世界気の向くまま旅~木組みの家と石畳の街の素敵なカフェ~   作:長星浪漫

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「うさぎの家でのゴタゴタ」

 公園を出て通りを真っ直ぐ進み交差点を左に曲がって少し行くと目的のお店の看板が見えてきた。

 

「ここが『ラビットハウス』か」

 

 そこはあまり目立たなそうなカフェだった。入り口の上の方にウサギのモチーフがお客を迎えている。目立たないと言ったが、外装はとてもオシャレで店先の看板には本日のオススメコーヒーが書かれていた。さらに看板の上の方には「ウェルカムカモーン」という少し変な言葉と一緒に目がついたわたあめが描かれていた。

 

「少し変わった…いや、独特なセンスのお店のようだなぁ」

 

 店先に立っていても仕方がないので中に入っていった。カランカラン♪と心地いい音が店の中に響いた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 カウンターの向こうからお客を迎える声が聞こえた。ボクは軽くあいさつ返しながらその声の主をあまり見ずに内装を見た。外観に比べてお店の中は広く感じた。窓際のテーブルに座り椅子やテーブルを触ってみたがかなり使い込まれているようだった。お昼時を過ぎていたのもあってかお店の中はボク以外は誰もいなかった。

 メニューを見ていると、出迎えてくれた声の主が水を持ってきてくれた。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「あぁ、まだちょっと…?」

 

 ここで初めて声の主の顔をちゃんと見た。声の感じから女の子だとは思っていたが、目の前の女の子は想像よりもさらに幼かった。少し眠たげな目に青みがかったロングヘアー、バッテンの髪止めをしている。ハッキリ言って美少女だった。しかしそんな美少女であることを頭から吹っ飛ばしてしまうような事実がその子の頭の上に乗っかっていた。

 

「あの…」

「はい?」

 

 その子はお盆を口を隠すように持ちながら首をかしげた。その子の頭の上の物体も合わせて揺れる。

 

「その頭の上のものはなに?」

「あぁ」

 

 お客のこういった質問になれているのか少女は頭から謎の白いフワフワした毛玉を胸の辺りに抱えた。

 

「これは“アンゴラ”という種類のウサギです。名前は“ティッピー”といいます」

「へぇ、フワフワで普通のウサギとは違った愛嬌があるなぁ…触ってもいいかな?」

「どうぞ、少しだけなら構いませんよ」

 

 といって撫でやすいようにティッピーを差し出してくれる。ボクはゆっくりと手をのばしティッピーの頭を撫でた。フワフワの羊みたいな毛がとても気持ちいい。

 

「フワフワ~」

 

 あまりの心地よさに撫で続けているとふいに声が聞こえた。

 

「撫ですぎじゃ、注文を早くせぃ」

「!!」

 

 思わず手を引っ込めるボク。今のは明らかに初老くらいの男性の声だった。しかもそれが店内の…というか目の前のウサギから聞こえたような?

 

「腹話術です」

「え?」

 

 今度は突然女の子の声が聞こえて戸惑う。声の出所はもちろんさっきの店員さん。

 

「私、腹話術が得意でたまにお客さんを驚かせているんです」

「え?今の声を?…」

 

 あきらかにおじいさんの声だった。でも確かに店内にはボクとこの店員さんだけだし疑いようがない。  

 

「すごいね、本物のおじいさんかと思ったよ」

「ありがとうございます」

 

 ぴょこんと頭を下げる店員さん。可愛らしいな、と和やかな気持ちになりながらメニューをパラパラとめくる。そしてまたしても妙なことに気づいた。

 

「あの、店員さん。一つ質問いいかな?」

「どうぞ?」

「ここのカフェはパンやさんもやってるの?メニューのパンのページが七ページくらいあってスゴく充実してる」

「あぁ、それは…今はいないのですがうちの店員の一人がパンやさんの家の娘さんで、パン作りが得意でいくつか作っているうちにここまで増えたんです…」

「へぇ~、その店員さんは今はいないの?」

「今日は用事があるそうで少し遅れてくるそうです」

「そっかぁ、どんな子か会ってみたかったけど、仕方ないか、あっメニューだよね、ちょっとまってね…えーっとぉ…じゃあクロワッサンとカフェオレで」

「かしこまりました」

 

 店員さんがメニューをメモしカウンターに戻ろうとした時、お店のドアが元気に開かれた。

 

「チノちゃーん!!ごめんね、遅くなっちゃった!!」

 

 ドタドタとお店の中に入ってくるやいなや目の前の店員さんに飛び付いた。その拍子にティッピーが転げ落ちたので慌ててボクは受け止めた。

 お店に入ってきた桜色の髪の毛をした女の子が店員さんに摩擦で火がつくのでは?というくらいほおずりをしている。されている店員さん、さっきチノちゃんと呼ばれていたからチノちゃん、は物凄く迷惑そうな顔をしている。

 

「コ、ココアさん!お客様の前ですよ!」

「え?あっ」

 

 入ってきた女の子、ココアちゃんと目があった。

 

(あれ?どこかで見たことがあるような?)

 

 ココアちゃんを見たときそんなことを思った。一方のココアちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。

 

「ご、ごめんなさ~い!!」

 

 顔をりんご見たいに真っ赤にし、さらにボクの手からティッピーをとるとそれで顔を隠しながら店の奥に走っていった。

 

「ちょっ、ココアさん!?ティッピーを持っていかないでください!!あっ、すいません。注文すぐにお持ちします!」

「あっうん、急いでないからゆっくりでいいからね」

 

 チノちゃんは軽く会釈するとココアちゃんを追っていった。しばらくすると頭にティッピーを乗せたチノちゃんとお店の制服に着替えたココアちゃんが戻ってきた。ココアちゃんはまだ少しほっぺたが赤いような気がした。

 チノちゃんはカフェオレを用意するためにカウンターに入り、ココアちゃんはクロワッサンが乗ったお皿を運んできてくれた。

 

「お待たせしました…あの、さっきはごめんなさい」

 

 お皿を置くのと同時に謝ってきたので「大丈夫だよ」と笑顔で返した。そして、チノちゃんとココアちゃんを見比べてなんとなくこんなことを言った。

 

「あの店員さんと君って何だか姉妹みたいだね」

「え?」

 

 その瞬間ココアちゃんの雰囲気が変わった。

 

「…ますか?」

「え?」

「私とチノちゃんが最高の姉妹に見えますか!?」

 

 しゅんとしていたのが一瞬で立ち直り目を輝かせながらぐいっと顔を近づかせてくる。

 

「え、えと、う、うん?」

「えへへ~、やっぱりそう見えるんだ~チノちゃ~ん!!私たち最高の姉妹に見えるんだってぇ~!」

「…ココアさん、仕事してください」

 

 声の調子は変わらないが明らかに怒っているのが伝わってきた。それはボクだけじゃなくココアちゃんも感じたようで、「は~い…」と少し慌てながらチノちゃんの所に走っていった。ボクはカフェオレを待とうかと思ったがお腹も空いていたので先に少しクロワッサンを食べることにした。三つあるうちの一つを掴み口に運ぶ。噛んだ瞬間バターの香りが鼻を抜けた。外側のサクッとした食感と中身のフワッとした食感にとても心が踊った。一つ目を食べ終わり二つ目にいこうとした時にココアちゃんがカフェオレを持ってきてくれた。

 

「お待たせしました~♪」

 

 さっきまでの落ち込みはどこへやら、元気な笑顔でカフェオレを運んでくるココアちゃん。ボクも食べる手を止めココアちゃんの方を向く。しかしその瞬間、またしてもハプニングが起こってしまう。

 

「あっ」

「あ?」

 

 ココアちゃんが床の隙間に足を引っ掛けバランスを崩す。倒れるのを支えようと思わずボクが立ち上がった時、カフェオレがボクの服にかかってしまった。

 

「きゃあ!」

「あっちぃ!」

 

 ココアちゃんは支えられたが持ってきてくれたカフェオレがボクの体にもろにかかってしまった。熱かったのですぐに上着を脱いだ。思っていたよりは汚れてなかった。

 

「ご、ごごごごごめんなさい!」

「なにやっているんですかココアさん!」

 

 チノちゃんが真っ青になってタオルを持ってきてくれた。ボクはそれを受けとり濡れた部分を拭いた。チノちゃんに「ありがとう」と言ってココアちゃんのほうを見る。

 

「大丈夫だった?」

「…」

 

 ココアちゃんは俯いたまま反応がない。何度か呼び掛けた時にやっと顔をあげた。ココアちゃんの目から涙が溢れていた。

 

「え?」

「ごめんなざぃぃぃ!」

「え?ちょ!?」

 

 ココアちゃんは見事な土下座を見せてくれた。いや、見たくはなかったけどね。ボクは「顔をあげて!?」と繰り返すのだか一向に聞いてくれない。チノちゃんに助けを求めたがチノちゃんもお手上げのようで、なんとか二人で落ち着かせようと頑張った結果、土下座はやめてくれたがまだべそをかいている。

 

「うぅ、さっきからお客様にご迷惑をかけてばかり…」

「い、いや、ボクは気にしてないからさ!」

「そうです。それにこんなことをはココアさんにとって日常茶飯事じゃないですか」

 

 店員さんそれはフォローなの?と心の中で疑問に思いながらココアちゃんを見ると制服をめくりあげ、お腹を出していた。

 

「なにやってるの!!?」

 

 とうとう意味がわからなくなり声が裏返ってしまう。ココアちゃんの手には一本のフランスパン(どっから出した?)

 

「私、責任をとってフランスパンで切腹します!」

「なにいってんの!?」

 

 フランスパンで腹が切れるわけはないのは重々承知しているが、とにかくこの状況を何とかしたかったのでとりあえずココアちゃんからフランスパンを取り上げようとしたが思ったより力が強い。てんやわんやしているとお店のドアが開かれた。

 

「ココアちゃーん♪ラビットハウスに旅人さんがこなかっ…た…?」

「あ…」

 

 タイミングというのは一度悪くなると連鎖するものである。今入ってきたのはさっき出会った黒髪の女の子、千夜ちゃんだった。いや、そんなことよりも、今ボクはバランスを崩して倒れたココアちゃんに引っ張られ仰向けに倒れるココアちゃんの顔の両側に手をつきよく漫画とかで見る「襲う寸前」の状態になっていた。しかもココアちゃんの瞳は涙で濡れていた。

 

「…ほぉ?」

 

 千夜ちゃんからただならぬ殺気があふれでてきた。ボクは慌ててココアちゃんの上からどき現状の説明をしようとしたが…

 

「天誅ー!」

 

 どこから出したのか、薙刀(のおもちゃ)を持った千夜ちゃんにしこたま叩かれた。

 数分後、チノちゃんが状況を説明してくれたので千夜ちゃんは叩くのをやめてくれた。ボクはカウンター席に移動し隣に千夜ちゃんが座り、カウンターの向こうにはチノちゃんとココアちゃんが新しいカフェオレを作ってくれている。濡れた服は更衣室を借りて着替え今は洗ってもらっている。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 少し甘めに頼んだのもあってとてもおいしかった。おわびということでクロワッサンを追加してくれたので結構お腹がふくれた。

 

「旅人さんはこの街をどこで知ったんですか?」

 

 他にお客もいないので雑談が始まる。

 

「あるパンやさんに薦められたんだ。かわいい街だから行ってみてって」

「どんなパンやさんなんですか?」

「素敵なパンやさんだったよ。山の奥にあるんだけどそれでもお客さんでいっぱいだったよ。女性二人でやってるんだけどね、娘さんのお客さばきがすごくてね」

 

 それを聞いていたチノちゃんが千夜ちゃんに抹茶ラテを作りながら小首をかしげた。

 

「なんだかココアさんのご実家みたいですね」

「そうなの?」

「確かに似ている気はするね~」

「他になにか気になっことはあるのかしら?」

 

 千夜ちゃんが探偵みたいなキメ顔をしている。

 

「え?そうだな~…あ!そういえば、その店員の娘さんに青山ブルーマウンテン先生の『カフェインファイター』を薦められて、サインが入っためん棒?を見せてくれたよ!」

「うちだーーー!」

 

 ココアちゃんの驚きとも歓喜ともとれる声が店内に響きわたった。




のんびり書いてます。
ただ最近はリアルが忙しすぎて泡をふきそうです。
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