなく)土下座を繰り返している。
「ごめんなさい!許してください!どいてください!」
どうやら三羽の子ウサギに紙の上からどくように頼んだいるらしい。なんで自分でどけないのか?なぜ敬語なのか?色々疑問が浮かんだがとりあえずどかしてあげることにした。紙の束が崩れないように気を付けながら三羽の子ウサギを一羽ずつ下ろしていく。下ろし終えた三羽はかわいいお尻を弾ませながらどこかへいってしまった。「これで大丈夫…」そう思って女の子を見ると額を地面に擦り付けていた。そのせいで子ウサギがいなくなったことに気づいていない。
ボクは慌てて女の子に子ウサギがいなくなったことを伝えた。
「もう大丈夫だよ!子ウサギはどけたから!」
「ごめんなさ…えっ?」
その子は恐る恐る顔を上げた。肩より少し上くらいまである綺麗な金髪はふわっとカールし、長いまつげも金色に輝いている。よほど怖かったのかその翡翠のような目は涙で潤んでいる。「お人形さんみたい」という言葉はこんな感じの子のためにある。と確信できるほどの美少女だった。
「大丈夫?」
とりあえず立ち上がらせる。
「は、はい、ありがとうございます…」
その子は顔を真っ赤にしながら立ち上がった。スカートについた土を払い頭のカチューシャを整える。
「あの!ご迷惑おかけしました…」
再びぴょこんと頭を下げる。カチューシャについたロップイヤーが一緒に動く。
「いや、気にしないで…といいたいところなんだけど、なんで土下座してたのか聞いてもいい?」
「うっ……わかりました」
その子は“シャロ”と名乗った。シャロちゃんはウサギ恐怖症でウサギに触ることすら怖いらしい。
「最近家でウサギを飼い始めたんですがまだ少し怖くて…」
「そうなんだ…」
だからあんなに必死に土下座していたのか…誰しも嫌いなものの一つや二つあるだろうけどこんなにウサギの多い街でウサギ恐怖症はツラいだろうな…
「でも、とりあえずこれで大丈夫だね。それじゃあボクは行くね」
「あ、あの!」
「?なんだい?」
「その、なにかお礼がしたいんですけど…」
「気にしなくていいよ」
「そういうわけにはいきません!」
(グイグイくるな~、あっそうだ!)
ボクは自分が迷子なのを思い出した。
「『ラビットハウス』っていうカフェに行きたいんだけど道に迷っちゃって…道わかる?」
「『ラビットハウス』ですか?もちろん!」
シャロちゃんは『ラビットハウス』の常連、というか友人が働いているそうだ。スマホや地図ではわからない目印をいくつか使って地図を書いてくれた。
「ありがとう!これならなんとか行けそうだよ!」
「これくらいお安いご用です。この街には観光ですか?」
「そんなところ。カフェが有名な街だからカフェ巡りをメインに考えてるんだ」
「それなら私のバイト先のお店にも来ませんか?」
「シャロちゃんも喫茶店で働いてるの?」
「はい、『フルール・ド・ラパン』っていうハーブティーがおいしいお店です。あっ、チラシどうぞ」
そう言ってチラシを受け取ったボクは思わず眉ねをひそめてしまう。
「あの、シャロちゃん」
「なんですか?」
「このチラシなんだけど…」
ボクはチラシの絵が見えるようにシャロちゃんの方に向ける。チラシには多分紅茶がのったお盆を片手に乗せたセクシーなスタイルのバニーガールのシルエットが妖艶な感じで描かれていた。
「ここ…もしかしていかがわしいお店?」
「あっ、なっ…!」
シャロちゃんが真っ赤になって口をアワアワさせている。
「け、健全なハーブティーのお店です!!!」
恥ずかしさに身を震わせながら全力で否定した。
シャロちゃんの描いてくれた地図はとても分かりやすかった。おかげで後は数百メートル先の角を曲がるだけだ。最後のストレートを歩いているとふと隣に見える小さな公園に目がいく。
「誰かがいる?」
公園なので誰かがいても不思議はないのだがそこにいた少女は少し妙なことをしていた。少女の周りには数羽のウサギ、皆少女の手もとをじっと見ている。その手には栗羊羮が握られていた。
「ほ~ら、おいしいわよ~」
「え?ウサギって羊羮たべれるっけ?」
興味が沸いたボクはなんとなきけ少女に気づかれないように声がよりよく聞こえる位置まで近づいた。
ウサギたちは鼻をヒクヒクさせながら羊羮を興味深そうに見つめるが、すぐに興味を失いその少女から離れていった。
「ああ~~…」
その少女はがっくりと肩を落とした。その様子を少し離れた位置で観察するボク。観察しながらあることを思い出していた。
(そういえぱこの街に着いてから何も食べてなかったな…)
そんなふうに考えたのがいけなかった。ボクのお腹が限界を伝えるかのようにぐ~っとかなり大きな音をたてた。
(わっ!)
ボクは慌ててお腹を押さえたが時すでに遅し、その少女がこちらを向いていた。
「あら?どちら様?」
「えっと、ボクはですね?」
内心焦っていた。後ろを向いたら知らない人がこっちを見ていたとか怖すぎる!下手したら通報されるかも…!
感じている危機感とは裏腹にその少女は柔和な笑みをほどよい丸みの可愛らしい顔に浮かべながらタッタと近づいてきた。
「あなた、もしかしてシャロちゃんが言ってた旅人さん?」
「シャロちゃんって、ウェイトレスの格好してた金髪の…」
「そう!その子!さっきメールが来て『もし見かけたら助けてあげて』って言われてたの!」
「そうなんだ…」
ボクはホッと胸を撫で下ろし、シャロちゃんに改めて感謝した。
「初めまして、私は千の夜と書いて“千夜”っていいます。お近づきの印にこの栗羊羮をどうぞ♪」
「あ、ありがとう」
ボクは恥ずかしさに赤くなりながらもらった栗羊羮を食べた。
「!おいしい…」
「うふふ ありがとう」
この千夜という子は恐らくさっき会ったシャロちゃんと同い年くらいなのだろうが、見た感じは年上に見えてしまう。長い黒髪にどこかの店の制服であろう着物を着ているから余計にかもしれない。
「この『星が散りばめられし黒き柱』は今度私の実家で甘味処の『甘兎庵』で新商品として発売するのでよかったら食べに来てくださいね」
「うん、え?『黒き…』?え?」
ボクが混乱しているうちに千夜ちゃんは公園の出口に向かっていた。
「『ラビットハウス』はもうすぐですよ。私はお店がありますのでこれで失礼しますね」
「あ、うん、ありがとう!」
「私の『甘兎庵』にもよかったら足を運んでくださいねー」
ぱたぱたと手を振りながら千夜ちゃんは走っていった。それを見送りながらボクは改めてこの街に来れたことを嬉しく思った。
「行きたいお店がたくさんだなぁ」
ボクは栗羊羮の包み紙を近くのゴミ箱に捨てるとシャロちゃんの描いてくれた地図を取り出し『ラビットハウス』に向かった。
読んでいただきありがとうございます!
次の話でやっと目的地に到着します。