世界気の向くまま旅~木組みの家と石畳の街の素敵なカフェ~ 作:長星浪漫
「ココアさんうるさいです」
「ご、ごめーん…」
チノちゃんの一言でココアちゃんはお母さんいや、お姉さんに怒られた妹のようにしゅんとなった。
「それにしても、まさかあのパンやさんの店員さんの妹さんに出会えるとは…世の中せまいなぁ」
よく見たらココアちゃんはパンやさんの娘さんのモカさんに似ているようだった。ふと外をみると街全体が夕焼けで幻想的なオレンジに染まっていた。
「あっ、そろそろお会計をお願いするよ」
「え?もう行っちゃうの?」
ココアちゃんが少し寂しそうにしてくれている。
「うん、そろそろ洗濯も終わっただろうし、今日泊まる宿も探さなくちゃいけないしね」
レジでチノちゃんにお金を渡しながら今後の予定を説明するとチノちゃんが予想もしない提案をしてきた。
「ではうちに泊まりませんか?」
「え?」
「それいい!」
ココアちゃんがお盆を回して喜んだ。しかし、ボクは困惑した。
「いや、さすがに悪いよ」
「そんなことないよ~、服を汚しちゃったこともあるし♪」
「で、でもそれはクロワッサンのサービスしてもらったし…」
「あぁ、あれはサービスというのもあるのですが、ココアさんがかなり多めに作ってしまったので、元々すべてのお客様にお出しする予定だったんです」
「そ、そうなんだ…」
「私としても店員のおこした事に対する責任を取る義務があります」
「うっ…」
ココアちゃんが胸を押さえて顔をばつの悪そうな顔になる。
「それに…」
急にチノちゃんが照れくさそうにお盆で口許を隠した。
「旅人さんのお話も聞いてみたいです…」
「ボクの話?」
そうこうしているとお店の奥の扉が開いて一人の男の人が出てきた。
「チノ」
「おとうさん」
「旅人さんの服、乾いたから部屋にかけておいたぞ」
「え?」
「ありがとうございます。こちらがその旅人さんです」
「やぁ、君がさっき聞いた旅人さんだね、部屋は掃除もしておいたから」
「え?あ、ありがとう…ございます」
チノちゃんのおとうさんはダンディな笑顔をボクに向けると再び奥に戻っていった。数秒後チノちゃんのほうを見ると目があったチノちゃんはこくんと頷き、
「先程旅人さんの衣服を持っていった時におとうさんに言っておいたんです」
「そ、そうなんだ」
意外に行動力があるなぁ…と感心しながらカフェオレを飲み干した。なんだかなりゆきでこのお店に泊まることになったけど正直助かった。今から宿泊先を探そうと思っていたからだ。ボクは改めてチノちゃんとココアちゃんにお礼を言った。
「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ」
案内された部屋に入るとボクの服がクローゼットにかけてあった。部屋は八畳くらいあって窓のそばにベッドが一つ置いてある。机と椅子もワンセットあり、電気スタンドも置いてある。普段はあまり使っていないらしいが掃除は毎日しているらしくとても綺麗だ。
「さて、明日以降の予定を考えるか」
荷物をおろし、かばんから筆記用具を取り出した。机に座りいきたい場所をいくつかメモしているとノックの音が聞こえた。「はい」と返事するとドアが開いてチノちゃんのお父さんが入ってきた。
「部屋はどうかな?」
ダンディな見た目にぴったりなダンディイケボで聞いてくる。
「はい、かなり居心地がいいです。でもいいんですか?部屋を宿泊に使わせていただいて…」
「構わないよ、部屋はあまっていたしこういうときにでも使わないともったいないだろう?」
「そう言っていただけるなら、ありがたく使わせていただきます」
「なにか必要なものがあったら遠慮せず言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
そのあと今後のことをいくつか話し、タダで泊めてもらうのはさすがに気が引けるので、開店準備や家の掃除、その他荷物運びなどの雑務を手伝うことになった。
「自分の家だと思ってくつろいでくれたまえ、夕飯ができたらまた呼びにくるよ」
あらかた決め事が決まり、チノちゃんのお父さんは部屋を出ていった。そのあと一時間ぐらいたって、再びドアがノックされた。
「どうぞ」
「旅人さん、ごはんができました」
入ってきたのはチノちゃんだった。頭にのっていたウサギは今は胸に抱えている。
「ありがとう、すぐに行くよ」
「キッチンまで案内します」
チノちゃんの後についてキッチンに向かった。キッチンに入るとココアちゃんとタカヒロさんーあとでチノちゃんに名前を聞いたーがごはんをテーブルに並べていた。
「あ!旅人さん!準備できたよ~」
ココアちゃんが笑顔で迎えてくれる。その手にはやっぱりいろんなパンが入ったかごを持っていた。ボクはチノちゃんに促されタカヒロさんの隣に座った。「いただきます」の号令とともに食事が始まった。
「ふぁふぃふぃふぉふぁんはぅ、ふぉのまひふぇふぁんへひはの?」
「えっ?なんて?」
ココアちゃんがパンで口いっぱいにしながら多分ボクに喋りかけてきた。だが、聞き取れなかった。
「ココアさん、口のなかをいっぱいにしながらしゃべるのははしたないですよ」
「ふぁ…ふぁい…(ゴクン)」
チノちゃんのたしなめられてあわててパンをミルクと一緒に飲み下すココアちゃん。一呼吸おいてから改めて質問をしてきた。
「旅人さんはかの街にどうしてきたの?」
「目的ってこと?観光がメインかな、お昼にも言った通りココアちゃんのお姉さんに紹介されたからっていうのが理由だよ」
「もうどこに行くのか決めているんですか?」
「主にカフェを巡ろうと思っているよ、フルールと千夜ちゃんのお店の甘兎庵とかね」
「そうなんだ~」
「他にもおすすめの場所があったら教えてほしいな」
「そうてすね…」
考え込むチノちゃん、ハッとなにか思い付いた顔をした時にココアちゃんが割り込んできた。
「そうだ!水着で入る温水プールとかどうかな?建物がお城みたいですごいんだよ~」
「へ、へぇ~」
大変興味を惹かれたが、ココアちゃんの隣でチノちゃんのほっぺたが少しだけ膨らんでいた。ココアちゃんもそれに気づいた。
「チノちゃん!?え、どうしたの??」
「…気にしないでください、なんでもありませんから」
「えぇ~??」
二人のケンカ?を心配しながらどうしようかと思っているとタカヒロさんがボクの肩を叩いてきた。
「気にしなくていいよ、あれはケンカというよりじやれあっているっていう感じだから」
「そうなんですか?」
「ところで僕のオススメの場所はね、夕陽がとても綺麗に見える場所があるんだ。場所を教えるからよければ行ってみて」
「おお、行ってみますね」
タカヒロさんに色々教えてもらっている間もココアちゃんとチノちゃんのケンカ?は続いていた。
夕食を食べ終え、タカヒロさんはラビットハウスの夜の部に向かっていった。ボクはみんなの好意で先にお風呂に入らせてもらった。なるべく早くお風呂を出て明日の予定を考えているとドアがノックされた。
「ど…」
「お邪魔しまーす!」
「ちょっ、ココアさん!?」
返事が終わるまでにココアちゃんとチノちゃんが入ってきた。お風呂からでたばかりなのかホカホカしていた。ココアちゃんはピンクのチェックが入ったパジャマを着ていて、チノちゃんは兎のフードの付いた白いパジャマを着ている。
「なにか用かな?もしかして手伝うことがあるのかい?」
泊まらせてもらうかわりに手伝えることはなんでも手伝うという約束をしたので、その事だと思ったが違うようで二人とも座るためにクッションを持ってきていた。チノちゃんは三つのコーヒーカップがのったトレイを持っていた。それを床に置いて座る。
「旅人さん!旅人さんのお話聞かせて!」
「これ、コーヒーです」
「あ、ありがとう。そういえば約束してたね。どんな話がいいかな?」
「今まで食べたなかで一番美味しかったものはなぁに!」
「ココアさん…さっきご飯食べたばかりでしょう?」
「そ、そうだけど気になったから」
「ココアさんらしいです。私は一番綺麗だった景色を知りたいです」
ぐいぐいくる二人。ボクは「落ち着いて!」と二人を少しなだめながら一つ一つ答えていった。
一時間ほどはなし、眠くなってきたので今日は途中で終わることにした。二人が部屋を出ていく寸前にココアちゃんがなにかゆ思い出したように振り返った。
「そうだ旅人さん!明後日の土曜日の予定って決まってる?」
「いや、まだ決まってないかな」
「だったら私たちとさっき言ってた温水プールに行かない?」
「温水プール…えぇっ!?」
思わず驚いてしまうボク。その反応に拒否の意思を感じ取ったのかチノちゃんが残念そうな顔になる。
「なにか予定がありましたか?」
「いや、予定はないけど…その、ボクも行っていいの?」
「?構いませんよ」
「そうだよ~、そこで私の華麗なクロールを見せてあげるよ!」
「ココアさん、あれはクロールじゃないんですよ」
「ふっふっふっ!私はあれからちゃんと練習したのだよ!!もう完璧だよ!!」
「お手並み拝見ですね。では旅人さん、詳細は後日お伝えします」
「あ、うん、ありがとう…」
「おやすみなさい」
「おやすみなさーい!」
「おやすみ」
二人は少し眠たげな様子で部屋を出ていった。ボクは明日の予定をもう少し整理しながら、思わずできた予定に少しテンションが上がっていた。
「そういえば、ボク水着ってアレしか持ってないけど大丈夫かな?」
明後日のことはまた明日以降に考えることにし、ボクは部屋の電気を消して眠ることにした。
不思議な夢を見た。ボクはたくさんのウサギに埋もれている。すると目の前にウサギの着ぐるみを着たココアちゃん、チノちゃん、千夜ちゃん、シャロちゃんともう一人、ツインテールの見たことない女の子が………ボクにハンドガンを向けていた。
一日目はこれで終了です。
二日目には町のなかをぶらつきます。
二日目は金曜日で書き忘れていましたが.時期は12月のはじめです。